いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
「我が最大威力の奥義、目に焼き付けて死ぬがいい!!」
鬼姫はそう叫ぶや否や、地面に落ちた刀を拾い上げる。右手に握った刀を頭上に掲げてプロペラのようにクルクル回すと、刀の
「鬼龍剣奥義……
技名らしき言葉を叫ぶと、刀が刺さった地面から黒い影のようなものがみょーーんと伸びていく。それはツェデックの真下に来るとみるみる大きくなっていき、半径五メートルほどの大きな丸い影となる。
「グァァァァアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」
直後、影の中から体長十メートルを超す巨大なイリエワニが顔を出す。
ワニは大きく口を開けて
勝った! 鬼姫がそう確信した瞬間……。
ワニの動きが急にピタリと止まると、魔法を掛けられたように体がどんどん小さくなっていく。最後は目に見えないホコリより小さくなって跡形もなく消える。ワニが出現した穴である丸い影も、スゥーーッと薄れて消えていく。
ワニが消えた場所に一人の男が立っていた。それは化け物に飲み込まれて死んだと思われていたツェデックその人だ。ワニが男の体より小さくなった時、男はワニに対する接触判定が無くなったようにそこにいたのだ。
男は負傷した形跡が全く無く、何もされていないようにピンピンしている。満面の笑みを浮かべて鼻歌を
「ど……どういう事じゃ!?」
目の前の出来事が
これまで
あまりの異常事態に鬼姫は頭がおかしくなりかけたが、ふっと正気に立ち返る。このまま棒立ちになっていても何も始まらないと冷静な思考が働いて、次の行動に移ろうと思い立つ。
「我が力よ……炎の龍となりて全てを焼き尽くせ!
刀を握ってない左手を正面に向けると、魔法の言葉を唱える。彼女の左手に炎が集まっていって一つの
「グオオオオオオーーーーーーッ!」
炎の龍がけたたましい
ツェデックは前回
そのまま炎の龍が老人を焼き殺すかに思われた時――――。
とても信じられない光景が鬼姫の視界に飛び込む。
ツェデックが正面に左手をサッと向けると、彼の手のひらにブラックホールがあるかのように龍が吸い込まれていくのだ。龍は頭のてっぺんからノミのように小さくなっていき、最後はしっぽの先まで老人の体内に取り込まれる。
龍を取り込むと魔力が回復したようにツェデックの全身が一瞬だけ赤く光る。ザガートと戦った時と同じように相手の魔法を吸収したようだ。
「そうか……分かったぞ」
龍が取り込まれた光景を見て鬼姫が
「
一つを除いてあらゆる魔法属性を無効にする技の存在を告げる。ツェデックはそれの使い手であったために属性魔法が通用しないというのだ。事実だとすれば、
「そして何より厄介なのは、魔法を受けるたびに弱点属性がランダムで変化するから、全属性の魔法を順番に当てるという方法が使えぬ事じゃ」
しらみ
「ほう……ザガートですら存在に気付けぬ魔法に気付くとは、大した女じゃ。よもやお前さん、この術の使い手に出会うのはこれが初めてではないという事か?」
鬼姫の言葉を聞いてツェデックが敵ながら
彼女が以前この術の使い手に会ったのではないかと、知っていた理由を聞く。
「ああ……
鬼姫がツェデックの質問に答える。彼女自身が魔王のような存在であった時代、彼女に戦いを挑んだ者の中にこれの使い手がいたという話をする。
ザガートがこの魔法に気付けなかったのは、術の使い手に出会うのはツェデックが初めてだったからというのが真相のようだ。
「だが知った所でどうするつもりじゃ? 相手の弱点属性を見破る技を持ち合わせない限り、
ツェデックが今後の方針を問う。鬼姫が戦術面で
「……どうもこうもない」
老人の言葉を聞いて女がニヤリと笑う。今後の展望を思い描いていたようで、表情に迷いがない。
「魔法が通じぬ相手なら、最初から剣で戦えばよい。簡単な話じゃろう? 以前
魔法に頼らず物理攻撃だけで戦うつもりでいた事、前回の使い手にはそれで勝利した事実を自慢げに伝える。右手に持っていた刀を両手で握り直すと、ツェデックの方を向いて構える。
「ツェデック……貴様の首は我が
敵の命を奪う意思を高らかに宣言する。
ツェデックは相手が肉弾戦で攻めてくるのを警戒したのか、数歩後ろに下がると両手で
「
魔法名を口にすると男の全身が青いオーラのような光に包まれた。
「うぉぉぉぉぉおおおおおおおーーーーーーっ!!」
女は老人が補助魔法を唱えても気にせず突っ走っていく。両手で握った刀を縦に振って相手に斬りかかろうとした。
刃が触れようとした瞬間老人の姿がワープしたようにフッと消える。残像を残しながら大地を
空間の裂け目から木の杖を取り出すと、それを右手に握って構える。
「業火よ放て……
相手に杖の先端を向けて攻撃呪文を唱えると、杖から放たれた火球が女の背中を直撃する。ボンッ! と火球が引火したガスのように爆発した音が鳴り、魔法が命中した箇所の衣服が一瞬で焼け落ちて、中にある皮膚を黒く
「ぐああああああっ!」
皮膚を焼かれた痛みに鬼姫が悲鳴を上げて体をのけぞらせた。深手を負った訳ではないが、それでもかなりの激痛を与えられただろう事は想像に
「馬鹿め!
