いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第103話 送られた果たし状

 ソドムの村が滅ぼされた翌日……かつて村があった場所に二十を超える数の大きなテントが建てられており、それらに数百人の村人が収容されていた。

 閑散とした荒野の大地に並び立つテントの群れは、事情を知らぬ者が見たら地元の遊牧民と思ったかもしれない。だが実際は神の一撃で住居を焼かれた村人が寝泊りする難民キャンプだ。

 

 無数あるテント……その中の一つ、他より一際(ひときわ)大きなテントの中で、ザガートと村長のバーラがあぐらをかいて座ったまま向き合う。二人の周りに魔王の仲間である四人の女と、数人の村人がいる。ブレイズの姿は無い。

 

何分(なにぶん)急ぎだったゆえ、今はこの程度の事しかやれない……当分はこれで雨風を(しの)いでもらいたい。神との戦いが落ち着いたら、村の再建に取り掛かると約束しよう」

 

 ザガートがあぐらをかいたまま頭を下げて謝る。神に焼かれた家屋の建て直しを今すぐには行えない事を村長に()びる。

 村の跡地に建てられた難民収容のためのキャンプ地は、魔王が急場を凌ぐために用意したもののようだ。

 

「いえいえこちらこそ、何から何まで面倒を見て頂いて申し訳ない。本来であれば神の一撃で死んだままでいた身……それを一人の犠牲者も出さないでいてくれただけでなく、寝泊りする場所を提供してくれて、食事の用意までして頂いたのですから」

 

 バーラが申し訳なさそうに頭を下げて謝り返す。魔王には何の落ち度もなく、被災後の生活を全力でサポートしてもらっている。恩義を感じこそあれ、謝られる要素など一つもない。

 

「……貴方様こそ、我々の救いの神様です」

 

 魔王に対する切実な感謝の気持ちを言葉で伝えた。

 

 両者がそうした会話をしていると、外から大きな鳥が羽ばたく音が聞こえた。

 ザガート達がテントの外に出てみると、神鳥ガルーダがゆっくりと空から降りてくる。彼女の背中にブレイズが乗っている。

 

 大きな鳥が地面に降り立つと、不死騎王が神鳥の背中から降りる。ザガートの前までタタッと早足で歩いていって、地面に(ひざ)をつく。

 

『ご報告申し上げる……世界中を調べてみた結果、やはり大魔王が生み出した魔法生物は、彼奴(きゃつ)の死とともに消滅した模様。全身が砂のように崩れ落ちて灰の山になったとの事。生命創造(クリエート・ライフ)で新たな命を吹き込まれた者だけが、消滅を(まぬが)れたとの事にござる』

 

 調査結果について報告を行う。大魔王の眷属たる『魔族』が、主人の死によって一匹残らず(チリ)に還った事を告げる。神鳥と不死騎王はそれの調査のために出かけていたようだ。

 

「これで魔族は跡形もなく消滅し、人類が生存を(おびや)かされる心配は無くなった……という事になるのう」

 

 鬼姫が地上から魔族の脅威が消え()せたと知って、安堵の表情を浮かべた。

 

「だが魔族を生んだ諸悪の根源たる神が、自ら人類殲滅(せんめつ)に乗り出した……状況は何も変わっていない」

 

 レジーナが(かんば)しくない現状を口にして、苦虫を噛み(つぶ)した表情になる。これから先に待ち受けるであろう困難を頭の中で思い描いて、どよーーんと暗い気持ちになる。ストレスで頭がクラクラして、気が遠くなりかけた。

 

 他の仲間達も彼女と心境は同じであり、皆が下を向いたまま黙り込む。誰も一言も発しないまま暗い顔をする。気の利いた言葉を言える者はいない。

 

「ガルーダ、お前はこれからどうする。俺達と一緒に戦うか? それとも、ヤハヴェの(がわ)に付くか?」

 

 ザガートが思い立ったように顔を上げて神鳥に問いかける。神に生み出された鳥である彼女が今後どういう立場になるか、聞いて確かめたかった。

 ガルーダはしばし思い悩んだように下を向いたが、やがて答えが決まったように顔を上げて口を開く。

 

