いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
「レジーナ、これは一体!? 何故このような場所に魔族がおるのだっ!!」
ヒルデブルク王タルケンが
「お父様っ! このレッサーデーモンなる魔族が大臣の姿に化け、城に潜伏しておりました! それで私達を
レジーナが悪魔を指差して、これまでの出来事を簡潔に伝える。
「何、大臣の姿に化けただと!? ぐぬぬ、おのれ魔族めっ! 本物のギドを何処へやった! 答えよっ!!」
娘の話を聞いて国王が悔しげに歯
「クククッ……」
デーモンが王の疑問を一笑に
「国王陛下……貴方ハ私ガ、本物ノ大臣ヲ殺シテ、大臣ノ姿ニ成リ代ワッタト、ソウ思ッタノダロウ。ダガソウデハナイ。最初カラ俺ガ人間ノ姿ニ化ケテ、国ニ潜伏シテ大臣トナッタ……ツマリ私コソガ正真正銘、本物ノギド大臣ナノデスヨ……ハハハハハッ」
他の誰でもない、自分こそが王に仕えた大臣本人であると明かし、声に出して
「なっ、何という事だ……」
衝撃の事実を告げられてタルケンが
長年自分に仕えてきた臣下だった。それなりに信頼も寄せて、何度か献策を取り入れた場面もあった。優しい性格とは呼べなかったが、統治者としては有能だった。
その大臣が最初から国を滅ぼすために潜伏した魔族であったなどと、到底受け入れられる話ではなかった。
「おのれ
「うおおおおおおっ!」
王が絶望に打ちのめされていると、彼の無念を晴らさんと兵士が息巻く。
三十人ほどの屈強な兵士が
「ムゥンッ!!」
だがデーモンが一声発しながら、
兵士が腰に
「よくも……よくも今までお父様を……私を……国のみんなを、騙してくれたなああああああっ!!」
王女は剣を拾い上げると、大きな声で叫びながら敵に向かって走り出す。
悪魔は腕を大きく振った動作により
「悪党めっ! これでも喰らええええええっ!!」
正面に向かって剣を突き出すと、デーモンの
「やった!」
敵に一撃を与えられた事に、王女の胸が歓喜に沸き立つ。これまでゴブリンと戦った事すら無い彼女が、実戦で相手に手傷を負わせられた事は、それだけで大きな感動へと繋がる。
「クソガキャア……」
喜びに
「ヨクモ……ヨクモ、ヤッテクレタナァッ! トッテモ
城中に響かんばかりの怒号を発すると、王女の腹を足のつま先で思いっきり蹴飛ばす。
ボグシャァッと骨が砕ける音が鳴り、王女が激痛のあまり顔を
「ぐああああああっ!」
レジーナが悲鳴を上げながら弾き飛ばされる。地面に落下して全身を叩き付けられると、ゴロゴロ横向きに転がった挙句、ダンゴムシのように体を丸まらせたまま腹を抱えてゲホゲホッと苦しそうに
「レジーナっ!」
「王女様っ!」
タルケンとルシルが倒れた王女の元へと早足で駆け寄る。
「精霊よ、傷を
ルシルは王女の前にしゃがんで両手を
すると王女の全身が青い光に包まれて、体に受けた傷がみるみるうちに癒されていく。それほど深手を負ってはいなかったのか傷はすぐに完治して、王女はムクッと起き上がった。
「すまない……貴方にも酷い仕打ちをした」
王女がこれまでの非礼を
「どうかお気になさらないで下さい……それよりも、デーモンは!?」
ルシルが今はそんな話をしている場合ではないと言いたげに敵の動向を気にかける。タルケンも彼女に同意するように
三人が一斉に振り向くと、デーモンは自分の足に刺さった剣を手で引き抜いて、地面にポイッと投げ捨てた。その直後彼の足にあった傷があっという間に
