いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第102話 異世界の勇者降臨

 ソドムの村から北に十キロ向かった先にゴルゴダと呼ばれる(おか)があり、そこに大きな神殿が建っていた。昨日までその場所に神殿は無く、ソドムの村が焼かれた直後に突如現れたのだ。まるで天界からワープしてきたように……。

 

 古代ギリシャの建築物のような神殿……その最奥部にある大広間に玉座が置かれており、一人の男が気だるそうに片(ひじ)をついて大股開きになりながら座る。

 その者は他ならぬ人類を創造した神ヤハヴェだ。スカートを穿()いた鉄仮面の騎士である点は変わらないが、背丈は二メートル(ほど)しかなく、これが本来のサイズのようだ。邪魔になるからか、背中の翼と光輪は玉座に腰かけている間だけは折り(たた)まれている。

 

 ヤハヴェは玉座に座ったまま物()げな表情を浮かべる。何処か遠くを見るような目をしており、時折(ときおり)ため息のような声を漏らす。村を滅ぼした事に達成感を抱く様子は無く、自分のやろうとしている事に(むな)しさを感じている雰囲気すらあった。

 

 神がただ時が流れるのを待っていると、部屋の入口がある方角から一人の女性が走ってくる。白い衣を着て背中に鳥の翼を生やしたその者は天使であったらしく、頭上に光の()っかが浮かんでいる。(とし)は二十代半ばくらいに見え、容貌は整っていて美しい。長めの金髪はウェーブが掛かってサラサラしていて、体のラインの美しさは女神のようだ。胸も大きい。

 

「ミカエルか……何用(なによう)だ」

 

 ヤハヴェが天使の名を呼ぶ。この神の前に現れた絶世の美女こそ、神に仕えし四大天使の(おさ)ミカエルであったようだ。

 

(しゅ)よ……どうか今一度、人類を滅ぼすのを思い(とど)まっては頂けませぬか」

 

 神の問いにミカエルが口を開く。

 

「彼らは罪深き者なれど、(みな)貴方様の子に(ひと)しくございます。彼らの血は貴方様の血に等しく、彼らの肉は貴方様の肉も同じ。自らに似せて人をお造りになられた貴方様が、人の死に胸を痛めぬ(はず)はありませぬ」

 

 人類殲滅(せんめつ)を思い直すよう懇願する。人が神の御姿(みすかた)に似せて作られた事実を指摘して、人を殺す行いは我が子を殺す行いも同然と切実な口調で訴える。

 

「……お前(ごと)きが(われ)に意見するのか? 我の被造物に過ぎないお前が、お前を生んだ神である、この我に……」

 

 神がしばし黙り込んだ後言葉を発する。創造主たる神の判断に異を唱えた天使の行いに強烈な不満を抱く。これからやろうとする行いに水を差された思いがあったのか、発言に(とげ)があり、かなり機嫌が悪そうだ。

 

「はっ……(しゅ)の下僕に過ぎない一天使めが、出過ぎた発言を(いた)しました」

 

 ミカエルが(ひざまず)いて頭を下げる。主君の機嫌を損ねる行いをした事を謝罪する。

 

 数秒間無言のままでいた神であったが、申し訳なさそうに謝る天使の姿を見て、行き過ぎた発言をしたのではないかと冷静に思い直す。部下に(いら)()ちをぶつけた自身の行いを(かえり)みて、間違いを犯したのだと深く反省する。

 

「……すまない。今のは少し言い過ぎた。私もついカッとなった。どうか気を悪くしないでもらいたい」

 

 慌てて椅子(いす)から立ち上がると、部下に暴言を吐いた失態を()びる。数歩前に進んでミカエルの元まで歩いていくと、身を(かが)めて彼女の両手を取る。

 

「……私も辛いのだ」

 

 下を向いたまま(はかな)げにそう(つぶや)く。

 

「我とて、いきなり人類殲滅(せんめつ)を思い立った訳ではない。何十年、何百年と熟慮を重ねた結果の結論だ。考え抜いて、考え抜いて、考え抜いて……何百年と考え続けて、ようやく出た結論なのだ」

 

 人類を滅ぼす方針が苦渋の決断だったと明かす。長い葛藤の(すえ)に導き出した答えである事を強調して、自身の選択への理解を求めた。

 声の調子は重く、表情は暗い。時折(ときおり)ため息のような声が漏れており、人類殲滅に前向きではない心情が(うかが)えた。()(この)んでやった訳じゃない……そう言いたげだ。

