いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
ソドムの村があった場所に建てられた難民収容のためのキャンプ……そこにある二十を超える数のテントの中で、一番大きなものの中に彼らはいた。
キャンプ地の中央にある、集会所として使われていた巨大テントの中で、ゼウスとザガートが向き合いながらあぐらをかいて座る。他の仲間達が二人を取り
村長達は難しい話には参加できないので、テントの外に出ていた。
「改めて自己紹介させて頂く……ワシが第六世界、すなわちザガートが元いた世界の統治神にして、彼をこの世界に送ってよこした者……天候を
ゼウスが右手に杖を持って座ったまま自ら名乗る。ザガート達が今いる第七世界とは異なる世界の神であり、救世主をこの世界に降臨させた張本人である事実を明かす。
「この人の良さそうなお
なずみが疑問を口にしながら首を
「このご老人は、俺をこの世界に送ってよこした、いわばこの世界にとって恩人のようなお方だ。人を見た目で判断しちゃいけない……」
ザガートが少女の
「俺がこの世界で多くの人を救ったとしても、それは彼がいたから
今の自分がいるのは彼のおかげだと、切実な感謝の思いを口にした。
「ホッホッホッ……感謝などせずともよい。ワシはあくまでそなたに力を与えて、この地に送ってよこしたに過ぎない……それからこの地でそなたが行った事は、全てそなた自身の手柄じゃ」
ゼウスが恩を感じる必要はない
「本当に……本当によくここまでやってくれた。そなたはワシが見込んだ通りの英雄じゃった……」
魔王が期待通りの働きをしてくれた事への感慨を口にした。むしろ礼を言わねばならないのはこちらの方だと言いたげな雰囲気が嫌というほど伝わる。
ゼウスの中には一つの懸念があった。それは魔王が身勝手な振る舞いをするかもしれなかった事だ。魔物に倒される程度ならまだマシで、もし神に匹敵する力を得た男が、自分の欲望を満たすために悪事を行ったら始末に負えなかった。
町や村を焼いて、世界中の女に自分の子を産ませて、民を苦しめる圧政を行う暴君に成り果てたかもしれない。そうなったら彼を送った意味が全く無くなる。
だが魔王はそのような悪事を行わず、当初の目的通り世界を救う救世主となった。
彼が正しき道を歩んだ事に、ゼウスは心の中で深く感謝の念に
『だがこうして駆け付けられたのなら、もっと早く来るべきだったではないか。異界の神よ、今まで何をしておられたのだ?』
ブレイズが頭の中に湧き上がった疑問を口にする。これまで姿を現さなかった神が、このタイミングで唐突に現れた事に違和感を覚えて、理由を問い
「実はのう……ザガートをこっちの世界に送ってよこした後、ヤハヴェがワシがこっちの世界に来られぬよう、バリアを張ったのじゃ。おかげでワシは念話によるアドバイスを送る事も出来なかった。ワシはバリアを破るために呪文を唱え続けて、ようやくさっきバリアを破るのに成功した……というワケじゃ」
ゼウスが不死騎王の問いに答える。唯一神による強力な妨害工作があった事、それによりザガートを手助け出来ずにいた事、
「じゃがバリアを破るのに力を使い過ぎたため、今のワシは本来の半分程度の強さしか出せん……今のワシがヤハヴェと戦ったとしても、ザガートが戦うより良い結果を出せないじゃろう……」
言いにくそうに肩を落とすと、唯一神を止める力が今の自分には残っていない事実を伝えた。見るからにショボくれた顔をして、残念そうにため息を漏らす。
唯一神を倒す事を期待されるだろうと予測しており、その期待に応えられない事への苦悩を
「それでもこうして
顔を上げて真剣な顔付きになると、魔王達を全力でサポートする意思を伝える。魔王を送り込んだだけで満足した訳ではなく、この世界の人類を救済する
「ではゼウスよ……アンタに聞きたい事がある」
ザガートが
「ヤハヴェという神について詳しく聞きたい。アザトホースからある程度の事は聞いたが、まだ俺達が知らない、神だけが知っている情報があるはずだ。それを知りたい」
唯一神に関するより詳細な情報提供を求める。大魔王から聞いた話が彼の全てではなく、ゼウスから新たな話が聞けるかもしれないと考えた。
ゼウスは頭の中で情報を整理するように数秒間黙った後、意を決したように口を開く。
「フム……ならば教えよう。人類を創造した聖書の神ヤハヴェ……かつて多神教の一柱であった彼が、他の神と
◇ ◇ ◇
数万年の昔……神同士が争う大きな戦争があった。
総数にして二百を超える数の神が、『善』と『悪』という二大勢力に分かれて争ったそれは、後にハルマゲドンと呼ばれ恐れられた。
争いは
とても人類のスケールでは
……戦争が終わった時、神々は自分達のしでかした行いに恐怖した。
なんて取り返しの付かない事をしたんだと後悔の念に
終戦を生き延びた神の一人にヤハヴェはおった。彼は大戦終結後の新時代に、一度は滅んだ人類を創造し直した神であり、人の命と法を
ヤハヴェはオリンポスの十三柱と呼ばれる神の一人であったが、ある問題を起こしてしまう。彼が信徒に対して「他の神を
神々はヤハヴェに、彼が信徒に対して言った事を取り消すよう求めたが、ヤハヴェは断固として首を縦に振らなかった。彼は自分で『
神々は、柱の神の一人であるヘスティアに仲裁を頼んだ。
他の神と良好な関係ではないヤハヴェだが、彼女の言う事には比較的よく従った。なんでも彼女に「返せないほど大きな借りを作った」という事だが、詳しい事はワシにも分からぬ。ただヤハヴェが彼女に対してだけは強硬な態度を取らなかったのは確かじゃ。従順だったと言ってもいい。
ワシとヘスティアが間を取り持つ形となって、天界の会議の話し合いがまとまる。
最終的に下された裁定は以下の通りじゃ。
ヤハヴェは彼の担当領域である第七世界に引き
また他の世界の神も、自分の世界に害が及ばない限り、彼の世界に手出ししてはならない事、もし万が一そうしなければならない事態に
ヤハヴェはオリンポスの柱の神から外され、彼の席は永遠に空席となる事、柱の数は十二本となる事。
……以上の決定が下された。
ヤハヴェは内心不満があったようだが、これ以上の妥協案も引き出せないと見て、しぶしぶ決定に従った。柱の神から除外された事は彼にとって不名誉であったので、『十三』は彼の信徒の間では
かくして彼は自分の世界に引き篭り、永遠の平和が訪れると、そう神達は確信を抱いた。
……第七世界の人間の苦しみが生み出すマイナスのエネルギーが、他の世界に悪影響をもたらす事が判明するまでは。