いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
勇者達が去ってから十分ほど経過した時……。
「ザガート様ぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーッッ!!」
ルシルが大声で叫びながら荒野へと走ってくる。目に涙を浮かべて泣きそうな顔をしており、魔王の死にショックを受けた様子が一目で分かる。
他の四人が数秒遅れる形となって彼女の後ろを走っている。三人の女達はルシルと同様に泣きそうな顔をしており、ブレイズだけが平然としている。
五人は魔王が死んだ場所まで来て足を止める。
地面にこびり付いた血痕を目にして、女達が「ああっ」と声に出して驚く。
「ザガート……本当に死んでしまったのか」
レジーナが全身をわなわなと震わせた。魔王が死んだ事実にショックを受けたあまり、フリーズしたコンピュータのように固まる。この世の終わりを見たように顔が真っ青になる。
一行は離れた場所から戦いを見守っており、一連の状況を把握していた。ブレイズが魔力によって遠くの映像を映し出して、彼女達に見せていたのだ。それによって魔王の死を知る事となる。
「こんなの嘘ッス……何かの間違いッス」
なずみがガクッと
「
鬼姫も同様に膝をついてうなだれる。地面に両手をついて四つん
「……魔王の大うそつきめッ! お主に先に逝かれたら、残された妾達は、これからどうすればいいのじゃぁっ! うわぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーんッッ!!」
顔を上げて空を見上げると、荒野中に響かんばかりの絶叫を発した後、わんわんと大声で泣き出す。瞳から大粒の涙を
彼女にとって魔王と一緒にいる事、それだけが戦いの動機だった。信念や正義などどうでもよく、魔王の
その彼女にとって魔王を殺された事は、生きる目的を失ったに等しい。
三人の女達も同じだ。誰もが魔王を心から大切に思っていた。
ここにいる
ルシルとなずみが鬼姫につられて泣き出す。彼女と同じようにわんわん泣く。
三人の女が地面に
レジーナは彼女達のように泣いたりしない。大地に立ったまま一歩も動かず、目を閉じて下を向いたまま沈痛な表情になる。今後について思い悩んだように黙った後、「クッ……」と声に出して悔しさを
血が出るほど強く下
ブレイズだけはこの地に着いてから一言も喋らなかったが、彼女達はその事を気にかけない。彼ならそれくらい冷静でも不思議ではないと考えた。
荒野に女達の絶叫が響き渡り、
もう自分達には一片の希望も残されてはいない……そんな考えが女達の頭をよぎりかけた時。
「……!?」
レジーナが真っ先に異変に気付く。
一陣の突風が吹き抜けて
魔王の体であったと思しき黒い砂は、自ら意思を持ったように空を動き回った後、地上に降りていって一箇所に集まる。やがて人と同じ大きさの砂の
光が収まって視界が開けた時、そこに一人の男が立っていた。
「ザガー……ト……」
突然の出来事に驚くあまりレジーナが
彼女の前に現れた人物こそ、他ならぬザガートその人だ。剣で心臓を刺されて息絶えたはずなのに、何事も無かったようにピンピンする。衣服は完全に元通りになっており、体には傷跡もない。まるで勇者と戦った事実など最初から無かったかのようだ。
「ああっ……」
魔王が生き返った光景を目にして、ルシルが感動にその身を打ち震わせた。散々泣いたにも関わらず、
「ザガート様ぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーッッ!!」
愛する者の名を絶叫しながら立ち上がると、すぐさま走っていって両手で抱きつく。男の胸に顔をうずめたまま大声で泣き出す。ボロボロと大粒の涙を
他の三人が遅れる形となって走っていく。四人の女が魔王の周囲を取り
ブレイズはゆっくり歩いていってから足を止めて、彼女達から距離を置く。最初からこうなる事が分かっていたような冷静な態度を取る。
「師匠、やっぱり不死身だったんスねッ! 師匠が死ぬワケ無いと思ってたッス!!」
なずみが満面の笑みを浮かべて魔王の不死身ぶりを
「大ばか者! 妾たちまで騙すとは、人が悪いにも
鬼姫が魔王の行動を厳しく
「いや……俺は不死身でもないし、死んだフリもしてない。俺は心臓を剣で
ザガートが二人の言葉を即答で否定する。
自分が本当に一度死んだ、
「なら、どうやって生き返ったんだ?」
レジーナが胸の内に湧き上がった疑問を指摘する。魔王がどうやって死を乗り越えたかが分からず、チンプンカンプンになる。
「それは……」
ザガートが王女の質問に答えようとした時、右手の中指に
「これは一体……何が起こったんだ?」
