いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第10話 隕石群落下(メテオ・スウォーム)

「レジーナ、これは一体!? 何故このような場所に魔族がおるのだっ!!」

 

 ヒルデブルク王タルケンが(なか)ば困惑しながら、娘に問いかけた。

 

「お父様っ! このレッサーデーモンなる魔族が大臣の姿に化け、城に潜伏しておりました! それで私達を(おとしい)れようと策を練ったものの、ザガートが正体を見破り、中庭へと叩き出したのです!!」

 

 レジーナが悪魔を指差して、これまでの出来事を簡潔に伝える。

 

「何、大臣の姿に化けただと!? ぐぬぬ、おのれ魔族めっ! 本物のギドを何処へやった! 答えよっ!!」

 

 娘の話を聞いて国王が悔しげに歯(ぎし)りした。魔族が大臣の姿に化けたなら、本物の大臣が何処かにいるはずだと考え、彼の所在を問う。

 

「クククッ……」

 

 デーモンが王の疑問を一笑に()す。明らかに相手を見下した態度を取る。

 

「国王陛下……貴方ハ私ガ、本物ノ大臣ヲ殺シテ、大臣ノ姿ニ成リ代ワッタト、ソウ思ッタノダロウ。ダガソウデハナイ。最初カラ俺ガ人間ノ姿ニ化ケテ、国ニ潜伏シテ大臣トナッタ……ツマリ私コソガ正真正銘、本物ノギド大臣ナノデスヨ……ハハハハハッ」

 

 他の誰でもない、自分こそが王に仕えた大臣本人であると明かし、声に出して(あざ)笑った。

 

「なっ、何という事だ……」

 

 衝撃の事実を告げられてタルケンが愕然(がくぜん)とした。表情は一瞬にして青ざめて、ガクッと地に(ひざ)をついてうなだれた。

 長年自分に仕えてきた臣下だった。それなりに信頼も寄せて、何度か献策を取り入れた場面もあった。優しい性格とは呼べなかったが、統治者としては有能だった。

 その大臣が最初から国を滅ぼすために潜伏した魔族であったなどと、到底受け入れられる話ではなかった。

 

「おのれ奸賊(かんぞく)めっ! 陛下には指一本たりとも触れさせんぞッ!!」

「うおおおおおおっ!」

 

 王が絶望に打ちのめされていると、彼の無念を晴らさんと兵士が息巻く。

 三十人ほどの屈強な兵士が(とき)の声を上げながら、包囲の中心にいる悪魔めがけて槍を構えて突進する。

 

「ムゥンッ!!」

 

 だがデーモンが一声発しながら、()ぎ払うように右腕を横にブゥンッと振るうと、激しい突風が巻き起こり、兵士はあっけなく吹き飛ばされてしまった。

 兵士が腰に()していた剣の一本が風で飛ばされて、(さや)から抜けたままレジーナの足元へと転がり落ちる。

 

「よくも……よくも今までお父様を……私を……国のみんなを、騙してくれたなああああああっ!!」

 

 王女は剣を拾い上げると、大きな声で叫びながら敵に向かって走り出す。

 悪魔は腕を大きく振った動作により(すき)が生まれたため、王女を迎え撃つ余裕が無い。(まさ)に絶好のチャンスだった。

 

「悪党めっ! これでも喰らええええええっ!!」

 

 正面に向かって剣を突き出すと、デーモンの太腿(ふともも)に刃が鋭く突き刺さる。傷口から赤い血がドクドク流れ出し、悪魔が「グゥッ」と声に出して痛がる。

 

「やった!」

 

 敵に一撃を与えられた事に、王女の胸が歓喜に沸き立つ。これまでゴブリンと戦った事すら無い彼女が、実戦で相手に手傷を負わせられた事は、それだけで大きな感動へと繋がる。

 

「クソガキャア……」

 

 喜びに(ひた)る王女を、デーモンがギロリと(にら)む。その瞳は真っ赤に血走り、(ひたい)には血管がビキビキと浮かび上がり、表情がみるみる殺意に染まる。剣で刺された事に心底(いきどお)っているのが一目で伝わる。

 