「そんな……」
敵の傷口がすぐ元通りになった事に、レジーナが深く落胆した。彼女にとって勇気を振り絞った渾身の一撃だったのに、それを無に帰された事に、努力を否定された喪失感に
「クククッ……剣デ刺サレタ程度デ俺ガ死ヌト、本気デ思ッタノカ? 王女ヨ、残念ダッタナ……小サナ
悲嘆に
「ショセン貴様
死を宣告する言葉を発すると、三人に向かってドカドカと走り出す。右手をグワッと開いて、鋭い
ルシルが
(ううっ……やはり私なんかじゃ、ダメなのか……)
死を目前にして、レジーナが自分の非力さを心の底から呪う。私にもっと力があれば国を守れたのに、ともどかしい気持ちになる。悔しさのあまり目に涙が浮かび、血が出るほど強く下唇を噛む。
悲しみに染まる王女に
「言ったはずだ……かよわいお姫様をいじめるのはその辺にしてもらおうか、とな」
そう口にしながら、ザガートがヒュンッとワープしたように悪魔の前に高速移動する。
「フンッ!」
気合を入れるように掛け声を発すると、敵の腹に空手チョップを叩き込んだ。
「ナッ……ドグワァァァァアアアアアアッ!!」
デーモンが
「レッサーデーモン……貴様は断じて竜などではない。たかだかミツバチ相手に
敵の
「蜂が竜に挑むというのがどういう事か、身を
圧倒的武力で敵をねじ伏せる事を高らかに宣言する。
「オノレ、ザガート……ヨクモ……ヨクモヤッテクレタナ。
デーモンが殺意に満ちた言葉を吐きながら、地面に手を付いて上半身を起こす。体中に付着した泥と砂をパンパンッと払いのけると、二本の足でしっかりと立ち上がった。
そのまま視線の先にいる魔王めがけて、ヨロヨロと歩き出す。深手は負っていなかったものの、二度も殴り飛ばされた事により体力を消耗したようだ。
ゆっくり歩いてくる敵を眺めながら、ザガートが
(
そんな言葉が彼の頭をよぎる。
答えが決まると、自分の真横にある空間を手刀で切り裂いて、次元の裂け目を生じさせた。そこから重い砂のようなものがギッシリと詰まった袋を取り出して、空に向かって放り投げる。
「一度は滅びた肉体よ、新たな魂を得て、我に仕えよ……
両手を組んで
すると投げ出した袋から、黒い灰のようなものがブワッと空に舞い散る。
灰は自ら意思を持つように空を飛んで一箇所に集まった後、地面に降り積もって巨大な人の形を取る。一瞬カッと
「ああっ! あれは……」
光の中から現れた魔物の姿を目にして、ルシルが驚きの言葉を発する。
それもそのはず、そこに立っていたのは二足歩行する屈強な牛頭の怪物……かつて彼女の村を襲った、他ならぬミノタウロスだったからだ。
「ミノタウロス……かつて大魔王の手下であったお前は、今我が魔力によって
ザガートが正面に右手をサッと掲げながら、牛頭の怪物に命令を下す。
「ははっ、全ては偉大なる我らが魔王ザガート様の命じるままに……」
ミノタウロスが魔王の前に
「うおおおおおおっ!」
すぐに立ち上がって反転すると、デーモンに向かって一直線に駆け出す。そのまま相撲のようにガッと組み合って、互いに力の押し合いになる。
「ミノタウロス、貴様正気カ!? 大魔王サマヲ裏切リ、事モアロウニ、ソノ男ニ寝返ルトイウノカッ! オノレ、魔族ノ誇リヲ捨テタ
デーモンが牛頭の男と組み合ったまま、相手の裏切りを厳しく
「残念だったな……レッサーデーモンよ」
悪魔の問いかけに、ミノタウロスがさも当然と言いたげにニヤリと笑う。