ザガートが嵌めていた指輪が何の脈絡もなく砕けた事に王女が困惑する。突然の出来事に
「……今のが王女の質問に対する答えだ」
魔王が唐突にそう言い出す。指輪が砕けた事が男の復活に関係しているというのだ。
「今砕けたのは『命の指輪』……装備者が致命傷を受けると、時間差で
指輪の効能について詳細に話す。あえてその場ではなく、十分後に生き返った事によって、勇者に死んだと思わせるのに成功した
「ならその指輪を大量に持ち歩けば、いくら殺されても死なないという事になるではないか」
鬼姫が思い付いたアイデアを述べる。指輪を消耗して生き返れるなら、指輪を数十個持ち歩けば、数十回殺されても平気ではないかと、そう安直に考えた。
「いや……命の指輪はあれ一つしか無い。予備の指輪は存在しない。もし俺があれを新たに作り直そうとすれば、最低三ヶ月は掛かる……つまりこれから先の戦いで負ければ、俺は今度こそ本当に死ぬという事だ」
魔王が重苦しい表情を浮かべて女の疑問に答える。絶大な効果を持つ指輪だけに大量にあるものではなく、手元にあったのは使い切ってしまったと話す。コピー品を作り出せたとしても、それは今すぐ出来た事ではなく、今回の神との戦いでは実用不可だという。
(とは言え、彼女がそう考えるのは至極
一方では鬼姫の提案に同意を示し、今回は無理だったとしても、次の戦いでは複数回死んでも平気なように備えておきたい構想を胸の内に秘めておく。
「そんなぁーーーー」
魔王の言葉を聞かされて、鬼姫となずみが声を揃えて落胆する。男が不死身になると期待しただけに、そうならなかった事に心底ガッカリする。世の中うまい話は無いと悲嘆して肩を落とす。
「だがクリムトという僧侶が死んで、頭数が一人減ったんだろう? ならもう一度連中とやり合えば、次は勝てるんじゃないか」
レジーナが落ち込む二人とは対照的に前向きな言葉を吐く。一連の戦いを映像
五対一では勝てなかったとしても、四対一なら勝てるんじゃないか……そういう計算が頭の中にあった。
ザガートは王女の言葉を聞いた後、目を閉じて下を向いて、
やがて意識を集中するのをやめると、目を開けて言葉を発する。
「いや……無理だな」
王女の言葉を即答で否定する。何の根拠もなく言い放った訳ではなく、彼なりに考えた結果その結論に行き着いたらしく、少し残念そうな顔をして首を左右に振る。
「さっき得たデータを
目を閉じている間に超速で仮想戦闘を行った事、それにより多対一では絶対勇者に勝てないと確信した事……それらの事実を明かす。
魔王がわざわざ命を失うリスクを
「勇者と一対一の勝負になった段階で、ようやく勝率が五割程度まで上がる……つまり連中相手に多対一の戦いを挑む考えは、最初から捨てなければならないという事になる」
一対一で戦った場合のみ勝てる可能性があると、未来に希望がある話を付け加えた。
(一瞬の間に脳内で千回って……どんな能力だ!!)
魔王がサラッととんでもない能力を言ってのけた事にレジーナがドン引きした。声に出して言いかけたツッコミを慌ててゴクンと飲み込む。彼がおかしな能力を持っているのは今に始まった事じゃないと諦め顔になり、胸の内にしまっておく。
(とは言ったものの、勇者とサシで勝負するためには他の連中を引き付けておく必要がある……その
王女の困惑など気にも
勇者パーティを分断させるだけでなく、孤立した彼らを各個撃破できる事が好ましい。だが現状それが出来そうなのはブレイズただ一人だ。他の仲間は一人になった彼らに挑んだとしても太刀打ちできない。かといって女達を今すぐ強化する方法も魔王には考え付かない。
さて、どうしたものか……と作戦に行き詰まりを感じ始めた時。
魔王達から離れた場所にある空間が突然バチバチッとスパークする。何度も青白い光を放った後、空間に亀裂が入り、ガラスが割れたような裂け目が生じる。
裂け目は次第に大きくなって人が通れるくらいのデカさになると、そこから人影らしきものがピョーーンとジャンプしてきた。人影が地面に降り立つと、裂け目は時間を巻き戻したように閉じていって、何も無い空間へと戻る。
空間の裂け目から出てきたもの……それは
どちらかと言えば仮面を被った騎士であるヤハヴェより、こちらの方が人々がイメージする神の姿に近い……そんな見た目をしていた。
「おのれ、ヤハヴェの手下か!!」
怪しげな風貌の老人が現れた事に警戒し、レジーナが敵意をあらわにする。完全に老人を敵とみなしており、腰に
「待て、彼は敵じゃない!!」
ザガートが右手をサッと横に振って、警戒する王女を慌てて止める。謎の老人が敵でない事をその場にいた者に伝える。
他の者は初対面だが、ザガートだけはその男に見覚えがあった。
「お前、いやアンタは……異界の神ゼウス!!」