いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第111話 人斬りザムザ(前編)

 ザガートが決闘の舞台として選んだ場所……それは昨日彼が勇者パーティと戦ったのと全く同じ荒野だった。魔王が命を落とした大地にはまだ血痕が残っており、激しい戦いがあった事実を物語る。

 

 勇者一行が約束の場所まで来ると、二人の男と四人の女が彼らを待ち構えていた。それは言うまでもなく魔王ザガートと不死騎王ブレイズ、そして鬼姫ら女の仲間達だ。勇者に送り付けた果たし状に六人の名前が書かれており、相手に素性は知れ渡っている。

 

「ムホホ……かわいい女子(おなご)がたくさんおるわい。どれから手を付けたらいいか、迷うのう」

 

 四人の美女を前にしてツェデックが鼻の下を伸ばす。じゅるりと口から()れたよだれをゴクリと飲み込む。ようやく女の冒険者と対面できた喜びはひとしおで、何としても彼女達にいやらしい事をするのだと息巻く。

 

「今度は四対六ってワケか……ワクワクするぜ」

 

 バルザックが強敵を前にしてニタァッと笑う。()えた獣のように瞳がギラギラする。

 敵の方が数で(まさ)っている事に(もの)()じする様子は全くなく、むしろ前回よりも激しいバトルを体験できそうな予感に胸を(おど)らせた。一刻も早く戦いを始めたそうに体がウズウズしている。

 

「……」

 

 ザムザは相変わらず黙り込んだままだ。他の仲間が流暢に話している状況でも、一言も喋らない。

 

「ザガート……まさか本当に生き返ったとはな。正直言って驚いたよ。どうやって生き返ったか、方法を聞きたいくらいだ」

 

 最後を締めくくるようにアランが口を開く。確実に息の根を止めたにも関わらず魔王が生き返った事実に心底驚嘆しており、どんな方法を使ったのか興味が湧く。

 

「だがもし不死身だったとしても、百回生き返ったお前を、俺は百回ころ……」

 

 何度再生しようと魔王を倒す決意を、勇者が述べようとした瞬間……。

 

「空間の裂け目よ、開け……異層次元転移(アナザー・ディメンション)ッ!!」

 

 ザガートが唐突に握った右拳を高々と振り上げて、呪文の詠唱らしき言葉を叫ぶ。するとブォンッと奇妙な音が鳴り、アラン達の真下にある地面に大きな丸い影のような物体が生まれる。

 影は真上に立っていた四人を、底なし沼のようにズブズブと引きずり込んでいく。それは異空間に繋がるゲートのようだ。

 

「うおおおおおおおおッ!!」

 

 アランが思わず大声で叫ぶ。手足を激しく動かして吸い込みから逃れようとしたが、なす(すべ)なく地面に吸い込まれる。他の三人も必死の抵抗を(こころ)みたが、どうにもならず全員が転移魔法の餌食(えじき)になる。

 如何(いか)に百戦錬磨の彼らと言えど、この初見殺しの技に対処できなかったようだ。

 

「さて……では俺達も行くとしよう」

 

 四人が吸い込まれたのを見届けると、ザガートがタタッと走っていって穴に向かってピョーーンとジャンプする。穴は自ら飛び込んできた魔王をズブズブと()み込む。

 他の仲間達も次々に穴へと飛び込んでいき、全員が影に吸い込まれた状態となる。

 

 荒野にいた全ての者を呑み込むと、穴は閉じるように縮小していって、消えて無くなる。

 

 そして誰もいなくなった。

 

  ◇    ◇    ◇

 

「うっ……」

 

 数秒ほど意識を失っていたアランが目を開けると、数メートル離れた大地にザガートが立っていた。

 周囲を見回すとそこはさっきと変わらぬ荒野だったが、少し様子がおかしい。何処を見ても彼と魔王以外に人の姿が見当たらないのだ。地面にあった血痕も、最初からそこに無かったかのように消えている。

