いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第112話 人斬りザムザ(後編)

「オイラもやるッス!!」

 

 両者の戦いを見守っていたなずみが、自分も戦いに参加すると息巻く。

 (かさ)が割れた事にザムザが戸惑っている姿を見て、一気に攻撃を(たた)み掛ける絶好のチャンスだともくろむ。

 人斬りから数メートル離れた場所まで来て足を止めると、(ふところ)に手を突っ込んで黒い玉のようなものを取り出す。

 

「これでも食らうッス!!」

 

 そう叫ぶや(いな)や、手に持っていた玉を人斬りめがけて投げ付けた。

 

「シィッ!」

 

 ザムザは笠の切れ目を手で隠すのをやめて少女の方に向き直ると、刀を横()ぎに振って飛んできた玉を一刀両断する。玉は二つに割れると中に入っていた粉塵(ふんじん)のようなものをブチ()ける。粉は(またた)く間に空気中に広がって霧のようになり、ザムザの周囲を完全に覆う。

 

 ザムザがキョロキョロと辺りを見回していると、目の前に突然なずみが姿を現す。

 

「ムンッ!」

 

 男は両手で握った刀を横()ぎに振って少女の姿を斬る。だが少女の体は刃が触れると霧となって散っていき、跡形もなく消滅する。今回は『一撃回避の指輪』の効果ではなく、どうやら本当に幻影を斬ったようだ。

 

 ザムザが(なお)も周囲に目をやると、さっきとは別の場所になずみが立っていた。それも一人や二人ではなく、五人もいて、男をぐるりと取り(かこ)むように配置している。むろん大半は幻影だろうが、全部幻影の可能性すらある。

 

「これがオイラの里の術……忍法霧分身ッス」

 

 五人の幻影のうち一人が口を動かして技名を教える。

 

 ザムザは言葉を発した少女に向かっていき、刀を縦一閃(いっせん)に振ったが、刀が触れるとやはり少女は幻影だったらしく霧となって散る。それと同時に他の四体も姿が消えて、霧の中に立つのは彼一人だけとなる。

 

 ザムザが幻影を斬るために刀を振り終えた瞬間、背後で空気が動いた気配を感じる。その直後一陣の突風が吹き抜けて、彼を覆っていた霧がブワッと吹き飛ばされた。

 霧が晴れて視界が開けた時、男の背後十メートルの地点から少女が男めがけてジャンプしていた。放物線を描くように()んだ後、両手で握った短刀の()(さき)を下に向けて構えたまま落下する。

 

「この角度からの攻撃はアンタにとって完全に死角ッ! 見えてなければ絶対に対処できないッスよ!!」

 

 奇襲の(こころ)みが成功した事を自信満々に叫ぶ。斜め下に急降下する角度で落ちていきながら、相手の背中に刀を突き刺そうとした。

 

「……見えておるわ」

 

 ザムザがそう口にしてニヤリと笑う。背後から奇襲された事に慌てる素振りが全く無く、最初からそう来る事が分かっていたような平然とした態度を取る。

 人斬りは両手で握った刀を右手に持ち替えると、後ろを振り返らないまま自身の背後へと刀を振って、斜め上から急降下してきた少女の斬撃をガードする。レジーナがザムザの一撃を防いだのと似たような動作で、今度はザムザがなずみの攻撃を防いだのだ。

 

 攻撃を防がれたなずみは(すき)だらけのまま人斬りの背後に着地してしまう。全体重を乗せて地上に降り立った衝撃と、相手に作戦を読まれたショックとですぐには動けない。

 

「死ねいッ!」

 

 ザムザは即座に後ろを振り返ると、左手による貫手を繰り出す。よく見ると人差し指と中指の間に細長い金属の針が挟んであり、先端がニュッと飛び出している。それを少女に向けて突き出し、心臓を突き刺そうと(くわだ)てたようだ。

 

「うぁぁぁぁぁぁあああああああああああッッ!!」

 

