いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第116話 刀はもう一振りあるッ!

(常人ならば、これで仕留められるはずだが……)

 

 狂戦士が剣の雨を浴びて煙に()まれた姿を見て、ブレイズが物思いに(ふけ)る。これで勝敗が決まってほしい思いと、相手がこの程度で死ぬはずは無いという現実的な考えがぶつかり、敵の生死の判断が付かない。

 これからどうすべきか迷いながら、相手の方をじっと見ていたが……。

 

『……!!』

 

 何らかの殺気を感じたのか、慌てて数歩後ろに下がる。その場に立ち止まって相手の攻撃に備えるように身構える。

 次の瞬間、煙の中からドガァッ! と何かを蹴り飛ばしたような音が鳴り、光の剣が十本以上弾き飛ばされる。そのうち一本はブレイズがさっき立っていた場所に飛んできて、ガランッガランと地面に転がる。

 モクモク立ち込めていた煙が消えて無くなると、五体満足な姿の狂戦士がそこに立っていた。剣は百本以上地面に刺さっていたが、男には一本たりとも刺さっていない。あれだけ攻撃を受けたにも関わらず、体には(かす)り傷一つ負っていない。タンクトップすら裂けていない、全くの無傷だ。

 

面白(おもしれ)ぇ技だったぜ……だが虚空閃(こくうせん)の方が威力は上だったな」

 

 バルザックが口元を(ゆが)ませてニマァッと笑う。自身を襲った技の威力に素直に感心しながらも、最初の技の方が凄かったと口にする。

 彼の周囲に刺さっていた剣はスゥーーッと薄れて消えていき、後には剣で穴ぼこだらけになった地面だけが残された。

 

(この男……人にして人にあらず!!)

 

 狂戦士が無事だった姿を見て不死騎王は驚嘆せずにいられない。確かに最初の技より威力は下だが、それでもノーダメージであって欲しくない期待があり、それをあっさり裏切られた事実に心胆(さむ)からしめるものがあった。

 やはりさっき決断した通り、同じ場所を何度も斬る事で突破口を開くしかないのだと思い至る。

 

『それがし達の戦いに技など、もはや不要……どちらかが力尽き、刀折れるまで戦うのみ』

 

 今後の方針が決まると刀を両手で握って構える。腰を落とし込んだ姿勢になると、地に足を付いたままジリジリとにじり寄るように前へと進む。

 

「奇遇だな……俺もそう思ってた所だ」

 

 狂戦士が男の言葉に賛同する。技の応酬のような派手なぶつかり合いでなく、泥臭い肉と肉の死闘こそ、本来あるべき戦いの姿だと考える。

 一振りの剣を両手で握って構えると、相手と同じように腰を落とし込んだままにじり寄るように前進する。数歩前へと進んだ所でピタリと止まる。

 

 両者は一定の間合いを保ったまま数秒間(にら)み合っていたが……。

 

『ヌゥゥゥゥォォォォオオオオオオオオオオオッッ!!』

「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーッ!!」

 

 二人がほぼ同じタイミングで叫ぶと、大地を強く蹴って正面へと駆け出す。近接戦の間合いに入ると、手にした武器で目の前の相手に斬りかかる。

 

 片方が相手を斬ると、斬られた方も反撃して相手を斬る。

 片方が相手の攻撃を避けると、避けた方はその(すき)に乗じて反撃しようとするが、もう片方も相手の攻撃を避ける。

 その単純作業の応酬が延々と繰り返された――――。

 

 

 

 一日か、二日か、十日か……どれだけ長い年月が経過したかは分からない。外では一瞬の出来事だったとしても、この閉鎖された空間内では、気が遠くなるほど長い時間戦い続けた事だけは確かだ。その間二人は一度も休憩を取らなかった。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

『……ヌゥゥゥ』

 

 かなりの日数が経過した頃、二人がほぼ同時に(ひざ)をつく。両者は心身ともに消耗しきっており、表情に疲労の色が浮かぶ。剣を握る腕がガクガク震えており、肩でゼェハァと激しく息をする。バルザックは全身びっしり汗まみれだが、汗をかかないブレイズもグッタリ背筋を曲げてうなだれる。

 本来アンデッドは肉体疲労しないはずだが、精神面で疲れた事が、肉体に影響を及ぼしたようだ。

 