 

「ここは……さっきとは違う場所なのか!?」

 

 アランが頭の中に湧き上がった疑問を口にする。いくつかの情報を(もと)にして、自分が先程(さきほど)とは異なる空間に転移させられたのではないかと気付く。

 

「ほう……さすがは勇者。察しが良い」

 

 ザガートが勇者の言葉を肯定しながらニヤリと笑う。

 

「そうだ……お前の言う通り、ここはさっきまでとは異なる空間に存在する、俺が用意したバトル・フィールド!! 四つに分断されたエリアは如何(いか)なる者の侵入も許さず、俺が組み合わせを決めた対決が、どちらかが死ぬまで繰り広げられる!! 勝者は元の空間に帰還でき、敗者はこの世界に取り残される!! (まさ)に俺達の勝敗を決めるのにうってつけの場所!!」

 

 自分達が今いる世界が、現世から隔絶された空間であると伝える。空間を越えて()()する事は(かな)わず、魔王が決めたカードで対戦しなければならないという。

 

 魔王は勇者パーティの能力を分析して対策を立てるだけでは()()らず、自分が対戦の組み合わせを決める事によって、勝利を確実なものとしようともくろんだようだ。

 

「お前に一杯食わされた……という訳か」

 

 まんまと相手の思惑に乗せられたと知り、勇者がフフッと愉快そうに笑う。不利な展開に追い込まれたにも関わらず、この状況を心の何処かで楽しんでいるようだった。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 勇者が魔王と話していたのと同時刻、別の空間ではバルザックが一人の男と対面していた。

 狂戦士の前に立っていたのは彼と同じ二メートルほどの背丈がある、忍者を彷彿(ほうふつ)とさせる細身の体格の黒騎士……不死騎王ブレイズだ。

 

「アンタが俺の相手をしてくれるってのか。これはこれで面白(おもしれ)ぇ」

 

 狂戦士は激闘の始まりを予感してニタァッと口元を(ゆが)ませた。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 老魔道士ツェデックの前にいるのは、赤い着物を着て頭に(ツノ)を生やした女……鬼姫だ。

 性にふしだらな女と、飄々(ひょうひょう)とした性格のエロ(じい)……ある意味似た者同士の対決となる。

 

「ムホホッ……これまで数々のおなごを(とりこ)にしてきたじじいのテクニック、見せてやるわい」

 

 老魔道士はあからさまにいやらしい笑みを浮かべて、女と戦える事を喜んだ。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 ザムザの前には三人の女が立つ。それは鬼姫を除いた残りの女連中……ルシル、レジーナ、なずみだ。

 他の組み合わせが一対一であるのに対して、ここだけは一対三になっていた。魔王が戦力を分析した結果そうなったのだ。

 

(弱小組でも、三人集めれば俺に勝てると踏んだか? だとしたら随分(ずいぶん)()められたものだな……)

 

 ザムザは内心自分の力を(かろ)んじられたのではないかと不満を抱く。

 

「自分だけ余り物を押し付けられたんじゃないかと不満があっただろう……だが何も心配する事は無い」

 

 レジーナはそんな人斬りの心情を見透(みす)かしていた。自分達が他の強豪連中より劣る認識をされていたのは、とうに把握済みだ。

 

「私達が単なる寄せ集めの集団でない事を……お前はすぐに知る事になる!!」

 

 自分達が決して弱小の集団でない事を強い口調で告げる。

 

 三人の女達はこれまでの戦いと変わらぬ格好をしていたが、ルシルが左手の中指に銀の指輪を()めていた点だけが異なる。それがどのような効果を秘めていたかは分からないが、人斬りは別段気にも()めない。

 

「ザムザ……戦いが始まる前に一つ聞いておきたい事がある」

 

 両陣営が相手の出方を(うかが)うように(にら)み合っていた時、レジーナが不意に口を開く。

 

