うちの子の話   作:ポチっとな

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モブ同級生視点から始まり、文崎視点で終わります。
駄文注意


文崎新の昔と今

文崎新は高校生にして人気小説家である。彼女の書く本は多岐に渡り、個人で同人誌すら制作している。そのどれもが速筆であり、投稿頻度も多いときたものだ。そして何よりも顔がいい。かくいう俺も彼女のファンの一人だ。そんな彼女が今俺の隣にいる。

 

「えー、では次の問題を…文崎、答えてくれ」

 

教師に当てられた文崎さんは興味なさそうにふらりと立ち上がり回答する。博識な彼女は当然のことながら正解を出す。

好きな作家の学校生活を見れるなんて……なんという神イベントなんだ!このまま仲良くなってあわよくば…と思っていたのに…。

 

「あーちゃん流石だよ〜」

「銀うるさい、授業中」

 

隣にいるこの自称幼馴染の金崎銀とかいう男が邪魔過ぎる!

 

 

金崎銀。文崎の小説を売るサークルの主であり、専属マネージャー。幼馴染であり従兄弟であり、そして同棲しているという関係性盛り盛りのいけ好かない男だ。

こいつさえいなければ今頃俺がそのポジションにいるはずなのに…許せない。

 

「銀…喉乾いた」

「はいどーぞ。50%引きだったんだ〜」

「そう」

 

見ろ!文崎さんは呆れているぞ!なんだその飲み物は!エクストラ練乳抹茶チョコレートフラペチーノ風ウォーターだと!?甘過ぎて美味しくないだろ!だから売れ残って割引されてるんだろ!

文崎さんだってもう少し嫌がればいいのに普通に飲むなよ…!俺ならもっと良いものを渡せるのに!

ま、まぁ良いさ。今日は俺と文崎さんが日直だからな…。一緒に日誌を書いたり黒板を消したり…時間は短いが2人きりなことに違いない。その時に俺の有能さを伝えれば。

 

「文崎さん、俺今から黒板掃除するから一緒に」

「なら…私は日誌を書くから…。そっちはお願い」

「あ、ああ」

 

それ以降会話は無く、彼女の意識は日誌に向いていた。話している時ですらこちらに一瞥することも無く、ただ一心に日誌を書いていた。

お、おかしい!こういうのって共同作業だろ!少なくとも他の子とする時は…別々だったな。いやそれでもだ。せめて俺の目を見てくれよ!俺ともっと会話してくれよ!

 

「じゃあ…書ききったから…先に帰るね」

 

気づけば彼女は日誌を脇に抱え、立ち上がっていた。時間を見ればまだ3分も経っていない…。ああそうだ、彼女は速筆の小説家だ。日誌程度なんてこと無いのだろう。まだ彼女と離れたくない。もう少しこの時間を続かせたい。

 

「も、もう終わったんならさ手伝ってよ!」

「嫌」

 

ぴしゃりと会話を途絶えさせられる。強い否定の籠った声だった。

 

「じゃあ一緒に行こうぜ!俺日誌とか荷物も持つからさ」

「良い。もう、銀が…いるから…」

 

まただ。また金崎銀だ。あいつはどこにだって現れる。忌々しい奴め。

 

「金崎は日直じゃないだろ?それにここにいないじゃないか」

「…銀は下駄箱にいる」

 

もう良い?と言わんばかりに不機嫌な顔で俺を見てくる。ようやく目があったと思ったのに。普段なら可愛いはずなのに。今はその顔を見たくない。

 

「そうか…じゃあそれは任せるよ」

「……」

 

最早声すらかけてもらえなくなった。彼女は小さな足音と共に教室を出ていった。

教室から校庭を見ていれば、暫くして文崎が出てくる。隣には当然のように金崎が立っており、彼女の分の荷物も背負っている。文崎は歩きスマホをしており、ふらふらと危なっかしい。

俺が隣にいれば…と考える間もなく、空いた手で金崎は文崎の手を繋いだ。いつも通りといったように、慣れた手つきで握られた金崎の手を、さも当然と言わんばかりに文崎は手を握り返した。

そこに割って入る者はおらず、周りも特段騒いでいる様子も気にしている様子もなかった。

俺が入る隙なんて、そこには無かった。

 

 

 

「なんか顔暗いね、どうしたのあーちゃん」

「今日は…凄く話しかけられた、から…。多分、疲れた」

「あぁ〜。思い返してみれば、斎藤君、今日は沢山話しかけてくれたね〜。あーちゃんとしては嫌だったの?」

「うん」

 

いつも気持ち悪い視線を後ろから向けてくる男がいた。確か、斎藤だったか。さして興味が出ないその男は今日に限って積極的だった。と言っても話しかけてくる訳ではなかった。いつも以上に見つめてきて、いつも異常に銀を睨んでいて。話しかけてきたのは最後の日直の時だけでそれ以外は何も無かったのだ。

 

「私は…彼に何かしたのかな」

「そういうわけじゃないと思うよ〜。そうだねー。あれはきっと…そう、恋だよ!ぼかぁそう思うね」

 

これが恋?

なら実に気持ちの悪いものだ。不愉快極まりない。

思わず眉間に皺が寄るのが分かる。

 

「どうかな?あーちゃんは、あの視線は恋だと思う?それとも別のナニカ?」

「あれは…何だろ」

 

いざ形容しろと言われると困る。上手く口に出せない。あの視線は何なのだろうか。何故私はあれを受けて、何故不快に感じたのだろうか。

 

「分かんない?それとも解んない?もしかしてわかりたくない?」

「……解らない」

「ならいつも通りさぁ、書いて教えてよ。今日のあーちゃんのソレは、凄く良いネタになると思うよ。僕もアウトプット手伝うからね」

 

そう、そうだ。いつも通り書けば良い。言葉を話せないなら言葉を書けば良い。

これまでもそうだ。理解できないから理解する為に書く。自分の身の回りで起きたことや親族から知り得た事を残す為に書く。文字が好きだから、書く。

 

「何か被害が出そうなら僕が対応するからねぇ。しー姉ちゃんもいるし」

「うん、そうね」

 

今日の事を日記に残そう。銀のくれたジュースが甘ったるかった事。斎藤の視線が気持ちの悪いものだった事。恋と思しき感情を知った事。全部、全部、書いて残す。

 

2010年6月14日 曇りのち晴れ

今日は初めての感情を見た。銀曰くあれはーーー

 

 

 

私の日記を開く。ネタ探しの為に学生時代の日記を見てみれば、随分と悩んだ末に書かれたであろうものがそこにはあった。

斎藤、という男に覚えはない。所詮その程度の男だったのだろう。私を読んで感じたことは私はその男を気味悪く思っていたくらいだ。しかしその感情を書き残そうとする執念をそれ以上に感じた。

 

「あーちゃん先生、進捗はどうですかぁ?良いネタあった?」

 

銀がキッチンから声をかけてくる。

ふと思う。銀はそこにいて、斎藤は記憶にすら無い。何故なのだろう。これも良いネタになる。そうだ、次の話はこれを基にしよう。

 

「うん。久しぶりに面白い事を読めた、気がする。ネタには成った」

「わ!良いねぇそれ。お金の匂いがしそう〜」

 

顔を上げればそこにはありきたりな日常がそこにあった。日記にあったのは非日常だった。良い刺激と成ったソレを私は閉じる。

今も昔も、斎藤に興味はないけど、失うには惜しい感情だった。今でも分かる。文字にしておきたい。他でもない私の為に。私が私を読む為に。

それが私/文崎新だと。はっきりと手に取るように分かる。

日記にはそれがあった。

 

 

 

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