いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第100話 アザトホースは『楽園追放』の真実を語る

 (はる)か遠い昔……ヤハヴェは神々から第七世界と呼ばれる、この宇宙を創造した。無数に存在する多次元宇宙の中で、七番目に作られたから第七世界……そう呼ばれている。

 

 神は第七世界の地球にエデンと呼ばれる楽園を創造し、そこにたくさんの動物、食べられる木の実が()る木を数本、そして最後に一人の人間を住まわせた。それが原初の男性とされたアダムだ。アダムは神の御姿(みすかた)に似せて作られた。

 

 アダムには動物の仲間がいたが、人間の仲間がいない。彼は一人だ。

 ヤハヴェは人間が彼一人だけでは(さび)しいだろうと考え、彼の肋骨(ろっこつ)の一本を抜いて、女性というものを作った。それがイヴだ。

 

 神はエデンの木に()っていた果実のうち、他のものは食べてもよいが、知恵の果実だけは決して口に入れてはならないと警告した。人間の魂が『知恵』という毒に(おか)されて、神への信仰を失うのを恐れたためだ。二人は言い付けを守った。

 

 その頃、地上にサタンと呼ばれる悪魔の王がいた。

 

 サタンはかつて神に仕えた天使だったが、神が自分よりも我が子たるアダムに寵愛(ちょうあい)を向けた事に嫉妬(しっと)して、神に逆らった。それによって天使の座を剥奪されて地上に落とされて、あらゆる生物の中で(もっと)(けが)れた者となった。

 以後サタンは悪魔の王となって地上に君臨している。

 

 サタンは一匹の蛇へと姿を変えて、エデンに忍び込んだ。そしてアダムとイヴを言葉(たく)みにだまして、知恵の果実を食べるよう仕向けたのだ。二人は蛇に(そそのか)されるがまま知恵の果実を口に入れてしまった。これらは当然神の知る所となる。

 

 そして――――。

 

 

 

「息子達よ。(なんじ)らは(われ)の言い付けに背いて知恵の果実を食べた。私の言う事よりも、蛇の言う事の方が正しいと、そう思ったのか。答えよ」

 

 ヤハヴェはアダムとイヴを厳しく問い詰めた。

 

「ああ神よ。我々は大きな間違いを犯しました。貴方の言う事が正しいと知りながらも、知恵の果実を食べたい欲求が湧き上がり、貴方の言い付けを破ったのです」

 

 アダムとイヴは自分達が犯した(あやま)ちを素直に認める。

 

「汝らは、自分達が犯した罪から逃れられると、そう考えているか」

 

 ヤハヴェは(なお)も二人を問い(ただ)す。

 

(しゅ)よ。我々は犯した罪から逃れられるとは考えておりません。どうか貴方様の気の済むよう、如何(いか)なる罰でもお与え下さい。命を差し出せとおっしゃるなら、喜んで命を差し出します。我々は主が下された如何なる裁定にも従う所存です」

 

 アダムとイヴは罰を受け入れる覚悟を示し、神への恭順の証とする。

 

 神は二人の返答に満足したように「フム」と(うなず)く。

 神は二人の言葉に嘘があったならその場で焼き殺すつもりでいたが、二人が示した覚悟はまことのものであった。彼らは神に逆らった事の重大さを自覚し、取り返しの付かない事をしたと後悔し、神が望むなら命まで差し出す覚悟をしたのだ。

 

 神は二人の言葉を聞いて、だいぶ心象が良くなった。心から反省の意を示した者をそれ以上厳しく(しか)ったり、傷付けたりする事は本意ではない。さりとて、何のお(とが)めも無しという訳にも行かない。

 

 神は言い付けを破った罰として、二人を楽園から追放した。

 そしてこう言ったのだ。

 

 

 

 私はお前達に知恵の果実を食べるなと忠告した。お前達の魂が『知恵』という毒に冒されて、我への信仰を失うのを恐れたためだ。だがお前達は知恵の果実を食べた。

 

 だがお前達に一度だけ猶予(ゆうよ)を与えよう。いついかなる時も、神への信心を忘れるな。汝おごる事なく、神への感謝の気持ちを忘れず、未来永劫、子々孫々まで、父なる我を(うやま)いたまえ。我はいつでもお前達の事を見ている。

 汝らが神への愛を失わぬ限り、我はお前達を傷付けたりはしない。だがもし神への愛を失ったと判断すれば、我は躊躇なく地上の人間を洪水で押し流すだろう。

 

 決して忘れるな。これは神とお前達人類が交わした契約なのだ。

 決して忘れるな。お前達が地上に()る時、お前達はいつでも神に生かされているという事を。

 

 

 