「お前が金で雇われての人斬りを生業(なりわい)としている事は想像が付く……だからこそ知りたい。お前は何故勇者に付いていき、何の(ため)に戦う? 正義の心を持っている訳ではなく、労力に見合った報酬が得られる訳でもないのに、お前が勇者と行動を共にする理由は何だ?」

 

 ザムザが勇者パーティにいる理由を聞き出そうとする。自分の利益の(ため)にしか戦わなそうに見える人物が、勇者の仲間でいる事に疑問を感じたようだ。何か深い事情があるなら、それを知っておきたい気持ちも彼女の中にはあった。

 

「……これから死ぬ貴様に言う必要はあるまい」

 

 ザムザがボソッと小声で(つぶや)く。自分の過去を打ち明ける事に全く関心が無いようで、反応はかなり()()ない。

 

(くだ)らんお喋りに付き合う性分(しょうぶん)ではない……すぐにケリを付けてやる」

 

 会話を一方的に打ち切ると、戦いの始まりを告げるように右手をサッと横に振る。彼の右手に乗っていた(タカ)がバサバサと翼を動かして大空へと羽ばたいて、彼から十メートル真上にある空を、戦場全体を見渡すようにグルグルと旋回する。時折(ときおり)ピーーヒョロロロロと声に出して鳴く。

 

 人斬りは左腰に()してあった(さや)から一振りの刀を抜いて、両手で握って構える。レジーナはミスリルソードを、なずみは短刀を、それぞれ腰に()してあった(さや)から抜いて構える。

 

「大地と大気の精霊よ、(いにしえ)の盟約に(もと)づき、我に力を与え(たま)え……全能強化(マイティ・ブースト)ッ!!」

 

 ルシルが両手で(いん)を結んで強化魔法を唱える。三人の体が(まばゆ)い金色のオーラに包まれた。

 

「ゼウスの(じい)ちゃんによる強化が十倍……この魔法による強化が十倍ッ! 合わせて百倍の肉体強化が、今のオイラ達に上乗せされてるッス! これだけ強くなれれば、オイラ達でも世界を救った勇者の仲間と互角にやり合えるッスよ!!」

 

 なずみが、自分達がこれまでの百倍の強さになったと豪語する。本来格上の相手と戦えるようになる条件が整ったと勝利への自信を(のぞ)かせた。

 魔王が余り物と揶揄(やゆ)されかねない三人を一人の強敵にぶつけたのは、この戦法で戦う事を想定したもののようだ。

 

 むろん五分が経過すれば、ルシルの十倍魔法の効果は切れる。そうなればゼウスの力が残っていたとしても、敗北は(まぬが)れない。

 五分の間に戦いを終わらせなければならない、時間との勝負になる。

 

(百倍か……成程(なるほど)、それだけ能力が底上げされたのであれば、俺と対等に渡り合えたとしても不思議ではあるまい)

 

 少女の言葉を聞いてザムザが「フム」と声に出して(うなず)く。彼女の言った通りであれば、確かに互角の勝負が成立する根拠たりえると、相手の()(ぶん)に納得する。

 

(だがそうであれば、術の唱え主であるメガネ女を真っ先に仕留めれば良いだけの話……!!)

 

 相手の戦術の欠点を心の中で指摘して、早急に術の効果を切れさせようと思い立つ。

 

 今後の方針が決まると、両手で握った刀を水平に構えたまま、ゆっくりと足音を立てずに歩き出す。

 五歩ほど前へと進んだ次の瞬間、ザムザの姿が三人の少女の視界からフッと消えた。

 

 数秒が経過した後、ルシルの背後にワープしたように人斬りが姿を現す。

 ルシルは三人の最後列に、二人に守られる形となって配置されており、そこに一瞬で回り込まれた格好だ。

 

「ムンッ!」

 

 ザムザは(かつ)を入れるように一声発すると、刀を横()ぎに振って女の胴体を狙う。

 ズバァッと肉の(かたまり)を斬った音が鳴り、女の体が上と下半分ずつに分かれる。切断面から上の胴体がズルリと音を立てて、横に数センチずれる。

 

(やった! 確かな手応えあり!!)