「ヨクモ……ヨクモ、ヤッテクレタナァッ! トッテモ(イテ)エジャネエカァァァァアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」

 

 城中に響かんばかりの怒号を発すると、王女の腹を足のつま先で思いっきり蹴飛ばす。

 ボグシャァッと骨が砕ける音が鳴り、王女が激痛のあまり顔を(ゆが)ませた。

 

「ぐああああああっ!」

 

 レジーナが悲鳴を上げながら弾き飛ばされる。地面に落下して全身を叩き付けられると、ゴロゴロ横向きに転がった挙句、ダンゴムシのように体を丸まらせたまま腹を抱えてゲホゲホッと苦しそうに()き込んだ。

 

「レジーナっ!」

「王女様っ!」

 

 タルケンとルシルが倒れた王女の元へと早足で駆け寄る。

 

「精霊よ、傷を(いや)せ……治癒魔法(ヒール・ウーンズ)ッ!!」

 

 ルシルは王女の前にしゃがんで両手を()えると、急いで回復の呪文を唱えた。

 すると王女の全身が青い光に包まれて、体に受けた傷がみるみるうちに癒されていく。それほど深手を負ってはいなかったのか傷はすぐに完治して、王女はムクッと起き上がった。

 

「すまない……貴方にも酷い仕打ちをした」

 

 王女がこれまでの非礼を()びる。散々悪口を言った相手に命を救われた事実に、とても申し訳ない事をした気持ちになる。

 

「どうかお気になさらないで下さい……それよりも、デーモンは!?」

 

 ルシルが今はそんな話をしている場合ではないと言いたげに敵の動向を気にかける。タルケンも彼女に同意するように(うなず)く。

 

 三人が一斉に振り向くと、デーモンは自分の足に刺さった剣を手で引き抜いて、地面にポイッと投げ捨てた。その直後彼の足にあった傷があっという間に(ふさ)がっていき、やがて剣で刺される前の状態へと戻る。

 

「そんな……」

 

 敵の傷口がすぐ元通りになった事に、レジーナが深く落胆した。彼女にとって勇気を振り絞った渾身の一撃だったのに、それを無に帰された事に、努力を否定された喪失感に(さいな)まれた。

 

「クククッ……剣デ刺サレタ程度デ俺ガ死ヌト、本気デ思ッタノカ? 王女ヨ、残念ダッタナ……小サナ(ハチ)ガイクラ刺ソウガ、巨大ナ竜ハ殺セン……」

 

 悲嘆に()れた王女を、デーモンが笑いながら侮辱する。両者の間に圧倒的な実力差がある事実を、分かりやすい(たと)え話によって突き付けた。

 

「ショセン貴様(ゴト)キノ実力デハ、俺ヲ倒ス事ナド出来ハシナイノダッ! 死ネ、レジーナ! (オノレ)ノ無力サヲ後悔シナガラ、アノ世ヘト旅立ツガイイ!!」

 

 死を宣告する言葉を発すると、三人に向かってドカドカと走り出す。右手をグワッと開いて、鋭い(ツメ)で相手を引き裂こうともくろむ。

 ルシルが咄嗟(とっさ)に魔法を唱えようとしたが、火球が発射されるよりもデーモンの攻撃が届くタイミングの方が明らかに早い。

 

(ううっ……やはり私なんかじゃ、ダメなのか……)

 

 死を目前にして、レジーナが自分の非力さを心の底から呪う。私にもっと力があれば国を守れたのに、ともどかしい気持ちになる。悔しさのあまり目に涙が浮かび、血が出るほど強く下唇を噛む。

 

 悲しみに染まる王女に(とど)めを刺そうと、デーモンが二メートルほどの距離まで迫った時……。

 

「言ったはずだ……かよわいお姫様をいじめるのはその辺にしてもらおうか、とな」

 

 そう口にしながら、ザガートがヒュンッとワープしたように悪魔の前に高速移動する。

 

「フンッ!」

 

 気合を入れるように掛け声を発すると、敵の腹に空手チョップを叩き込んだ。

 

「ナッ……ドグワァァァァアアアアアアッ!!」

 

