いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第104話 激突! 勇者パーティとの死闘!!

 家を焼かれた村人のために難民キャンプを設置したザガート……今後について考えていると、勇者パーティから果たし状が送られる。

 手紙を読み終えると、自分の命を犠牲にした威力偵察が必要だという結論に達する。仲間に別れを告げて、一人で死地へと向かう。敵に(さと)られないようにするため、真意を明かさずに……。

 

 手紙に書かれた場所に向かうと、五人の男が待っていた。その真ん中にいたリーダー格の男アランが挨拶(あいさつ)する。

 ザガートは男が神に騙されたのではないかと懸念を抱くが、男はそうではない事を伝える。この世界で起こった出来事を知っており、自分の世界を救う戦いをするという。男の覚悟を知らされて、魔王は心置きなく戦える事を喜ぶ。

 

「お前達を全身全霊を()して戦うべきライバルとみなし、全力でぶつかっていく!!」

 

 一人の戦士として決闘に(のぞ)む意思を高らかに告げる。

 最強の勇者と、最強の魔王……互いに譲れないものを賭けた死闘がここに勃発する。

 

 ザムザが右手をサッと横に振り払う仕草をすると、彼の手に乗っていた(タカ)が、バサバサと翼を動かして大空へと飛び立つ。連中から十メートルほど真上にある空を、クルクルと円を描くように飛びながら戦場全体を見渡す。

 鷹がクワーーッ、クワーーッと鳴く声を合図として戦闘が開始される。

 

 アラン、バルザック、ザムザは(さや)から剣を抜いて、両手で握って構える。バルザックは彼の頭身に合わせたサイズのバスタードソードを、ザムザは普通の長さの日本刀を、それぞれ握っている。

 

 アランが手にした剣は他の二人に比べてかなり異質だ。サイズや形は通常のロングソードに近かったが、全身が()き通るような水色に染まっており、光を反射してキラキラと輝く。氷の水晶で造られた剣という印象を、見る者に与える。

 

「聖剣エクスカリバーよ……我に加護を与えたまえ」

 

 アランが刀身を見つめながら祈るように(つぶや)く。この伝説の勇者が手にした剣こそ、(ウワサ)に名高い聖剣のようだ。

 

 ザガートは一旦後ろに下がって彼らと距離を開く。二十メートルほど離れた場所まで来て足を止める。

 

(連中がどれほどの強さか……まずは小手調べと行こうか)

 

 勇者パーティの能力を確かめる(ため)に先制攻撃を仕掛けようと思い立つ。

 

(ひざまず)け……暗黒重力(ダーク・グラビティ)ッ!!」

 

 正面に右手をかざして魔法の言葉を叫ぶ。ドォォーーーーンッ! と巨大な象が落下したような音が鳴り、勇者パーティが立っていた地面が数センチ下に沈む。重力結界が発生した音がゴゴゴと鳴り、空を飛ぶトンボも、宙を舞う砂(ぼこり)も、あらゆるものが地上に落下する。

 

 勇者パーティは重力魔法の餌食(えじき)になった。

 そう確信した魔王であったが……。

 

「……何ッ!?」

 

 視界に飛び込んだ光景に驚きの言葉を発する。信じられないものを見たと言いたげに声を(うわ)()らせた。

 

 魔王の瞳に映ったもの……それは超重力の中にありながら、平然と立つ五人の姿だった。彼らは()せ我慢している様子がなく、何事も無かったように涼しい顔をする。勇者以外の四人は「ヘヘヘッ」「フフフッ」と不敵な笑みを浮かべており、勇者も自分の優位を確信したようにニヤリと笑う。

 

 空を飛ぶ鷹も、重力の影響を全く受けない。悠々(ゆうゆう)と空を飛び続けたまま「クワッカッカッカッ」と笑うような鳴き方をしており、驚く魔王を見て(あざ)笑っているようだ。

 