 

 肉を斬った感触が手に伝わり、ザムザは間違いなく女を()ったのだと確証を得る。一瞬心の中に大きな喜びが湧いた。

 

 だが二つに分かれた女の体は白い霧へと姿を変えて、バラバラに散っていって跡形もなく消滅する。肉を斬ったというのに血が一滴も流れない。

 

 数秒後、ザムザから十メートル離れた大地にルシルが透明化を解除したようにフッと現れる。刀で斬られた事によるダメージを全く受けていない。

 直後、彼女が左手の中指に()めていた銀の指輪がガシャァンッ! とガラスのように(もろ)く砕けた。

 

「馬鹿な……俺は間違いなく貴様を()った! 幻術を斬った訳ではない(はず)だ! にも関わらず、何故貴様は生きている!?」

 

 女が生きていた事実が(にわ)かに受け入れられず、ザムザが声に出してうろたえる。普段の冷静な彼からは想像も付かないほど困惑しており、女が生き延びた理由を問い(ただ)さずにはいられない。

 人斬りからすればあってはならない話だ。間違いなく肉を斬った感触があったのに、相手は(かす)り傷一つ負っていないのだ。男は一瞬たぬきに化かされたのではないかと、そう考えた。

 

「……その理由がこれですよ」

 

 ルシルがそう言いながら、粉々に砕けて地面に散らばった指輪の破片を指差す。

 

「一撃回避の指輪……装備者が攻撃を受けた瞬間、それがどんな攻撃だったとしても、装備者を離れた場所へと転移させる! 装備者が受けたダメージは指輪の魔力によって全回復して、力を使い果たした指輪はバラバラに砕ける! ザガート様が今回の戦いのために魔力で生成して、私に与えて下さった品!!」

 

 指輪の効果について詳細に明かす。装備者を安全な場所にテレポートしてくれる事、どんな一撃だろうと指輪が傷を(いや)してくれる事、その代償で指輪が砕ける事……それらの事実を包み隠さず教える。最後に魔王自身が創作した宝具である事を付け加えた。

 ザガートが勇者に殺された時に付けていた『命の指輪』とは一見似ているようでも、その性質は大きく異なる。

 

 人斬りの攻撃は確かに当たっていた。だがその痛みは指輪によって瞬時に回復したため、少女は無傷だったというのだ。

 

「だがそうであるならば、指輪を失った貴様をまた殺せば良いだけではないか」

 

 ザムザが戦術の(あやま)りを指摘する。指輪が壊れた以上同じ手は使えないだろうと、至極()(とう)な意見を述べる。

 

「……これを見ても同じ事が言えますか」

 

 ルシルがニタァッと邪悪な笑みを浮かべて、服の左右のポケットにそれぞれの手を突っ込む。中に入っていた何かをワシ(づか)みにすると、手をポケットから出す。

 握った手を相手が見える位置に持っていくと、指を開いて中にあったものを見せる。

 

「……ッ!!」

 

 少女が手に持っていたものを見て、ザムザが顔をこわばらせた。

 

 彼女の手にあったもの……それは凄まじい数の指輪だった。一つだけだと思っていたものが、無数にあったのだ。

 その総数は両手合わせて三十九個にも(のぼ)る。少女はそのうち一つを左手の中指に()めると、残りをポケットにしまう。

 

「ザガート様はこの指輪を四十個私にくれました。つまり私を殺すためには、四十一回は殺す必要があるという事です。それでも私を狙いますか?」

 

 指輪のストックが無くならない限り、少女を完全には殺し切れない事実を伝える。最後にわざと挑発する言葉を付け加えた。

 