 ……アダムとイヴは神に言われたその言葉を胸に抱いて、地上に降りて行った。

 

 

 大魔王サタンはその後神に戦いを挑んだが敗れて、地獄の奈落へと封印されたと、そう言い伝えられている。

 

  ◇    ◇    ◇

 

「……これが楽園追放の真実だ」

 

 アザトホースが、原初の人類が楽園を追い出された経緯(いきさつ)を語り終える。大まかな流れは同じだが、細かい箇所は聖書の記述と異なっている。

 

「地上に降り立ったアダムとイヴは子を()し、人類の数を増やしていった。やがて人間の数が増え過ぎて第七世界だけに住まわせるには限界があると判断すると、ヤハヴェは第七世界と他の世界を繋ぐ(ゲート)を開き、人類に移住を(うなが)させた。これは一応、他の神の承諾を得て行われた事だ」

 

 長い年月を()て人間の数が長大に(ふく)れ上がった事、それにより神が他の世界への移住計画を推進した事を明かす。

 

「他の世界に移り住んだ人類は、そこでも数を増やしていった。今、あらゆる異世界に存在するホモサピエンス型の人類は、全てアダムの系譜に(つら)なるものだ。だからヤハヴェは第七世界だけでなく、あらゆる異世界の人類の創造主と呼べるお方なのだ」

 

 現生人類がアダムの末裔(まつえい)である事を根拠として、ヤハヴェが全ての人類を生んだ存在だと語る。

 

(フゥーーム……どの異世界にもホモサピエンス型の人類がいて、共通の言語、共通の文化があるのは、全て同じ起源から生まれていたからだったのか……)

 

 ザガートは話を聞き終えて、思わず声に出して(うな)る。眉間(みけん)(しわ)を寄せて小難しい表情を浮かべたままあれこれ考える。これまで得た情報を頭の中で整理して物思いに(ふけ)る。

 

 いわゆるファンタジー異世界は、ザガートが元いた世界とは異なる次元に存在する。にも関わらず全く同じ人類がいた事をこれまで疑問に感じた事は無かった。

 だがゲームの世界ならまだしも、現実の異世界に同じ人類がいた事など普通に考えたらおかしいのだ。宇宙の歴史が完全に同じにならない限り、生物の進化の系譜が同じになるとは考えにくい。(げん)に第七世界には、現代とは異なる生物が存在する。

 

 それも神が人類を移住させたからだと考えれば辻褄(つじつま)が合う。もしそれが無かったら、人類が移住しなかった世界の地球は全く別の生物が支配していたかもしれないのだ。ザガートは異世界に同じ人類がいた理由を知って深く感心する。

 

『それでその人類の生みの親たるヤハヴェが、なにゆえ第七世界の人類を滅ぼそうと思い立ったのだ?』

 

 ブレイズが頭の中に湧き上がった疑問を口にする。ヤハヴェが人類の創造主である事は理解したが、肝心の人類抹殺という凶行に至った理由は聞けていない。

 

先程(さきほど)の話の中にあっただろう……アダムとイヴが神と契約を交わしたと」

 

 アザトホースが不死騎王の疑問に答える。契約とは神への信心を失わない事を条件として、人類が生存を許されたくだりの事を指す。

 

「人類は厳しい自然の中で原始的な暮らしをした時代には、神への信仰を捨てなかった。神を恐れ、(うやま)い、()(けい)の念を抱き続けた。だが文明が発展して暮らしが豊かになると、神への信仰は薄れ、神をいないものとして扱うようになった」

 

 人類が自然と共に生きた時代には神への信仰があったが、時代が進むとそれが失われた事を明かす。

 

「ヤハヴェは(ただ)ちに人類を滅ぼそうとしたが、ひとまず思い(とど)まった。そして長い熟慮の(すえ)にこう考えたのだ。文明が発展した事が神への信仰を失わせた要因であるならば、文明を後退させてしまえば、人類は再び神を(うやま)うようになるのではないか……と。そのために我ら魔族が生み出された」

 

 神が約束を反故(ほご)にされたと感じて人類抹殺を(くわだ)てた事、それを取りやめて、魔族に文明を破壊させる計画を思い立った事を伝える。

 

「……ッ!!」

 

 アザトホースが発した言葉に、その場にいた者達は心底驚愕した。

 神が信仰を取り戻させるために魔族を生み出し、人類を攻撃させた黒幕だというのだ。

 いくら人類殲滅(せんめつ)を思い留まったとはいえ、神が虐殺の裏で糸を引いていた事になる。

 最初からそうだと分かっていたら、人は神を信仰などしなかっただろう。

 