 

「散々思い悩んだ末に出した答えだ。今更(いまさら)変える気など無い。私の心情を思い(はか)るならば、どうかこの事に口を挟んでくれるな」

 

 自身の決定が(くつがえ)らない事を告げて、異論を唱えないよう(くぎ)を刺す。

 

(わたくし)めの方こそ、行き過ぎた真似をしてしまいました……我が主の苦悩に考えが及ばなかった下僕の浅はかさ、どうかお許し下さい」

 

 ミカエルが顔を上げて神の方針に異を唱えた事を謝罪する。神の苦悩を()(はか)ろうとしなかった自らの配慮の()らなさを()じる。

 

「うむ……それでミカエルよ、例の儀式の方はどうなっている?」

 

 ヤハヴェは女から離れて玉座がある方へと歩いていくと、再び玉座に座る。片(ひじ)をついて大股開きになりながら作業の進捗(しんちょく)状況を問う。女が部屋へと駆け込んできたのも、本来は進捗状況を報告する(ため)だったと思われた。

 

「はっ。儀式の準備は完了いたしました。これから彼らの召喚を()り行います」

 

 ミカエルが状況報告を行う。何者かをこの世界に呼ぼうとしており、その為の準備をしたようだ。

 

「フム……我は玉座に座っておるゆえ、儀式が完了したら彼らをここに連れて参れ」

 

 ヤハヴェは召喚した者を連れてくるよう命じる。自身は玉座から動かず、来訪者の出迎えを天使に任せる。

 

「はっ! 主の御心(みこころ)のままに!!」

 

 ミカエルは命令を受諾すると、立ち上がって神に一礼した後部屋から出ていく。儀式の間があると思しき神殿の入口の方角へと早足で歩くのだった。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 神殿の入口からそう遠く離れていない場所……開けた空間にあるエントランスホール。その石床に大きな円形の魔法陣が描かれており、三人の若い女性が陣を(かこ)むように配置していた。女性達はミカエルより年少らしい容貌をした天使であり、彼女の配下と思われた。

 

 三人は陣の四(すみ)のうち三ヶ所に一人ずつ配置しており、残り一箇所が()いている。

 

「……では召喚の儀式を行うとしましょう」

 

 ミカエルがそう言葉を発しながら、神殿の奥からズカズカと歩いてくる。残り一箇所の空いたスペースへと立つ。

 彼女の言葉に三人が(うなず)くと、四人の天使は頭上に両手を高く掲げながら、神殿の(はる)か高みにある天井を見上げる。

 

「イルザザーム・ギルザザーム・ギルファドム・ディスヘイム……宇宙の因果律よ、我が呼びかけに応じよ。第八世界の勇者を、この地に降ろさせたまえ……かぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーッッ!!」

 

 四人が詠唱のような言葉を叫ぶと、魔法陣の真上にある天井から青く光る(いかずち)が落ちてきて、魔法陣の中央にある石床を撃つ。大きな爆発音が鳴り響いて、辺り一面が(まばゆ)い光に包まれた。

 

 ……光が収まって視界が開けると、魔法陣の中央に五人の男がいて、目を(つぶ)ったまま(ひざ)をついていた。男達は(まぶた)を開くとゆっくりと立ち上がる。

 

「第八世界の勇者達よ……ようこそ異世界へ」

 

 ミカエルが五人の男にニッコリ笑って呼びかける。

 

 その男達は異世界から呼ばれた勇者パーティだ。

 詳細は以下の通り。

 

 

 

 異世界最強の人斬り……『(タカ)の目のザムザ』

 

 江戸時代の浪人のような着流しを着た、五十代半ばの()せ型の男性。足には草履(ぞうり)を履いており、頭には托鉢僧のような(わら)を編んだ(かさ)を被る。顔の上半分が笠で隠れており、目元が見えないようになっている。

 一振りの日本刀が(さや)に収まったまま左腰に()してあったが、(いく)()の魔物を(ほふ)っただけあって、ただの刀では無さそうだ。

 常に正面に右手を差し出しており、そこに一羽の鷹が()まっている。彼のペットのようだ。

 

 

 異世界最強の狂戦士(バーサーカー)……『竜殺しのバルザック』

 

 背丈二メートルほどある筋骨隆々とした大男だ。(とし)は三十代(なか)ばほどか。黒のタンクトップを着て、(こん)のジーンズと金属製のブーツを履く。バスタードソードと呼ばれる大剣を鞘に納めたまま背負っており、胴に斜めに巻いたベルトで固定している。ちなみにバスターソードではない。