 いくらメンバーの中で最弱とはいえ、何度殺しても生き返る女を延々と狙い続けていては相手に付け入る(すき)を与える。一対一ならまだしも、三対一でそれをやってしまう行為は得策とは呼べない。

 

 ザムザは思い通りに事が運ばない悔しさのあまり「グヌヌ……」と声に出して(うめ)いた。

 

(仕方あるまい……先に他の二人を始末して、最後に残ったメガネ女を片付けるとしよう)

 

 ルシルを殺すのを後回しにして、残りの二人を優先的に片付けようと思い立つ。

 レジーナを次なるターゲットとして狙い定めると、一振りの刀を両手で握ったまま、彼女のいる方へと歩き出す。数歩前に進んだ瞬間、男の姿がフッと消えた。

 

 数秒後、王女の背後に人斬りがワープしたように姿を現す。

 

(流石にこの女は指輪を付けていまいッ! ここで死に絶えるがいい!!)

 

 死を宣告する言葉を心の中で発すると、刀を横()ぎに振って女の胴体に斬りかかる。

 後ろを振り返ってからでは防御も回避も間に合わないタイミングだ。ザムザは内心勝ったと、胸の内でそう確信した。

 

 だがレジーナは後ろを振り返らないまま右手に持っていた剣を自身の背後に回して、刃を垂直に構えて相手の攻撃に備える盾代わりとする。互いの刃と刃がぶつかり合って『十』の形になると、ギィンッ! と激しい金属音が鳴って、大量の火花が散った。

 

「何っ!!」

 

 ザムザが驚きの言葉を発しながら、慌てて飛び退()く。女に攻撃を防がれた事実が(にわ)かに受け入れられず、ショックを受けたような棒立ちになる。

 レジーナは後ろを振り返ると、相手が動揺した姿を見てニヤリと笑う。想定通りに事が運んだ喜びに胸を(おど)らせながら、魔王に伝授された作戦を思い出す。

 

 

 

 良いか三人とも、よく聞け。ザムザが気配を消して近付いてきた時、ヤツは正面からは絶対に斬りかからない。正面からでは殺気が芽生えてから、相手がガードや回避するタイミングが間に合ってしまうからだ。ヤツは反応のタイムラグを狙って常に背後から斬りかかる。

 一度防がれた攻撃を立て続けにやるとは考えにくいが……それでもヤツがもう一度姿を消したら、その時は相手の利き腕と逆の方向から狙ってくるはずだ。そこからの攻撃を防ぐように心がけろ。二度も防がれたらヤツは完全に対策を取られたと思って、もうこの技を使わなくなるだろう。

 

 

 

 ……以上が、魔王が三人に伝授したワープ斬り対策の全容だ。

 敵が背後から襲ってくると読めていた(ため)、王女は適切に対処する事が出来たのだ。

 

 ザムザはしばし今後の方針について思い悩むように黙り込んだが、意を決したように刀を握り直す。さっきと同じ構えになると再びレジーナに向かってトコトコと歩き出す。数歩前に進むとワープしたようにフッと姿が消える。

 

(利き腕と逆の方向……それは私から見て左ッ!!)

 

 レジーナは右手に持っていた剣を両手で握り直すと、刃を垂直に構えたまま左に九十度向きを変える。

 直後ブォンッと風を切る音を鳴らしながら水平に振られた刀が女の剣と衝突して、またも大きな金属音が鳴って火花が散る。ザムザが女の左側面にワープして刀を振り、それが防がれたのだ。

 

「……ッ!!」

 

 ザムザは攻撃を防がれた事に絶句しながら慌てて後ろに下がる。女から大きく距離を開けると、しばらく考え事に没頭したように茫然(ぼうぜん)と立ち尽くす。渾身の技を同じ相手に二度も防がれた事がよほどショックだったようだ。

 

(あの女、俺の『気配消し斬り』を二度も防ぐとは……一度目は(ただ)の偶然だったと言い張れても、二度目は完全に軌道を読まれていたッ! もはやこの技ではこいつらを殺す事は出来ないというのか!?)

