いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
ザガートが決闘の舞台として選んだ場所……それは昨日彼が勇者パーティと戦ったのと全く同じ荒野だった。魔王が命を落とした大地にはまだ血痕が残っており、激しい戦いがあった事実を物語る。
勇者一行が約束の場所まで来ると、二人の男と四人の女が彼らを待ち構えていた。それは言うまでもなく魔王ザガートと不死騎王ブレイズ、そして鬼姫ら女の仲間達だ。勇者に送り付けた果たし状に六人の名前が書かれており、相手に素性は知れ渡っている。
「ムホホ……かわいい
四人の美女を前にしてツェデックが鼻の下を伸ばす。じゅるりと口から
「今度は四対六ってワケか……ワクワクするぜ」
バルザックが強敵を前にしてニタァッと笑う。
敵の方が数で
「……」
ザムザは相変わらず黙り込んだままだ。他の仲間が流暢に話している状況でも、一言も喋らない。
「ザガート……まさか本当に生き返ったとはな。正直言って驚いたよ。どうやって生き返ったか、方法を聞きたいくらいだ」
最後を締めくくるようにアランが口を開く。確実に息の根を止めたにも関わらず魔王が生き返った事実に心底驚嘆しており、どんな方法を使ったのか興味が湧く。
「だがもし不死身だったとしても、百回生き返ったお前を、俺は百回ころ……」
何度再生しようと魔王を倒す決意を、勇者が述べようとした瞬間……。
「空間の裂け目よ、開け……
ザガートが唐突に握った右拳を高々と振り上げて、呪文の詠唱らしき言葉を叫ぶ。するとブォンッと奇妙な音が鳴り、アラン達の真下にある地面に大きな丸い影のような物体が生まれる。
影は真上に立っていた四人を、底なし沼のようにズブズブと引きずり込んでいく。それは異空間に繋がるゲートのようだ。
「うおおおおおおおおッ!!」
アランが思わず大声で叫ぶ。手足を激しく動かして吸い込みから逃れようとしたが、なす
「さて……では俺達も行くとしよう」
四人が吸い込まれたのを見届けると、ザガートがタタッと走っていって穴に向かってピョーーンとジャンプする。穴は自ら飛び込んできた魔王をズブズブと
他の仲間達も次々に穴へと飛び込んでいき、全員が影に吸い込まれた状態となる。
荒野にいた全ての者を呑み込むと、穴は閉じるように縮小していって、消えて無くなる。
そして誰もいなくなった。
◇ ◇ ◇
「うっ……」
数秒ほど意識を失っていたアランが目を開けると、数メートル離れた大地にザガートが立っていた。
周囲を見回すとそこはさっきと変わらぬ荒野だったが、少し様子がおかしい。何処を見ても彼と魔王以外に人の姿が見当たらないのだ。地面にあった血痕も、最初からそこに無かったかのように消えている。
「ここは……さっきとは違う場所なのか!?」
アランが頭の中に湧き上がった疑問を口にする。いくつかの情報を
「ほう……さすがは勇者。察しが良い」
ザガートが勇者の言葉を肯定しながらニヤリと笑う。
「そうだ……お前の言う通り、ここはさっきまでとは異なる空間に存在する、俺が用意したバトル・フィールド!! 四つに分断されたエリアは
自分達が今いる世界が、現世から隔絶された空間であると伝える。空間を越えて
魔王は勇者パーティの能力を分析して対策を立てるだけでは
「お前に一杯食わされた……という訳か」
まんまと相手の思惑に乗せられたと知り、勇者がフフッと愉快そうに笑う。不利な展開に追い込まれたにも関わらず、この状況を心の何処かで楽しんでいるようだった。
◇ ◇ ◇
勇者が魔王と話していたのと同時刻、別の空間ではバルザックが一人の男と対面していた。
狂戦士の前に立っていたのは彼と同じ二メートルほどの背丈がある、忍者を
「アンタが俺の相手をしてくれるってのか。これはこれで
狂戦士は激闘の始まりを予感してニタァッと口元を
◇ ◇ ◇
老魔道士ツェデックの前にいるのは、赤い着物を着て頭に
性にふしだらな女と、
「ムホホッ……これまで数々のおなごを
老魔道士はあからさまにいやらしい笑みを浮かべて、女と戦える事を喜んだ。
◇ ◇ ◇
ザムザの前には三人の女が立つ。それは鬼姫を除いた残りの女連中……ルシル、レジーナ、なずみだ。
他の組み合わせが一対一であるのに対して、ここだけは一対三になっていた。魔王が戦力を分析した結果そうなったのだ。
(弱小組でも、三人集めれば俺に勝てると踏んだか? だとしたら
ザムザは内心自分の力を
「自分だけ余り物を押し付けられたんじゃないかと不満があっただろう……だが何も心配する事は無い」
レジーナはそんな人斬りの心情を
「私達が単なる寄せ集めの集団でない事を……お前はすぐに知る事になる!!」
自分達が決して弱小の集団でない事を強い口調で告げる。
三人の女達はこれまでの戦いと変わらぬ格好をしていたが、ルシルが左手の中指に銀の指輪を
「ザムザ……戦いが始まる前に一つ聞いておきたい事がある」
両陣営が相手の出方を
「お前が金で雇われての人斬りを
ザムザが勇者パーティにいる理由を聞き出そうとする。自分の利益の
「……これから死ぬ貴様に言う必要はあるまい」
ザムザがボソッと小声で
「
会話を一方的に打ち切ると、戦いの始まりを告げるように右手をサッと横に振る。彼の右手に乗っていた
人斬りは左腰に
「大地と大気の精霊よ、
ルシルが両手で
「ゼウスの
なずみが、自分達がこれまでの百倍の強さになったと豪語する。本来格上の相手と戦えるようになる条件が整ったと勝利への自信を
魔王が余り物と
むろん五分が経過すれば、ルシルの十倍魔法の効果は切れる。そうなればゼウスの力が残っていたとしても、敗北は
五分の間に戦いを終わらせなければならない、時間との勝負になる。
(百倍か……
少女の言葉を聞いてザムザが「フム」と声に出して
(だがそうであれば、術の唱え主であるメガネ女を真っ先に仕留めれば良いだけの話……!!)