 デーモンが滑稽(こっけい)な奇声を上げながら豪快に吹き飛ばされる。城の壁にドガァッと音を立てて激突し、大の字に寝転がったままガラガラと崩れる瓦礫(がれき)の下敷きになる。

 

「レッサーデーモン……貴様は断じて竜などではない。たかだかミツバチ相手に(いき)がるスズメバチ程度の存在でしかない。それを今から分からせてやる」

 

 敵の()(ざま)な姿を眺めて、ザガートが小馬鹿にするようにフフンッと鼻で笑う。恰好(かっこう)を付けるようにマントを右手でバサッと開いて、風にたなびかせた。

 

「蜂が竜に挑むというのがどういう事か、身を(もっ)て思い知るがいいッ!!」

 

 圧倒的武力で敵をねじ伏せる事を高らかに宣言する。

 

「オノレ、ザガート……ヨクモ……ヨクモヤッテクレタナ。(ユル)サン……殺ス……貴様ダケハ絶対コノ場デ、確実ニ殺スッ!!」

 

 デーモンが殺意に満ちた言葉を吐きながら、地面に手を付いて上半身を起こす。体中に付着した泥と砂をパンパンッと払いのけると、二本の足でしっかりと立ち上がった。

 そのまま視線の先にいる魔王めがけて、ヨロヨロと歩き出す。深手は負っていなかったものの、二度も殴り飛ばされた事により体力を消耗したようだ。

 

 ゆっくり歩いてくる敵を眺めながら、ザガートが(あご)に手を当ててしばし考え込む。どうやって相手を始末すべきか思い悩む。

 

(ため)しにあれを使ってみるか……)

 

 そんな言葉が彼の頭をよぎる。

 答えが決まると、自分の真横にある空間を手刀で切り裂いて、次元の裂け目を生じさせた。そこから重い砂のようなものがギッシリと詰まった袋を取り出して、空に向かって放り投げる。

 

「一度は滅びた肉体よ、新たな魂を得て、我に仕えよ……生命創造(クリエート・ライフ)ッ!!」

 

 両手を組んで(いん)を結ぶと、呪文めいた言葉を唱える。

 すると投げ出した袋から、黒い灰のようなものがブワッと空に舞い散る。

 灰は自ら意思を持つように空を飛んで一箇所に集まった後、地面に降り積もって巨大な人の形を取る。一瞬カッと(まばゆ)い光に包まれた後、それは生きた魔物へと変わっていた。

 

「ああっ! あれは……」

 

 光の中から現れた魔物の姿を目にして、ルシルが驚きの言葉を発する。

 それもそのはず、そこに立っていたのは二足歩行する屈強な牛頭の怪物……かつて彼女の村を襲った、他ならぬミノタウロスだったからだ。

 

「ミノタウロス……かつて大魔王の手下であったお前は、今我が魔力によって(よみがえ)った。これからは新たな(あるじ)たる我に仕えよ。まずはそこにいるレッサーデーモンを片付けるのだ」

 

 ザガートが正面に右手をサッと掲げながら、牛頭の怪物に命令を下す。

 

「ははっ、全ては偉大なる我らが魔王ザガート様の命じるままに……」

 

 ミノタウロスが魔王の前に(ひざまず)いて、(こうべ)()れて忠誠を誓う。敵対した以前とは異なり、完全に男の配下となった様子が(うかが)える。

 

「うおおおおおおっ!」

 

 すぐに立ち上がって反転すると、デーモンに向かって一直線に駆け出す。そのまま相撲のようにガッと組み合って、互いに力の押し合いになる。

 

「ミノタウロス、貴様正気カ!? 大魔王サマヲ裏切リ、事モアロウニ、ソノ男ニ寝返ルトイウノカッ! オノレ、魔族ノ誇リヲ捨テタ(ハジ)サラシメ!!」

 

 デーモンが牛頭の男と組み合ったまま、相手の裏切りを厳しく(きゅう)(だん)する。同じ魔王軍であったにも関わらず、主君に(そむ)いて敵側に付いた事を許せない気持ちになる。

 

「残念だったな……レッサーデーモンよ」

 

 悪魔の問いかけに、ミノタウロスがさも当然と言いたげにニヤリと笑う。

 