 彼らが千倍の重力に自力で耐えたようには到底見えない。大魔王ですら()()なかった事を、生身の人間が行えるはずがない。仮にそれをやったとしたら、涼しい顔などしていられない。

 どちらかというと、千倍の重力の中にありながら、彼ら自身は等倍の重力を受けているように見えた。原理は不明だが、彼らには重力魔法が効かないのだ。

 

 ザガートは重力魔法が無駄だと知り、正面にかざしていた右手を後ろに下げる。それにより勇者の足元に発生した重力結界が消失する。

 

「ならばこれはどうだ……全身の血を抜かれて息絶えるがいいッ! 全体死(トータル・デス)ッ!!」

 

 今度は右手の人差し指を勇者に向けて即死魔法を唱える。魔王の指先から紫に輝く光線が放たれて勇者に命中する。すると彼の頭上に、ボロボロのローブを羽織(はお)って巨大な(かま)を手にした上半身だけの骸骨がスゥーーッと浮かび上がる。

 骸骨は真下にいる勇者を眺めながらカタカタと歯を動かして不気味に笑う。極上の獲物を前にして喜んだようにジュルリと舌なめずりする。

 

「カッ!!」

 

 (かつ)を入れるように一声発すると、手にした大鎌を勇者めがけて振り下ろす。

 ブゥンッと風を切る音を鳴らしながら振られた刃は、勇者の体をスッと通り抜けてしまう。立体映像を斬ったようで、まるで手応えが感じられない。むろん勇者は全くダメージを受けていない。

 

「グオオオオオオッ……!!」

 

 逆に斬りかかった(がわ)であるはずの死神が声を上げて苦しみだす。両手に握っていた鎌から手を離すと、呼吸が出来なくなったように(のど)を両手で押さえたままジタバタ暴れる。まるで勇者に与えたダメージが自身へと跳ね返ったようだ。

 

「オオオッ……」

 

 (くち)()しそうに(うめ)き声を漏らすと、スゥーーッと薄れて消えていく。地面に落とした鎌も一緒に消失する。それが死神の最期となった。

 

(重力魔法も即死魔法も通用しないとは……直接ダメージを与える以外の手段では致命傷にならないという事になる。恐らく状態異常や能力低下の魔法も効かないだろう。さすがは異世界を救った勇者パーティ……この程度の脅威など、とうに対策済みという訳か)

 

 即死攻撃を()もなく無効化してみせた勇者の実力に魔王が驚嘆する。自身に匹敵するかもしれない耐性の高さに、油断ならない相手だという警戒心が湧く。

 

 実力が高いのは当たり前だ。彼らは元いた世界の魔王を討ち滅ぼした英雄なのだ。それは裏を返せば、ザガートやアザトホースに匹敵する強さの相手に勝った事実の証明となる。

 ある程度覚悟はしていたが、彼らの実力を目の当たりにしてザガートは「やれやれ、厄介な敵と戦う事になった」と頭が痛くなった。

 

「魔王よ、今度はこちらから行かせてもらうぞッ!」

 

 魔道士ツェデックが攻撃する意思を伝えながら数歩前へと進む。ピタリと足を止めると、杖の先端を正面に向けて呪文の詠唱を始める。

 

「青き光よ、雷撃となりて我が敵を()ぎ払え! 雷撃龍嵐(サンダー・ストーム)ッ!!」

 

 攻撃呪文を唱えると、杖から青く光る一筋の(いかずち)が魔王に向けて放たれた。

 

(なんじ)より放たれし力、(じゅ)()となりて汝へと(かえ)らん……魔法反射(スペル・バウンド)ッ!!」

 

 ザガートはすかさず両手で(いん)を結んで防御魔法を唱える。彼を中心として青く()けたガラスのようなバリアがドーム状に張り巡らされた。

 雷撃魔法はバリアにぶつかると、飛んできた方向へと跳ね返された。そのまま術の唱え主であるツェデックめがけて飛んでいく。

 