「俺は貴様らの同胞であった、かつてのミノタウロス本人ではないッ! 一度は死んだ肉体に、ザガート様が創造なされた、新たな魂を吹き込まれて生まれた存在……その名も
肉体は同一でも魂は別個体である事を伝えて、敵に寝返った指摘に反論してみせた。その言葉に一切迷いが無い事を見せ付けるように腕に力が
戦いを見ていた兵士達が「オオッ」と歓声を上げた。本来恐れるべき魔族がザガートの配下となり、人類の味方となった喜びに胸が沸き立つ。
ルシルもまた、ミノタウロスが仲間になった事に深く安堵と感激を覚えた。
「ミノタウロスっ! ミノタウロスっ!」
牛頭の名を呼ぶコールが盛大に巻き起こり、城内が彼への声援一色に染まる。
デーモンは場の空気に圧倒されてしまい、
(グウウッ! 力比ベデハ
事ここに至って、ようやく自身の不利を悟る。精神的に追い詰められて弱気になる。
これまで散々
異世界の魔王だという彼の実力は本物だと理解し、格上の相手に勝負を挑んでしまった自分の浅はかさを深く後悔した。
「クッ……ココハ一旦
牛頭との組み合いをやめて大きく距離を開けると、翼を大きく羽ばたかせて、空を飛んで逃げようとした。
「逃がさんっ! はらわたをブチ
ザガートが呪文を唱えながら、空を飛ぶデーモンに人差し指を向ける。
すると指先から紫に輝く一筋の閃光が放たれて、敵の心臓を背後から撃ち抜く。
「グアアアアアアッ!」
悪魔が悲鳴を上げながら落下して、ドスゥゥーーーンッと音を立てて地面に叩き付けられた。大の字に倒れたまま起き上がれず、手足をピクピクさせる。
「俺ヲ殺シテモ、モウ遅イ……今コノ城ニ、オークノ軍勢ガ向カッテイル。ソノ数、オヨソ
負け惜しみのように
「オークの軍勢……十万匹だと!?」
レッサーデーモンが最期に
勝利の喜びに
「国王陛下、大変ですっ! すぐこちらに来て下さい!」
見張り塔に上がっていた兵士の一人が、大きな声で叫ぶ。
呼びかけに応じてタルケンも、ザガートとその仲間達も、早足で彼の元に駆け付ける。
「これは……ッ!!」
塔に備え付けられた望遠鏡を覗き込んで、タルケンの表情がこわばった。
王の視界に映り込んだ景色……それは夜の暗闇の中に、赤い瞳が無数に浮かび上がっているものだった。それらは大海の波のようにうねりながら、城に向かって進軍している。
レッサーデーモンの言葉が真実ならば、赤い瞳がオークである事は疑いようがない。目視だけでも総数が十万に近い事が分かる。
まだ城からだいぶ離れていたが、今から一時間ほどで到達する距離だ。
「なっ、何という事だ……」
敵の大軍が迫っていると知り、王がショックのあまり
今から迎え撃つ準備をしても、とても間に合わない……いや仮に間に合ったとしても、十万の大軍に攻められては、津波に
城を放棄して逃げる以外に選択肢は無く、それは国を奪われたに等しい行為だった。
「………」
レジーナも兵士達も考えは
この困難に立ち向かう力を持ち合わせない自分の不甲斐なさを心底嘆く。
「お前達、何をそんなに恐れている? オークの群れを片付ければ良いのだろう……そんなの
王女達が悲嘆していると、ザガートが事も無げにあっさり言い放つ。敵の襲来を恐れる様子は
「だ……だが、どうやって!!」
タルケンが
「……すぐに分かる」
国王の問いに、ザガートがニタァッと邪悪な笑みを浮かべる。
「お前達、俺から少し離れていろ。今から俺が極大魔法を唱える。それでオークの群れを一網打尽にする」