 貫手が当たったように見えた瞬間、少女が悲鳴を上げて後ろに吹っ飛ぶ。地面に叩き付けられて横向きにゴロゴロ転がった挙句、刺されたと思しき胸の箇所を両手で押さえたままダンゴムシのようにうずくまる。「ウウッ」と苦しそうに(うめ)き声を漏らしたが、流れた血の量は少なく、致命傷にはなっていないようだ。

 

(ほう……あの女、一瞬早く後ろにジャンプして致命傷を避けておったか。なかなかやりよる……おかげで浅かったわ。もしそれが無ければ今頃心臓を貫かれていただろう)

 

 少女が死んでいない姿を見て、ザムザが咄嗟(とっさ)の判断に感心する。

 どうやら彼女は殴られた衝撃で吹っ飛んだ訳ではなく、攻撃が当たる直前に自分からジャンプして、深手を負うのを避けたようだ。だが(かす)かにではあっても針は当たってしまったため、激痛に(もだ)えて着地に失敗したという訳だ。

 

「大丈夫か、なずみッ!」

「なずみちゃん!!」

 

 仲間が負傷した光景を見て、レジーナとルシルが心配になって慌てて駆け寄る。

 針で刺された箇所をルシルが見てみると、やはり心臓に達しなかったらしく傷は浅い。血は出ていたが、おびただしい量ではない。ルシルが『治癒魔法(ヒール・ウーンズ)』を唱えると即座に傷口は(ふさ)がって、何も無い()(れい)な肌になる。

 

 傷が治るとなずみは苦しむのをやめて元気な笑顔になる。二人に助け起こされて体を起き上がらせると、今度は自分の足でゆっくりと立ち上がる。毒を受けた様子は無い。

 

(針には致死性の猛毒が()ってあったのだが……あの女には全く効いていないのか? こいつらは毒に耐性があるというのか……やれやれ、ただの小娘どもと(あなど)っておったが、まったく厄介な連中だな。つくづく忌々(いまいま)しい)

 

 毒を仕込んであったにも関わらず少女が死ぬ気配が無いのを見て、ザムザが内心深く悔しがる。自分の思い通りに事が運ばない展開に若干の(いら)()ちすら覚えた。

 なずみが毒を受けて死ななかったのは、魔王城に入る前にザガートが女達にイヤリングを贈っていたからだ。彼女達はそれを身に付けていた(ため)、状態異常と即死に強い耐性があった。

 

「……」

 

 五体満足な状態に立ち直ったなずみであったが、その顔はとても暗い。作戦が失敗した事に相当ショックを受けたようで、何とも言えないモヤモヤを抱えたようなむず(がゆ)さを表情に浮かべたまま下を向く。かなりストレスが溜まっているようだ。

 

「見えてなければ、絶対かわせない一撃だったのに……」

 

 胸の内に湧き上がった疑問が口を()いて出た。奇襲を防がれた事にどうしても納得が行かず、不満を漏らさずにはいられない。

 

(見えてなければ……か)

 

 なずみが発した言葉をレジーナが頭の中で反芻(はんすう)する。

 明らかに見えてない場所からの奇襲に対応してみせたザムザの能力を、(かさ)の切れ目から一瞬だけ(のぞ)かせた義眼らしき身体的特徴と照らし合わせて、彼の秘密を突き止められるのではないかと思いを(めぐ)らせた。

 

 王女がふと空を見上げると、ザムザのペットである(タカ)が地上から十メートルの高さにある空を円を描くようにグルグルと飛びながら「ピーーヒョロロロロ」と優雅に鳴く姿が視界に入る。

 それを見て王女の頭の中に一つの仮説が浮かび上がる。

 

「ルシル、あの鳥に攻撃魔法をブチ込んでくれッ!」

 

 仮説が真実かどうか確かめようと思い立ち、空を指差しながら仲間に指示を出す。

 王女の言葉を聞いてルシルがコクンと(うなず)く。

 

「青き光よ、雷撃となりて我が敵を()ぎ払え! 雷撃龍嵐(サンダー・ストーム)ッ!!」

 