 

 想定外の事態に驚いたあまり冷静さを失う。頭の中を思考がグルグルと駆け回って考えがまとまらず、今後の戦術を思い描けない。完全に計算を狂わされた形となり、深いパニックに(おちい)る。ベテランの暗殺者である彼にとって、ただの女にこの技を止められるなど思いも()らない事だ。悪い夢であって欲しいとさえ感じた。

 

 レジーナはザムザが石化したような棒立ちになった姿を見て、一瞬どうすべきか迷う。わざと相手の攻撃を誘い出すために(すき)だらけのフリをしたんじゃないかという考えが頭の中にあった。

 だが恐らくそうではない、本当に彼が困惑したのだろうと判断して、今が攻撃を仕掛ける絶好のチャンスだと思い立つ。

 一振りの剣を両手で握って構えると、正面の敵に向かって全力でダッシュする。

 

「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーーッッ!!」

 

 腹の底から絞り出したような雄叫びを発しながら剣で斬りかかろうとした。

 ザムザは戦闘中にも関わらず集中力を()いていた事に気付いて、慌てて正気に立ち返る。今やるべき事を瞬時に把握すると、刀を両手で握って構える。

 

「キェェェェェェエエエエエエエエーーーーーーーーッッ!!」

 

 これまでの()(もく)なイメージからかけ離れた武闘家のような奇声を発すると、女に向かって全速力で駆け出す。完全に気配を消すのをやめて、揺るぎない相手への殺意を剥き出しにする。

 

 

 

 人斬りと女騎士、二つの影が地上で交差した瞬間ギィンッ! とけたたましい金属音が鳴る。

 それでも二人は歩みを止めずに走り続けて、互いに十メートルほど離れ合った地点で足を止める。相手に背を向けて剣を振り終えた姿勢のまま微動だにしない。

 

 二人は剣を振ったポーズのまま岩のように固まる。十秒、二十秒が経過しても全く動こうとしない。その状態が永久に続くかに思われた時……。

 

「……ウウッ」

 

 レジーナが(うめ)き声を漏らしながらガクッと(ひざ)をつく。

 直後彼女の左の二の腕に、時間差でピッと一本の赤い線が入り、そこからツゥーーッと血が(したた)り落ちる。深手を負った訳ではないが、斬り合いにおいて敗北した事を(うかが)わせる流れだ。

 

 王女は腕の傷を(かば)うように右手で押さえたまま立ち上がろうとしない。

 ザムザは後ろを振り返り彼女が負傷した姿を見てニヤリと笑う。

 勝った……その言葉が頭の中をよぎりかけた瞬間。

 

「……ッ!!」

 

 ザムザが頭に被っていた(わら)を編んだ(かさ)、その前面、顔の左半分を覆い隠していた部分が縦にピッと裂けて、小さな切れ込みが入った状態になる。

 レジーナが後ろを振り返ると、(わず)かな隙間から見えた男の左目が、太陽の光を反射して一瞬キラリと光ったように見えた。

 

「グッ……」

 

 ザムザが笠の切れ込みが入った箇所を慌てて左手で隠す。見られたくないものを見られたと言いたげに顔をうつむかせたまま絶句する。

 王女は男の目が光ったのを見て激しい違和感を覚える。彼が何か重大な秘密を隠しているのではないかと疑念が湧く。

 

(人間の眼球は確かに水晶体で出来ているが、さっきの光の反射は明らかにそれとは異なるものだ……ヤツの(まぶた)に入っているのは、本物の眼球じゃないのか? いずれにせよ、顔を見られたくないから笠を被っているのは確かなようだ)

 

 相手の身体的特徴に思いを(めぐ)らせたが、断言するまでには至らず、推測の域を出ない。中途半端なまま仲間に情報を伝えてもかえって混乱を招く危険性があるので、もう少し情報が集まるまで黙っておく事にした。

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