相手の戦術の欠点を心の中で指摘して、早急に術の効果を切れさせようと思い立つ。
今後の方針が決まると、両手で握った刀を水平に構えたまま、ゆっくりと足音を立てずに歩き出す。
五歩ほど前へと進んだ次の瞬間、ザムザの姿が三人の少女の視界からフッと消えた。
数秒が経過した後、ルシルの背後にワープしたように人斬りが姿を現す。
ルシルは三人の最後列に、二人に守られる形となって配置されており、そこに一瞬で回り込まれた格好だ。
「ムンッ!」
ザムザは
ズバァッと肉の
(やった! 確かな手応えあり!!)
肉を斬った感触が手に伝わり、ザムザは間違いなく女を
だが二つに分かれた女の体は白い霧へと姿を変えて、バラバラに散っていって跡形もなく消滅する。肉を斬ったというのに血が一滴も流れない。
数秒後、ザムザから十メートル離れた大地にルシルが透明化を解除したようにフッと現れる。刀で斬られた事によるダメージを全く受けていない。
直後、彼女が左手の中指に
「馬鹿な……俺は間違いなく貴様を
女が生きていた事実が
人斬りからすればあってはならない話だ。間違いなく肉を斬った感触があったのに、相手は
「……その理由がこれですよ」
ルシルがそう言いながら、粉々に砕けて地面に散らばった指輪の破片を指差す。
「一撃回避の指輪……装備者が攻撃を受けた瞬間、それがどんな攻撃だったとしても、装備者を離れた場所へと転移させる! 装備者が受けたダメージは指輪の魔力によって全回復して、力を使い果たした指輪はバラバラに砕ける! ザガート様が今回の戦いのために魔力で生成して、私に与えて下さった品!!」
指輪の効果について詳細に明かす。装備者を安全な場所にテレポートしてくれる事、どんな一撃だろうと指輪が傷を
ザガートが勇者に殺された時に付けていた『命の指輪』とは一見似ているようでも、その性質は大きく異なる。
人斬りの攻撃は確かに当たっていた。だがその痛みは指輪によって瞬時に回復したため、少女は無傷だったというのだ。
「だがそうであるならば、指輪を失った貴様をまた殺せば良いだけではないか」
ザムザが戦術の
「……これを見ても同じ事が言えますか」
ルシルがニタァッと邪悪な笑みを浮かべて、服の左右のポケットにそれぞれの手を突っ込む。中に入っていた何かをワシ
握った手を相手が見える位置に持っていくと、指を開いて中にあったものを見せる。
「……ッ!!」
少女が手に持っていたものを見て、ザムザが顔をこわばらせた。
彼女の手にあったもの……それは凄まじい数の指輪だった。一つだけだと思っていたものが、無数にあったのだ。
その総数は両手合わせて三十九個にも
「ザガート様はこの指輪を四十個私にくれました。つまり私を殺すためには、四十一回は殺す必要があるという事です。それでも私を狙いますか?」
指輪のストックが無くならない限り、少女を完全には殺し切れない事実を伝える。最後にわざと挑発する言葉を付け加えた。
いくらメンバーの中で最弱とはいえ、何度殺しても生き返る女を延々と狙い続けていては相手に付け入る
ザムザは思い通りに事が運ばない悔しさのあまり「グヌヌ……」と声に出して
(仕方あるまい……先に他の二人を始末して、最後に残ったメガネ女を片付けるとしよう)
ルシルを殺すのを後回しにして、残りの二人を優先的に片付けようと思い立つ。
レジーナを次なるターゲットとして狙い定めると、一振りの刀を両手で握ったまま、彼女のいる方へと歩き出す。数歩前に進んだ瞬間、男の姿がフッと消えた。
数秒後、王女の背後に人斬りがワープしたように姿を現す。
(流石にこの女は指輪を付けていまいッ! ここで死に絶えるがいい!!)
