いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
ソドムの村から北に十キロ向かった先にゴルゴダと呼ばれる
古代ギリシャの建築物のような神殿……その最奥部にある大広間に玉座が置かれており、一人の男が気だるそうに片
その者は他ならぬ人類を創造した神ヤハヴェだ。スカートを
ヤハヴェは玉座に座ったまま物
神がただ時が流れるのを待っていると、部屋の入口がある方角から一人の女性が走ってくる。白い衣を着て背中に鳥の翼を生やしたその者は天使であったらしく、頭上に光の
「ミカエルか……
ヤハヴェが天使の名を呼ぶ。この神の前に現れた絶世の美女こそ、神に仕えし四大天使の
「
神の問いにミカエルが口を開く。
「彼らは罪深き者なれど、
人類
「……お前
神がしばし黙り込んだ後言葉を発する。創造主たる神の判断に異を唱えた天使の行いに強烈な不満を抱く。これからやろうとする行いに水を差された思いがあったのか、発言に
「はっ……
ミカエルが
数秒間無言のままでいた神であったが、申し訳なさそうに謝る天使の姿を見て、行き過ぎた発言をしたのではないかと冷静に思い直す。部下に
「……すまない。今のは少し言い過ぎた。私もついカッとなった。どうか気を悪くしないでもらいたい」
慌てて
「……私も辛いのだ」
下を向いたまま
「我とて、いきなり人類
人類を滅ぼす方針が苦渋の決断だったと明かす。長い葛藤の
声の調子は重く、表情は暗い。
「散々思い悩んだ末に出した答えだ。
自身の決定が
「
ミカエルが顔を上げて神の方針に異を唱えた事を謝罪する。神の苦悩を
「うむ……それでミカエルよ、例の儀式の方はどうなっている?」
ヤハヴェは女から離れて玉座がある方へと歩いていくと、再び玉座に座る。片
「はっ。儀式の準備は完了いたしました。これから彼らの召喚を
ミカエルが状況報告を行う。何者かをこの世界に呼ぼうとしており、その為の準備をしたようだ。
「フム……我は玉座に座っておるゆえ、儀式が完了したら彼らをここに連れて参れ」
ヤハヴェは召喚した者を連れてくるよう命じる。自身は玉座から動かず、来訪者の出迎えを天使に任せる。
「はっ! 主の
ミカエルは命令を受諾すると、立ち上がって神に一礼した後部屋から出ていく。儀式の間があると思しき神殿の入口の方角へと早足で歩くのだった。
◇ ◇ ◇
神殿の入口からそう遠く離れていない場所……開けた空間にあるエントランスホール。その石床に大きな円形の魔法陣が描かれており、三人の若い女性が陣を
三人は陣の四
「……では召喚の儀式を行うとしましょう」
ミカエルがそう言葉を発しながら、神殿の奥からズカズカと歩いてくる。残り一箇所の空いたスペースへと立つ。
彼女の言葉に三人が
「イルザザーム・ギルザザーム・ギルファドム・ディスヘイム……宇宙の因果律よ、我が呼びかけに応じよ。第八世界の勇者を、この地に降ろさせたまえ……かぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーッッ!!」
四人が詠唱のような言葉を叫ぶと、魔法陣の真上にある天井から青く光る
……光が収まって視界が開けると、魔法陣の中央に五人の男がいて、目を
「第八世界の勇者達よ……ようこそ異世界へ」
ミカエルが五人の男にニッコリ笑って呼びかける。
その男達は異世界から呼ばれた勇者パーティだ。
詳細は以下の通り。
異世界最強の人斬り……『
江戸時代の浪人のような着流しを着た、五十代半ばの
一振りの日本刀が
常に正面に右手を差し出しており、そこに一羽の鷹が
異世界最強の
背丈二メートルほどある筋骨隆々とした大男だ。
長くて赤い髪は虎の毛のように逆立っており、目はギロリとして、常に邪悪な笑みを浮かべている。
異世界最強の魔法使い……『
帽子を被って
かなり高名な魔法使いだと思われたが、常にニタニタとスケベそうに笑っており、見る者に知的な印象を与えない。
異世界最強の僧侶……『クリムト大司教』
高位の聖職者であると思しき
首からは太陽を
異世界最強の勇者……『アラン』
二十二歳くらいの見た目をした黒髪の男性だ。
片手で振り回すロングソードのような剣が、鞘に納まったまま左腰に
歳の若い男性ではあったが、顔付きはキリッとしており、幾多の修羅場をくぐり抜けてきた頼もしさが感じられる。青臭さや未熟さは見られない。
