いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第117話 狂戦士の過去

 俺が元いた世界……神サマの言う第八世界にいた頃、俺はニネヴェという町で生まれた。

 

 ニネヴェは商業的に栄えた町だったが、華々しい見た目なのは表通りだけで、裏通りはゴミの()()めのようなスラム街だった。そこは治安は最悪で、強盗・殺人・誘拐なんでもありのクソみてえな場所だ。浮浪者と麻薬の売人がそこら中を徘徊してて、強盗に殺された死体が転がってんのも珍しくねえ。カラスと野良猫が真っ昼間から生ゴミを漁ってて、腐ったゴミの臭いがそこら中にプンプンしやがる。

 

 俺はスラムの貧民街に物心付いた時に捨てられた。両親の顔も名前も覚えてねえ。ま、それ自体は珍しくも何ともねえ話さ。

 そん時から(すで)に『脳筋ゴリラ』とあだ名で呼ばれるほど体が大きかった俺は、盗みを働いて()えをしのいだ。捕まりそうになった時は暴力を振るったし、殺しだってやった。罪悪感は()ぇ。そもそも俺が育った場所ってのは、そうしなければ生きられない場所だったのさ。

 

 俺は特別な事は何もしちゃいないが、生まれつきのガタイの良さと才能はあったらしい。ただ生きるために奪い、生きるために殺すのを繰り返すうち、俺の名はニネヴェの裏社会ではどんどん知られるようになった。ある時は俺を捕まえに来た町の兵士五十人を返り討ちにしてやったし、ある時は俺に仕返しに来たギャング団のモヒカン百人を半殺しにした。

 自称『町最強の剣の達人』と名乗る男が襲ってきた事もあったが、俺が剣を取って斬りかかったら、たった一撃でゴミのように吹き飛んだぜ。

 

 俺は町の有名なギャングどもを、ただ襲ってくるままに返り討ちにしてたが、ある日気付かないうちにギャングのボスを殺しちまってたらしい。

 そしたらギャングの手下ども、俺に新たなボスになってくれとお願いして来やがった。

 なんでも「アンタより強いヤツはこの町にはいねえ。アンタに付いていきゃ、俺達は一生安泰だ」だとよ。笑えるだろ。

 

 だがまぁ、ギャングのボスになるってのは悪い話じゃねえ。俺は好き(この)んで悪い事をしたかった訳じゃねえが、悪人の親玉になりゃ、俺の命を狙って次から次へと強者が襲ってくるだろうと、そう考えた。

 (つえ)えヤツと戦いてえって欲求もその頃に生まれた。ただ生きるために生きてきただけの男に、生きる目的みてぇのが生まれたのさ。

 

 俺は町中に触れ回った。

 俺は人類最強の男だッ! 腕に自信のあるヤツは、俺と勝負しろ!

 もし俺に勝てたら、俺はそいつの手下にでも何でもなってやるッ!

 ……ってな。

 

 (ウワサ)を聞き付けて、ニネヴェの至る所から俺に挑みてぇ戦士が集まってきた。

 ニネヴェだけじゃねえ。噂は町の外まで広まって、そこからも猛者(もさ)どもがやってきた。

 世界中の屈強な猛者が、俺が最強かどうか確かめるためにニネヴェに集まってきちまったのさ。そん中にはザムザとツェデックもいたぜ。

 

 最強ってのは敵を集めるためについたフカシのつもりだったが、あながち嘘でも無かったらしい。

 俺はガキの頃は何度か負けたりもしたが、二十代になってからは一度も負けなかった。俺に挑んできたヤツの中に俺よりパワーがあるヤツは一人もいなかったし、俺に傷を付けられる相手もいなかった。ザムザとツェデックもそうだ。俺に全くダメージを与えられなかった。

 

 妙な話だが、俺には即死魔法も状態異常も全く通じなかったらしい。

 ツェデックは俺が人間である事を疑って、魔法で調べてみたが、結局ただの人間だったとよ。生まれつきガタイが良くて、毎日肉を食って、体を鍛えただけの、とんでもねえガチムチのマッチョになった、ただの人間……それが俺ってワケさ。

 

