Sie・Brechen・Online〜恋に初心なふたりと紡ぐフラグ回収〜   作:海澪

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23.卒業と進級

 

『これより、今年度最後の生徒総会を行います』

 

 玲音(れいん)さんの言葉で生徒総会は開始した。今回は主に生徒会の役員の変更やこれからのことについてが語られた。壇上に詩能(うたの)さんが登壇した。

 

『生徒会長の阿佐上詩能だ。生徒会で話し合った結果だが、満場一致で次の生徒会長は彼に決まった。前に出てくれ』

 

 手を向けられる。同意したのだ。既に逃げ道なんて皆無だった。僕は細く息を吐いてから前に出る。

 

『彼は現在2学年の中でもトップクラスの成績を誇り、武もまた両道で今までの仕事も良く捌いていた。そして人を見る目も良く、適材適所を選ぶことにも長けている。

 彼自身は人を纏めることは得意ではないと言っていたが、私はそれには反対だ。何故ならば彼は、深神狩理和(みかがりりお)はこの私を()()()()唯一の男子なのだから』

 

「…………はい?」

 

「は?」

 

「……あちゃー」

 

 さっきまでの緊張がどこへやら。詩能さんの言葉に僕は驚きを通り越して「何を言っているんだ?」と少し呆れてしまった。司会の壇上にいた玲音さんはスタスタと詩能さんに早足で近づいたかと思ったらぺしんと頭を叩いた。

 

「ちょっとあんたねぇ……! なに公衆の面前で惚気てんのよ!? 空気を考えなさいよ……っ!」

 

「む……しかし。……事実ではないか」

 

 毒気を抜かれた。とはこのことなのだろう。壇上でマイクから離れてはいるが、実に仲のいい口喧嘩をしているのを見て、緊張で強張っていた顔も体も解けていった。

 

「マイク、借りるね」

 

 一言告げてからマイクを手に取り、全校生徒に目を向ける。人の視線には慣れていた。けれど自分から見られないように、自分を閉じ込めて他人も見なくなったあの頃とは違い、今はしっかりと全員の目を見る。

 

『僕を知らない生徒もいるでしょう。改めて紹介させてください。僕は2年1組の深神狩理和と言います。さっき会長の詩能から報告があった通り、次回の生徒会長に就任します。

 会長の仕事は半年間ほど見てきました。とても大変な仕事で副会長が僕は良かったです。だって目立ちたくないですもんね。今でもこうして話すの緊張してるくらいです』

 

 ぽかんとした2人の顔を横目に壇上にあるマイクスタンドにマイクを挿しこみ、軽く指先でマイクを叩く。

 

『でも、変わらなきゃなって自分でも思います。いつまでも自分の殻に閉じこもって手を差し伸べるのを待つのはもう辞めです。詩能に手を差し伸べられ、玲音に背中を叩かれ、親友に応援されました。今の僕は誰かに手を差し伸べる側にいなくちゃなりません。

 僕みたいになった人を僕は助けたい。支えになってあげたい。そこには利己的でも利他的でもいい。誰かを助けたいという思いが人を繋ぎます。思いは立派でも僕はまだまだ未熟です。

 けれど、皆さんの応援があれば頑張れます。僕はそれに応えていきたいし、いくつもりです。生徒会長は学校の顔でみんなを引っ張っていく存在ですが、その分みんなを支えて明日を楽しむ活力を生み出す存在だと僕は思います。なので、これからの皆さんの応援をよろしくお願いしま、ぁだっ!?』

 

 一礼しようとしたが、一歩下がるべきだった。額をマイクにぶつけてしまう。その瞬間、笑いが起こった。

 

「ちょっと、せっかく……くっ、ふふ……良いこと、ははっ、言ってたのに……」

 

 ものを言うのか笑うのかどっちかにしてくれないかな玲音さん。詩能さんもくつくつ笑ってるし。

 

「じ、自分でも分かってるよ……!」

 

 なんというか締まらない結果になった生徒総会だった。

 

