いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第107話 ゼウスはヤハヴェという神について語る

 ソドムの村があった場所に建てられた難民収容のためのキャンプ……そこにある二十を超える数のテントの中で、一番大きなものの中に彼らはいた。

 

 キャンプ地の中央にある、集会所として使われていた巨大テントの中で、ゼウスとザガートが向き合いながらあぐらをかいて座る。他の仲間達が二人を取り(かこ)むように配置しながら、同じようにあぐらをかいて座る。ルシルは(ひざ)を折り(たた)んで礼儀正しく正座する。

 村長達は難しい話には参加できないので、テントの外に出ていた。

 

「改めて自己紹介させて頂く……ワシが第六世界、すなわちザガートが元いた世界の統治神にして、彼をこの世界に送ってよこした者……天候を(つかさど)る神ゼウスじゃよ。第六世界では全知全能の神、雷帝とも呼ばれておる」

 

 ゼウスが右手に杖を持って座ったまま自ら名乗る。ザガート達が今いる第七世界とは異なる世界の神であり、救世主をこの世界に降臨させた張本人である事実を明かす。

 

「この人の良さそうなお(じい)ちゃんにしか見えない人が、本当にヤハヴェと互角に渡り合える神様なんスか?」

 

 なずみが疑問を口にしながら首を(かし)げた。見た目は温和な老人にしか見えない人物が、ヤハヴェと同等の存在である事を強く疑う。

 

「このご老人は、俺をこの世界に送ってよこした、いわばこの世界にとって恩人のようなお方だ。人を見た目で判断しちゃいけない……」

 

 ザガートが少女の()(そん)な態度をやんわり(たしな)めた。ゼウスが素晴らしい功績を成し遂げた事実を教えて、見た目で相手を判断する事の愚かさを()く。

 

「俺がこの世界で多くの人を救ったとしても、それは彼がいたから()()た事……彼がいなければ、俺はこの世界に来る事すら無かった。その事に深く感謝せねばなるまい」

 

 今の自分がいるのは彼のおかげだと、切実な感謝の思いを口にした。

 

「ホッホッホッ……感謝などせずともよい。ワシはあくまでそなたに力を与えて、この地に送ってよこしたに過ぎない……それからこの地でそなたが行った事は、全てそなた自身の手柄じゃ」

 

 ゼウスが恩を感じる必要はない(むね)を伝える。自身はきっかけを作ったに過ぎず、第七世界で多くの人を助けたザガートの英雄的な行いを称賛する。

 

「本当に……本当によくここまでやってくれた。そなたはワシが見込んだ通りの英雄じゃった……」

 

 魔王が期待通りの働きをしてくれた事への感慨を口にした。むしろ礼を言わねばならないのはこちらの方だと言いたげな雰囲気が嫌というほど伝わる。

 

 ゼウスの中には一つの懸念があった。それは魔王が身勝手な振る舞いをするかもしれなかった事だ。魔物に倒される程度ならまだマシで、もし神に匹敵する力を得た男が、自分の欲望を満たすために悪事を行ったら始末に負えなかった。

 町や村を焼いて、世界中の女に自分の子を産ませて、民を苦しめる圧政を行う暴君に成り果てたかもしれない。そうなったら彼を送った意味が全く無くなる。

 

 だが魔王はそのような悪事を行わず、当初の目的通り世界を救う救世主となった。

 彼が正しき道を歩んだ事に、ゼウスは心の中で深く感謝の念に()えない。

 

『だがこうして駆け付けられたのなら、もっと早く来るべきだったではないか。異界の神よ、今まで何をしておられたのだ?』

 

 ブレイズが頭の中に湧き上がった疑問を口にする。これまで姿を現さなかった神が、このタイミングで唐突に現れた事に違和感を覚えて、理由を問い(ただ)す。

 

「実はのう……ザガートをこっちの世界に送ってよこした後、ヤハヴェがワシがこっちの世界に来られぬよう、バリアを張ったのじゃ。おかげでワシは念話によるアドバイスを送る事も出来なかった。ワシはバリアを破るために呪文を唱え続けて、ようやくさっきバリアを破るのに成功した……というワケじゃ」

 

 ゼウスが不死騎王の問いに答える。唯一神による強力な妨害工作があった事、それによりザガートを手助け出来ずにいた事、(つい)に神の結界を破るのに成功したため、こうして駆け付けられた事……それらの事実を明かす。

 

「じゃがバリアを破るのに力を使い過ぎたため、今のワシは本来の半分程度の強さしか出せん……今のワシがヤハヴェと戦ったとしても、ザガートが戦うより良い結果を出せないじゃろう……」

 

 言いにくそうに肩を落とすと、唯一神を止める力が今の自分には残っていない事実を伝えた。見るからにショボくれた顔をして、残念そうにため息を漏らす。(おのれ)の無力さにもどかしさを感じたように下(くちびる)を噛む。

 唯一神を倒す事を期待されるだろうと予測しており、その期待に応えられない事への苦悩を(にじ)ませた。

 