 長くて赤い髪は虎の毛のように逆立っており、目はギロリとして、常に邪悪な笑みを浮かべている。如何(いか)にも戦闘狂だと思わせる風貌は、ヒト族でありながら『(オーガ)』と呼びたくなる。

 

 

 異世界最強の魔法使い……『大魔道士(ハイ・ウィザード)ツェデック』

 

 帽子を被って(すそ)の長いローブを着た、ごくありふれた風貌の魔法使いだ。歳は八十代くらいに見え、長くて白い(ひげ)を生やし、右手には木製の杖を持っている。体型は()せていたが、足腰が不自由という訳ではなく、背筋も曲がっていない。

 かなり高名な魔法使いだと思われたが、常にニタニタとスケベそうに笑っており、見る者に知的な印象を与えない。

 

 

 異世界最強の僧侶……『クリムト大司教』

 

 高位の聖職者であると思しき(ころも)を着た高齢の男性だ。髭は生やしておらず、常に温和でニコニコしている。体型は大柄で太っていたが、恰幅(かっぷく)の良さを思わせるものがあり、かえって威厳がある。

 首からは太陽を()した首飾りをぶら下げており、武器は持っていない。ツェデックより知的な印象を見る者に与える。

 

 

 異世界最強の勇者……『アラン』

 

 二十二歳くらいの見た目をした黒髪の男性だ。(ひたい)には赤いバンダナを鉢巻(はちまき)のように巻いており、首から下はキラキラ輝く白銀の鎧を(まと)っている。鎧の上には赤いマントを羽織(はお)る。

 片手で振り回すロングソードのような剣が、鞘に納まったまま左腰に()してある。盾は装備していない。

 歳の若い男性ではあったが、顔付きはキリッとしており、幾多の修羅場をくぐり抜けてきた頼もしさが感じられる。青臭さや未熟さは見られない。

 

 

 

 ……以上が異世界から呼ばれた勇者パーティだ。

 

 五人はいずれも歳の行った男性であり、若い女性はいない。若者と呼べるのもアラン一人だけで、それ以外はむさ苦しいオッサンと老人だけだ。だがそのむせ返るほどの男臭さこそが、彼らが歴戦の猛者(もさ)だと思わせるのに一役買っている。

 

「我が呼びかけに応じて、ようこそおいで下さいました。私はミカエル……神に仕えし天使です。この先で(しゅ)がお待ちになられています。主の元へと案内しましょう」

 

 ミカエルは頭を下げて挨拶(あいさつ)すると、神殿の奥の方へと歩き出す。五人は黙って彼女の後に付いていく。

 

 勇者パーティは神殿の中をぞろぞろと歩きながら、気晴らしに周囲を見回す。しばらく何も言わずただ黙々と歩き続けたが、退屈に耐え切れなくなったのかツェデックが口を開く。

 

「トホホ……またこの男臭いメンツで戦う事になるとはのう。次こそはカワイイ女の子だらけのパーティで戦いたかったわい」

 

 (おんな)()が無いパーティである事に不満を漏らす。彼自身は女好きであるにも関わらず、自身の同僚が男しかいない事に深く落胆する。次の冒険ではハーレムパーティに放り込まれる事を期待したらしく、それが(かな)わなかった形だ。

 

「神に与えられた仕事とやらをやり終えたら、天使の女子(おなご)と一発ヤらせてくれんかのう……ヒヒヒッ」

 

 ミカエルの尻を眺めながらニタァッと笑う。性的な褒美(ほうび)を与えられる事を冗談半分で期待しており、神に仕えた天使に敬意を払う様子は微塵も無い。

 

「これ、エロ(じじい)め。神聖なる神の神殿であるぞ。そのような不徳な発言をするものではない。天罰が(くだ)るわ」

 

 クリムト司教が同僚の不用意な発言を(しか)り付ける。神の聖域を(けが)すような行いをすれば災いが降りかかると厳しく注意する。

 

「神サマか……どんだけ(つえ)えんだろうな。早く戦ってみてえぜ」

 

 バルザックが宇宙最強の創造主に会える喜びに胸を(おど)らせた。神がどれほど強いのかを頭の中で思い描いて、期待が(ふく)らんでワクワクが止まらなくなる。一刻も早く神と戦いたそうに体をウズウズさせた。

 

「……」

 