 魔道士は自らが放った雷撃に焼かれて黒焦げになる……そう確信を抱くザガートだったが。

 

「……!?」

 

 次の瞬間目にした光景に、驚くあまり(まぶた)をパチクリさせた。

 

 ツェデックが正面に左手をかざすと、彼の手にブラックホールがあったかのように雷が吸い込まれていく。そのまま跡形もなく消滅する。

 雷が完全に消失すると、ツェデックの体が一瞬だけ青く光る。失った分の魔力が回復したように体の動きが良くなり、ニコニコ笑顔で鼻歌を(うた)いながらスキップする。

 単に魔法を防いだというだけでなく、自身の体内に魔力を吸収させたようだ。

 

「ザガートよ……ワシに攻撃魔法は一切効かん。それがアザトホースを(ほふ)った極大魔法であろうと……な」

 

 老魔道士が恐ろしい言葉を口にしてニヤリと笑う。

 

(攻撃魔法が一切効かないだと!? なんて事だ……それが事実だとすれば、俺がヤツを殺すためには、直接殴る以外に方法が無くなる!!)

 

 老魔道士ツェデックの言葉を聞いてザガートは()(まい)を覚えた。告げられた事実のショックの大きさにまたも「やれやれ」と頭を悩ます。

 

 殺せる手段があるというのは、(はた)から見れば希望があるように感じ取れたかもしれない。だが一対一ならまだしも、五対一という局面において近接戦闘を仕掛けなければ致命傷を与えられないというのは、それだけで大きなリスクになる。取れる戦術の幅が一気に(せば)まる。魔王にとっては翼をもがれた鳥になったに等しい。

 

 ザガートが戦闘中にも関わらず考え事に没頭しかけた時、ザムザが両手で刀を握ったまま魔王のいる方へと歩き出す。数歩前へと進んだ次の瞬間、人斬りの姿が魔王の視界からフッと消えた。

 

「!?」

 

 相手を見失った事に魔王が驚いた顔をする。転移魔法を唱えた素振りもなく、高速移動した訳でもない。かといって透明人間になった訳でもない。文字通り男の姿が消えたのだ。たとえるならビデオ再生した次のコマで、いきなりいなくなったかのように……。

 

 数秒後、ザガートの背後から(かす)かな殺気が放たれた。

 魔王が後ろを振り返らないまま反射的にしゃがむと、彼の頭上をブォンッと風を斬った衝撃が水平に(かす)める。

 

 ザムザが魔王の背後に立っており、首を狙って刀を横()ぎに振ったのだ。それをすんでの所でかわした形となる。

 

「フンッ!」

 

 ザガートが姿勢を低くしたまま後ろ回し蹴りを放つ。

 相手の反撃を予測済みだったのか、ザムザが後ろにジャンプして男の回し蹴りをかわす。数メートル離れた地面に着地して、相手の出方をじっと(うかが)う。

 

(恐らくヤツは本当に消えた訳じゃない……気配をゼロにする事で、視界に入ったままでも存在を知覚できないようにした。俺はそれを『消えた』と錯覚したんだ。だが攻撃の瞬間だけはどうしても殺気が出る。だからヤツは背後に回り込んで、相手の反応が遅れる間に首を()ねようとした……これが一連の動作のトリックだったという訳だ)

 

 ザガートは相手の技の性質を瞬時に見抜く。気配をなくす事によって敵に気付かれないよう接近し、死角から斬りかかったのだろうと考える。

 ザムザ本人はあくまで徒歩で近付いただけだが、敵の視点では死角にいきなりワープされたに等しい。

 

(俺だから反応が間に合ったものの、大半の戦士は今の攻撃で首を落とされただろう)

 

 攻撃動作の発生から回避まで猶予(ゆうよ)時間がほとんど無かったと語り、自分でなければかわせなかったと戦々恐々する。

 

