いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第115話 勃発! 狂戦士 vs 不死騎王!!

 四つに分断された空間の二箇所で戦闘が始まった頃、不死騎王ブレイズは一人の男と対峙していた。その者とは背中に大剣を背負った、背丈二メートルほどもある筋骨隆々とした大男……狂戦士(バーサーカー)バルザックだ。

 

 両者は数メートルほど離れて立ったまま(にら)み合う。どちらか一方が先に攻撃を仕掛けたりしない。双方(とも)に二メートルほど背丈がある大男が向き合う光景は、それだけでかなり異様だ。

 

「聞いたぜ……アンタ、第七世界の現地人では最強なんだってな。嬉しいねぇ、そんな大物とやり合えるなんて冒険者冥利(みょうり)に尽きるってモンよ」

 

 バルザックが先に口を開く。不死騎王の実力の高さを(ひと)()てに聞いており、評判に名高い強者と剣を(まじ)えられる事を深く喜ぶ。極上の獲物を前にした蛇のように瞳をギラギラさせて、ペロリと舌なめずりした。

 

『最強かどうかは知らぬが……そう呼ばれた事は確かだ』

 

 狂戦士とは対照的に、ブレイズが冷静な口調で答える。(ちまた)で彼をそう呼ぶ声がある事は認めつつも、それが本当かどうかは分からないと念を押す。

 

『こちらからも一つ聞いておきたい。貴公……(オーガ)か?』

 

 今度は不死騎王が質問を返す。狂戦士があまりに常人離れした(たい)()をしていた(ため)、聞いて確かめずにいられない。

 ブレイズも鎧の部分込みなら同じ二メートルだが、それでも男の体のデカさは見るからに異様だ。髪は虎の(ひげ)のように逆立っており、全身の筋肉はゴリラと力勝負で勝てそうなほど発達しており、背中に背負ったバスタードソードは重さ数十キロはありそうだ。

 

 人間種族である事を疑われたとしても不思議は無い。あるいは聖書のゴリアテか、三国志の張飛が目の前にいたら、このような大男であっただろうか。

 

生憎(あいにく)だが、俺はオーガでもトロールでも()ぇ……巨人族の血が混ざったりとかもしてねえ。正真正銘、体を鍛えて、肉を食べて、毎日殺し合いをしてただけの、ただの人間さ」

 

 バルザックが不死騎王の問いに答える。彼が常人離れしたガタイの良いマッチョになったのは血統によるものではなく、過酷な環境がそうさせたというのだ。

 

『そうか……もし気を悪くさせたのなら謝罪する』

 

 ブレイズが無礼な質問をしたかもしれないと()びの言葉を述べる。

 相手を体の大きさで亜人種と決め付けた事が、失礼に当たるのではないかと、そう考えた。

 

「それよりアンタこそ意外だったぜ……もっと喋らねえタイプの人間だと思ってた」

 

 バルザックが、不死騎王の口数の多さに関心を抱く。見た目の()(もく)なイメージに反して積極的に話すタイプであった事に驚きを隠せない。

 

『何故そう思った?』

 

 ブレイズがそのように感じた理由を聞く。

 

「ウチのパーティにザムザっていう東洋人の人斬りがいてな……そいつ必要な事以外は一言も喋らねえ。基本、戦闘中以外は黙ったきりだ。おかげで何考えてんだかサッパリわからねえ……ま、そこがアイツの面白(おもしれ)ぇとこでもあんだけどな」

 

 狂戦士が、自身の仲間の一人について語る。その者が余計なお喋りを一切しないがゆえに、得体の知れない人物であった事を明かす。

 

「アンタはそいつと似た感じに見えたから、案外よく喋るんだなって驚いちまったのさ」

 

 不死騎王を第一印象で彼と同じタイプだと思った事、そうではないと知って感心した事実を伝える。

 

『人里から離れて千年、世捨て人のように生きてきたが……人と話すのはやぶさかではない』

 

 ブレイズが自身の見解を述べる。見る者に寡黙な印象を与える彼であったが、他人との関わりを()っていた訳ではない意思を明確にする。

 