 ザムザは一言も喋らない。余計な会話は一切しないと言わんばかりに黙り込む。()(もく)を貫き通す姿は如何(いか)にもプロの暗殺者らしい。

 

「みんな、いろいろと思う所はあるだろうが……再びこのメンバーで戦える事を心から嬉しく思う。(みな)俺の大事な仲間だ。元いた世界を救うためにもう一度だけ、みんなの力を俺に貸して欲しい」

 

 アランがメンバーの顔を見回しながら言葉を掛けた。彼らに強い仲間意識を持っている事を伝えて、これからの仕事を一緒にこなしてくれるよう頼む。

 

 アランの言葉に他の四人がコクンと(うなず)く。異論を挟む者はいない。皆が彼の言葉に素直に従う。

 

 五人はパッと見、まとまりが無さそうに見えるチームだ。年齢も境遇もバラバラで、共通項を見出せない。アランとクリムトは正義の(ため)に戦ったとしても、他の三人は利己目的でしか動きそうにない。

 そんな連中が、メンバーの中で一番の年少者の言葉で一つにまとまる。それだけで勇者がどれだけ信頼されているかが分かる。彼は個性派揃いの曲者(くせもの)(たば)ねるリーダーなのだ。

 

 五人は雑談をそこそこにしながら、ミカエルの後に付いていくのだった。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 ミカエルに案内されるがまま歩き続けた勇者一行……やがて神殿の最奥にある玉座の間へと辿(たど)り着く。

 礼拝堂のような広さがある大広間……そのレッドカーペットが()かれた中央最奥に椅子(いす)が置かれており、一人の男が片(ひじ)をついて大股開きになりながら座る。

 

「第八世界の勇者達よ……よくぞ我が元へと集まってくれた。我が名はヤハヴェ。この世界の神にして、人類全ての創造主……そして(なんじ)らをこの場に呼ぶよう命じた者なり」

 

 スカートを穿()いた鉄仮面の騎士が椅子に座ったまま自己紹介する。勇者パーティを異世界に呼んだ張本人である事実を告げる。

 来訪者が目の前に現れても椅子から立ち上がったりしない。けだるそうにリラックスした姿勢のまま話す姿はとても(えら)そうだ。絶対的権力を(ゆう)した皇帝のような雰囲気を漂わせる。

 

「はっ! 我らが(しゅ)なる神よ! この場にお招き頂いた事、深く感謝いたします」

 

 アランが丁重な言葉を発して(ひざまず)く。椅子に座った大柄な騎士を人類の創造主だと認めて、素直に尊敬の念を抱く。

 アランが跪くと、他の四人も彼の意に従うように跪く。五人の男達が神の前にひれ()す。

 

「おお我が主ヤハヴェ……私は貴方様に信仰を捧げる身にございます。このたびは御姿(みすかた)拝謁(はいえつ)する機会をお与え頂いた事、感激の念に()えませぬ」

 

 クリムトはただ頭を下げるだけに()()らず、神に会えた喜びを言葉で伝える。ヤハヴェを信仰する宗教の僧侶だったらしく、信仰対象と(じか)に対面できた感動に身を打ち震わせた。

 

「フム……」

 

 ヤハヴェが満更(まんざら)でもなさそうに(うなず)く。異世界から召喚した勇者に崇敬の念を抱かれた事に、悪くない気分になる。信仰を捧げられた満足感に(ひた)る。

 

「……ん?」

 

 彼らの顔を見渡して、ある異変に気付く。五人の中で一人だけ、他とは違う気配を漂わせる者がいた。敵意とも憎悪とも異なる、喜びの感情を漂わせる者が。

 

(神サマ……やはりタダモンじゃねえ。こんだけ離れた場所からでも、魔力がビンビンに伝わりやがる)

 

 背丈二メートルの筋骨隆々とした男、狂戦士(バーサーカー)バルザックが下を向いたままニヤリと笑う。宇宙最強の創造主から発せられた魔力を感じ取り、そのオーラの凄まじさに胸を(おど)らせた。

 

 ヤハヴェは普通の人間には目視できない程度に魔力を抑えていたが、それでも内側に秘められた力は相当のものだ。バルザックはそれを知覚した。

 

(……戦ってみてえぜ)

 

 そんな言葉が狂戦士の頭をよぎる。良くない事だと分かっていても、自分を抑え切れない。

 

「戦ってみるか? この(われ)と……」

 