(これまであの男の脇腹を、寸分(すんぶん)の狂いなく斬り続けた。あと一撃が入れば……)

 

 ブレイズが今後の戦術について思い描く。膠着(こうちゃく)状態に(おちい)ったように見えた戦いであったが、彼なりの計算があったのだ。

 

 ブレイズは再び立ち上がると、刀を両手で握ったまま正面へと駆け出す。

 バルザックも相手を迎え撃つべく立ち上がろうとしたが……。

 

「……ウウッ」

 

 思わず(うめ)き声を漏らしながら片(ひざ)をついてしまう。やはり生身の肉体である分、消耗の度合いは彼の方が上だったようだ。

 

(……好機ッ!)

 

 敵がバランスを崩した姿を見て、不死騎王はこの機を逃すまいと考える。渾身の一撃を叩き込むなら今を置いて他にないと、そう判断する。

 タタタッと大地を強く蹴って忍者のように駆け出すと、バルザックの真横を通り抜けざまに、彼の横っ腹を刀で斬る。そのまま駆け抜けていって、彼から数メートル離れた大地で足を止める。

 

「グッ!!」

 

 狂戦士が痛みを受けた言葉を発して顔を(ゆが)ませた。タンクトップが裂けてあらわになっていた彼の脇腹にピッと一本の赤い線が入り、そこからツゥーーッと一滴の血が(した)り落ちる。これまでどんな攻撃を受けても傷が付かなかった無敵の肉体がダメージを負ったのだ。

 

 ブレイズは敵の同じ箇所だけを何回も、何日も斬り続けた。気が遠くなるほど地道な作業を続ける事で、いずれ守りを突破できるだろうと考えた。水滴で大岩を削るような根気の()る作業が、実を結んだ形となる。

 

(やった! (つい)に血管に刀が届いたぞ!! 後は傷が付いた箇所に虚空閃(こくうせん)を叩き込みさえすれば……)

 

 想定通りに事が運んだ喜びに不死騎王が胸を(おど)らせた。間違いなく勝利を得られると、そう確信した瞬間……。

 

 

 

 不死騎王が手にしていた刀の刃の真ん中にビシッと横に亀裂が入る。そこを境目として刀がボッキリ折れて、切断箇所から上の刃が地面に落下してカランッカランと転がる。

 

 限界を迎えたのは男の肉体だけではない。それと衝突し続けた刀もまた、限界を迎えていたのだ。

 

(ムラマサ(ほど)の刀でも耐えられなかったか……いやむしろあの男の強度を考えれば、これまでよく持った方か)

 

 不死騎王が手元にあった折れた刀をじっと見る。(はがね)の肉体にぶつかり続けて限界を迎えた事を深く残念に思いながらも、それを仕方のない事だと自分に言い聞かせた。

 しばらく今後について思い悩んだようにその場に立っていたが、やがて何を思い付いたのか、手元にあった刀をポイッと投げ捨てる。

 

「大した実力だったぜ……だが残念だったな。いくら血管まで刀が届いても、刀が折れちまったんじゃあ、どうしようもねぇ」

 

 バルザックが、自身に傷を付けた男の力量を()(たた)える。それと同時に、武器を失ったゆえに手詰まりになった事実を指摘する。

 刀で斬られた傷口を布で止血したりはしない。そのままでも命に別状は無いと考えたのか、自然に血が止まって固まるのに任せる。

 少しの間片(ひざ)をついて疲労が回復したのか、剣を両手で握ってゆっくり立ち上がる。

 

「さて、どうするよ。このまま諦めちまうのかい? まさか素手でやり合おうってんじゃあ、()ぇよな」

 

 狂戦士が今後の方針について問いかける。武器を失った相手がこれからどう戦うつもりなのか、意思確認を行う。

 

『……素手でやる必要など無い』

 

 不死騎王が男の皮肉交じりの問いに小声で答える。

 騎士の口から発せられた言葉は静かながらも気迫を感じさせるものがあり、勝負を捨てていない意思が明確に伝わる。

 

 ブレイズは自身の真横に生まれた空間の裂け目に右手を突っ込むと、そこから(さや)に収まった一振りの刀を取り出す。鞘から刀を引き抜くと、用済みになった鞘を地面に放り投げる。

 

『それがしの愛刀ムラマサは……もう一振りあるッ!』

 

 そう大きな声で告げると、刀の(つか)を両手で握って構える。

 

 ……それはブレイズがザガートの配下になる誓いを()わした時、彼から予備の刀として渡されたものだ。もし万が一自分と同じような強敵と戦い、再び刀が折れた時、手詰まりにならないようにという配慮から渡された。

 

(よもや我が(あるじ)は、いずれこうなる日が来るかもしれないと考えて、この刀を託されたのか……だとしたら何という慧眼(けいがん)ッ!)