「そうかい……それじゃそろそろお喋りはオシマイにして、バトルをおっぱじめようや」

 

 バルザックが会話の打ち切りを提案して、戦いの始まりを宣言する。一刻も早く殺し合いを始めたくてウズウズしたようだ。

 背中の(さや)から一振りの大剣を引き抜くと、両手で握って構える。男の全身から殺気が(あふ)れだし、周囲の砂がブワッと舞い上がる。

 

 ブレイズも左腰に()してあった鞘から刀を抜いて構える。慎重に相手の出方を(うかが)い、すぐに斬りかかったりしない。

 両者は剣を構えたまま数秒間(にら)み合ったが、やがて狂戦士が口を開く。

 

「楽しいケンカの始まりだぜ……ミスター・ニンジャナイト!!」

 

 バルザックは戦いの始まりを宣言すると、相手めがけて一目散に駆け出す。武器の重量を物ともせずにドガドガと音を立てて走っていく。

 

「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーッ!!」

 

 近接戦の間合いに入ると化け物のような咆哮(ほうこう)を上げながら剣を横()ぎに振る。ブォンッ! と風を切る音を鳴らしながら豪快にスイングされた剣の刃が触れようとした瞬間、不死騎王の姿がワープしたようにフッと消える。

 

「何ッ!?」

 

 敵の姿を見失った事に狂戦士が慌てる。反射的に後ろを振り返ると、男から数メートル離れた大地に不死騎王が刀を構えたまま立つ。

 

『素早さはそれがしの方が(はる)かに上……であれば、勝機は(われ)にあり!!』

 

 ブレイズが自身の優位性を口にする。男の一撃をかわした事によってスピードでは自分の方が(まさ)っていると感じ取り、それによって勝利への揺るぎない確信を抱く。

 

『我が最大威力の一撃を(もっ)て、この勝負を終わらせる!!』

 

 戦いの終わりを告げると、バルザックめがけて一直線に駆け出す。

 

『断滅奥義……虚空閃(こくうせん)ッ!!』

 

 技名らしき言葉を口にした瞬間、またしてもブレイズの姿がワープしたように消えた。

 一陣の突風がバルザックの真横を吹き抜けると、脇腹にドガガガッと何かがぶつかったような衝撃が伝わる。男の背後数メートルに刀を振り終えた構えのブレイズが姿を現す。男は攻撃を受けた姿のまま微動だにしない。

 

 この技はブレイズにとって渾身の切り札だ。今までこの技を受けて生きていられたのはザガートだけだ。魔王には(かす)り傷しか負わせられなかったが、それ以外の者は命を奪われた。本来、生ある者でこの技を受けて生きていられた敵など存在しないのだ。

 

 不死騎王にとって最高威力の奥義……それが命中した事実に、胸を(おど)らせた彼であったが――――。

 

 

 

『……!?』

 

 後ろを振り返り、視界に映り込んだ光景に()(ぜん)となる。

 

 刀で斬り付けた脇腹に目をやると、タンクトップが横一文字に裂けて(はがね)のような肉体があらわになっていたが、皮膚には傷一つ付いていないのだ。ザガートですら掠り傷を負ったというのに、男の体は全くダメージを受けていない。

 

(馬鹿な……!!)

 

 男が無傷であった事に不死騎王がガラにもなく慌てる。想定外の事態にショックを受けたあまり、戦闘中である事も忘れて茫然(ぼうぜん)自失になる。

 

 それは彼にとってあってはならない事だ。刀の一撃は宇宙最硬物質アダマンタイトを豆腐のように切り裂き、鋼より硬いドラゴンの(うろこ)を物ともしない。今まで平気でいられたのは魔王の体だけだ。それを魔界のデーモンでもなければ、オーガでもない、肉を食べて体を鍛えただけの、ただの人間に防がれたというのだ。

 魔力でブーストされた訳でもないただのマッチョな肉体が、アダマンタイトより硬い事実は、男の理解を完全に超えていた。

 

 不死騎王が呆気(あっけ)に取られた棒立ちになった(すき)を見計らい、バルザックが敵に向かって全速力で駆け出す。

 