 どうやら俺が本当に人類最強みてえな話になったんで、俺の名は近隣に(とどろ)いた。狂戦士(バーサーカー)だのヘラクレスだのゴリアテだの、変なあだ名を付けられちまった。三国志という古代史について知ってるヤツは俺の事を『張飛(ちょうひ)』と呼んだ。

 ともかく、有名になった後も百を超える戦士が挑んできたが、一人も俺に勝てなかった。

 

 (つい)には魔王軍まで俺の存在を脅威とみなすようになった。

 最初にオークとゴブリンの大軍が何万も襲ってきたからそいつを返り討ちにしたら、今度は千体を超えるデーモンが襲ってきやがった。そいつらを全滅させたら、今度は百体のザコ竜と、一匹のボス竜からなる、ドラゴンの軍団だ。

 

 百一体の竜との戦いはさすがに一筋縄ではいかなかったぜ。戦闘は三日三晩続いたが、まぁ最終的には俺が勝った。ボスのドラゴンは「お前が勇者だったのか……」とワケのわからねえ事を抜かして息絶えやがった。

 こんな筋肉ダルマが勇者のわけねえだろうが。勘違いすんじゃねえ。

 

 魔物の侵攻が途絶えると、今度は勇者アランがやってきた。俺のような筋肉ダルマとは違う、正真正銘、聖剣に選ばれた本物の勇者サマだ。

 アランが町にやってきた理由は単純だ。俺に勝ったヤツは俺を手下にして良いというウワサを聞いて、俺を仲間にしに来たのさ。それで戦いを挑んできた。

 

 俺は最初、ヤツの事を完全に()めてた。俺は当時無敗を誇ってた事もあって、俺に勝てるヤツなんて世界の何処にも()やしねぇと思い上がってた。こんな俺より年下でイケメンの若僧が、俺に勝てるわけねえという思い込みもあった。

 

 その思い上がりはあっさり打ち砕かれた。アイツは俺よりとんでもねえバケモノだったのさ。

 俺がいくら剣を振っても、アイツには一撃も当たりゃしねえ。まるで風で飛ばされたビニール袋のようにヒラヒラとかわしやがる。

 それだけならまだ良かった。俺が『鮮血鉄鎖(ブラッド・チェイン)』の魔法でアイツの動きを封じると、アイツは力ずくで鎖を粉砕しやがった。俺よりパワーが無いと壊せない鎖を、まるで何事も無かったかのように壊しやがったのさ。

 

 最後は破れかぶれになった俺が武器を捨てて素手で襲いかかると、アイツは一瞬で背後に回り込んで、俺の片腕を捕まえて地面に組み伏せた。俺は地面に押し付けられたまま微動だにできなかった。大人に押さえ付けられた子供のように、自分より大きな力で拘束されたのさ。

 しかもアイツ、俺がなかなか降参しねえから、捕まえた腕の骨を折ろうとして来やがった。メリメリ音が鳴って、激痛が走ったぜ。

 

 俺は降参した。自分の負けを認めて、アイツの仲間になる事にしたのさ。

 アイツは言ったよ。

 

「魔竜王ヴェルザハークは俺より強い。そんなに強い相手と戦いたいなら、世界最強である魔竜王と戦えば良い」

 

 ってな。

 俺はその挑発に乗ってやる事にした。

 

  ◇    ◇    ◇

 

「……こうして俺はアランの仲間になったってワケさ」

 

 バルザックはそう言って、自分が勇者パーティに加わった経緯(いきさつ)を語り終える。

 

「魔竜王との戦いは悪くなかったぜ。仲間との(きずな)とか、力を合わせるだとか、そんなのとは無縁の生き方をしてきた俺が、ガラにもなくチームワークに目覚めちまった。実際魔竜王ってヤツは五対一でようやくまともにやり合える強さだった。アランが世界最強っつったのは誇張でも何でもなかったワケだ。俺も何回か死を覚悟しちまった」

 

 勇者の語った言葉が決して誇張では無かった事、魔竜王との戦いに勝つためにパーティメンバーと協力した事……それらの事実を明かす。

 

「だが魔竜王を倒して世界が平和になると、俺はまた戦う相手がいなくなっちまった。やる事が無くなったんで、ひとまずアランとの再戦を目指してトレーニングを重ねる日々を送っていたら、なんかいきなり世界が滅びちまって、こっちの世界に飛ばされて、神サマに魔王を倒せと命じられた。そんで今に至る…‥ってワケさ」