「俺は貴様らの同胞であった、かつてのミノタウロス本人ではないッ! 一度は死んだ肉体に、ザガート様が創造なされた、新たな魂を吹き込まれて生まれた存在……その名も(ネオ)ミノタウロスッ!!」

 

 肉体は同一でも魂は別個体である事を伝えて、敵に寝返った指摘に反論してみせた。その言葉に一切迷いが無い事を見せ付けるように腕に力が()もり、グイグイ相手を押す。悪魔が力で押し負けたようにジリジリと後方に押されていく。

 

 戦いを見ていた兵士達が「オオッ」と歓声を上げた。本来恐れるべき魔族がザガートの配下となり、人類の味方となった喜びに胸が沸き立つ。

 ルシルもまた、ミノタウロスが仲間になった事に深く安堵と感激を覚えた。

 

「ミノタウロスっ! ミノタウロスっ!」

 

 牛頭の名を呼ぶコールが盛大に巻き起こり、城内が彼への声援一色に染まる。

 デーモンは場の空気に圧倒されてしまい、(にわ)かに焦りだす。

 

(グウウッ! 力比ベデハ()ガ悪イ! ソレニ魔王ザガート……マサカ俺ヨリ格上ノ魔族ヲ、コウモ()(ヤス)ク再生サセルトハ! コノ男ハ(マギ)レモナク、大魔王様ト同等ノ存在ッ! 到底(トウテイ)俺ノ手ニ負エル相手デハ無カッタ!!)

 

 事ここに至って、ようやく自身の不利を悟る。精神的に追い詰められて弱気になる。

 これまで散々(あなど)っていたザガートという男の強大さを思い知らされた。

 異世界の魔王だという彼の実力は本物だと理解し、格上の相手に勝負を挑んでしまった自分の浅はかさを深く後悔した。

 

「クッ……ココハ一旦退()カセテモラウ! サラバ!!」

 

 牛頭との組み合いをやめて大きく距離を開けると、翼を大きく羽ばたかせて、空を飛んで逃げようとした。

 

「逃がさんっ! はらわたをブチ()けて死ぬがいい! 死光線(デス・ビーム)ッ!!」

 

 ザガートが呪文を唱えながら、空を飛ぶデーモンに人差し指を向ける。

 すると指先から紫に輝く一筋の閃光が放たれて、敵の心臓を背後から撃ち抜く。

 

「グアアアアアアッ!」

 

 悪魔が悲鳴を上げながら落下して、ドスゥゥーーーンッと音を立てて地面に叩き付けられた。大の字に倒れたまま起き上がれず、手足をピクピクさせる。

 如何(いか)に傷を自力再生できても、心臓を撃ち抜かれては無事ではいられず、傷口から真っ赤な血がとめどなく(あふ)れ出す。

 

「俺ヲ殺シテモ、モウ遅イ……今コノ城ニ、オークノ軍勢ガ向カッテイル。ソノ数、オヨソ十万(ジュウマン)。貴様ラガ何ヲシヨウト、死ノ運命カラハ逃ラレンノダ。ハハハハハッ……ガハァッ!!」

 

 負け惜しみのように(つぶや)くと、口から大量の血を吐いてガクッと倒れて息絶えた。

 

「オークの軍勢……十万匹だと!?」

 

 レッサーデーモンが最期に(のこ)した言葉に、兵士達が(にわ)かにざわつく。

 勝利の喜びに(ひた)る間もなく、中庭が騒然となる。城の住人同士が互いに顔を合わせながら、どうしようとうろたえる。

 

「国王陛下、大変ですっ! すぐこちらに来て下さい!」

 

 見張り塔に上がっていた兵士の一人が、大きな声で叫ぶ。

 呼びかけに応じてタルケンも、ザガートとその仲間達も、早足で彼の元に駆け付ける。

 

「これは……ッ!!」

 

 塔に備え付けられた望遠鏡を覗き込んで、タルケンの表情がこわばった。

 