死を宣告する言葉を心の中で発すると、刀を横
後ろを振り返ってからでは防御も回避も間に合わないタイミングだ。ザムザは内心勝ったと、胸の内でそう確信した。
だがレジーナは後ろを振り返らないまま右手に持っていた剣を自身の背後に回して、刃を垂直に構えて相手の攻撃に備える盾代わりとする。互いの刃と刃がぶつかり合って『十』の形になると、ギィンッ! と激しい金属音が鳴って、大量の火花が散った。
「何っ!!」
ザムザが驚きの言葉を発しながら、慌てて飛び
レジーナは後ろを振り返ると、相手が動揺した姿を見てニヤリと笑う。想定通りに事が運んだ喜びに胸を
良いか三人とも、よく聞け。ザムザが気配を消して近付いてきた時、ヤツは正面からは絶対に斬りかからない。正面からでは殺気が芽生えてから、相手がガードや回避するタイミングが間に合ってしまうからだ。ヤツは反応のタイムラグを狙って常に背後から斬りかかる。
一度防がれた攻撃を立て続けにやるとは考えにくいが……それでもヤツがもう一度姿を消したら、その時は相手の利き腕と逆の方向から狙ってくるはずだ。そこからの攻撃を防ぐように心がけろ。二度も防がれたらヤツは完全に対策を取られたと思って、もうこの技を使わなくなるだろう。
……以上が、魔王が三人に伝授したワープ斬り対策の全容だ。
敵が背後から襲ってくると読めていた
ザムザはしばし今後の方針について思い悩むように黙り込んだが、意を決したように刀を握り直す。さっきと同じ構えになると再びレジーナに向かってトコトコと歩き出す。数歩前に進むとワープしたようにフッと姿が消える。
(利き腕と逆の方向……それは私から見て左ッ!!)
レジーナは右手に持っていた剣を両手で握り直すと、刃を垂直に構えたまま左に九十度向きを変える。
直後ブォンッと風を切る音を鳴らしながら水平に振られた刀が女の剣と衝突して、またも大きな金属音が鳴って火花が散る。ザムザが女の左側面にワープして刀を振り、それが防がれたのだ。
「……ッ!!」
ザムザは攻撃を防がれた事に絶句しながら慌てて後ろに下がる。女から大きく距離を開けると、しばらく考え事に没頭したように
(あの女、俺の『気配消し斬り』を二度も防ぐとは……一度目は
想定外の事態に驚いたあまり冷静さを失う。頭の中を思考がグルグルと駆け回って考えがまとまらず、今後の戦術を思い描けない。完全に計算を狂わされた形となり、深いパニックに
レジーナはザムザが石化したような棒立ちになった姿を見て、一瞬どうすべきか迷う。わざと相手の攻撃を誘い出すために
だが恐らくそうではない、本当に彼が困惑したのだろうと判断して、今が攻撃を仕掛ける絶好のチャンスだと思い立つ。
一振りの剣を両手で握って構えると、正面の敵に向かって全力でダッシュする。
「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーーッッ!!」
腹の底から絞り出したような雄叫びを発しながら剣で斬りかかろうとした。
ザムザは戦闘中にも関わらず集中力を
「キェェェェェェエエエエエエエエーーーーーーーーッッ!!」
これまでの
人斬りと女騎士、二つの影が地上で交差した瞬間ギィンッ! とけたたましい金属音が鳴る。
それでも二人は歩みを止めずに走り続けて、互いに十メートルほど離れ合った地点で足を止める。相手に背を向けて剣を振り終えた姿勢のまま微動だにしない。
二人は剣を振ったポーズのまま岩のように固まる。十秒、二十秒が経過しても全く動こうとしない。その状態が永久に続くかに思われた時……。
「……ウウッ」
レジーナが
直後彼女の左の二の腕に、時間差でピッと一本の赤い線が入り、そこからツゥーーッと血が
王女は腕の傷を
ザムザは後ろを振り返り彼女が負傷した姿を見てニヤリと笑う。
勝った……その言葉が頭の中をよぎりかけた瞬間。
「……ッ!!」
ザムザが頭に被っていた
レジーナが後ろを振り返ると、
「グッ……」
ザムザが笠の切れ込みが入った箇所を慌てて左手で隠す。見られたくないものを見られたと言いたげに顔をうつむかせたまま絶句する。
王女は男の目が光ったのを見て激しい違和感を覚える。彼が何か重大な秘密を隠しているのではないかと疑念が湧く。
(人間の眼球は確かに水晶体で出来ているが、さっきの光の反射は明らかにそれとは異なるものだ……ヤツの
相手の身体的特徴に思いを