Sie・Brechen・Online〜恋に初心なふたりと紡ぐフラグ回収〜   作:海澪

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15.わたしってさ……

 

 当日、(はじめ)くんと散々ゲーセンで遊んで一休憩にカフェに寄る。

 

「創くん。今日はわたしの誘いに乗ってくれてありがとね」

 

「え、なんだよ突然」

 

「えー。だってさ、急に誘ってさ断ってもよかったのになーって」

 

「断れるわけないだろ」

 

「どして?」

 

「……」

 

 大丈夫。その目線だけでも分かるよ。あはは。ほんと、ひきょーだなぁわたしって。だから、誘ったわたしから言わなきゃ、だよね?

 

「実はね、創くん誘ったの理由あるんだ」

 

「っていうと?」

 

 ホットココアのカップを両手で触れながら話す。わたしは変われるかな。お兄ちゃんみたいに。

 

「お兄ちゃんがね、変わろうとしてるんだ。くらーい場所で閉じこもってたお兄ちゃんがさ。だから、……わたしも変わらなきゃなって。もう手遅れかもだけど」

 

 そう。もう手遅れなんだ。このココアみたいに黒くて暗くて歪んじゃったわたしなんて。

 

「全然手遅れじゃないよ。分かった。俺でよかったら協力するよ」

 

「え、っ……」

 

 ココアに向けてた顔をパッと創くんに向けるととても真剣でだけど優しい顔だった。

 

「俺は杏香(きょうか)ちゃんに何したらいいかな?」

 

「なん……で。……嫌になったりしないの?」

 

「するわけないだろ」

 

 

「俺、杏香ちゃんのこと好きなんだから。何かあるんかなってのは知ってた。けどそれも好きになるって決まってる。だってこんなにも真剣に想ってるから」

 

 まっすぐな想いだった。そういえばそうだったっけ。あの時の告白もまっすぐで、わたしじゃあ釣り合わないなって思ったから返事を待ってもらって……あ、やっぱりわたし、卑怯だ。……なーんだ。やっぱりキープしてたの、わたしじゃん。

 

「き、杏香ちゃん?」

 

 気付けばポロポロと泣いてた。わたしは慌ててバッグからハンカチを出して拭う。

 

「にゃ、はは。ご、ごめんねっ? だ、大丈夫。だいじょぶだから」

 

 なんでこんなに良い人なのにわたしみたいな人を好きになるんだろう。こんなどーしよーもない人を好きになるなら、玲音(れいん)ちゃんみたいな人でも……あ、だめだ。そう思ったら離れてほしくないや。ずるいなーわたし。ほんとずるい。悪女だよ。最低な女だよ。

 

「……俺、何か泣かせるようなこと言ったかな」

 

「んーん。そうじゃ、ずびびっ、ないの。っはぁ……わたしひきょーな女だなって自罰してた。あはは」

 

「卑怯じゃ…ないと思う」

 

「どうして?」

 

「だって、まぁ……その。見ず知らずの時の俺の告白を蹴っただろ? それはしょうがないと思ってる。そんでもさこうして仲良くしてくれて実際のとこ距離置かれても仕方なかったんだぜ?」

 

 え、いまなんて。え、告白を蹴った……? わ、わたしが? あれっ? え、そだっけ?

 

「ま、まってまってまって。わ、わたし告白断った……っけ?」

 

「あぁ。そうだと思ってるぜ? だって『今は考えさせて』ってそういうことだろ?」

 

「〜〜〜〜〜っ!」

 

 ばかっ! ばかだよ! たしかにそう捉えられるじゃん! あーもう、わたし大馬鹿すぎるよ〜!

 

「ち、ちがうのっ!」

 

「え?」

 

 声が裏返りながら慌てて訂正する。声が大きかったみたいで周りの人がこっちを見たのに気付いて、するすると声を落とす。

 

「その、ね? その、あの……その返事はその、ほ、保留……と言いますか、待って欲しいなーっていうことでしてー、ですねー……はい……うぅ……わたしばかだ〜……!」

 

 両手で顔を覆ってふるふると頭を振る。まさかここで勘違いあったなんて思ってなかった〜……!