 

 

 生徒も来賓として来た3年の親御さんたち、そして在校生のほとんどは外に出ていた。

 

「呼び出して悪かったな理和」

 

「詩織さんたちには会わなくて良いの?」

 

「今はお前と話がしたかったんだ」

 

 窓から外の賑やかな景色を見つつ詩能さんと話しをする。

 

「卒業おめでとう詩能」

 

「ありがとう理和」

 

 詩能さんの胸につけたコサージュに目を向ける。これをつけたのは杏香だが、やはりそれを見るともうこの学校に来ないのだと分からされる。

 

「ふふっ。お前のその顔初めて見たぞ」

 

「どんな顔、してるのかな」

 

「寂寥感と祝福の歓喜、それと今すぐにも泣き出しそうなのを我慢してるそんな顔だ」

 

「っぷ、はは……っ! 嘘はやめてよ。……まぁ、うん。そう、かもね。寂しいと思う」

 

 一度否定したけれど認めざるを得ない。もう学校で会えないんだから。

 涙を流さないよう我慢して窓を見る。そんな時、綺麗に咲いてる桜に目がいった。先生が言うには桜の開花が例年より早いらしく、斜めに横切る桜の花弁を目にする。

 

「理解はしていたけど、もう少し一緒にいたかったなって」

 

「そうだなぁ。お前と同学年だったら良かったといつも思うよ。たいして用もないのに教室で話したり、一緒に登下校……はいつもやってるか。同じ授業を受けて、分からないところを教え合うこともしたかったな」

 

「一年。たった一年の違いでこんな気持ちになるなんてねぇ……」

 

「嫌か?」

 

「ちょっとだけね。でも、仕方ないことだと思う。きみに出会えたことがとても喜ばしいことだからこの卒業だって別に……」

 

 少しの強がりも出来ないらしい。どうやら僕はよっぽどの寂しがり屋なのだろう。涙が出てきた。

 

「いやっ。強がりはやめ! うんっ、辛い! 卒業しないでほしいよ」

 

「ふふっ。やーっと素直になったか。このこの」

 

「ちょっと。その筒でつつかないでよ」

 

 悲しいはずなのにおかしさで笑う。詩能さんもそれにならって笑って机に腰掛けた。

 

「そうだ。理和」

 

「うん?」

 

「父上たちがな、私の一人暮らしを認めてくれないんだ」

 

「それは…………まぁ、普段の様子だとそう思っちゃうのも仕方ない……のかな?」

 

「あ。今私のことを悪く言ったなー」

 

「ぷふっ。気のせいだよ。それで?」

 

「むぅ……。それでだな。私の一人暮らしは認めないが、お前と暮らすのには同意しているんだ」

 

「…………ん?」

 

 一瞬脳が理解出来なかった。そのため数秒ほど固まってから聞き直す。気のせいだと思いたいんだけど……。

 

「だ……だからだな。父上たちがお前と、ど……同棲をするならって……」

 

 おーっと。気のせいじゃないぞぅ?

 さっきまでの感情はどこへやら。今は少し複雑だ。

 

「同棲つったって、なんで僕なのさ?」

 

「お前は家事力も高いだろう?」

 

「あぁ……まぁ、そうだね」

 

「私だって努力はしているが、不安だと言っていたんだ。けれどお前がいるなら何も問題はないと」

 

 うーん……果たしてそれを父さんたちが許すかなぁ。

 

「あ、なんでもお前の両親からは許可を得ているみたいだぞ」

 

「外堀埋めるの早くないかな!?」

 

 まるで詰め将棋を体感してるみたいだった。というか僕は毎回、逃げ道が無いように思えた。

 

「これさぁ……僕が断りきれない性格が悪さしてるよね」

 

「くっはは……! お前は優しいのだから仕方ないだろうな」

 

 僕は深く深く嘆息するほかなかった。だって実際、断りきれないんだから。

 

「内見とかは済んでるの?」

 

「あぁ。セキュリティもバッチリのところをおさえているぞ」

 