「オラァッ!」

 

 ケモノのような雄叫びを発すると、両手で握った一振りの剣を横()ぎに振る。

 戦闘中にも関わらず物思いに(ふけ)ていた事に気付いたブレイズは咄嗟(とっさ)に相手の一撃を刀で受けようとしたが、両者の剣がぶつかると不死騎王の体がフワリと宙に浮く。

 

『ぐぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおッッ!!』

 

 次の瞬間、男は鼻息で吹き飛ばされたホコリのようにあっけなく吹き飛んだ。放物線を描くように飛んでいって墜落するように地面に激突すると、そのまま十メートル以上押されて豪快に大地を(えぐ)り上げた挙句、体が半分大地にめり込んで倒れたまま止まる。

 男を吹き飛ばした衝撃はかなりのものだが、それでも彼の右手にはしっかり刀が握られていた。

 

(なんというパワー……万全の状態でなかったとはいえ、(うけ)()すら取れないとは。スピードはこちらの方が上だが、パワーは向こうの方が上だというのか)

 

 ブレイズが地面に埋まったまま相手の強さに思いを()せた。パワー重視タイプなのは見た目だけで伝わるほどだが、それでもこれほどとは考えもしなかった。完全に想定を上回る能力の高さに、相手の実力を()めていたのではないかと後悔する思いに駆られた。

 

(この男……本当に人間か?)

 

 思わずそんな言葉が頭をよぎる。あまりに常人離れした身体能力に、「俺は人間だ」と自己申告した相手の主張を疑いたくなる。ただ体を鍛えただけでここまで強くなれたなど、(にわ)かには信じがたい話だ。

 

 地面に埋まったまま考え事に(ひた)っていたブレイズだったが、このまま考えていても(らち)が明かないと冷静に思い直す。力を振り絞って立ち上がると、体中に付いた泥と砂を左手でパンパンッと叩いて払う。相手の方に向き直ると、右手に持っていた刀を両手で握り直す。

 

(一撃で傷が付かぬのなら、傷が付くまで何撃でも加えるのみ!!)

 

 相手の命を奪うまで何度でも斬る決心を固める。根気強く(はがね)の肉体を斬り続けていれば、いつかは致命傷を与えられるだろうと思い立つ。

 今後の方針が決まると、大地を強く蹴って敵に向かって駆け出す。さっきと同様に相手の脇腹を斬る算段だ。

 

「……そう来ると思ったぜ」

 

 不死騎王の行動を目にしてバルザックがニヤリと笑う。邪悪な(たくら)みをした悪魔のようにククッと声に出す。この流れは彼にとって予測済みだったようで、想定通りの展開になった事に胸を(おど)らせた。

 

 狂戦士は剣の(つか)から左手を離すと、手のひらを正面に向ける。聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呪文のような言葉を唱えだす。

 

「地獄の鎖よ、我が敵を捕縛せよ……鮮血鉄鎖(ブラッド・チェイン)ッ!!」

 

 魔法名らしき言葉を大声で叫ぶ。すると不死騎王の真下にある大地に円形の魔法陣が浮かび上がり、そこから血のような赤色をした六本の鉄製の鎖が飛び出す。

 鎖はブレイズの体にグルグルと蛇のように巻き付く。そのままガッチリと固定して、獲物を捕らえたように離そうとしない。

 

(何ッ!? この男、まさか呪文を……)

 

 狂戦士が魔法を使用した事に不死騎王が驚きを隠せない。パワー偏重主義だと思っていた男が高度な呪文を使用した事実に虚を突かれた思いがした。

 不死騎王は鎖を力ずくで振りほどこうとしたが、彼の怪力を(もっ)てしても鎖を破壊するのは容易ではない。それもそのはず、『鮮血鉄鎖(ブラッド・チェイン)』の強度は術者の腕力に比例するのだ。狂戦士の方がパワーで上回っていれば、鎖を外せないのが道理だ。

 

