いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
勇者パーティが解散して数週間が
木は非常に高い背丈まで育っており、
「ふんっ! ふんっ!」
森の中に若い男の声が響き渡る。それと共にガッガッと木に刃物を打ち付ける音が鳴る。
声が発せられた場所に一人の男性がいた。木を切るための斧を両手で握って、横にスイングして大木に突き立てる。
木を切っていたのは他ならぬ勇者アランだ。黒のタンクトップに
木がバキバキと音を立てて倒れると、「フーーッ」と一息ついて作業を休める。木を切った後の切り株に腰かけて、持参した水筒の水をゴクゴクと飲む。
この世界を救った元勇者であった青年は、生まれ育った町から遠く離れた山の中で木こりとして暮らしているようだ。
◇ ◇ ◇
山の
建物の一室で、二人の男がテーブルを挟んで向かい合ったまま
テーブルの上には金貨が十枚ほど入った袋が置かれており、丸太の報酬と思われた。
「いやぁ、助かります……ここにある木は今まで誰も切ろうとしなかったんですよ。これだけの太さでしょ? 熟練の冒険者でも簡単には手が出せない。それでこれまでずっと手付かずだったんですが、貴方様のおかげで資源として有効活用できそうです」
商人の格好をした男が満面の笑みを浮かべて頭を下げる。ごまをするように両手を
男は木材を売買する商人らしく、勇者が切った木の買い取りの商談をしていたようだ。
「でも貴方様のお力なら、こんな事をなさるよりもっと良いお金を稼ぐ方法がおありではございませんか?」
勇者が木こりに転職した事を不思議がる。彼の能力に釣り合わない収入の仕事ではないかと首を
「……平和な時代に勇者の力なんて必要ない」
アランが暗い表情を浮かべて顔をうつむかせた。戦争が無くなれば自分は用済みだとでも言いたげに、自嘲気味に口の
「それがそうでも無いんですよ。存じ上げておりませんか?」
商人の男が意味深な言葉を吐く。何らかの事情を知っていたらしく、下界の世情に
「どういう事だ?」
アランがテーブルに身を乗り出して男の真意を問い
「実はですね……数日前にザルニア帝国がヴィタール王国に宣戦布告を行ったんですよ。元々両国は緊張状態にあったんですが、魔物の襲来に備えるために休戦協定を結んだ。それが、魔物の襲来が
商人の男がひそひそと小声で耳打ちする。二つの国が戦争を行っていた事、魔物が現れたために中断していた事、魔竜王が討伐されたために戦争を再開した事……それらの事情を話す。
「近々、人間同士の大きな戦争があるでしょう。そう遠くないうちに、国王陛下から貴方に救援を求める使者が送られると思いますよ」
王からお呼びが掛かるだろうと推測を伝えて話を終わらせた。勇者の力が必要とされる時代になった喜びでニッコリ笑う。悪気があっての発言ではない。
商人の言う国王陛下とは、アランに
「……」
商人の話を聞かされて、勇者はあまり嬉しそうではない。むしろかえって浮かない顔をする。
自分のせいで平和が破られた事を喜べるはずもなく、何とも言えないモヤモヤ感が胸に
◇ ◇ ◇
大きな山脈の中腹……伐採作業を行った森からそう遠く離れてない場所に勇者の家はあった。
そこだけくり抜かれたように木が生えてないスペースがポッカリ
金貨を受け取ったアランが家の近くまで来た時、ドアの前に二人の男が立っているのが見えた。
二人は鎧を着てマントを
「おお勇者よ、外出しておられましたか! ドアチャイムを鳴らしても返事が無いので、途方に暮れておりましたぞ!!」
一人の男が勇者の姿を見かけて慌てて走ってくる。もう一人が彼の後に続く。
「我ら二人、王国騎士団を代表する使者として参りました!
