Sie・Brechen・Online〜恋に初心なふたりと紡ぐフラグ回収〜   作:海澪

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4.出会い方と付き合い方

 

 来てから思い出したけど待ち合わせ決めてないな。2人ともログインは……してるみたいだね。メッセージを送ってと。

 それから程なくして2人は集まって来る。

 

「お兄ちゃん服装変わったねぇ」

 

「怨讐の炎城ボスのドロップ品だもんなそれ」

 

「えっ、そうなの?」

 

「あーまぁ……うん。でもこれは個別でつけること出来ないんだ。それをしたら自分にデバフがついて動きにくくなるんだ」

 

 君主から貰ったこれらは僕からしたらとてもありがたいものだけれど同時に分別つと相応の代償がある。黒のロングコート、黒の胸甲に黒の手甲つき手袋、黒のズボン、黒のハイカットブーツ、黒の足甲、そしてこの赤黒い鞘に真黒の紐で結われた柄の長刀。

 

「なぁ。もしかしてなんだが、他の装備はつけれなかったり?」

 

 ニノマエくんの言葉にゆっくりと頷く。持つことはできる。けれど装着は無理。いわゆる縛りだ。

 

「まじかー」

 

「お兄ちゃんって……もしかしてそういう人?」

 

「一体どういうものを指してるのか分からないけど良い意味じゃないことは理解できるよ。だからそれは否定させてもらうね」

 

 そんなふうに3人で話している最中だった。

 

「失礼だが、少し良いだろうか?」

 

「ん? えっ、この人って……!」

 

「うわ、まじ?」

 

「どうしたのさ2人とも。この人を知ってるの?」

 

「知ってるも何もちょー有名だよ! いろーんなギルドがあるんだけどその中でもどのギルドよりも強くて絢爛豪華な『円卓騎士団』のギルド団長のアサさんだよ!」

 

「ふぅーん。そう。それで……その団長の人が何か用事かな?」

 

 キョウの話を聞きつつもアサという白銀の軽凱に身を包んだ女性プレイヤーに目を向ける。その後ろには以前助けてもらったヴェインがいた。ヴェインに軽く手を上げるとヴェインは会釈した。

 

 ────あ、目があった。手を振っておこうかな。

 

「用はお前にあるんだ。確か……ミカ、と言ったか?」

 

「え、僕? それまたなんで?」

 

「昨日、あの怨讐のボスを倒したそうだな」

 

「あぁ……そういう」

 

 ニノマエくんにチラッと目配せすると肩を竦めた。

 

「その動画を見たからこそお前を私のギルドに迎え入れたい」

 

「ギルド……か」

 

「お、お兄ちゃん……!」

 

 裾を掴まれ、キョウを見るとキョウは「チャンスだよ!」的なことを言っていた。一体なにがチャンスなのだろうか。ニノマエくんは「お前に任せるよ」とそんな目だった。僕は少し悩む。

 

「…………ごめんだけどまだ答えは出せないかな」

 

「ほう? というとそれは何故だ?」

 

「まずこの装備なんだけど、一式で使わないと僕は弱くなる。その服装って固定であればその観点からはごめんなさいって感じかな。それでもうひとつは、僕は初めてこういったゲームをやったからそこまでまだ右も左も分からないんだ。だけどそれを楽しみたいのもあって誰かに縛られたくないなって」

 

「ふむ。その辺りは安心して欲しい。お前の自由だ。しかし……お前だけが具体的に言っていてこちらが建前ばかりではフェアではないな」

 

 あ、本心じゃないんだやっぱり。

 

「私はお前と遊びたいんだ」

 

「…………ぅえっ?」

 

「な、なんですって? き、聞いてませんよ! アサ様!」

 

「む、そうか?」

 

 予想外の言葉に素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「ちなみになのだがこれからお前たちはどこへ行こうとしていたのか聞いてもいいか?」

 

「どこって……どこ行くの?」

 

「さぁ……?」

 

「決めてないな」

 

「2人とも? 僕より先にやってる先輩なんだよねぇ? え、まさか何も考えてなかったの?」

 

 2人はコクッと頷いた。

 

「だってお兄ちゃんと遊べたらそれで良いし?」

 

「右に同じく」

 

「き、きみたちねぇ……ていうことなんだ」

 