 王の視界に映り込んだ景色……それは夜の暗闇の中に、赤い瞳が無数に浮かび上がっているものだった。それらは大海の波のようにうねりながら、城に向かって進軍している。

 レッサーデーモンの言葉が真実ならば、赤い瞳がオークである事は疑いようがない。目視だけでも総数が十万に近い事が分かる。

 まだ城からだいぶ離れていたが、今から一時間ほどで到達する距離だ。

 

「なっ、何という事だ……」

 

 敵の大軍が迫っていると知り、王がショックのあまり愕然(がくぜん)とした。表情は一瞬にして青ざめて、ガクッと(ひざ)をついてうなだれる。

 今から迎え撃つ準備をしても、とても間に合わない……いや仮に間に合ったとしても、十万の大軍に攻められては、津波に()まれたアリのように押し流されてしまう。

 城を放棄して逃げる以外に選択肢は無く、それは国を奪われたに等しい行為だった。

 

「………」

 

 レジーナも兵士達も考えは(みな)同じであり、下を向いたまま黙り込む。

 この困難に立ち向かう力を持ち合わせない自分の不甲斐なさを心底嘆く。

 

「お前達、何をそんなに恐れている? オークの群れを片付ければ良いのだろう……そんなの容易(たやす)い事だ」

 

 王女達が悲嘆していると、ザガートが事も無げにあっさり言い放つ。敵の襲来を恐れる様子は()(じん)もなく、恰好(かっこう)を付けるようにマントを右手でバサッと開いて、風にたなびかせた。

 

「だ……だが、どうやって!!」

 

 タルケンが(わら)にもすがる思いで問いかけた。いくら魔王の力が強大でも、十万の大軍は蹴散らせないだろうという憶測が頭の中にあり、心配せずにいられない。

 

「……すぐに分かる」

 

 国王の問いに、ザガートがニタァッと邪悪な笑みを浮かべる。

 

「お前達、俺から少し離れていろ。今から俺が極大魔法を唱える。それでオークの群れを一網打尽にする」

 

 一転して真剣な顔付きになると、その場にいる全員に的確に指示を出す。彼の言葉に従い皆が距離を開けると、ズカズカと前に進み出て、塔の(はし)に立つ。視界の(はる)か彼方にある暗闇に、無数の赤い瞳がウネウネしているのが見える。

 

「天空の星屑(ほしくず)よ、流星となりて豚共を()ぎ払え……隕石群落下(メテオ・スウォーム)ッ!!」

 

 両手を組んで(いん)を結ぶと、呪文の詠唱を行った。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 城から遠く離れた平野を、フゴッフゴッと鼻息を吹かせながら、むさ苦しい大男の集団が進軍する。トゲの生えた棍棒を手にして、露出度の高い半裸の鎧を着た、力士のような体型をした豚頭の亜人種(デミ・ヒューマン)……レッサーデーモンに呼ばれたオークの軍勢だ。

 長い距離を歩いてきたのか全身ダラダラと汗をかいており、そこから白い湯気が天へと立ち(のぼ)る。間近で見たら吐き気を(もよお)しそうなほど暑苦しい光景だ。

 

「男ハ殺セ! 女ハ犯セ! 金目ノ物、全テ奪エッ!!」

 

 オークの集団が行軍しながら、まるで歌でも(うた)うようにリズミカルに叫ぶ。彼らにとってそれは自身を鼓舞(こぶ)して士気を向上させる儀式でもあったようだ。

 特に女を陵辱する事は彼らにとって一番の娯楽であり、(みな)性の惨劇が始まるのを心待ちにしてウズウズする。

 

「アノ城ニハ、レジーナトイウ気ノ強イ美人ノ王女様ガイルト聞ク……一体ドンナ声デ泣キナガラ犯サレルカ、今カラ楽シミダゼ……グヒヒヒヒッ」

 

 群れの先頭にいた一人が、下衆(げす)な想像をしてニヤついていると……。

 

「オイ、アレハ何ダ?」

 

 (となり)にいたもう一人が、突然立ち止まって空を指差す。

 他の者達が後に続くように一斉に上を見上げると、まるで溶岩が煮え(たぎ)ったように、天が轟轟(ごうごう)と赤く光る。それまで暗闇に包まれていた平原が、空から差し込む光で急に明るく照らし出された。

 時折雷が落ちようとするかのようにゴロゴロと音が鳴る。

 