 

「え、じ、じゃあ……」

 

「…………」

 

 チラッと創くんを見る。驚いた顔も整ってるなーとかやっぱりかっこいいよなーとか思いながら小さく頷く。

 

「わ、わたし……ね。深く人付き合いをするのがこわくってさ」

 

「ふん……?」

 

「…………はぁー。ん。お兄ちゃんが閉じこもっちゃって、人と関わることって損ばっかりなんだって思って。だからわたしはある程度の距離感しか持たないようにしたんだ」

 

 深呼吸してから話し出す。創くんは真面目な顔で聞いてくれる。わたしの過去、お兄ちゃんが抱えてたもの。

 

「……そう、だったのかぁ」

 

 聞き終わったあと、創くんはなんというか複雑な笑顔だった。安堵……が多いと思う。

 

「アイツさ。結構、ノリは良いんだよな。でもよー。アイツ、楽しそうにする度に一回踏みとどまってんだよな」

 

「そうだねぇ。その時だけきゅってここがね」

 

「そうそう。そうなんだよな〜。アイツは自分で楽しむのはだめだとか思ってたんだろうな。でも今のアイツは……楽しそうで良かったよ」

 

 2人してしみじみと頷く。

 

「だからさ。わたしも変わりたいなぁ〜って思ったの。それでその時に思い浮かんだのがきみだったの創くん」

 

「え、俺?」

 

「うん。だってこんなわたしでもちゃんと接してくれてさ。その……まぁ行き違いあったけど、告白されて以降は創くんのこといい人だなーとか思ってたんだよ? 知ってた?」

 

「え、あ、いや……全然」

 

「にはは。でしょ〜。わたし、そーいうの隠すの上手いんだ〜」

 

 それで損することあるけど。

 

「だからね創くん。こんなわたしでも彼女にしてくれる、かな……なんて。あはは……」

 

「……………」

 

 創くんは驚いた顔のまま固まった。

 

「あ、あれっ? おーい。創くーん?」

 

 手をフリフリと目の前で振る。まるで置物みたい。

 

「…………………はっ!? わ、わりぃ」

 

「あ、戻った。だいじょぶ? きいてた?」

 

「お、おう。聞いてた。けど……待ってくれ」

 

「…………?」

 

 創くんは口を右手で隠して肩を震わせてた。耳の先が赤くなってて「あ、照れてる」ってすぐに分かった。

 

「……俺、もさ」

 

「ほぇ? う、うん」

 

「杏香ちゃんのこと諦めきれなくてさ、アイツにぼやいちまったんだわ。そん時、「別に諦められないならそれでもいいと思う。迷惑さえ掛けなければそれは良いことになるんだし」って言われてよ……そん時思ったんだわ。

 あぁ、これからは杏香ちゃんの友達でもいいやって。でもやっぱ、好きなんだよなぁ……あぁ〜、くそ。なっさけねぇなぁ。わりぃな杏香ちゃん」

 

 よほど嬉しいみたい。わたしも思う。きっと、こんな人とこれから先いれたら楽しいだろうなって。

 

「じゃあ創くん」

 

「おう。俺の、彼女になってください」

 

「はいっ!」

 

──────

────

──

 

「────……良かったぁ」

 

 ちょっとだけ様子がおかしかったからこっそり後をつけてしまったことには罪悪感あるけれどまさかこんなことだったとは思わなかった。けれど、うん。ほんとに良かった。

 

「まったく。理和(りお)もそうだが、お前ら2人は似たもの同士だな」

 

 対面の席で苦笑しながらコーヒーを啜る()()()()

 

「そうかなぁ?」

 

「そうだとも。杏香もお前のことを心配していたんだし」

 

「あー……そっか。まぁ、兄妹だしね」

 

 あははと笑ってこちらもコーヒーを飲む。

 

「知っていたのか? 2人のこと」

 

「ん? うん知ってたよ。そもそも杏香のこと好きなんだって言ってきたのあっちだしね。僕は素直に2人が結ばれるの応援してただけだよ」

 

 コクッと更に呷り、飲み干す。

 

「それじゃあこのままいるとバレかねないし、僕たちは帰ろう詩能(うたの)さん」

 