「私は神に直接逆らう事は出来ません……ですが、人類殲滅に手を貸す気もありません。私は一度自分の神殿に戻り、成り行きを見守る事にします。そしてもし貴方がたが勝った(あかつき)には、再び()せ参じて貴方がたのお力になりたいと……そう考えています」

 

 ヤハヴェの人類殲滅の思想に加担する気が無い考えを明確に打ち出す。自分の住処(すみか)に帰って、両者の戦いを見届けたい(むね)を伝える。

 いくら神に生み出されたといっても、彼が人類を滅ぼそうとする身勝手な動機に全く共感できなかったようだ。

 

「そうか……短い間だったが世話になった。達者でな…‥そして縁があったらまた会おう」

 

 ザガートが別れの言葉を送る。自分達に協力してくれた感謝の気持ちを声に出す。神鳥と敵対せずに済んだ安心感からか、表情が自然と穏やかになる。

 ガルーダは魔王の言葉にコクンと(うなず)くと、一行に背を向けて数歩前へと進む。ピタリと足を止めると、その場に身を(かが)めて両足に力を溜め込む。

 

「……ご武運を」

 

 そう一言喋ると、ジャンプするように高く飛んで大空へと羽ばたく。翼を上下に動かして優雅に空を舞いながら、(はる)か彼方へと去っていった。

 

(さて、これからどうしたものか……ゴルゴダの(おか)に現れたという神殿の事が気がかりだ。恐らくヤハヴェの根城だと思われるが……)

 

 神鳥の後ろ姿を見送ったままザガートが物思いに(ふけ)る。今後なすべき事について思い悩む。ソドムの村があった場所から北に十キロ向かった先に神殿がワープしてきた事は知っており、そこが敵の本拠地、いわゆるラストダンジョンだろうと考える。

 

 敵に何か仕掛けられる前に、こちらから乗り込むべきか……そんな考えが頭をよぎった時。

 

「た、大変だぁぁぁぁああああああーーーーーーーーッッ!!」

 

 一人の男が大声で叫びながらザガート達の元へと駆け込んでくる。右手に矢のようなものが握られている。

 

「キャンプ地の(すみ)っこに、こんなものが刺さってたんだ!!」

 

 男はそう告げると、手に持っていた矢をザガートに渡す。矢の真ん中に白い手紙のようなものが結ばれており、いわゆる()(ぶみ)と呼ばれるものだ。

 ザガートは紙を(ほど)いて広げると、書かれた文面に目を通す。

 

「これは……!!」

 

 手紙の内容を知って驚きを隠せない。

 それにはこう書かれていた。

 

 

 

 大魔道士(ハイ・ウィザード)ツェデック

 僧侶クリムト

 人斬り、(タカ)の目のザムザ

 狂戦士(バーサーカー)、竜殺しのバルザック

 勇者アラン

 

 ……以上、第八世界から呼ばれた勇者パーティ五名。

 我ら一同、魔王ザガートに決闘を申し渡す。この手紙が届いた日の夕方四時、ソドムの村から北に五キロ向かった地にある荒野にて待つ。必ず来られたし。

 一人で来ても構わないし、仲間を連れて来ても構わない。我らは相手が女だろうと殺しをためらったりしない。

 

 ザガート、貴殿の性格は把握している。この申し出を断る事は無いと、そう確信を抱く。

 

 ――――第八世界を救った勇者アラン。

 

 

 

 それは異世界の勇者からの果たし状だった。自分達勇者パーティの構成員、決闘の日時と場所の指定、仲間を連れても良いか(いな)か……それらが事細(ことこま)かに記載されている。

 

「……敵に先手を打たれたようだ」

 

 ザガートは手紙を読み上げると、右手でクシャッと握り(つぶ)す。鼻をかんだティッシュのように小さく丸めると、テントの中にあったゴミ箱にポイッと放り投げる。

 

(神が俺を殺すために差し向けた連中だ……並みの実力の持ち主ではない。もしかしたら本気で戦ったとしても勝てない相手かもしれない。いずれにせよ初見で勝てるとは考えにくい)

 

 勇者パーティの強さに憶測を(めぐ)らす。神がわざわざ能力の低い者を差し向けたとは考えにくく、自分を殺せるだけの実力があるのだろうと思いを抱く。相手を()めてかかったりしない。

 