「仕事が早くて何より」

 

「ふふん。私だってお前と住みたかったからな」

 

「まったくもう……。次からは言ってほしいよ」

 

「言ったら頷いてくれるのか?」

 

 まじまじと見つめられるその目を合わせることなく彷徨わせる。

 

「あー……まぁ、うん。善処、するよ。はは……」

 

「むぅ。そこは頷いて欲しかったぞー」

 

「と、取り敢えず! 外、行こ」

 

「ふふっ、そうだな」

 

 

 

 そうして4月。引越しを終わらせた僕たちは2人して早く起きたというのに詩能さんはなにやら慌ただしげだった。

 

「大丈夫?」

 

「うーむ……髪のセットが決まらないんだ理和」

 

 カジュアルスーツを着て、鏡の前でうーんと唸っていた。僕は苦笑して後ろに立つ。

 

「髪の毛触るよ」

 

 詩能さんの髪の毛はとても手触りが良くて、引っ掛かりもなく、さらさらしていた。

 

「どんな感じがいいの?」

 

「うーむ……そこも悩んでいるんだ」

 

「着物を着てた時みたいに首は出す?」

 

「それは……やだ」

 

「……? どうして?」

 

 鏡越しで僕の目を見て詩能さんは口を軽く窄めながら呟いた。

 

「…………お前にだけ見せたいんだ」

 

「…………………」

 

 不意の言葉にドキッとしてビシッと体が固まる。数秒程かけて我に返り笑う。

 

「そ、そっか。じゃあ……これはどう?」

 

「んっ。えへへ、ありがと」

 

 後ろ髪をちょっとだけ上げて、後頭部の真ん中あたりで丸めて髪留めで留める。毛先にかけて流してそうすれば首許の辺りは露出も少ない。セットが終わると詩能さんは礼を言いながら振り向いてはにかんだ。

 

「とてもよく似合ってるよ」

 

「えへへ。初めてこんな格好もしたから少し緊張してるよ」

 

「変わってないのは僕だしね」

 

「でも3年生なんだもんな」

 

「うん。詩能みたいには出来ないけど頑張るよ」

 

「頑張れ理和」

 

「うん。詩能も、大学生頑張って」

 

 爪先立ちになる詩能さん。それが何を表してるのか察した僕はほんの少しだけ屈んでキスをする。

 

「ん、良し。理和は今日は午前だけだったか?」

 

「そうだね。入学式の手伝いだけだね」

 

「それじゃあ、私の方が終わったら連絡していいか?」

 

「良いよ。迎えにいくね」

 

「んっ、約束」

 

 小指をきゅっと結んで離すのかと思いきや離さなかった。

 僕は首を傾げると、詩能さんは甘えるような顔だった。

 

「でも、もう少しだけ……良いか?」

 

「これ以上は遅刻しちゃうから帰ったあとだよ」

 

「むぅー、ん。分かった」

 

 なんというか2人で暮らすことになってからよりもっと詩能さんは甘々になったと思う。アサになっている時もみんなと会う時とは違って、こんなふうになる姿は僕だけなのだろう。

 

「あっ、もう。前髪ぐしゃぐしゃだよ?」

 

「ありゃ。なおしてー」

 

「もー。しょうがないなぁ」

 

 そして僕はそんな彼女を甘やかしてるようなそんな気がした。

 

 

 

 新一年生はあの時の学校説明会の時とあまり顔ぶれは変わらなかった。強いて言えばみんな顔つきがこれからのことで期待でいっぱいな顔だった。

 

「理和ー。パイプ椅子ってどこだったっけ?」

 

「パイプ椅子はそこ! あ、そう、そこ!」

 

「一年生の方全員各教室に送ったよ〜」

 

「ありがとう。それじゃあ(はじめ)の手伝いお願い」

 

「理和くん。この椅子はもうダメみたいだ」

 

「うわ、ほんとだ。じゃあ後で処分しておこう」

 

「そうだね」

 