 とても愛する我が子に向けたとは思えない、悪魔の仕打ち……真相を知らされて一行は心底ゾッとさせられた。

 レジーナは「今まで私達を騙していたのかッ!」と叫びたい衝動に駆られたが、神がこの場にいないので叫んでも意味がなく、グッと(こら)える。怒りに身を打ち震わせたまま、黙って話に聞き入る。

 

 アザトホースは(なお)も言葉を続ける。

 

「我ら魔族は人類を徹底的に攻撃し、蹂躙(じゅうりん)し、破壊した。文明は旧石器時代のレベルまで後退し、人類の総数は十分の一以下になった。種の存亡の危機に立たされた人類は神に救いを求めて祈りを捧げた。神は人間が信仰を取り戻した事に大いに満足すると、彼らが絶滅しないよう異世界から勇者を召喚し、魔族を討伐させた。およそ千年前の事だ」

 

 魔族の襲来により人類が絶滅の危機に(ひん)した事、それにより神に救いを求めた事、神が計画の成功を確信して勇者召喚を行った事……それらの事実を語る。

 

「だが魔族がいなくなって地上に平和が訪れると、人類は再び文明を発展させた。するとまたしても人類は神への愛を失ったのだ。神はもう一度同じ事をしたが、結果は変わらなかった。何度文明を後退させても、人は文明を発展させると神を(うやま)わなくなる……この事は神を大いに失望させた」

 

 世界が平和になると同じ歴史が繰り返された事、それが神に深い絶望を抱かせた事を明かす。

 

「結局人の魂が『知恵』という毒に(おか)されている限り、神への信心を失う事は避けられそうにない……ならばいっそ、今いる人類を根絶やしにして、新たな人類を作り直すしか無いではないか……そう考えるようになった。もう二度と知恵の果実を食わせる事なく、魂を(けが)されず、いつまでも無垢(むく)なまま神を信仰し続ける……そんな人類を(ほっ)するようになったのだ」

 

 知恵の果実を食べた現生人類を絶滅させて、新たな人類を作り直す、壮大なリセットを神がもくろんだと語る。

 

「これまで二度(われ)を倒した勇者はいずれも異世界転移者、あるいは転生者だった。第七世界の現地人の中に我を殺せる者などいなかった。ヤハヴェが勇者召喚を行わなければ、魔族の侵攻を止められる者がおらず、地上から人類は一匹残らず駆逐される……そのはずだった」

 

 神が勇者を召喚しなければ、人類抹殺計画は容易に遂行される……それがヤハヴェの狙いだったと明かす。

 

「……まさかこの世界ではなく、異世界の神が勇者召喚を行うなどとは、夢にも思わなんだ」

 

 ゼウスによる勇者召喚という想定外の事態が起こり、計画が頓挫(とんざ)した事への無念の思いを吐露(とろ)する。声の調子は暗く、「はぁーーっ」とガッカリしたようにため息を漏らす。こんなはずじゃなかった……そう言いたげだ。

 

 むろん異世界の神が召喚した勇者とは、魔王ザガートの事を指す。

 

「ザガート……我を(から)っぽの存在だと言ったな。お前の言う通りだったかもしれない……我はこれまで神に命じられた事を、命じられるがまま、ただこなしていただけだ。自分の意思で成し遂げた事など、何一つとして無い……」

 

 戦いが始まる前に魔王に言われた侮辱の言葉を、的を()た発言だったと述べる。自らを信念も野心もなく、神の命令で動いただけのお飾りでしかないと自虐する大魔王の姿は、何処か物悲しい雰囲気があった。

 

「何の喜びも感動も無い、神に言われるがまま仕事をしただけの、空虚な人生……それが千年続いた。だがそれもようやく終わる」

 

 自分の人生が無意味でつまらないものだったと語り、終わりを迎えられる事への喜びを口にした。

 

「これで知っている事は全て話した……後は煮るなり焼くなり、好きにするがいい」

 

 話したい事を全て話し終えたと伝えて、今後の自らの処遇をザガートに(ゆだ)ねる。

 

「大魔王よ……ここで生き長らえる事は、お前の本意ではあるまい。ならば望み通りにとどめを刺してやるのが、せめてもの情けというもの……」

 

 ザガートはこれまでの彼の口ぶりから、他ならぬ大魔王自身が死を望んだのだろうと考えて、本人の意思を尊重する事に決めた。

 蜘蛛(クモ)を素手でワシ(づか)みにすると、一思(ひとおも)いに力を込めてクシャッと握り(つぶ)す。

 

「魔王……()(ヅカ)イ感謝……ス……ル!!」

 

 アザトホースは感謝の言葉を口にすると、ガクッと力尽きて事切れた。

 

 

 ……それは宇宙を()べる大魔王であったはずの男の、(むな)しい最期だった。

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