 何しろ彼らは異世界から呼ばれた勇者だ。第八世界を救ったとも記載がある。

 それは元いた世界の魔王を倒した事実を伝えるものであり、アザトホースに匹敵する強さの魔物を倒せる実力の持ち主だという事を容易に分からせた。

 

(連中の能力を確かめる(ため)にわざと一度戦って、負けて死んでみる必要がありそうだ)

 

 自らの命を踏み台にした威力偵察が必要だという結論に達する。悲壮な覚悟を抱きながら、右手の中指に()められた指輪に目をやる。

 金色の指輪が意味ありげにキラーーンと光る。それにどんな効果が秘められたのかは分からない。

 

「ふんっ! 異世界の勇者だか何だか知らんが、恐るるに足らぬわい! 鼻の穴に割り(ばし)突っ込んで、全裸にひん()いて、砂漠で土下座させてやる! (わらわ)たちに逆らった事を後悔させてやるのじゃ!!」

 

 魔王の覚悟など(つゆ)とも知らず、鬼姫が鼻息を荒くする。こうしてやるぞと言わんばかりに地面を何度も踏み付ける。何としても敵に恥辱を味あわせるのだと激しく息巻く。

 

「私達の力を見せつけて、返り討ちにしてやりましょう」

 

 ルシルが勇者パーティへの対抗意識を剥き出しにする。自分達も第七世界の勇者だという思いがあるのか、いつになく好戦的だ。レジーナも彼女の発言に同意するように(うなず)く。

 

「神の手先になった連中に、痛い目を見せてやるッス」

 

 なずみが敵を倒す意思を強い口調で告げる。右腕に力こぶを作って、自分達の強さに絶対の自信を抱く。

 

 四人の女達はこれまでになくテンションが高い。異世界の勇者が現れたと聞いて対抗意識が芽生えたのか、瞳が闘志の炎でメラメラ燃えている。自分達の方が正統な勇者だと言いたいらしく、連中と戦いたそうに体をウズウズさせた。

 

 すっかり勇者パーティとの戦いに乗り気でいた彼女達だが……。

 

「いや、お前達は付いて来なくていい。今回は俺一人だけで行く」

 

 魔王が女達の戦意に水を差すように口を挟む。勇者との戦いに単独で(おもむ)く意思を伝えて、彼女達にキャンプ地に残るよう命じる。

 

「えっ……ええええええぇぇぇぇーーーーーーーーっっ!?」

 

 男の予想外の発言に、女達は驚くあまり目を丸くさせた。

 

「魔王、何を血迷った事を抜かしよる! 道端に生えてたキノコを食べて、(つい)に気でも狂ったか!?」

 

 鬼姫が物凄い剣幕で魔王に詰め寄る。自分一人で勇者パーティに立ち向かうと言い出した提案に真っ向から反論する。

 

 女達からすれば、全く訳の分からない話だ。いくら魔王が強いといっても、相手は異世界を救った勇者パーティだ。五対一で戦えば不利な状況になるのは目に見えている。命を落としたとしても何ら不思議はない。

 かといって魔王が相手の力を(あなど)ったとは考えにくく、真意が読めない行動は(まさ)に気が狂ったとしか思えない。

 

「そうだザガート、一体何を考えている!!」

「危険なマネはやめてください!」

 

 レジーナとルシルが後に続くように言葉を発する。命を捨てる選択をした魔王の判断を全力で止めようとする。

 

「何かの作戦だっていうなら、オイラ達に話して欲しいッス!!」

 

 なずみが無謀な作戦の真意を問い(ただ)す。魔王が何の考えもなしに死に行くようなマネをするとは思えず、何か裏があるのだろうと察する。

 

「すまない……今は理由を教えられない」

 

 魔王が下を向いたまま申し訳なさそうに謝る。仲間に心配をかける負い目があり、目線を合わせられない。何か裏がある事は否定しなかったが、その内容までは話さない。

 

「嫌じゃ! 絶対嫌なのじゃ! お主に先に死なれるくらいなら、いっそここで(わらわ)を殺してたもれ!!」

 

 鬼姫が魔王の返答に納得いかず大声で(わめ)く。男の腕にしがみ付いたまま決して離れようとしない。愛する男を死地に向かわせまいとするあまり磁石のようにくっついており、たとえ引きずられても戦場に付いていくつもりだ。

 