「そうだな。帰ろう。あっ、そうだ理和。う、腕……ぎゅってしていい?」

 

「良いよ」

 

──────

────

──

 

 何故か僕や詩能さんたちも呼ばれて武道場に来た。なんでも、剣道の大会があるから見に来て欲しいとかなんとか。当初は杏香だけにしようとしてたらしいけど杏香は僕たちも呼んで応援多いほうが良いじゃんみたいなことだった。

 

「斉藤くんの試合はいつから?」

 

「えーっとねー……あ、あった。もうすぐだって」

 

「そっか。じゃあこのままいよう」

 

「しかし、剣道というのはいまひとつ分からないところがあるな。見所というか」

 

「そうねぇ。それはあたしもそうかも」

 

「剣道はただ向かい合うだけでも勝負始まってるからねぇ。静かな戦いみたいな感じかなぁ?」

 

 観客席に座って会場に目を向ける。こうして見ると少し距離があるように見えるラインなのだが、実際はそんなに無い。一歩で至近距離になるくらいだ。

 

「あ、始まるみたい」

 

 僕は斉藤くんが勝つって信じてる。それは3人も同じだろう。それぞれ選手が入場し、そこには斉藤くんの姿もあった。ふと目があった。僕はがんばれと頷くと、斉藤くんも頷き返した。斉藤くんは大将戦のようだ。

 

「緊張、するな」

 

「そうねぇ。見てるだけなのに」

 

「創くんなら……大丈夫だよ」

 

「そうだね。斉藤くんなら」

 

 僕たちは固唾を飲んで見守った。

 

 

 

「お疲れ様。一瞬だったね」

 

「おー、理和〜。あんがとな」

 

「ははっ。良いって。はい、これ。3人はトイレに行ってるから先にスポドリとエナジーバー。この味で良かったんだよね?」

 

「おっ。い〜ね〜。分かってんじゃん。後で金返すわ」

 

「それも別に良いって」

 

 僕は苦笑しながら袋を渡す。斉藤くんはそりゃあダメだろと言いながら受け取った。

 

「親友なんだから、こういうとこもちゃんとしとかねぇとよ」

 

「真面目だねぇ」

 

「人が出来てるって言ってくれ……おっ、うんま」

 

 斉藤くんの試合は僅差で競り負けた。技有りだったらしい。

 

「惜しかったよね」

 

「おう。あー、あとちょっとだったなぁー。最後の踏み込み、躊躇っちまった。決めきれなかった俺の敗けだよ」

 

「けど、気迫は勝ってた。小手先はあっちは上手かった。斉藤くんは……ううん。創は戦いには勝ったんだよ」

 

「……………おま……っはは。人を褒めんのうめぇよなぁお前はさ」

 

「本当のことを言っただけだよ僕は」

 

 創はガッと胡座掻いた右膝に頬杖つく。

 

「けどま、敗けは敗けだ。お前の言葉は嬉しいけどな。それにやぁーっと名前で呼びやがって」

 

 ニッと笑ってとんっと拳を軽く腕にぶつけてくる。

 

「いつまでも距離を作るのはおかしいからね。きみの誠意にも答えなきゃでしょ」

 

「真面目はどっちなんだか」

 

「ふふっ。確かに」

 

 互いに笑い合う。そこにさっきの敗北での重い空気なんてのはなかった。あったのはいつもの柔らかな雰囲気だけだった。

 

「お前のそんな顔、初めてみたよ」

 

「そうだね。初めて出したかもしれないね」

 

「……もう、良いんだな?」

 

「うん。もう大丈夫だよ」

 

 親友にも秘密にしていたことがある。それでも踏み込んでこなかった創は友達でいてくれた。この距離感は僕は好きだ。

 

「これは杏香ちゃんも変わりたくなるわな」

 

「ありがとう創。杏香のそばにいてくれて」

 

「勘違いもあったけどなー。んでも、良かったわ。ったく、お前ら兄妹は2人して隠し事がうめーんだからよぉ」

 

「否定のしようがないや」

 

「でもよ」

 

 創が顔を動かした。そちらに僕も向ける。詩能さんたち3人が戻ってきたからだ。

 

「杏香ちゃんを絶対に幸せにしてみせるさ」

 

