いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第119話 エクスカリバーの秘密

(ラグナロク……決して弱い剣ではなかったが、あと一歩の所で及ばなかったか)

 

 ザガートが手元にある折れた剣を眺めながら心の中で残念そうに(つぶや)く。剣同士の衝突で魔剣が敗れた事に、深い失意の念を抱く。

 

 自分の力量が(おと)ったために剣を折られたのではないかという考えも頭の中にはあったが、体感的に両者の技量はほぼ互角であり、優劣を決する(ほど)ではない。やはり剣の性能で差が出たのだろうという結論に行き着く。

 

 しばらく手元にあった剣を、気難しい表情を浮かべながらじっと眺めたザガートであったが、やがて剣で戦う事を諦めたようにポイッと地面に投げ捨てる。大魔王の城で拾った魔剣に対する思い入れは全く無かったようで、蘇生術(リザレクション)で修復したりはしない。

 

「さて、これからどう戦うつもりだ? ザガートよ。まさか素手で俺とやり合う気じゃ無いだろうな」

 

 アランが今後の方針について問いかける。武器を失った魔王がどうする気でいたのか、聞いて確かめようとする。

 

「……俺は魔王だ。武器など必要ない。今までは正面からぶつかり合うために剣での勝負に付き合ったが、俺の本分は魔法……ここからは魔王らしく、卑怯なやり方で戦わせてもらう」

 

 魔王が勇者の疑問に即答する。これまでは魔王の実力を生かした戦い方では無かった事、正々堂々の勝負を捨てて、彼本来のやり方である、戦術に特化した卑怯な(から)め手を使う意思を堂々と宣言する。

 

死の選択肢(デス・セレクション)ッ!!」

 

 技名らしき言葉を叫びながら親指と人差し指をパチンと鳴らす。すると魔王の姿がブゥンッと音を鳴らしながら一体ずつ増えていって、最大で四体になる。

 同じ姿をした四人の魔王が横にズラッと並ぶ。彼らはそれぞれ首をゴキゴキ鳴らしたり腕組みして笑ったりと別々の行動を取っており、どれか一体の行動をトレースしたりしない。完全に四人それぞれが独立した存在であるかのように振舞う。

 

(分身の術か……だがただの術という訳では無さそうだ。この俺の力を(もっ)てしても、どれが本物か見破れない。全員偽者のように見えるし、全員本物にも見える。これは一体どういう事なんだ?)

 

 四体に増えたザガートを前にしてアランが首を(かし)げる。彼ほどの力があれば分身を見分けるのは容易な(はず)なのに、それが出来ないのだ。四人全てが本物に見える。

 むろん本物のザガートが四体に増えた筈はなく、他の三人は偽者の筈なのだが、それを見分けられない。本来ありえない状況に困惑せずにいられない。

 

 動揺するアランを見て「フッフッフッ」と(あざけ)るように笑っていた四人だが、やがてそのうち一体が正面に向かって飛び出す。(さら)にそれから数秒遅れて二体目が後に続く。

 

「くっ……見分けられないなら全員倒すまでだ!!」

 

 アランが腹立たしげに今後の方針を叫ぶ。無理に見分けようとするのは無駄だと判断し、襲ってくる敵を順番に倒す方向に発想を切り替える。

 剣を横()ぎに振って最初の一体を斬ると、白い霧へと姿が変わってバラバラに散っていく。続いて襲いかかってきた二体目も同じように斬ったが、やはり偽者だったらしく霧となって霧散する。

 

 残りの二体はそれぞれ逆の方向に走っていって、アランを間に挟んだ形となって大きく距離を開いた後、前後から挟み撃ちにしようと猛スピードでダッシュする。

 

(逆方向から襲ってくる二体の敵を同時に斬る方法は無い……ここで選択を(あやま)れば、俺は確実に死ぬ!!)

 

 同時に走ってくる二体の魔王を前にしてアランが悲壮な決意を胸に抱く。この()に及んで判断を迷う猶予(ゆうよ)は無く、どちらか一体に的を絞らなければならない状況へと追い込まれる。

 

「そこだぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーッッ!!」

 

 決死の覚悟を決めると、()えて正面から襲いかかってきた一体に狙いを定めて、大声で叫びながら斬りかかる。

 剣を横()ぎに振って相手を真っ二つにすると、魔王の姿が白い霧となってバラバラに散っていく。

 

「なにっ!!」

 

 読みが外れた事に勇者が深く動揺する。この重大な局面で選択を(あやま)ったのかと自分を責める声が脳内に湧き上がり、胸が激しくざわついた。背後からの敵に対処しようと慌てて後ろを振り返ったものの、(すで)に魔王が彼めがけて右足によるヤクザキックを繰り出していた。

 (くつ)を履いた男の足がドグォッと腹にめり込んで、メリメリと骨がきしむ音が鳴る。腹に湧き上がる激痛に勇者が顔を(ゆが)ませた。

 直後、彼の両足が地面から離れて体が宙に浮き上がる。

 