 

 不死騎王は主君の未来を見通す能力の高さに心から敬服する。もしそれが無かったら、以前と同様に刀が折れた時点で敗北を認めなければならない所だった。

 

『そしてバルザックよ……貴殿にも礼を言う。これ(まで)までに充実した戦いを楽しめたのはこれまでに無く、この先も無いであろう』

 

 今度は目の前の敵に感謝の気持ちを伝える。彼との死闘がとても素晴らしいものだったと深く感動しており、それを味あわせてくれた相手の強さに敬意の念を抱く。

 

狂戦士(バーサーカー)バルザック……たとえこの先千年が()とうと、それがしがその名を忘れる事は決して無い!!』

 

 宿敵の名を永久に胸に(とど)める意思を告げると、刀を両手で握ったまま敵に向かって一直線に駆け出す。前に進むにつれてスピードが加速していく。

 

『断滅奥義……虚空閃(こくうせん)ッ!!』

 

 技名を口にした瞬間、不死騎王の姿がフッとワープしたように消えた。

 

 

 

 一陣の突風がバルザックの真横を吹き抜けると、彼の脇腹の傷にドガガガガッと斬撃が命中したらしき衝撃が伝わる。彼から数メートル離れた大地に刀を振り終えた構えのブレイズが姿を現す。

 

 両者は技が終わった直後のまま動かない。その状態で数秒が経過した後――――。

 

「ぐああああああああああっ!」

 

 バルザックがこれまで発した事の無い悲鳴を上げる。それが引き金となったように彼の脇腹の傷が大きく裂けて、そこから真っ赤な血が噴水のように吹き出す。

 男の手からポロッと剣が(こぼ)れ落ちると、()ちた大木のように後ろ向きに倒れていって、ドスゥーーーンッと大きな音を立てて地べたに倒れた。その衝撃で大地がグラグラと揺れる。

 

 ……それは誰の目から見ても勝負を終わらせる一撃となった。

 

 大の字に倒れた男の脇腹からトマトジュースのような血がとめどなく(あふ)れだす。傷口は即死させるようなものではないが、とても治療が間に合うレベルではなく、数分が()てば死に至る事は間違いない。

 

「ヘヘヘッ……どうやら俺の負けみてえだ。だが(わる)かぁねえ。むしろ最高の気分ってヤツだ」

 

 バルザックが天を仰いで倒れたままニッコリ笑う。これから間違いなく死ぬというのに、その事を気にかける様子が全く無い。それどころか長年の宿願をやり遂げたようなスッキリした笑顔になる。あたかも全力を出し切って競技をやり終えたスポーツマンのようだ。

 

『何故笑う? 貴殿は死を恐れていないのか?』

 

 満足そうな狂戦士の表情にブレイズが疑念を抱く。敗北したにも関わらず楽しそうに笑う彼を見て、何故笑うのかと真意を問い(ただ)す。

 

「ヘッ、今更(いまさら)死なんか恐れるタマかよ。俺はな、ブレイズ……アンタのような強者とやり合えたら、それだけで満足だったのよ。その結果相手を殺すも、相手に殺されるも、俺にとっちゃどっちも同じ事だ」

 

 狂戦士が不死騎王の疑問を鼻で笑う。彼にとって勝ち負けなど大きな問題ではなく、納得のいく勝負をやれたかどうかが重要なのだという。

 

「誰かを守るだとか、世界の平和だとか、俺には全く興味()ぇ。俺は俺と互角に渡り合える強者と戦うために、そのためだけに勇者の旅に同行したのさ……」

 

 そう告げると、バルザックは自身の身の上話を語りだす。

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