 

 魔竜王を討伐したら目的を見失った事、体を鍛えていたら世界が滅亡して、第七世界に飛ばされて、ザガート一味と戦う流れになった()()きを伝える。

 

「魔竜王とアラン以外に俺をワクワクさせるヤツはもういねえと思ってたが、とんだ思い違いだったぜ。こっちの世界に来てから出会ったヤハヴェという人類創った神サマも、異世界の魔王ザガートも、とんでもねえバケモノだった。世界は広いな。いや広いもなんも、そもそも別の世界なんだが……こまけぇこたぁ気にするな」

 

 第七世界に降り立って出会った二人の戦士の名を挙げる。新たな強者との出会いに胸を(おど)らせた事実を感慨深げに口にする。

 

「そしてアンタだ……不死騎王ブレイズ。俺とアンタはこの空間で出会っちまった」

 

 不死騎王との出会いが彼にとって特別なものとなった事を(にお)わせる。

 

「勝負の形は一通りじゃねえ……いろんな相手がいて、いろんな戦いがある。アラン、ヴェルザハーク、ヤハヴェ、ザガート……どいつと戦っても、それぞれ違う展開になって、違う終わり方をした。同じ展開になった勝負は一つとしてありゃしねえ」

 

 これまでの強者との戦いを振り返って、同じ内容になったものは一つも無いと明かす。

 

「だがな、ブレイズ……アンタとの勝負は別格だ。アンタとやり合うのはこれまでに無い喜びがあった。同格の力を持つ戦士同士が、互いに最高の技をぶつけあって、どちらかが先に(つぶ)れるまで延々と殺し合う……それを何時間も、何百時間もやるんだ。楽しくねえワケがねえ。いくら酒を飲んでも無くならねえ(さかずき)から、それでも酒を飲み続けるような、そんな感覚を味わったぜ」

 

 不死騎王との戦いが大きな喜びに繋がったと教える。短時間で勝敗が決まるのではなく、あえて勝ち負けが決まらないまま何十日も戦い続けたのが良かったのだという。

 

「これまで満たされた事の無い(かわ)きが満たされたような、そんな感覚があった。気付いちまったのさ。ああ、これが俺が本当にやりたかった戦いだったんだ、ってな。感謝するぜ……アンタは俺の人生に喜びを与えてくれた」

 

 この戦いが彼にとって理想形だった事、それを味あわせてくれた目の前の敵に深く感謝する。

 

『こちらこそ、改めて礼を言わせてもらう。これほど良き相手と出会えた事を、それがしは生涯忘れる事は無いと神に誓おう』

 

 ブレイズもまた感謝の言葉を口にする。彼にとっても狂戦士との戦いが特別なものとなった事、自分と互角に渡り合った猛者の存在を決して忘れる事は無いと、強い口調で約束する。

 

「嬉しい事……言ってくれるじゃねえ……か」

 

 騎士の言葉を聞いてバルザックは満足げにニッと口元を笑わせると、ガクッと力尽きて息絶えた。出血多量により命を失ったものの、その死に顔はやりたい事を()し遂げてスッキリしたように穏やかだった。

 

『……』

 

 宿敵の最後を見届けてブレイズはしばし黙り込む。勝利の喜びに歓声を上げたりもしなければ、宿敵の死を嘆き悲しんで()(えつ)を漏らしたりもしない。嵐が過ぎ去った静けさに(むな)しさを感じたように、ただ茫然(ぼうぜん)と立ち尽くす。

 

 しばしカカシのような棒立ちになっていたブレイズだったが、やがてバルザックの元へと歩きだす。動かなくなった死体の前に立つと、その場に(ひざ)をついて安らかな死に顔をじっと眺める。

 

(バルザック……(ねが)わくば、貴殿とは同じ世界で生まれ、出会いたかった。そうすれば我らはもっと早くに出会い、良き仲間となれただろう)

 

 狂戦士と別の形で出会いたかった思いを胸に抱く。似た者同士であると感じたゆえに、敵としてだけでなく、仲間としても良好な関係を築けたかもしれないと考え、それが実現しなかった事を深く残念がる。

 今はただ、そうならなかったのを仕方のない事だと自分に言い聞かせた。

 

宿敵(とも)よ……今は安らかに眠れ!!』

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