『落ち着けッ! 我が(あるじ)がみすみす命を捨てるようなマネをすると、本気でそう考えているのか!?』

 

 ブレイズが苦言を(てい)しながら女を力ずくで引き()がす。

 主君に彼なりの考えがある事を強い口調で伝える。

 

『我が主はいつだって正しい選択をする……貴殿らも分かっているはず。ならばそれを信じ、ただ黙って背中を見送る事こそ、(まこと)に我が主への忠義を示した事になろう』

 

 仲間を信頼して送り出すべきだと自説を述べた。

 

「……」

 

 不死騎王の言葉に他の仲間達が黙り込む。誰も反論する者などいない。メンバーの中で(もっと)も彼が魔王の意図を理解しているという考えがあり、やむなくその提案に従う事にした。

 彼が反対したならば異論を挟む余地もあったが、彼が同調しては他に魔王を説得できる者は一人もいない。

 

 この場の騒ぎを収めてみせた不死騎王の立ち振る舞いに、ザガートが無言のまま感謝の目配せをする。不死騎王がそれに応えるように魔王の方を向いて(うなず)く。

 

「……フンッ! 仕方ないのう! お主らがそこまで言うなら、大人しく言う事を聞いてやるわい! だがよいか! もし魔王が命を落としたら、その時は(われ)自ら命を断ち、冥土の果てまで追いかけてやる! あの世で魔王を一人()めして、いやらしい事をたくさんしてやるからの!!」

 

 鬼姫が男の方針に従う事をしぶしぶ承諾する。魔王を死地に向かわせる条件として、彼が死んだ(あかつき)には自害して後を追う意思を固めた事を伝えた。

 

「……お前達を残したまま死ぬ事は無いと約束しよう」

 

 ザガートは女達の元へと戻ってくる事を強い口調で誓う。

 女達は男の言葉を信じたようにコクンと(うなず)く。

 

 かくして仲間とのやり取りを終えて、魔王は一人荒野へと向かうのだった。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 ソドムの村から北に五キロ向かった場所……(かわ)いた茶色の大地が地の果てまでも広がる、閑散とした荒野。冷たい風がビュウビュウと吹き抜けて、砂(ぼこり)が空に舞い上がる。

 カラカラに乾燥した土は水分を一滴も含んでおらず、草木は全く生えない。サソリや蜘蛛(クモ)がカサカサと地上を()う姿を見かけるだけだ。あらかじめ魔王の処刑場として用意されたような、殺風景な死の大地。

 

 伝説の勇者が死んだ場所と言い伝えられるゴルゴダの(おか)はここより(さら)に北にあったが、ここがそう呼ばれたとしても何ら違和感はない。

 

 空は黒い雲に覆われており、陽の光が()し込まない。まだ太陽は沈んでいないのに、辺り一帯が影に覆われたように暗い。まるで不穏な未来を暗示したように――――。

 

 約束の時間より五分早く、ザガートが決闘の場所に到着する。正面に砂嵐が舞っており、数メートル先を見通せない。

 

(少し早く来すぎたか……?)

 

 強風に吹き飛ばされないように耐えながら、一瞬そんな事を考える。

 だが砂埃が吹き飛ばされて視界が開けると、目の前に五人の男が立っていた。

 

 ザガートが約束の時間より五分早く到着したというのに、彼らは先に来て、魔王が来るのを待ち続けていたのだ。万全の準備を整えるためか、強敵との戦いを待ち切れなくてウズウズしたのか。

 

「よく来てくれた、異世界の魔王……決闘の申し出を受けてくれた事、心から感謝する。俺の名はアラン。お前を始末するため、神に異世界から呼ばれた勇者なり」

 

 五人の真ん中にいた男が一歩前に出て、丁寧な口調で挨拶(あいさつ)する。自分が果たし状の送り主で、そこに書かれたメンバーのリーダー格であったと告げる。

 

 (よわい)二十二歳に見える若者は落ち着いていて、態度は紳士的だ。魔王に対してケンカ腰になったりしない。魔王は青年の大人を感じさせる振る舞いに好感触を抱くのと同時に、だからこそ油断のならない相手だと警戒心が湧く。

 無鉄砲な若僧なら簡単にやり込めるが、そのような未熟さが微塵も感じられないからだ。内心厄介な相手だと思った。

 