「ウオオオオオオオオーーーーーーーーッッ!!」

 

 ザガートがザムザの能力に恐れを()していると、バルザックが野獣の(ごと)咆哮(ほうこう)を上げながら大地を蹴って駆け出す。魔王の左側面に回り込むと、敵に向かって全力で走りながら剣を縦に振って斬りかかろうとする。

 

「キェェェェェェエエエエエエエエーーーーーーーーッッ!!」

 

 時を同じくして魔王の右側面にいたザムザが、武闘家のような奇声を発しながら走り出す。今度は殺気を消すのをやめて、殺意を()き出しにしながら間合いに踏み込んで、相手を縦一閃(いっせん)に斬ろうとした。

 

 両者は同じタイミングで魔王めがけて剣を振る。左右から挟み撃ちにするつもりだ。

 

(回避は間に合いそうにない。ならば……フンッ!)

 

 ザガートは両腕を左右に広げたポーズを取り、自身に向けて振り下ろされた剣をそれぞれの手で止める。剥き出しの刃を素手で(つか)んだが、流血する素振りはない。

 

「グヌヌ……」

「ヌゥゥゥ……」

 

 バルザックとザムザが無念そうに歯(ぎし)りする。渾身の一撃を片手だけで止められた屈辱を(にじ)ませた。

 二人は力ずくで相手を押し切ろうとしたが、いくら腕に力を込めても剣は微動だにしない。巨人の手で掴まれたようにガッチリと固定されており、一センチたりとも先に進めない。

 

 剣を止めた当の魔王は涼しい顔をしており、焦る様子は微塵もない。ギリギリの力で耐えているようには全く見えず、表情には余裕すら感じられる。

 

「異世界の魔王、その首頂戴(ちょうだい)する!!」

 

 勇者アランが死を宣告する言葉を発しながら魔王の正面へと駆け出す。両手で握った剣を横薙ぎに振って相手に斬りかかろうとする。仲間が動きを止めている間に命を奪う算段だ。

 

「フンッ!」

 

 魔王は気合を入れたように鼻息を吹かすと、両腕をグイッと左右に押し込む。すると彼を挟み撃ちにしていたバルザックとザムザが、ポーーンと空高く投げ出された。放物線を描くように飛んでいって地面に激突する。

 

 (すで)に間合いに踏み込んでいた勇者が剣をブォンッと横一閃(いっせん)に振って魔王に斬りかかる。魔王は咄嗟(とっさ)に後ろにジャンプしたが、完全にはかわし切れておらず、胸元を横に数センチ切られる。胸の部分の衣服が切り裂かれて生肌があらわになり、分厚い胸板に一本の赤い線が入る。そこからツーーッと血が(したた)り落ちる。

 

「……浅かったか」

 

 間合いに踏み込んでの一撃が致命傷にならなかった事にアランが無念そうに(つぶや)く。

 魔王の胸の傷は瞬時に(ふさ)がり、流れた血も止まる。ただ衣服は再生されず、胸の肌はあらわになったままだ。

 

(ブレイズですら流血するまでに至らなかった俺の皮膚を、こうもたやすく切り裂くとは……やはり(まが)い物などではない、正真正銘、本物の異世界から来た勇者だ。只者(ただもの)じゃない)

 

 ザガートは地面に降り立つと、宇宙一硬い自分の体に傷を付けたアランの実力に舌を巻く。エクスカリバーの切れ味もさる事ながら、剣の本来の力を引き出せている男の技量に敵ながら天晴(あっぱれ)と称賛の言葉を贈る。

 

 ピンチに追い込まれた状況ではあったが、本物の勇者と戦えた喜びも、魔王の中にはあった。心の何処かで思い描いていた夢が実現した心地がした。

 この世界の住人に、今まで戦った相手の中に、真の勇者など()なかったのだから……。

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