 天に向かって手のひらをかざすと攻撃魔法を唱える。彼女の手のひらがバチバチッと音を立てて放電すると、そこから青く光る一筋の(いかずち)が空に向けて放たれた。

 

 雷は空を飛んでいた鷹を直撃し、落雷に匹敵する高圧電流で焼き尽くす。

 鳥の羽がチリチリに黒く焼けて、鼻をつくニオイとともに白煙を立ち(のぼ)らせた。

 

「ギィィィェェェェェェエエエエエエエエーーーーーーーーッッ!!」

 

 鷹が化け物のような悲鳴を発して(もだ)え苦しむ。飛ぶ力を失って地上に向かって落ちていったが、完全には死んでいないらしく途中で体勢を立て直してまた飛ぼうとした。

 

「逃がすかぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーッッ!!」

 

 レジーナが大声で叫びながら鳥に向かってジャンプする。相手と同じ高さに達すると剣を縦に振り下ろして獣を一刀両断する。

 鷹は王女の一撃を受けて真っ二つになると、切断面から血を噴きながら地上に落下し、最後は物言わぬ死体になる。電撃では死ななかった鳥も今度こそ本当に息絶える。

 

「……ッ!!」

 

 鷹が息絶えた途端、ザムザが急にうろたえだす。一瞬激しく動揺したように全身をわなわなさせた後、何かを探そうとするように周囲をキョロキョロ見回す。最後は動揺した事を相手に悟られまいと、慌てる動作をやめて落ち着きを取り戻す。

 その後は何事も無かったように平然と立っていたが、自分からは攻撃を仕掛けようとしない。相手が攻めてくるのを待ち構えたように両手で刀を握ったまま、ただ静かに(たたず)む。

 

 レジーナは地面に落ちていた石ころを二個拾い上げて、ザムザめがけてヒュンヒュンッと一個ずつ順番に投げる。ザムザは最初の石ころを刀で叩き落としたが、二個目には反応せずビシッと当たってしまう。万全の状態の彼なら間違いなく反応したはずだ。

 

「……やはりそうか」

 

 人斬りが二個目の石ころに反応しなかった姿を見て王女がニヤリと笑う。自身の中に湧き上がった仮説が間違いなく真実だったと確証が得られた。

 

「ザムザ……お前の両(まぶた)に入っているのは本物の眼球ではない! 眼球を精巧に()して作られた、ガラス玉の義眼ッ! つまりお前は本来目が見えないんだッ! それを(おぎな)うために何らかの方法によって鷹の視覚をお前に繋げていた! 鷹の目に見えているものが、お前の視界として映っていたんだ! 『鷹の目のザムザ』の名が表す通りに!!」

 

 ザムザが盲目の剣士であった事、鷹と視覚を共有して、鷹の目に映ったものが彼の視界として使われていた事……それらの事実を指摘する。笠の切れ目から一瞬見えた男の目が義眼だった事、見えてない角度からの奇襲に対応してみせた事、それらの事象が仮説を真実だと確信させるに至った。

 

 見えない角度からの奇襲に対応できたのは、単に気配を読んだからではない。鷹が(はる)か上空から戦場全体をドローンのように見渡しており、地上では何処から攻撃されようと彼には丸見えだったからだ。

 

「鷹の目を失った今のお前は視覚に頼れないッ! 聴覚に頼って戦うしかない! そうなったとあれば、勝敗は決したも同然!!」

 

 男が完全に目が見えなくなった事を指摘して、王女が勝利を確信した言葉を吐く。

 

「この勝負……私達の勝ちだぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーッッ!!」

 

 戦いを終わらせる意思を大きな声で叫ぶと、男めがけて全速力で駆け出す。両手で握った一振りの剣を縦一閃(いっせん)に振って相手に斬りかかろうとした。

 

「なめるな小娘ぇっ! この人斬りザムザ、たとえ目は見えずとも貴様ら(ごと)きなどに負けはせぬわぁぁぁぁぁあああああああっ!!」

 