 男の心情を見透(みす)かしたのか、ヤハヴェが誘いの言葉を掛ける。仮面の奥の素顔がニヤリと笑ったように見えた。

 

「よさぬか、バルザック! 神に剣を向けるなど、本来なら極刑に(あたい)する大罪なるぞ!!」

 

 同僚が神に挑みたい衝動に駆られたと知ってクリムトが狼狽(ろうばい)する。彼からすれば信仰対象に斬りかかるなど地獄に落ちるレベルの大罪だ。そんな事をさせてはならないと慌てて止めようとする。

 他の三人も一瞬驚いた顔をして場が騒然となる。神を怒らせたら大変な事になるのではないか……そんな考えが頭をよぎる。

 

「よい……神に剣を向ける無礼、一度までなら(ゆる)そう」

 

 ヤハヴェが男の野蛮な(たくら)みを広い心で許す。戦いを挑まれた事に怒る様子は微塵もなく、それも面白いと言いたげに乗り気な態度を取る。

 さすがに椅子に座ったままでは失礼だと感じたのか、ゆっくりと立ち上がって数歩前へと進む。ピタリと足を止めると、腕組みしたままふんぞり返るように仁王立ちする。その姿勢のまま相手が斬りかかってくるのを待つ。

 

「……ありがてえ」

 

 バルザックが自分のわがままを聞いてくれた神に感謝する。即座に立ち上がると背中の剣を(さや)から抜いて、両手で握って構える。スゥーーッと息を吸い込んで気持ちを落ち着かせると、前方に向かって猛然とダッシュする。

 

「おらぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーッッ!!」

 

 (のど)が割れんばかりの絶叫を発すると、バスタードソードを水平に振って神に斬りかかろうとする。ビュオンッと風を切る音が鳴り、重さ数十キロはありそうな鉄の(かたまり)が豪快にスイングされた。

 

 ドラゴンの皮膚を容易に切り裂く威力の剛剣は、神から十センチほど離れた空間でビタッと止まる。そのまま微動だにしない。

 

「何ッ!?」

 

 正体不明の魔力で止められた事にバルザックが驚愕する。いくら腕に力を込めても剣はそれ以上先に進む事ができず、その場に止まった状態となる。まるで透明な壁が目の前に存在するか、もしくは目に見えない巨人の手で(さえぎ)られたかのようだ。

 

「人の身にありながらここまで我に近付けた事は()めてやろう……だが」

 

 ヤハヴェが自身と十センチの距離まで間合いを詰められたバルザックの強さを称賛する。並みの力量ではここまで接近する事自体が難しく、それを成し遂げた狂戦士がかなりの強者だった事実が読み取れた。

 

「……ふんッ!!」

 

 神の両目がカァッと(まばゆ)い光を放つと、バルザックの体がバァンッ! と大きな音を立てて後ろに弾かれた。ドラゴンの尻尾(しっぽ)でビンタされたような、圧縮した空気の塊をぶつけられたような、破壊力のある一撃だ。

 

「うおおおおおおおおおおッッ!!」

 

 強い衝撃で吹き飛ばされたバルザックの体がポーーンと宙に舞い上がる。熊のような大男は地べたに叩き付けられると横向きにゴロゴロと転がっていき、最後は手足を大の字に伸ばしたまま仰向けに倒れる。吹っ飛ばされた拍子(ひょうし)に剣を手から放してしまう。

 

「ヤハヴェは何もしていない! ただ棒立ちのまま待ち構えただけだッ! にも関わらず剣が止められるとは……これは一体どういう事だ!?」

 

 それまで沈黙を貫き通していたザムザが驚きの言葉を発する。防御魔法を唱えた形跡が無いのに神が男の一撃を防いだ事実に困惑した。

 

「我に近しい強さを持つ者ほど、間合いを詰められる……だが同じ強さが無ければ直接触れる事は(かな)わぬ。これぞ天界の神が(まと)いし結界なり……」

 

 ヤハヴェが男の攻撃を防いだ原理について語る。自身の周囲に永続的な結界が張られており、拮抗(きっこう)した実力の持ち主でなければ物理攻撃を当てられない事実を明かす。バルザックは残念ながらその(いき)に達しなかったようだ。

 

「どうする、狂戦士よ。まだやるかね?」

 

 神が地べたに倒れた男に戦う意思があるかどうかを問う。

 

「いや……まいった。俺の負けだ。俺なんかじゃ百回逆立ちしてもアンタに勝てねえ事が、よく分かったぜ」

 