「ふっ、そうか。であればアインスブーセはどうだ?」

 

「アインス……ドイツ語で1って意味だっけか。どう? ふたりとも」

 

「「アリ(だね!)」」

 

「じゃあそうしよっか。ありがとう。えっと……アサさん」

 

「呼び捨てで構わないぞ。私はお前のことを呼び捨てで呼んでいるし」

 

「あー……じゃあアサ、でいい?」

 

 アサは嬉しそうに微笑んで深く頷いた。

 

「私も一緒に行動を共にしたいが……やめておこう。いつかは私とも動いてもらってもいいか?」

 

「良いよ。それじゃあフレンド申請していいかな? 出来ればヴェインともしたいなってあの時助けてくれたし」

 

「え、あ、あたしは別に……あ、アサ様よろしいでしょうか?」

 

「構わんだろう。よろしく頼むぞミカ」

 

「よ、よろしく。ミカ」

 

「うん。よろしくねアサ、ヴェイン」

 

 2人とフレンドになってなんだかんだ有耶無耶になったけど、いつかはギルドに入るか決めよう。

 

──────

────

──

 

 ミカと会うことができて良かった。それにあの顔は……恐らくアイツだろう。初心者というのは本当らしい。こうしてフレンドにもなれたし本当に良かった。

 

「アサ様。ご一緒しなくてよろしかったんですか?」

 

「問題ない。いつかは行動を共に出来るのだからな」

 

「そ、そう……ですか」

 

「それに、その問題はお前にも言えるんじゃないか? ヴェイン」

 

「なっ、べ、別にそんなことは……!」

 

「お前が先にミカのプレイを間近で見たのだろう? どうだった?」

 

 ヴェインは私から目を逸らして言葉を探るような目をしていた。

 

「……正直言うととても信じられません」

 

「信じられないとは?」

 

「彼は本当に初心者なんでしょうか? でなければあのような動き……」

 

「ふむ……」

 

 確かにあのボスとの動画は信じられないことの連続だった。あのように掻い潜り、攻撃しそれを繰り返せるほどの胆力はとても素晴らしいものだった。

 

「……初心者だからこそ、かもしれないな」

 

「初心者だから思い切った動きが出来る、と?」

 

 それか元々のポテンシャルが高いか、だな。SBOの中とはいえあんな顔をしているのも初めて見たし何かしらを秘めていると思って良いだろう。

 

「さて、私たちは私たちで動くとしよう」

 

「どこにいくと?」

 

「うん? アインスブーセだが?」

 

「会いに行く気満々じゃないですか!!!!!」

 

──────

────

──

 

 アサからの勧誘を丸々1週間も放置していた。答えを出さなきゃ行かないと思いつつも、もし望まぬ答えで悲しい思いをさせてしまったらと思うと中々に答えを出せず仕舞いだった。

 

 ────どうしたもんかなぁ。

 

深神狩(みかがり)、どうかしたのか?」

 

「え? えーっと……会ったこと、あります?」

 

 その問題に悩みつつ、杏香を待っているときに廊下から声を掛けられる。そちらに目を向けるとそこには背中まで流した綺麗な黒髪を携えた3年生だった。

 

「ふふっ、そうか。お前はそうだったな。こう言えばいいか? ()()

 

「……! その、喋り方……え、アサ?」

 

「正解だ。良く、分かったな深神狩」

 

 

 最初は何かの間違いだと思ったけど間違いじゃなかった。物言いは傲岸不遜な言い方なのに、声音は優しく、アサ当人なのだと理解した。

 

 ────というか、いるじゃん。SBOやってる人。

 

「まだ残っていたんだな」

 

「うん。杏香(きょうか)がクラスの子に頼み事されてそれ終わるまで待っててって」

 

「そうか。あぁ、後ろ失礼するぞ」

 

「分かった。そういえばア……先輩は何かの用事で?」

 

阿佐上(あさがみ)

 

「え?」

 

「阿佐上詩能(うたの)。それが私の名前だ」

 

 後ろを向くと眦が柔らかく細められた顔だった。

 

「ついでに言うと、私は今生徒会の職務を全うしているところだ。庶務の仕事なのだが生憎、私意外に手が空いていなかったからな」

 