 ザムザが大声で怒鳴って女の言葉に反論する。視覚に頼らずとも彼女達相手なら勝てると判断した事を明かす。

 足音で存在を探知したのか、女が走ってきた方角に正確に向き直ると、刀を横()ぎに振って相手の一撃を迎え撃とうとする。互いの剣と剣がぶつかり合って『十』の字を描くと、ギィンッ! と耳鳴りがするほど大きな金属音が鳴る。

 

 両者は剣がぶつかった状態のまま一歩も引かない。剣を握る腕に力を込めて、互いに相手を押し切ろうとしたものの、パワーが拮抗(きっこう)しているらしくどちらかが優勢にならない。ギリギリギリと剣と剣が押し合う音が鳴り、二人の猛者(もさ)が全身を踏ん張らせて(りき)んだような凄い表情になる。

 

 レジーナは剣がぶつかった状態のまま体を前の方に詰めていくと、剣の(つか)を左手に握ったまま、フリーハンドになった右手を相手の背中へと回す。

 

「何のマネ……」

「今だ、なずみッ! やれぇぇぇぇぇぇええええええええーーーーーーーーッッ!!」

 

 王女の行動の真意を人斬りが問いかけた瞬間、女が大きな声で叫ぶ。

 直後男から数メートル離れた背後をくノ一の少女が走ってきていた。両手で握った短刀の刃先を相手の背中に向けたままダッシュして、一気に突き刺そうとする。

 

 人斬りは背中を女の手で(つか)まれていたため回避行動が取れず困惑する。この状況をどう打開すべきか思考を巡らそうとしたものの、そうこうしている間に男の背中に刃物がドスッと突き刺さる。

 

 

 

 ……短刀が根元まで深く刺さると、傷口からおびただしい量の血が(あふ)れだす。

 二人の女と一人の男は一箇所に集まったまま微動だにしない。男の背中に刀が刺さった状態のまま銅像のように固まる。男の傷口からボタッ……ボタッ……と血が(したた)り落ちるだけだ。

 その状態が永久に続くかに思われた時……。

 

「小娘どもに遅れを取るとは……無念なり」

 

 ザムザが小声で悔しがる言葉を吐いて、ズルリと横向きに滑り落ちるように倒れる。地面にドォッと倒れ込むと、何か言いかけたように口元をパクパク動かしたが、声が出ておらず何と言ったかは分からない。『無声の遺言』を言い終えると、ガクッと力尽きてそのまま息絶えた。

 

 なずみは男が死んだふりをしたかもしれないと疑い、近くに落ちていた木の棒を拾って男の体をツンツンと()っつく。男の体はピクリとも反応せず、やはり完全に死んだようだ。

 

 (こと)ここに(いた)って女達三人は人斬りが死んだと確証を得る。

 

「恐ろしい男だった……如何(いか)に百倍の強さになったとしても、三対一でなければ到底勝てる相手では無かった」

 

 レジーナが男の死に顔を眺めながら安堵の溜息(ためいき)を漏らす。強敵に勝った喜びよりも、生きるか死ぬかの重大な局面を切り抜けられた安心感の方が大きい。今回たまたま自分達が勝っただけで、相手が勝利してもおかしくなかった……そう思わずにいられない。

 

「忍者一族の頭目であるオイラの父上より、暗殺の技量は上だったかもしれないッス」

 

 なずみが自分の父親を引き合いに出して、男の強さを()(たた)える。自分にとって超えるべき存在だった父親より(さら)に強い猛者(もさ)だった『最強の人斬り』に()(けい)の念を抱く。

 

「……結局、彼の過去について何一つ知る事は出来ませんでしたね」

 

 ルシルが残念そうに(つぶや)く。王女が問いかけたにも関わらず、男の口からは素性について一つとして語られる事は無かった。()(ぎわ)の遺言も聞き取れなかった。(まさ)に『墓まで持っていった』という訳だ。

 

 

 ともあれ、魔王が四つに分けた戦いの初戦、一人の男と三人の女の戦いは彼女達が勝利を収める事となる。

 女達は誰一人欠ける事なく激闘を勝ち抜いた事を深く喜ぶのだった。

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