二人は勇者の前に
「……それは陛下のご意思なのか?」
アランは一瞬黙り込んだ後、一呼吸おいてから口を開く。救援要請が国王の命によるものなのか聞いて確かめる。
勇者の表情は暗く、口調は重苦しい。騎士団の要請に前向きではない心情が一目で伝わる。
「いえ……陛下ご自身は人間同士の争いに勇者を巻き込みたくないと
二人目の男が質問に答える。救援要請は王の意思によるものではない事、大臣が王に気を
「そうか……」
男の言葉を聞いてアランが少しだけホッとした表情になる。国王が自分を戦争に巻き込みたくない心情を抱いていたと知り、何処か安心した気持ちになる。
「悪いが戦争には協力できない……王国の
一瞬間を置いた後、救援要請には応じられないと答える。
「ですが、帝国の兵力は今や王国の十倍……帝国軍がなだれ込めば我ら王国騎士など苦もなく蹴散らされて、街は焼かれ、金目のものは奪われて、女子供は彼らに
二人目の男が
「貴方の故郷の町が滅ぼされれば、ナターシャとリックも無事ではおりますまい」
勇者の二人の友人にも危害が及ぶかもしれないと付け加えて話を終わらせた。
「……ッ!!」
男の言葉を聞いてアランの表情が一変する。それまで元気なさげだったのが一転して怒りに火が
「……帰ってくれ」
しばし黙り込んだ後、ボソッと小声で
声の調子は静かではあったが明らかな怒気を
「……
やがて顔を上げて口を開くと、
騎士達の要請に応じる意思が無い事を、非常に強い口調で伝えた。
「……」
勇者が激しく怒ったのを見て、騎士達は顔をうつむかせたまま押し黙る。もはやどんな調子の良い言葉を吐いても、勇者を説得するのは不可能だという諦めの感情が広がる。
「……貴重なお時間を取らせました」
そう一言謝ると、勇者に背を向けてトボトボと歩き出す。任務が失敗した事に落胆したようにガックリと肩を落とす。無力感に包まれた騎士の去りゆく姿は何とも
「お前がナターシャの話をしたせいで、勇者が怒ったんだぞ!!」
「なんだと! 俺のせいだってのか、このハゲが!!」
やがて二人の男は失態の責任を互いに押し付け合う。勇者を説得できなかったのはお前のせいだ、自分のせいじゃないと、恨み
ちなみにハゲと言われた男は別にハゲてなどいない。
彼らはそうして
「……」
アランは自分の前から立ち去る二人の背中を、憎むでも
◇ ◇ ◇
アランは昼間の数時間に木こりの仕事をして、それ以外の時間は山で狩りを行って鹿や猪などの動物を捕まえたり、キノコや山菜を
商人からは生活必需品を市場価格より高値で買い取る。商人は勇者が注文した品を離れた町から取り寄せる商売も行っていた。割高なのは輸送費込みだからだ。
勇者はそれでも時間に
アランはその日、ベーコンとスクランブルエッグの
「私は裸で母の
旧約聖書のヨブ記を音読していると、窓ガラスをコンコンッと叩く音が鳴る。
アランが窓の方に目をやると、一羽のカラスが窓の外側に立って、
「エサの時間か……」
アランはそう小声で
◇ ◇ ◇
アランがドアを開けて家の外に出ると、庭をぐるっと
勇者は袋の中に手を突っ込んで、カラスの
勇者が袋から取り出したのは、魚肉ソーセージを包丁で
勇者は庭に置かれたベンチに座ってカラス達が遊ぶ姿をただボーーッと眺めたが、それにも飽きるとベンチにもたれかかったまま空を見上げる。空は白い雲に覆われていて晴天とは呼べない。冷たい風が吹き抜けて、雨が降りそうな気配がある。
「……俺は何をしてるんだ」
ふとそんな言葉が口を
(嫌な事から目を背けて、逃げ隠れるようにこんな所に移り住んで、一人で
自分の人生はこれで良いのかと自問自答する。誰に強制されたでもなく自分で選んだにも関わらず、本当にやりたかった事じゃないモヤモヤ感が
さりとて、どうすれば良いのか勇者には考えが浮かばない。最愛の人を力ずくで強奪する気にはなれないし、一国の王になって女をはべらせれば気が晴れるとも思えない。人間同士の争いで血を流す英雄になる気はさらさら無い。結局勇者としての良心に
(ここでカラスの