 阿佐上さんはそう言って小脇に抱えていたポスターを広げた。

 

「手伝うよ」

 

「え? いや……しかし」

 

「あくまで手を貸すだけ。ほら。ここに画鋲刺すんだよね」

 

「あ、あぁ。そうだな。すまないが頼めるか?」

 

「分かった。ここら辺のは回収するの?」

 

「取り敢えず、こことここだな。空きを作らなければこっちの方が貼れないからな」

 

「了解。取ったら丸めるのお願いするね」

 

 ただ黙って様子を見てるのもなんだかなと思い、少々強引に仕事を手伝う。

 

──────

────

──

 

 用事で遅れ、生徒会室に向かったけれど詩能様はいなかった。それでもしかしてと思い、生徒玄関に向かう。あたしの仕事は会長である詩能様を補佐することだから。

 

「詩……ぁ」

 

 角を曲がり、ちょうど詩能様が見えて声を上げかけた時、その奥が見えてしまった。雰囲気が『SBO』のあの人みたいな人に。そう。その人は……。

 

 ────……ミカ?

 

 いや、違う。ミカよりも幾分か大人びているし、顔だってミカの方がずっと輝いていた。彼の顔は能面みたいだった。

 

 ────それに、詩能様が楽しそう……。

 

 じくりと胸が痛くなった。そんなはずはない。そんな……。

 

『こんな…………かな? さっきより、……方、よね?』

 

『むぅ……やはり、お前の……はすごいな。()()……』

 

「────……っ!!」

 

 きゅぅと喉が締め付けられるようなそんな感覚がした。あたしはその場から急いで離れた。

 

 つらい。                とらないで。

      きつい。   どうして。

 

     なんで。    やだ。 いや。

 

 いやだ。

 

 

 

 

 あ。そっか。あたし────────。

 

──────

────

──

 

「あっ、ねぇ杏香! 今杏香のお兄さんが生徒会長と一緒にいるよ!」

 

 クラスの子から助っ人を頼まれてバスケをしてその休憩中、校舎側から来た別クラスの子が少し興奮気味に言ってきた。

 

「えっ? お、お兄ちゃんが? うっそだ〜」

 

「ほんとだってば〜」

 

 あんなに他の人と話すことが無かったお兄ちゃんが〜? んーでもなんか最近はすこ〜しだけ明るくなった……? かも?

 

「ふぅ〜ん。まっ、お兄ちゃんが楽しんでるならわたしはい〜かな〜」

 

 これは本心。でも。

 

 ────お兄ちゃんが悲しむのはもっとやだけどね〜。生徒会長さんって確か……。

 

「……んー、じゃあちょーっと見てこよっかな」

 

 小走りで生徒玄関に向かう。途中、すれ違った人がいたけど、まぁいいや。

 

「どれどれぇ〜? わっ、ほんとーだ〜」

 

 お兄ちゃんはとっても分かりずらいけどわたしには分かる。お兄ちゃんは楽しそうだ。わたしや創くん以外にも仲良くなれそうな人見たかったんだと嬉しさが広がった。

 

「んっ? あーれー?」

 

 だけど隣のその(くだん)の生徒会長さんの方なーんか見たことあるような……あっ。あの目、お兄ちゃんに……ふーん。そう。お兄ちゃんに色目使っちゃうんだ。この人危険そーかも? んーそれにどこで見たんだっけな〜……あー、あっ。そっかぁ。あの人なんだ。ふんふん。ふふっ。まぁでも、お兄ちゃんによーやく。

 

「アオハルが来たのかなぁ……?」

 

 わたしは柱の影からお兄ちゃんと生徒会長さんの様子をしばらく楽しんでから体育館に戻る。

 

 わたしは見逃さなかった。もうずぅ〜っと一緒に住んでたんだもん。気付いちゃうよねぇ。

 

 

 

 お兄ちゃんの口許がほんの少し()()()()んだもの。

 

 それがわたしは自分のことのように嬉しい。他の人には分かりづらい変化に気付けたことも。お兄ちゃんが変わろうと頑張ってるのも。

 

「うん。お兄ちゃんのこと応援しなくちゃ♪」

 

──────

────

──

 