 大の字に倒れていたバルザックがムクッと起き上がる。敗北を認めた意思を伝えると、自分の弱さを情けなく感じたのか、恥ずかしそうに下を向いたまま頭を手でボリボリと()く。

 神に返り討ちに()いはしたものの、大きく負傷した様子は無い。

 

「ありがとよ……俺なんかのわがままに付き合ってくれて。アンタ案外いい神サマだぜ」

 

 自身の好奇心を満たしてくれた神に対する感謝の気持ちを口にした。

 

 他の四人は事態が大事(おおごと)にならず終息した事にホッと一安心する。最悪死人が出る事になるかもしれないと覚悟はしていた。それが()(ゆう)に終わった事に深く安堵する。

 

「フム……では改めて本題に入るとしよう」

 

 ヤハヴェは数歩後ろに下がると再び玉座に座る。今度は大股開きにならず、背もたれに寄りかかったまま左右の(ひじ)掛けにそれぞれの手を乗せる。ようやく話を進められるからか、最初よりも真剣な雰囲気を漂わせる。

 

「勇者アラン、並びにその仲間達よ……汝らは魔竜王ヴェルザハークを倒して第八世界を救った。にも関わらず正体不明の巨大隕石が海に落下して、それにより起きた大津波が世界の全ての陸地を飲み込んで、生命は死に絶えた……」

 

 これまで起こった大まかな出来事について話す。勇者達が元いた世界を救ったにも関わらず、大きな災厄が起きて世界が滅んでしまった事を明かす。

 

「汝らもその時一度は命を落とした……そして我の手により蘇生させられて、この場へと呼ばれたのだ」

 

 彼らが災厄によって命を落とした事、神に新たな命を吹き込まれて第七世界に召喚された事……それらの事実を伝える。

 

「召喚した(おり)、この世界で起こった出来事を一通り汝らの記憶にインプットしておいた。だから知っているだろうが、我が計画を邪魔立てする不届きな(やから)がいる。その者の名はザガート……異世界から来た魔王」

 

 説明の手間を(はぶ)くためか、これまでの話の流れを勇者パーティの脳内に流し込んでおいたと伝える。それが本当であるならば、神が身勝手な理由で人類を滅ぼそうとした事も、魔王が素晴らしい性格の持ち主だという事も、彼らは全て知った事になる。

 

「汝ら勇者に命じる……魔王ザガートを抹殺せよ! 我に逆らう極悪非道の輩を亡き者とし、我が計画の成就に力を貸すのだ! もしそれが成し遂げられたならば、隕石が落下した事実を無かった事にして、汝らの世界を滅びる前の平穏だった時間へと戻す事を約束しよう!!」

 

 正面に右手をかざして魔王討伐を命じる。任務を遂行した(あかつき)には滅亡した彼らの世界を再生させる事を報酬として約束する。

 

「勇者アランとその仲間達よ! 今一度悪しき魔王を倒して、汝らの世界に平和を取り戻すのだ!!」

 

 椅子から立ち上がると、両腕を左右に広げたポーズしながら勇者として使命を果たすよう高らかに命じるのだった。

 

「魔竜王ヴェルザハークは、アザトホースと互角に渡り合える竜……ザガートはそのアザトホースを倒している。だがお前達なら彼奴(きゃつ)を確実に仕留められると……我はそう確信している。だからこそお前達を呼んだのだ」

 

 最後は再び椅子に座り、片(ひじ)をついて大股開きになると、勇者パーティが討伐した竜が大魔王と同じ強さだという事、彼らならザガートを仕留められると考えた事……それらを述べて話を終わらせた。

 

「……はっ! この勇者アラン、必ずや異世界の魔王を仕留めてご(らん)に入れます!!」

 

 アランは一瞬躊躇したのち、魔王討伐の依頼を快諾する。神の敵となった男を仕留める事を強い口調で約束するのだった。

 

 

 神から与えられた使命に疑問が無かった訳ではない。神が悪人だという事、ザガートが善人である事……それらの情報は嘘(いつわ)りなく彼らの記憶にインプットされたのだ。

 だが討伐の報酬には自分達の世界の再生が掛かっている。依頼を果たさなければ、元いた世界は滅びたままだ。数十億の人間は死に絶え、自分達には帰る場所すら無い。

 

 もはや善悪にこだわる余地など無く、自分達の世界を救うために、他の世界を滅ぼさねばならない……勇者はその非情な決断を現実として受け止めるのだった。

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