 不死騎王が術を解けないのを見て、バルザックが千載一遇の好機とみなす。

 この機を逃すまいと右手に持っていた剣を両手で握り直すと、剣先を地面に付けた状態で構える。そのまま力を()め込むように数秒間固まった後、両目をグワッと見開く。

 

「大地よ割れろ……龍爪羅刹斬(りゅうそう・らせつざん)ッ!!」

 

 技名らしき言葉を大声で叫ぶと、地面に下ろした剣をスイングするように豪快に振り上げた。ブォンッ! と風を切る音が鳴ると、剣を振った地点から一陣の突風が吹き抜ける。風が通り抜けた場所の大地が二つに割れて、巨大な底無しの裂け目が出来上がっていく。技名の叫び通りに、剣から放たれた風圧で大地を割ったのだ。

 

 風は鎖で縛られて動けないブレイズが立っていた場所を通り抜ける。そのまま彼の真下に底無しの裂け目が生まれる。

 

『うおおおおおおおおッ!!』

 

 魔法の効果である鎖は消えて、ブレイズは真下に生まれた裂け目へとなす(すべ)なく落ちていった。裂け目は本当に底無しだったらしく、いつまで()っても地面に激突した音が鳴らない。「ウオーーーッ、オーーーッ、オーーッ」という悲鳴が反響しながら何度も鳴るだけだ。その声も次第にフェードアウトして、最後はピタリと()む。

 

 不死騎王が穴に落ちて数秒が経過したが、裂け目から出てくる気配は無い。ただ(かわ)いた荒野の風が吹き抜ける音がビュウビュウ鳴るだけだ。

 

「まさかこれでオシマイってこたぁ……ねえよな?」

 

 敵が大地の裂け目に()まれた姿を見て、狂戦士が(つぶや)く。彼にとって渾身の大技であったと思われる一撃だが、勝利を確信してはいない。むしろ相手がこの程度で死ぬはずは無いという臆測すら抱いた。

 

 男の期待に応えるように、大地の裂け目からブレイズと思しき人影がカエルのようにジャンプする。裂け目から離れた場所にスタッと着地すると、狂戦士の方に向き直る。右手にはしっかり刀が握られており、深手を負った様子も無い。

 

「……そう来なくっちゃ」

 

 不死騎王が無事だった姿を見て、バルザックがニタァッと口元を(ゆが)ませた。相手の生存を心から歓迎しており、まだ死闘を楽しめる喜びに胸を(おど)らせてワクワクさせた。

 この男は本気で相手を殺しにかかって(なお)、互角の勝負を続けたいのだ。一見矛盾したように見える発想は彼が戦闘狂ならばこそだ。

 

龍爪羅刹斬(りゅうそう・らせつざん)……見事な技であった。もし食らったのが生身の時のそれがしであったなら、今の一撃で確実に命を()たれただろう』

 

 当の不死騎王は自身を奈落に突き落とした技の威力に感嘆する。命を奪われこそしなかったものの、大地を割った剣の風圧はまことに驚嘆すべきものがあり、それを繰り出した男の怪力を素直に称賛する。

 

『ならばそれがしも、この技を(もっ)て貴殿の思いに応えよう!!』

 

 そう叫ぶや(いな)や、右手に握った刀を天高く掲げる。刀の()(さき)は騎士の真上にある空を指している。

 

『冥王剣……(ツルギ)(アメ)ッ!!』

 

 技名らしき言葉を叫ぶと、バルザックの頭上にある空に魔力と思しき青い光が集まっていって、一つの大きな(かたまり)が出来る。次の瞬間、そこからオーラで出来た青い光の剣が、真下にいるバルザックめがけて雨のように降り注ぐ。

 

「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーッ!!」

 

 何十本、何百本と降り注ぐ剣の雨を浴びて、バルザックが大きな悲鳴を上げる。剣はドガガガガガガッと音を立てて地面に突き刺さり、モクモクと煙が立ち(のぼ)る。男の姿が煙に隠れて見えなくなる。

 剣の発生源である魔力の塊は時間とともに小さくなっていって、やがて完全に消えてなくなる。それに(ともな)い剣の落下がピタリと()む。男がどうなったかは分からない。

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