 ポスターの張り替えを終えたあと阿佐上さんは生徒会室に戻った。僕はそのまま杏香を待っていた。けれど今スマホのようにメッセージ入っていたことに気付いて、右往左往していた。

 

「……ん〜? これ時間的にはついさっき、だよね。じゃあもう帰ってるのか」

 

「む、深神狩。まだ帰ってなかったのか?」

 

「あ、うん。あのあと杏香を待とうとしてたんだけど、今LIMEに来てたことに気付いて。斉藤くんと帰るっていうのが少し前に来てたんだ。時刻的にももう帰れてると思う」

 

「そうか。いつもは深神狩の妹と帰っているのか?」

 

「そうだね。そこに斉藤くんとも時間があえば3人で帰ったりしてるかな」

 

「つまり今はお前ひとり、というわけだな?」

 

 阿佐上さんの言葉に素直に頷く。今まで一人で帰るなんてことがないから手持ち無沙汰なのだ。これまでは杏香の話を斉藤くんと聞いたり、たまに僕は相槌を打って返し、斉藤くんが茶化したり……と2人の話を聞くだけだったのだ。それが無いとなると少し寂しいな。

 

「じ、じゃあ」

 

 そんな時、阿佐上さんはカバンの紐を握り締めて言ってきた。

 

「私と、帰らないか?」

 

 

 

 

 阿佐上さんのお願いを二つ返事で了承したは良いものの、阿佐上さんは異性と二人でいることがあまりなく、さっきから付かず離れずだった。少し気まずいと思ってるのかも。

 

「阿佐上さんは今までは一人で?」

 

「へ? あ、いや……玲音(れいん)と一緒だったんだ。あいつは副会長でな。終わるのも一緒だったんだ」

 

「じゃあ……僕と阿佐上さんは同じってことか」

 

「……! あ、あぁ! そ、そうなるな」

 

 隣で身動ぎが激しい音が聞こえた。僕の一言何かまずかったかなと横目で見ると少し嬉しそうだった。その様子に深く考えることはなく、すぐに前を見る。

 

「阿佐上さんの家はどっち方面?」

 

「次の信号をこっち」

 

「あれ、杏香が言ってたけどそこから繋がる道って結構大きい家があったりする……」

 

「あぁ。お前の思慮通りだ」

 

「所作が綺麗だったから違和感は無いかも」

 

「き、綺麗? そうだろうか……」

 

「うん。なんというか、とても洗練されてるなって。少しだけ武道をやってたことあるから分かるんだ。阿佐上さんの体運びは重心がブレてない綺麗な歩き方だなって」

 

「そう、か……ふふ、そっか」

 

 トンと肩が触れ合った気がした。少し躓いたかもと謝ろうと隣を見る。

 

「……ぁ、わ、悪い……その」

 

「うん? あー、うん良いよ。別に」

 

 どうして阿佐上さんは顔を赤くしているのか分からない。けれど気にしてないと答える。

 

「……少し、不思議……なんだ」

 

「不思議?」

 

「今までも褒められたことはある。でもこんなに嬉しいと思ったのは初めてだ」

 

 こちらを見上げ、ありがとうと笑む阿佐上さんの顔が僕には煌めいて見えた。

 

 ────あぁ、こんなふうに僕も笑えていたのか。

 

 昔の自分と重ねていた。どうしてかは分からない。けれどそう見えてしまった。

 

「深神狩?」

 

「何でもない」

 

 パッと顔を前に戻す。阿佐上さんといると良く分からないことが胸の内で起こる。ザラザラとした胸を掻き立てるようなそんなもの。

 

「そんなに喜ぶなら事あるごとに僕は阿佐上さんを褒めるよ」

 

「え?」

 

「お世辞じゃなくて、本心で」

 

 阿佐上さんは僕に無いものを持っているんだと思った。いや、それは違う。僕が無くしたものを彼女はちゃんとある。僕はそんな彼女のことを知りたい。

 

「これからも会おう。阿佐上さん。僕はきみが知りたいから」

 

「…………あぁ、分かった」

 

──────

────

──

 

「〜〜〜〜〜!」

 

 ベッドの上で枕に顔を埋めて、夕方のことを思い出す。その度に言いようのない感覚が湧いてきて悶える。それを数度繰り返した。

 

「一体、どうしたというんだ私は」

 