「ナンダ!?」

「ナンダナンダ!」

 

 オークの集団が(にわ)かにどよめく。この世の終わりが訪れようとするかのような光景に皆が戦慄し、パニックになる。どうにかしなければならないと思い立った者も、空に手が届く(はず)もなく、ただ右往左往するしかない。

 

「コッ……コレハ、マサカ!?」

 

 彼らのうち先頭にいた一人の表情が凍り付いた。

 

 ……その者だけが気付けたのだ。今目の前で起こっている現象が、自分達を殲滅(せんめつ)しようとする魔法が発動する前兆だという事に。

 だが、気付いた時にはもう手遅れだった。

 

 

 

 次の瞬間、空から巨大な何かが高速で落下する。

 それは直径五メートルを()す、大きな岩の塊だった。灼熱の業火を(まと)い、轟轟(ごうごう)と音を立てて燃え盛る『それ』は最初に一つが降った後、後に続くように次々と落下する。

 

 それらは地表に到達すると火が()いたダイナマイトのように爆発して、落下地点にいたオークを一瞬にしてゴミのように()ぎ払う。

 

「ギャアアアアアアッ!!」

「ドグワァァァァアアアアアアッ!!」

「アバアアアアアアーーーーーーッッ!!」

 

 隕石が落下するたびにオークの絶叫が発せられて、爆発音と共に黒焦げの肉片が飛び散る。彼らの断末魔の悲鳴が空を埋め尽くし、平原は阿鼻叫喚の地獄と化した。

 逃げる場所など、何処にも無い。雨のように降り注ぐ無数の隕石に焼かれて、ただ死ぬのを待つだけだ。それが彼らの運命となった。

 

(アア神ヨ、ドウカ……ドウカ、オ助ケヲッ!!)

 

 一人のオークが咄嗟(とっさ)に手を合わせて神に祈る。魔族であるにも関わらず、神に救いを求めたのだ。

 

 無論その祈りが、天に届く事は無かった――――。

 

 

 

 ……五分ほど経過した後、隕石の落下がピタリと()む。

 生存者は一人もおらず、ブスブス焼け焦げた肉片と、鼻をつくニオイだけが残る。隕石が落下した(あと)は巨大なクレーターになっており、惨劇の激しさを物語る。

 

「………」

 

 オークの群れがあっという間に全滅させられた光景を見て、兵士達がポカンと口を開けた。

 本来国が救われた事を喜ぶべき場面だが、あまりに一方的すぎる虐殺に、喜びを通り越して畏怖(いふ)の念すら抱く。

 想像を遥かに上回る男の力に、皆が戦々恐々した。それは世界を滅ぼす力を持った魔王が人類の味方になった事実を改めて浮き彫りにした。

 

 誰もが呆気(あっけ)に取られて棒立ちになる中、ザガートが一人空気を読まずにズカズカと歩く。

 

「国王よ、喜ぶがいい……戦争は回避され、この国に平和が戻ったのだ」

 

 王の前に立つと、腰に手を当ててフフンッと鼻息を吹かせながら国を救った事を報告する。自身の力を見せてやれた事を自慢するように誇らしげなドヤ顔になる。

 あれだけ大きな魔力を使ったというのに、汗の一つも()かず、疲れた様子が全く無い。彼にとっては()(さい)な行いだったようだ。

 

「ハッ……ハハハッ……」

 

 タルケンが顔を引きつらせた半笑いになる。口元は笑っているが、目は笑ってない。事故で顔面麻痺したように表情がピクピクする。

 王は地べたに座り込んだまま腰を抜かしてしまい、自力で立てなくなる。

 

「ザ、ザガート殿ぉ……そなたが敵でなくて、本当に良かった……」

 

 思わずそんな言葉が口を()いて出た。それは(いつわ)らざる彼の本音だった。

 

(わ、私はひょっとして、とんでもない相手に決闘を挑んでしまったのではないか!?)

 

 魔王の底知れない力を目の当たりにして、レジーナは背筋が凍る思いがした。自分はなんて馬鹿な事をしでかしたんだと深く後悔し、恥ずかしさのあまり顔を合わせられなかった。

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