 新しい生徒会として会長は僕、副会長は伊織さん、会計は創、書記は杏香(きょうか)となった。庶務等は別途入れるという方針に。

 

「うしっ。終わったなー」

 

「一年生たち楽しそうだったねぇ〜」

 

「お疲れ様。創、杏香、伊織」

 

「お疲れさま理和くん」

 

「生徒会室に戻ったら今後の活動についてと先生から入試の結果きいたから誰か入れる話し合いもしよっか」

 

 全部片付け終わったのを確認してから生徒会室に向かう。

 

 

 

 入試の結果や中学での評判等を纏めた紙を全員で見て意見を言い合う。

 

「取り敢えずこんな感じみたいだねー。どうする理和くん」

 

「うーん……これだけ見てもだなぁ。僕らの仕事ってそれこそやることが多いでしょ?」

 

「そうなのか?」

 

「そうみたいだね?」

 

「まぁ創たちは知らなくても仕方ないよ。僕は入れたいなと思ってるのはこの子、かな」

 

 名簿にとんっと指を置く。伊織さんは左眉がピクリと動いた。2人は首を傾げていた。

 

「理由聞いても良いかな?」

 

「説明会の時さ、生徒会の説明したでしょ?」

 

「あーしたね。それで?」

 

「あの子だけが目が違ったんだ。なんというか……真面目だからこそこういうとこに所属して仕事をしたいとかただ生徒会っていう名前に憧れがあるのかは分からないけど、生徒会に入りたいっていう熱があった。だからかな」

 

「ふーん。まぁ、仕事ぶりはこれからがんばってもらうとして、きみがしたいのならワタシは反対はしないよ。ね、創くん。杏香くん」

 

「さんせー」

 

「ま、そうだな」

 

「そっか。ありがとうみんな」

 

 意見も決まり、先生にお願いして呼んできてもらった。

 少し待つと、光の当たりによっては白絹のように見える銀髪を揺らす一年生が入ってくる。

 

「あ、あの……生徒会には自分からは無いって言ってませんでした、か?」

 

「僕が入れても良いかなって思ったんだ。()()()()

 

 僕が呼んだのは菅原さん。菅原メイリヤ。中学の成績や入試結果はとても良かった。彼女の授業態度や学校生活も極めて良く、目標を決めればそれに向かって一心に向かい、結果を残すほど優秀。しかし性格は思慮深く、謙虚で自身の結果や成績を誇ることはないという。

 

「1年の間は庶務として色々雑事を任せることもあると思う。それでも生徒会役員として務めてくれるかな?」

 

「はいっ! よろしくお願いします!」

 

「うん。良し、それじゃあひとまず今日はこのくらいかなー。この後は職員会議があるみたいで生徒は全員帰れーって言ってたし帰ろう」

 

「わーい! ねぇ創くん。これからゲーセン行かない?」

 

「お、良いねぇ。理和と伊織はどする?」

 

「ワタシは申し訳ないけど寄るとこがあるからまた今度で良いかい?」

 

「あー僕もそうだね。2人で楽しんでおいでよ」

 

「そっか。そんじゃあまたな」

 

「ばいばーい」

 

 生徒会室を出て戸締りを確認した後、生徒玄関に向かう。

 

「あの先輩」

 

「うん? どうしたの菅原さん」

 

「その……れ、連絡……先とかを、ですね」

 

「あっ。そういえばそうだね。うん。良いよ」

 

 スマホを取り出してLIMEを開く。

 

「はい」

 

「ありがとうございますっ」

 

 ピロンと音がして画面を見る。画面には菅原さんのアイコンと名前の『メイリヤ』とあった。交換できたみたいだ。

 

「これから何かあったら遠慮なくLIMEしていいから」

 

「はいわかりました先輩」

 

「それじゃあまたね」

 

「はい、また」

 

 スマホをしまいつつ玄関を出る。その時に、何か聞こえた気がしたが……気のせいだろう。

 

 

 

「やった……! 少し近づけた、かな」

 

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