「それでもこうして()せ参じたのは、今のワシでもそなた達の力になれるかもしれないと思ったからじゃ。ザガートよ、して欲しい事があれば何でも言ってくれ。ワシに出来る事なら協力は惜しまぬつもりじゃ」

 

 顔を上げて真剣な顔付きになると、魔王達を全力でサポートする意思を伝える。魔王を送り込んだだけで満足した訳ではなく、この世界の人類を救済する(ため)ならあらゆる手を尽くすと思いを強くする。

 

「ではゼウスよ……アンタに聞きたい事がある」

 

 ザガートが早速(さっそく)とばかりに口を開く。前々から気になっていた情報があったようで、それを確かめる良い機会だと気付く。

 

「ヤハヴェという神について詳しく聞きたい。アザトホースからある程度の事は聞いたが、まだ俺達が知らない、神だけが知っている情報があるはずだ。それを知りたい」

 

 唯一神に関するより詳細な情報提供を求める。大魔王から聞いた話が彼の全てではなく、ゼウスから新たな話が聞けるかもしれないと考えた。

 

 ゼウスは頭の中で情報を整理するように数秒間黙った後、意を決したように口を開く。

 

「フム……ならば教えよう。人類を創造した聖書の神ヤハヴェ……かつて多神教の一柱であった彼が、他の神と(たもと)を分かった、その経緯(いきさつ)を!!」

 

  ◇    ◇    ◇

 

 数万年の昔……神同士が争う大きな戦争があった。

 総数にして二百を超える数の神が、『善』と『悪』という二大勢力に分かれて争ったそれは、後にハルマゲドンと呼ばれ恐れられた。

 

 争いは()(れつ)を極めた。大地は裂け、海は割れて、星々はシュークリームのように砕けた。そこに住んでいた人間など、鼻息で飛ばされたホコリのようにあっけなく吹き飛んだ。宇宙は三度(よみがえ)って、三度滅んだ。神もたくさん死んだ。

 とても人類のスケールでは(はか)り知れない争いはおよそ百年続いた。

 

 ……戦争が終わった時、神々は自分達のしでかした行いに恐怖した。

 

 なんて取り返しの付かない事をしたんだと後悔の念に(さいな)まれ、もう二度とこのような事はすまいと誓った。以後神同士の争いは固く禁じられ、()め事は『天界の会議』において、話し合いで解決する事が決まる。

 

 終戦を生き延びた神の一人にヤハヴェはおった。彼は大戦終結後の新時代に、一度は滅んだ人類を創造し直した神であり、人の命と法を(つかさど)る慈愛と契約の神じゃ。ワシが雷帝と呼ばれたのに対して、彼は天帝・天の神と呼ばれておる。

 

 ヤハヴェはオリンポスの十三柱と呼ばれる神の一人であったが、ある問題を起こしてしまう。彼が信徒に対して「他の神を(あが)めてはならない」と()いたために、過激化した信徒の一部が、他の神を(まつ)る神殿に火を放ったのじゃ。天界は大きな騒ぎとなる。

 

 神々はヤハヴェに、彼が信徒に対して言った事を取り消すよう求めたが、ヤハヴェは断固として首を縦に振らなかった。彼は自分で『(ねた)む神』と称するほど嫉妬(しっと)深い神であり、自らが創造した人類が、他の神を崇める事に耐えられなかったのじゃろう。天界は一触即発の状態となる。

 

 神々は、柱の神の一人であるヘスティアに仲裁を頼んだ。

 他の神と良好な関係ではないヤハヴェだが、彼女の言う事には比較的よく従った。なんでも彼女に「返せないほど大きな借りを作った」という事だが、詳しい事はワシにも分からぬ。ただヤハヴェが彼女に対してだけは強硬な態度を取らなかったのは確かじゃ。従順だったと言ってもいい。

 

 ワシとヘスティアが間を取り持つ形となって、天界の会議の話し合いがまとまる。

 最終的に下された裁定は以下の通りじゃ。

 

 

 ヤハヴェは彼の担当領域である第七世界に引き(こも)る事、他の世界に一切干渉せず、不利益をもたらさない事、それが守られたのであれば、自分の世界内では好きにして構わないという事。

 また他の世界の神も、自分の世界に害が及ばない限り、彼の世界に手出ししてはならない事、もし万が一そうしなければならない事態に(おちい)ったとしても、神同士が争う事は絶対に避けなければならない事。

 ヤハヴェはオリンポスの柱の神から外され、彼の席は永遠に空席となる事、柱の数は十二本となる事。

 

 

 ……以上の決定が下された。

 

 ヤハヴェは内心不満があったようだが、これ以上の妥協案も引き出せないと見て、しぶしぶ決定に従った。柱の神から除外された事は彼にとって不名誉であったので、『十三』は彼の信徒の間では()み数字となった。

 

 かくして彼は自分の世界に引き篭り、永遠の平和が訪れると、そう神達は確信を抱いた。

 

 

 ……第七世界の人間の苦しみが生み出すマイナスのエネルギーが、他の世界に悪影響をもたらす事が判明するまでは。

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