自分の人生を悲観する考えが頭をよぎりかけた時、一陣の突風が吹き抜けた。
周囲の気温が急激に下がり、外の空気が冷たくなったかと思うと、台風が直撃したような嵐が吹き荒れる。雨は降っていないものの、風の勢いは凄まじく、ビュオオオオッと大きな音が鳴って木がガサガサと激しく揺れる。
森の動物達は安全な場所に避難しようとしたが、リスなどの小動物が風で飛ばされる。
「カァーーー!! カァーーー!!」
異常事態を察知した五羽のカラスが、慌てて空へと飛び去る。
明らかに普通の状況じゃない。何かが起ころうとしている。動物達が感じたであろう奇妙な違和感を、勇者も肌で感じていた。
アランが空を見上げると、城より大きなメラメラと燃えさかる岩が地表に向かって落下していた。それは宇宙から降ってきたと思われる巨大な隕石だ。
隕石は山を越えて、大陸の果てにある海がある方角へと落ちていく。海に激突したと思われるタイミングで大きな爆発が起こった瞬間、世界が白い閃光に
「……ッ!!」
白い光に包まれて、勇者の意識はそこで途絶えた――――。
「うわぁぁぁぁああああああーーーーーーーーっっ!!」
大きな声で叫んでベッドから起き上がる。辺りを見回すと、そこはミカエルに案内された神殿内にある寝室だった。時計の針は『六』を指しており、神殿の外は日が昇り始めている。
アランはベッドで深く眠りに落ちたまま、過去の出来事を夢として見ていたのだ。
「ハァ……ハァ……夢か」
勇者は夢から覚めた事を知って疲れた表情になる。この世の終わりを見たように
この世界に来る前の記憶を追体験した夢の内容は、勇者にとっては悪夢としか呼べなかった。見たくないものを見せられた……そういう感覚があった。
「オイ、大変だアランっ! 魔王のヤツから果たし状が届きやがった!!」
アランがベッドで上半身を起こした体勢のまま固まっていると、バルザックが大声で叫びながら部屋へと駆け込んでくる。右手に白い紙のようなものが握られていて、それを勇者に手渡す。
勇者が手紙に書かれた文章に目を通すと、決闘の場所と日時が指定されていた。戦いに参加する魔王側のメンバーも記載されている。
「……他の二人を呼んできてくれ」
アランは重苦しい表情を浮かべながら狂戦士に頼み事をすると、魔王の挑戦を受けたように手紙をクシャッと握り潰す。
◇ ◇ ◇
数時間後……太陽が昇ってすっかり外が明るくなった昼の時間帯。
神殿の外に広がる
四人は魔王と戦った時と同じ服装になっている。戦闘の準備は万全という訳だ。
「
アランは後ろを振り返って仲間達を見回すと、これからの事について話す。敵側に何らかの備えがあるかもしれないと憶測を述べて、警戒して事に当たるよう
「上等じゃねえか。前回より苦戦するってんなら、その方がよっぽど
勇者の言葉を聞いてバルザックがニタァッと口元を
「クワーーーーッ、クワーーーーッ」
ザムザの右手に
ザムザは相変わらず意思表明を鷹に任せるばかりで、本人は黙り込んだままだ。このような状況であったとしても、一言も喋らない。
「ここで負けたらクリムトの奴に顔向けできんわい」
ツェデックが戦いへの意気込みを語る。旧知の友人の覚悟ある死を無駄にしないために、何としても魔王に勝利するのだと息巻く。
「そうだ、この戦いには絶対に負けられない。俺達は既に仲間を一人失っている……彼の死が無駄にならなかったと証明するために、この命に替えても魔王を討ち果たす!!」
アランが老魔道士の言葉に同意して
決意表明が終わると、アランは戦場がある方角を向いて無言のまま歩き始める。ザッザッと音を立てて力強く歩く。表情には負けられない戦いに挑む強い意志が浮かぶ。
他の三人が彼の後に続いてゆっくりと歩き出す。一言も言葉を
目的地へと向かう途中、勇者の脳裏に一人の女性の姿が浮かぶ。
それは彼の想い人であるナターシャだ。
(もし魔王に勝ったとしても、彼女と結ばれないのは分かっている。それでも……)
――――それでももう一度世界を救えたら、自分の中で何かが変われる……そんな気がしたんだ。
……アランは