一転して真剣な顔付きになると、その場にいる全員に的確に指示を出す。彼の言葉に従い皆が距離を開けると、ズカズカと前に進み出て、塔の
「天空の
両手を組んで
◇ ◇ ◇
城から遠く離れた平野を、フゴッフゴッと鼻息を吹かせながら、むさ苦しい大男の集団が進軍する。トゲの生えた棍棒を手にして、露出度の高い半裸の鎧を着た、力士のような体型をした豚頭の
長い距離を歩いてきたのか全身ダラダラと汗をかいており、そこから白い湯気が天へと立ち
「男ハ殺セ! 女ハ犯セ! 金目ノ物、全テ奪エッ!!」
オークの集団が行軍しながら、まるで歌でも
特に女を陵辱する事は彼らにとって一番の娯楽であり、
「アノ城ニハ、レジーナトイウ気ノ強イ美人ノ王女様ガイルト聞ク……一体ドンナ声デ泣キナガラ犯サレルカ、今カラ楽シミダゼ……グヒヒヒヒッ」
群れの先頭にいた一人が、
「オイ、アレハ何ダ?」
他の者達が後に続くように一斉に上を見上げると、まるで溶岩が煮え
時折雷が落ちようとするかのようにゴロゴロと音が鳴る。
「ナンダ!?」
「ナンダナンダ!」
オークの集団が
「コッ……コレハ、マサカ!?」
彼らのうち先頭にいた一人の表情が凍り付いた。
……その者だけが気付けたのだ。今目の前で起こっている現象が、自分達を
だが、気付いた時にはもう手遅れだった。
次の瞬間、空から巨大な何かが高速で落下する。
それは直径五メートルを
それらは地表に到達すると火が
「ギャアアアアアアッ!!」
「ドグワァァァァアアアアアアッ!!」
「アバアアアアアアーーーーーーッッ!!」
隕石が落下するたびにオークの絶叫が発せられて、爆発音と共に黒焦げの肉片が飛び散る。彼らの断末魔の悲鳴が空を埋め尽くし、平原は阿鼻叫喚の地獄と化した。
逃げる場所など、何処にも無い。雨のように降り注ぐ無数の隕石に焼かれて、ただ死ぬのを待つだけだ。それが彼らの運命となった。
(アア神ヨ、ドウカ……ドウカ、オ助ケヲッ!!)
一人のオークが
無論その祈りが、天に届く事は無かった――――。
……五分ほど経過した後、隕石の落下がピタリと
生存者は一人もおらず、ブスブス焼け焦げた肉片と、鼻をつくニオイだけが残る。隕石が落下した
「………」
オークの群れがあっという間に全滅させられた光景を見て、兵士達がポカンと口を開けた。
本来国が救われた事を喜ぶべき場面だが、あまりに一方的すぎる虐殺に、喜びを通り越して
想像を遥かに上回る男の力に、皆が戦々恐々した。それは世界を滅ぼす力を持った魔王が人類の味方になった事実を改めて浮き彫りにした。
誰もが
「国王よ、喜ぶがいい……戦争は回避され、この国に平和が戻ったのだ」
王の前に立つと、腰に手を当ててフフンッと鼻息を吹かせながら国を救った事を報告する。自身の力を見せてやれた事を自慢するように誇らしげなドヤ顔になる。
あれだけ大きな魔力を使ったというのに、汗の一つも
「ハッ……ハハハッ……」
タルケンが顔を引きつらせた半笑いになる。口元は笑っているが、目は笑ってない。事故で顔面麻痺したように表情がピクピクする。
王は地べたに座り込んだまま腰を抜かしてしまい、自力で立てなくなる。
「ザ、ザガート殿ぉ……そなたが敵でなくて、本当に良かった……」
思わずそんな言葉が口を
(わ、私はひょっとして、とんでもない相手に決闘を挑んでしまったのではないか!?)
魔王の底知れない力を目の当たりにして、レジーナは背筋が凍る思いがした。自分はなんて馬鹿な事をしでかしたんだと深く後悔し、恥ずかしさのあまり顔を合わせられなかった。