ツェデックが女の判断を
「弱者をなぶり殺しにするワシの死刑執行の技……とくとその身で味わうがいい!!」
死を宣告する言葉を発すると、鬼姫の周りを一定の距離を保ったまま円を描くようにグルグルと走り出す。音速を超える速さで走る老人の姿は目で追う事が出来ず、まるで彼女を中心として機械が高速で回っているかのようだ。ビュンビュンビュンッと風を切る音が鳴る。
「
老人は円の中心にいる女めがけて攻撃魔法を連続発射する。威力を増すための詠唱をすっ飛ばして、数に任せた戦術に切り替える。全方位から
「ぐぁぁぁぁぁぁあああああああああああッッ!!」
魔法の集中砲火を浴びて鬼姫が悲鳴を上げて
「ああぁっ……あっ……」
情けない声を漏らすと、後ろ向きに崩れ落ちるように倒れる。仰向けに地べたに倒れると、手足を大の字にだらんとさせたままピクリとも動かない。白目を向いて口をポカンと開けたまま死んだように固まる。
死後硬直したのか、刀は右手にしっかりと握られたままだ。起き上がる気配は無い。
「死によったか……だが気を失っただけかもしれん。音を聞いて確かめるとしよう」
ツェデックは攻撃動作を止めると、鬼姫の方に左耳を向けて、聞き耳を立てるような仕草をする。
「フム……確かに死んだようじゃ。心臓は止まっており、呼吸もしておらぬ。内蔵も機能を停止した。ワシの耳はごまかせん……何しろワシの聴覚は聞き耳を立てた時だけ、常人の百倍になるのじゃからな」
女の心音を確かめた事、それによって間違いなく彼女が死んだのだと確信を抱く。
戦いは終わったと確信したためか、老人を覆っていた青いオーラの光が消えてなくなる。補助魔法の効果が消えて、素早さが等倍に戻ったようだ。
ツェデックは木の杖を地面にポイッと投げ捨てると、空間の裂け目から、木を切るのに使うギザギザ
「隷属契約を結ぶには、相手の体の一部が必要になる……お前さんの
老人の首元をフッと一陣の風が吹き抜けた感触が伝わる。
首がカーーッと熱くなる感触を覚えた瞬間、首に横一本に赤い線が入り、そこから真っ赤な血が噴水のように噴き出す。
線が入った箇所が切断面となり、線から上の頭が横にズルリとずれて地面に落下する。
頭だけとなったツェデックが目にした光景……それは死んだはずの鬼姫が上半身を起こして、魔道士の首を刀で
老人の意識はそこで途絶えて、断末魔の悲鳴を上げる間もなく絶命した。
「
鬼姫は相手の死を確信すると、刀を支えにしてゆっくりと立ち上がる。二本の足でしっかり立つと、刀をサッと横に振って刃に付着した血痕を振り払う。
彼女は身体機能を停止させて相手に死んだと思わせる事で油断を誘ったのだ。それが功を
「相手の油断に付け込んで不意打ちで命を奪うなぞ、
「じゃがまぁ……勝ちは勝ちじゃ!!」