いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
分断された三つの空間で戦闘が始まった頃、この作戦を立案した当のザガートは勇者アランと対峙していた。
互いのパーティの最大戦力でありリーダー格のぶつかり合いは、これが競技の団体戦なら、さしずめ大将戦といった所か。両者も当然それを意識していた。
この場に来てから数秒間
「魔王ザガート……お前に恨みは無いが、今度こそ本当に死んでもらわねばならない。俺は俺が元いた世界を救うためにお前を殺す。そうしなければ俺は望みを果たせない」
自分が生まれ育った第八世界を救う事が彼の望みであった事、それを
「……それはお前の本当の願いか?」
魔王が数秒間黙り込んだ後、アランの言った言葉を否定する。
彼の話を聞いていて
「何?」
魔王の問いかけにアランが驚かずにいられない。自らの主張を否定されるなどとは夢にも思わず、虚を突かれる形となった。
魔王はアランの驚きなど気にも
「俺と出会ってからお前はずっと悲しい目をしていた。ニヤリと口元を
アランが思い詰めた表情をしていた事、一度も笑わなかった事、それらの事実を指摘して、彼が胸の内に抱えていた苦悩を見抜く。
「アラン、お前には叶えたい、だが叶わないのだと諦めてしまった本当の願いがあるんじゃないのか?」
他に叶えたい願いがあるが、何らかの理由により断念せざるを得なかったのではないかと、念を押すように問いかけた。
「……」
魔王の言葉を聞いてアランはしばし黙り込む。下を向いたまま苦虫を噛み
この勇者の目の前にいるザガートという男は、アランが一切過去を語らなかったにも関わらず、彼の胸の内にあるモヤモヤを見抜いたのだ。
勇者は「この男には隠し事できないな」と内心で魔王の観察眼の鋭さに感心する。
しばらく思い悩んだ表情を浮かべたまま黙り込んだアランであったが、やがて重い口を開く。
「……世界を救ったからといって、欲しいもの全てがこの手に収まった訳じゃない」
聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でボソッと
「どれだけ手を伸ばしても、
フッと悲しい目をしながら空を見上げると、何処か遠くを見つめながら、叶わない理想を胸に抱いた事実を淡々とした口調で語る。
世界を救ったはずの勇者が人生の挫折について語る
「そうか……ならば俺もこれ以上の深入りはすまい。詳しい話は戦いが終わってからじっくり聞かせてもらうとしよう。どのみち俺達は
魔王もそこまで話を聞かされて、これ以上続きを聞くのを断念する。今この場で全部を話されるよりも、勝負が終わってから改めて聞き出すべきだと冷静に考えた。
「アラン……どちらが真の勝者となるか、白黒ハッキリさせよう!!」
勇ましい口調で勝負の始まりを宣言する。
ここに最強同士の二人の戦いの火蓋が切って落とされた。
「ザガート、何度やったとしても結果は同じだ。貴様は俺には勝てない。この聖剣エクスカリバーがある限り、俺に敗北は無い」
アランは挑戦的な
彼の言葉に呼応するように、左の二の腕に
(常に敵対する相手と同じ速さで動けるという『神速の腕輪』……亡きクリムトから受け継いだという訳か。そうなると
アランが二の腕に
「行くぞ、魔王ッ! その首
アランは死を宣告する言葉を吐くと魔王めがけて一直線に駆け出す。近接戦の間合いに入ると剣を横
魔王は後ろにジャンプして相手の攻撃をかわす。アランは何度も距離を詰めて相手を斬ろうとしたが、魔王はそのたびにピョーーン、ピョーーンとジャンプして後ろに下がる。本人は至って真剣な
「どうした魔王、そうやって逃げ回るだけか? お前らしくもない」
魔王が避けに徹する姿を見て、アランが
相手を攻めに転じさせたい挑発の意味合いもあったが、「お前らしくない」という発言には彼の本音が見え隠れした。
慎重に行動する魔王の戦い方を見て、それが戦術的に正しい事だと分かっていても、正面からぶつかって欲しい思いがあったようだ。
「そうか……ならば、お前の望み通りにしてやる」
そんなアランの気持ちを
相手からの挑戦を受ける意思を明確に伝えると、自分の真横に生まれた空間の裂け目から、
ザガートの手に握られたのはロングソードのような片手で振り回せる剣であったが、柄の根元から刃の先端に至るまで血のような赤色に染まっており、見るからに
「この世界で語り
ザガートが自ら手にした剣の出自について語る。大魔王の城が墜落して木っ端微塵になった後、何か掘り出し物は無いかと瓦礫の山を漁っていて見つけたもののようだ。本来は大魔王の城を探索中に拾って使うべき剣だったと思われるが、魔王はそれを大魔王撃破後に入手した事になる。
「エクスカリバーとラグナロク……どちらが最強の剣か、ハッキリさせよう!!」
魔王はそう叫ぶや
「望む所だッ!」
勇者は勇ましく言葉を返すと、数秒遅れて魔王に向かって走り出す。
両者は互いの間合いに入ると、ザガートは剣を横
「ヌゥゥゥ……」
「グゥゥゥ……」
二人の口から気迫に満ちた声が漏れだす。両者共に
二人は剣を握る腕にギリギリと力を込めたものの、どれだけ力を入れても相手を押す事が出来ず、互いの剣を重ね合わせた状態のまま銅像のように固まる。そのまま全身をぷるぷる震わせた。
数十秒間力で押し合っていた二人だったが、このままでは
「「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーッ!!」」
突如腹の底から絞り出したような雄叫びを発すると、荒野の何も無い場所に向かって全力でダッシュする。ザガートは黒一色、アランは白一色の影のような物体となり、ビュンッと残像を残しながら高速で移動する。
二つの影は車のレースのように併走しながら追いかけっこしたかと思うと、途中で立ち止まって正面からぶつかり合う。ドガッドガッと激しい衝突音を立てて後ろに弾かれたかと思うと、今度はすれ違いざまに斬り合ったように
神ですら視覚で
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「ハァ……ハァ……」
ザガートとアランが数メートル離れて向き合ったまま呼吸を荒くする。肩でゼェハァと激しく息をさせて、表情に疲労の色が浮かび、
しばらく互いに疲れ合ったままその場から動かずにいたが、疲れが
「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーッ!!」
気迫の
「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」
アランも負けじと大声で叫びながら両手で握った剣を横
一瞬の静寂の後、ザガートが手にしていた剣の刃がガシャァーーーンッ! と音を立ててガラスのように
「なにっ!!」
剣同士の衝突でラグナロクが打ち砕かれた事に魔王が深く動揺する。
魔王の胸の部分の衣服がビリビリッと横に裂けて、あらわになった胸の肌に一本の赤い線が入る。そこから一滴の血が
「……エクスカリバーの方が性能は上だったな」
アランがそう口にしてニヤリと笑う。