 ザガートは(あご)に手を当てて、眉間(みけん)(しわ)を寄せて五人をガン見する。彼らから発せられたオーラを目視して、連中の強さを推し(はか)ろうとする。

 

(フゥーーム……勇者は俺と同等……狂戦士(バーサーカー)はその四分の三。他の連中はせいぜい、勇者の五分の一といった所か。まぁ世界を救ったパーティの強さとしちゃ、こんなものだろう)

 

 オーラの量を目安として、大まかな強さを測定する。決して弱くはないが、逆に思ったほど強すぎもしない感覚があった。全員が勇者級の強さだったら手に負えない所だ。

 魔王と同じという事は、勇者もまたアスタロトの二十倍の強さだという事になる。狂戦士は十五倍、他の三人はそれぞれ四倍。それが魔王による戦力評価となる。

 

「勇者よ、念のために聞いておく……お前はこの世界の神が何をしようとしているのか、知っているのか?」

 

 強さの測定を終えると、頭の中に湧き上がった疑問をぶつける。異世界から呼ばれた勇者であるアランが、ヤハヴェに騙された被害者なのかどうか聞いて確かめようとした。

 

「……」

 

 ザガートの問いにアランが無言になる。顔をうつむかせたまま銅像のように固まっており、一言も喋ろうとしない。これからやろうとしている事の重大さを把握済みなのか、表情に苦悩の色が浮かぶ。

 しばし下を向いたまま黙り込んだが、やがて思い立ったように顔を上げて口を開く。

 

「この世界に呼ばれた時、これまで起こった事を脳内の記憶にインプットされた。だから大まかな事情は把握している。神がこの世界の人類を滅ぼそうとした事も、お前が魔王救世主(ダークロード・メサイヤ)と呼ばれ、人々から尊敬された事も……」

 

 自分達がありのまま真実を教えられたと伝える。魔王が人々から救世主と(した)われた事も、ヤハヴェが身勝手な理由で世界を滅ぼそうと(くわだ)てた事も、とうに把握済みだという。

 

「だが俺が元いた世界は大きな災厄に見舞われて滅んでしまった。神はお前を倒せば俺の世界を元に戻すと、そう約束した。だから俺はお前の命を(ほっ)する。正義や信念の(ため)ではなく、自分の利益や幸福のために」

 

 自分達の世界が災厄で滅んでしまった事、神から取引を持ちかけられた事、その誘いに乗った事……それらの事実を明かす。魔王を悪とみなしたからではなく、自分の世界を取り戻す戦いである事を強調した。

 

「お前を殺すという事は、この世界の滅亡に加担する事……それに(いち)()の迷いが無かった訳じゃない。だが俺の世界とお前の世界、どちらか一方しか選べないというのなら、俺は自分の世界を選ぶ。ザガート……俺は俺の世界を守るために、お前を倒す!!」

 

 魔王を倒す事が悪しき行いだと知りながら、あえてそうせざるを得ない苦渋の決断に踏み込んだ意思を伝えて、負けられない戦いに(のぞ)む不退転の覚悟を示す。

 

「そうか……」

 

 勇者の覚悟を知らされて、ザガートがフッと口元を(ゆる)ませた。胸のつかえが取れた安心感からか、表情が穏やかになる。

 

 魔王の中には一つの懸念があった。それは勇者が神に騙されたのではないかというものだ。正義を信じる勇者が、神にあること無いこと吹き込まれて、自分を悪とみなして襲いかかってきたのではないか……その可能性があると予測した。

 神に騙された善良な若者を全力で(ほふ)る事に負い目があった。もしそうなら真実を教えなければならないと思った。 

 

 だが勇者は騙されてなどおらず、純粋な取引によって神に加担したという。それを知らされて、魔王の中に手を抜かなくていい安心感が芽生えた。善と悪の戦いでなく、互いに譲れないものを賭けてのぶつかり合いなら、負い目を感じる道理は無い。

 

「良いだろう、勇者よ……そこまで覚悟があるのなら俺も容赦はしない。お前達を全身全霊を()して戦うべきライバルとみなし、純粋に一人の戦士として、全力でぶつかっていく!!」

 

 勇者達を真摯(しんし)に向き合うべき宿敵と認めた事を高らかに告げるのだった。

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