……以上が異世界から呼ばれた勇者パーティだ。
五人はいずれも歳の行った男性であり、若い女性はいない。若者と呼べるのもアラン一人だけで、それ以外はむさ苦しいオッサンと老人だけだ。だがそのむせ返るほどの男臭さこそが、彼らが歴戦の
「我が呼びかけに応じて、ようこそおいで下さいました。私はミカエル……神に仕えし天使です。この先で
ミカエルは頭を下げて
勇者パーティは神殿の中をぞろぞろと歩きながら、気晴らしに周囲を見回す。しばらく何も言わずただ黙々と歩き続けたが、退屈に耐え切れなくなったのかツェデックが口を開く。
「トホホ……またこの男臭いメンツで戦う事になるとはのう。次こそはカワイイ女の子だらけのパーティで戦いたかったわい」
「神に与えられた仕事とやらをやり終えたら、天使の
ミカエルの尻を眺めながらニタァッと笑う。性的な
「これ、エロ
クリムト司教が同僚の不用意な発言を
「神サマか……どんだけ
バルザックが宇宙最強の創造主に会える喜びに胸を
「……」
ザムザは一言も喋らない。余計な会話は一切しないと言わんばかりに黙り込む。
「みんな、いろいろと思う所はあるだろうが……再びこのメンバーで戦える事を心から嬉しく思う。
アランがメンバーの顔を見回しながら言葉を掛けた。彼らに強い仲間意識を持っている事を伝えて、これからの仕事を一緒にこなしてくれるよう頼む。
アランの言葉に他の四人がコクンと
五人はパッと見、まとまりが無さそうに見えるチームだ。年齢も境遇もバラバラで、共通項を見出せない。アランとクリムトは正義の
そんな連中が、メンバーの中で一番の年少者の言葉で一つにまとまる。それだけで勇者がどれだけ信頼されているかが分かる。彼は個性派揃いの
五人は雑談をそこそこにしながら、ミカエルの後に付いていくのだった。
◇ ◇ ◇
ミカエルに案内されるがまま歩き続けた勇者一行……やがて神殿の最奥にある玉座の間へと
礼拝堂のような広さがある大広間……そのレッドカーペットが
「第八世界の勇者達よ……よくぞ我が元へと集まってくれた。我が名はヤハヴェ。この世界の神にして、人類全ての創造主……そして
スカートを
来訪者が目の前に現れても椅子から立ち上がったりしない。けだるそうにリラックスした姿勢のまま話す姿はとても
「はっ! 我らが
アランが丁重な言葉を発して
アランが跪くと、他の四人も彼の意に従うように跪く。五人の男達が神の前にひれ
「おお我が主ヤハヴェ……私は貴方様に信仰を捧げる身にございます。このたびは
クリムトはただ頭を下げるだけに
「フム……」
ヤハヴェが
「……ん?」
彼らの顔を見渡して、ある異変に気付く。五人の中で一人だけ、他とは違う気配を漂わせる者がいた。敵意とも憎悪とも異なる、喜びの感情を漂わせる者が。
(神サマ……やはりタダモンじゃねえ。こんだけ離れた場所からでも、魔力がビンビンに伝わりやがる)
背丈二メートルの筋骨隆々とした男、
ヤハヴェは普通の人間には目視できない程度に魔力を抑えていたが、それでも内側に秘められた力は相当のものだ。バルザックはそれを知覚した。
(……戦ってみてえぜ)
そんな言葉が狂戦士の頭をよぎる。良くない事だと分かっていても、自分を抑え切れない。
「戦ってみるか? この
男の心情を
「よさぬか、バルザック! 神に剣を向けるなど、本来なら極刑に
同僚が神に挑みたい衝動に駆られたと知ってクリムトが
他の三人も一瞬驚いた顔をして場が騒然となる。神を怒らせたら大変な事になるのではないか……そんな考えが頭をよぎる。
「よい……神に剣を向ける無礼、一度までなら
ヤハヴェが男の野蛮な
さすがに椅子に座ったままでは失礼だと感じたのか、ゆっくりと立ち上がって数歩前へと進む。ピタリと足を止めると、腕組みしたままふんぞり返るように仁王立ちする。その姿勢のまま相手が斬りかかってくるのを待つ。
「……ありがてえ」
バルザックが自分のわがままを聞いてくれた神に感謝する。即座に立ち上がると背中の剣を
「おらぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーッッ!!」
ドラゴンの皮膚を容易に切り裂く威力の剛剣は、神から十センチほど離れた空間でビタッと止まる。そのまま微動だにしない。
「何ッ!?」