「創なら出来るよ」

 

 目を合わせ、笑い合って拳を合わせる。またひとつ絆が深まった気がした。

 

「あ〜っ! ふたりの空気あやしいぞ〜」

 

「変な語弊生まれるからその言い方はやめよう杏香」

 

「確かにあんたらなんだか前より親密そうじゃない」

 

「男の友情というやつだな。ふふっ。良かったな理和」

 

「え、待って? 合ってるけど違うんだけど? ねぇ、弁明させてくれない?」

 

「ぷっはは。諦めろ〜理和」

 

 こうしてふざけ合う空気感が僕は好きなんだ。

 

──────

────

──

 

 今日もまたいつものように詩能さんを家まで送る。……はずだった。

 

「おかえりなさい。詩能」

 

「お、お母様!?」

 

「…………えっ」

 

 偶然、家の前で詩能さんのお母さんと出会した。僕の姿を見て軽く驚いたけどすぐに笑顔になった。雰囲気はとても柔らかくて、優しい感じだった。

 

「ついさっき、買い物から帰ったところなの。それで……そちらの男の子が」

 

 やはり僕のことは伝えてるらしかった。僕は居住まいを正して頭を下げる。

 

「詩能さんとお付き合いしていただいてます。深神狩(みかがり)理和と申します」

 

「やっぱり……! あなたが理和くんねっ。初めまして。母の詩織と言います。これからも娘と仲良くしてちょうだいね」

 

「勿論です」

 

「お、お母様。買い物に出て大丈夫だったのか? 腰悪かったのだろう?」

 

「サポーターをつけているから大丈夫よ。あ、理和くんは晩御飯はまだかしら? 良かったら上がって」

 

「ちょ、ちょっとお母様……!」

 

 あの詩能さんがタジタジになっていた。優しそうな詩織さんは意外と強かだ。母は強しとはこういうことなのだろうか? 目もなんだか色々聞きたいようなそんな目だった。僕は苦笑しつつも頷くしかなかった。

 

「お邪魔します」

 

 やはり家の中は広かった。流石に怨讐の炎城の庭ほどもないが、それでもだいぶ広いと感じた。

 

「す、すまない理和。断れにくくしてしまって」

 

「大丈夫だよ詩能さん。なんだか、優しそうな人だね」

 

「む……そ、そうか。ありがとう」

 

 どうやら和様のようだがキッチンの方と居間が吹き抜けで居間が畳でキッチンがフローリングだった。和洋折衷建築というやつだろうか?

 

「詩能はちゃんと彼女さん出来てる?」

 

「んなっ……!? お、お母さん……!」

 

 あ、素になった。

 

「えぇ。僕の自慢の彼女です」

 

「ん、んなぁ……り、理和まで」

 

 ごめん詩能さん。嘘は行けないから。そんな恥ずかしそうな顔で睨まないで? 全然怖くないし結構可愛い。

 

「そう。お似合いさんで良かった。理和くんは苦手なものとかはある〜?」

 

「いいえ。これといって苦手なものは無いはずです」

 

「えらいわね」

 

「…………………いえそんな」

 

 初めての、感覚だった。詩能さんや玲音さん。創たちから褒められたこととは別の感覚。やはり、子を持つ親だからだろう。その親としての目線の褒め言葉がとてもむず痒い感覚だけど心地良かった。

 じんわりと胸の中に広がっていく感覚がした。その後も他愛無い話をたくさんした。詩能さんとの付き合い、馴れ初めやデートでの出来事。それらが詩能さんを照れさせ、果てには恥ずかしさで怒ったりもして、なんだか暖かいなと感じた。

 

「ただいま〜。お客さん来ていた…………きみは」

 

 そんな時、低くとも良く通る落ち着いた声が響いた。お茶を飲みながらの僕は見上げた視線と僕を見る衝撃とけれど納得の行った目がかちあった。

 

「初めまして。僕は詩能さんとお付き合いさせていただいています、深神狩理和と言います。よろしく、お願いします」

 

 詩織さんにしたのと似たようなことを良い、僕は土下座した。

 

「そう、か……。やはり、きみが」

 

 

 

 

 

「──────────なんの因果だろうね」

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