 枕から顔を上げてふと目に入ったスマホを手に取る。無意識でメッセージアプリのLIMEを開く。一覧に父上以外の異性の名前。それも名前はゲームの名前のままだとすぐに気づいた。あのあと、家まで送ってくれたあとに交換をしてくれた。結構勇気がいることなのにあいつは二つ返事で了承した。なんと軽いやつだと思ったけど、深神狩は別になんてことない事なのだろう。

 

 ────私だけ空回りをしているようだ。

 

 それもこれも何も変わらず接してくれた深神狩のせいだろう。どれもこれも初めてのことだった。放課後のポスター貼り替えをしてくれたことも。

 

「……あの距離感、嫌じゃなかった」

 

 今まで私は言い寄られたことなんて数多くある。だから異性は苦手の部類なのだが、あの距離でいても不快な思いはしなかった。むしろ。

 

 ────居心地良かった。

 

 肩が触れた時は恥ずかしかったけど、顔色ひとつ変えない深神狩が不思議ですぐにそんな気持ちもなくなった。それと同時に、ひとつの思いが出てきた。

 

 ────深神狩のことを知りたい。

 

 そう思ったら画面をタップして左耳にスマホを当てる。

 

『……もしもし』

 

「……! も、もしもしっ。その……わ、私だ」

 

 スマホ越しだと少し違うなと思った。ついさっきまで隣を歩いて聞いて話していた声。でもスマホ越しだとより大人びて聞こえる。声、上擦らなかっただろうか? 不自然じゃなかっただろうか。

 

『どうしたの? 阿佐上さんから掛けてくるなんて思わなかったよ』

 

「す、すまない。その……お前ともう少し話したいと思って、つい……な。何かしていたならすまない」

 

『ううん、大丈夫。それで、何を話そうか』

 

 とても落ち着いている声音に胸がきゅっと締め付けられる。一度起き上がった体をぼふっと再度ベッドに沈める。

 

「……なぁ、深神狩」

 

『どうしたの?』

 

「い、一度だけ……名前で呼んでみてくれないか?」

 

『……えっと、それは』

 

「も、もちろん無理なら良いんだ……っ」

 

 沈黙が続いた。微かな吐息すら聞こえて来る。

 

『────────────……詩能さん』

 

「〜〜〜〜〜っ!」

 

 呟きに近い声だった。だけどそれを聞き取ることは容易だった。

 

『えっと……大丈夫? なんかすごいぼふぼふ音するけど』

 

「あ、あぁ。大丈夫だ。んん……ふーーーーー。ん、良し。深神狩。これからも名前で呼んで欲しいんだがだめか?」

 

『え、うーん……別に大丈夫だと思うけど良いの?』

 

「それは……どうしてだ?」

 

『だって、もしそうしたらきみの方で迷惑掛かるんじゃないかなって。変な噂とか』

 

「知らない」

 

『え?』

 

「わ、私がそうしたいんだ」

 

『…………分かった。今度からそうするよ。……詩能さん』

 

「……きゅぅ」

 

 喉が変な音が鳴った。どうしよう。他の誰よりも何故か呼ばれることに嬉しいと感じている。

 

「ふ、ははっ。うん。よろしく頼む深神狩」

 

『あぁ、そうだ。僕が名前で呼ぶなら詩能さんも名前で呼ぶべきじゃないかな?』

 

「む……確かにそうだな。んんっ……り、理和(りお)

 

『うん』

 

「ふふっ。理和。理和」

 

『うん』

 

 何回も名前を呼び、その度に電話口から相槌の声がした。その声音がほんの少し柔らかい感じがした。

 

──────

────

──

 

 良く分からないが、阿佐上さんが嬉しげな声をしていた。しばらくの間、無音が続いたあと、小さく音をマイクが拾った。

 

『────……ぅ、すぅ』

 

 あぁ、寝てしまったみたいだと理解するには数秒もいらなかった。

 

「……おやすみ、詩能さん」

 

 静かに通話を終わらせた。翌日の朝、阿佐上さんはとても慌てたような感じでトークを送っていた。




いかがでしたでしょうか

とてもいじらしい姿を見せてますよね
私は好きですよこういう子

もしお楽しみいただけた方はお気に入り、星、いいね等よろしくお願いします
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