正体不明の魔力で止められた事にバルザックが驚愕する。いくら腕に力を込めても剣はそれ以上先に進む事ができず、その場に止まった状態となる。まるで透明な壁が目の前に存在するか、もしくは目に見えない巨人の手で
「人の身にありながらここまで我に近付けた事は
ヤハヴェが自身と十センチの距離まで間合いを詰められたバルザックの強さを称賛する。並みの力量ではここまで接近する事自体が難しく、それを成し遂げた狂戦士がかなりの強者だった事実が読み取れた。
「……ふんッ!!」
神の両目がカァッと
「うおおおおおおおおおおッッ!!」
強い衝撃で吹き飛ばされたバルザックの体がポーーンと宙に舞い上がる。熊のような大男は地べたに叩き付けられると横向きにゴロゴロと転がっていき、最後は手足を大の字に伸ばしたまま仰向けに倒れる。吹っ飛ばされた
「ヤハヴェは何もしていない! ただ棒立ちのまま待ち構えただけだッ! にも関わらず剣が止められるとは……これは一体どういう事だ!?」
それまで沈黙を貫き通していたザムザが驚きの言葉を発する。防御魔法を唱えた形跡が無いのに神が男の一撃を防いだ事実に困惑した。
「我に近しい強さを持つ者ほど、間合いを詰められる……だが同じ強さが無ければ直接触れる事は
ヤハヴェが男の攻撃を防いだ原理について語る。自身の周囲に永続的な結界が張られており、
「どうする、狂戦士よ。まだやるかね?」
神が地べたに倒れた男に戦う意思があるかどうかを問う。
「いや……まいった。俺の負けだ。俺なんかじゃ百回逆立ちしてもアンタに勝てねえ事が、よく分かったぜ」
大の字に倒れていたバルザックがムクッと起き上がる。敗北を認めた意思を伝えると、自分の弱さを情けなく感じたのか、恥ずかしそうに下を向いたまま頭を手でボリボリと
神に返り討ちに
「ありがとよ……俺なんかのわがままに付き合ってくれて。アンタ案外いい神サマだぜ」
自身の好奇心を満たしてくれた神に対する感謝の気持ちを口にした。
他の四人は事態が
「フム……では改めて本題に入るとしよう」
ヤハヴェは数歩後ろに下がると再び玉座に座る。今度は大股開きにならず、背もたれに寄りかかったまま左右の
「勇者アラン、並びにその仲間達よ……汝らは魔竜王ヴェルザハークを倒して第八世界を救った。にも関わらず正体不明の巨大隕石が海に落下して、それにより起きた大津波が世界の全ての陸地を飲み込んで、生命は死に絶えた……」
これまで起こった大まかな出来事について話す。勇者達が元いた世界を救ったにも関わらず、大きな災厄が起きて世界が滅んでしまった事を明かす。
「汝らもその時一度は命を落とした……そして我の手により蘇生させられて、この場へと呼ばれたのだ」
彼らが災厄によって命を落とした事、神に新たな命を吹き込まれて第七世界に召喚された事……それらの事実を伝える。
「召喚した
説明の手間を
「汝ら勇者に命じる……魔王ザガートを抹殺せよ! 我に逆らう極悪非道の輩を亡き者とし、我が計画の成就に力を貸すのだ! もしそれが成し遂げられたならば、隕石が落下した事実を無かった事にして、汝らの世界を滅びる前の平穏だった時間へと戻す事を約束しよう!!」
正面に右手をかざして魔王討伐を命じる。任務を遂行した
「勇者アランとその仲間達よ! 今一度悪しき魔王を倒して、汝らの世界に平和を取り戻すのだ!!」
椅子から立ち上がると、両腕を左右に広げたポーズしながら勇者として使命を果たすよう高らかに命じるのだった。
「魔竜王ヴェルザハークは、アザトホースと互角に渡り合える竜……ザガートはそのアザトホースを倒している。だがお前達なら
最後は再び椅子に座り、片
「……はっ! この勇者アラン、必ずや異世界の魔王を仕留めてご
アランは一瞬躊躇したのち、魔王討伐の依頼を快諾する。神の敵となった男を仕留める事を強い口調で約束するのだった。
神から与えられた使命に疑問が無かった訳ではない。神が悪人だという事、ザガートが善人である事……それらの情報は嘘
だが討伐の報酬には自分達の世界の再生が掛かっている。依頼を果たさなければ、元いた世界は滅びたままだ。数十億の人間は死に絶え、自分達には帰る場所すら無い。
もはや善悪にこだわる余地など無く、自分達の世界を救うために、他の世界を滅ぼさねばならない……勇者はその非情な決断を現実として受け止めるのだった。