「うっ……ぐああああああああああっ!」

 

 荒野中に響かんばかりの絶叫を発した瞬間、勇者の体が凄まじい速さで吹き飛ばされた。墜落するように地面に激突して砂(ぼこり)を大量に巻き上げると、ゴムボールのように何度もバウンドした挙句、横向きに倒れたまま止まる。腹を蹴られたダメージが相当大きかったらしく、すぐには起き上がれない。

 それでもエクスカリバーは肌身離さずしっかり右手に握られていた。

 

「残念だったな……『死の選択肢(デス・セレクション)』はどれか一体が本物で、どれが偽者という事は無い。必ず最初に倒された三体が偽者になり、残りの一体が本物になる……そういう仕組みだ。最後に一体が残るまでは、全員が本物の存在として直感的に認識される」

 

 ザガートがアランを(おとし)れた魔術について種明かしする。どれが本物かは後付けで決まるのであり、それまでは全員が本物として扱われるのだという。

 アランはどれが本物か真剣に見破ろうとしたが、そもそも四人全員が本物だから見破れる訳が無いのだ。まんまと魔王に一杯食わされた形となる。

 

「そしてこの技に初見で対応できなかった時点で、アラン……お前の死は確定した!!」

 

 勇者が技の性質を見破れなかった事実を指摘して、魔王が揺るぎない勝利への確信を抱く。

 

()ぜよッ! (なんじ)の身に宿りし力、外へ向かう風とならん!」

 

 正面に両手をかざして呪文の詠唱を行うと、魔王の手のひらに青白い光が集まっていって、ダチョウの卵くらいの大きさの光球が生まれる。光球は発射されるのを今か今かと待ちわびたようにギラギラと輝く。

 

「……絶対圧縮爆裂(アブソリュート・ディスラプト)ッ!!」

 

 魔法の言葉を叫ぶと、手のひらにあった光弾が勇者めがけて一直線に撃ち出された。光弾はグングン加速していって、音速を超えた速さになる。わずか二、三秒ばかりで勇者の目の前まで飛んでいく。

 

 勇者は極大魔法が飛んできたのを知って慌てて起き上がろうとしたが、彼が体勢を立て直すよりも一瞬速く魔法が着弾する。すぐに自分の死を悟ったのか、手に持っていたエクスカリバーを瞬時に地面に放り投げた。

 

「しまっ……がぁぁぁぁぁぁあああああああああああッッ!!」

 

 断末魔の悲鳴を上げた直後、勇者の体が(すみ)のような黒一色に染まり、空気を注入した風船のように(ふく)らんでいく。どんどん大きくなっていき、直径五メートルほどの巨大なボールになった瞬間、針を刺したようにバンッと破裂して粉々に弾け飛ぶ。

 彼のものであった肉片が雨のように大地に降り注いだ後、粒子状に分解されて黒い砂となり、風に飛ばされて散っていく。後には地面に投げ捨てられたエクスカリバーだけが残された。

 

(アラン……出来れば会話できる状態で勝ちたかったが、悠長にそれが(かな)う相手ではなかった)

 

 勇者の無惨な死に(ざま)を見届けて、魔王が彼と言葉を()わせなかった事を深く悔いる。彼の過去について聞き出せなかった結末を、それも仕方のない事だと自分に言い聞かせながらも、消し去れないモヤモヤ感を胸に抱く。

 

 後ろ髪を引かれる思いをしながら、勇者が死んだ場所をじっと眺めた魔王であったが……。

 

 

 

 地面に置かれていたエクスカリバーが突然、何かの合図を送るようにチカッチカッと数回光る。すると風に飛ばされて空に散っていた、かつて勇者の体だった黒い砂が、自ら意思を持ったように宙を動き回る。

 砂は空中をハエの群れのように飛び回った後、地面に降り積もって人の形を取る。カッと(まばゆ)い光を放って視界が見えにくくなる。数秒が経過して光が徐々に消えて無くなると、そこに五体満足な状態のアランが立っていた。

 

「なん……だと!?」

 

 アランが生き返った光景を目の当たりにして、ザガートが面食らった顔をする。一瞬何が起こったのか全く理解できず、開いた口が(ふさ)がらない。

 

 まるで悪夢のような光景だ。勇者は間違いなく死んだと、魔王はそう確信したのだ。

 その勇者が生き返った。

 

 誰かに蘇生術(リザレクション)を掛けられた可能性も無くはなかったが、多対一ならまだしも、ここは一対一の閉鎖された空間だ。誰かの横槍が入る事は決して無い。自分で自分を生き返らせる能力でも無い限り、死からの復活はありえない。

 

 勇者が復活した原理が突き止められず、頭が混乱して棒立ちになる魔王を見て、アランがニヤリとほくそ笑んだ。

 

「さぁザガート……第二ラウンドと行こうか!!」

 

 不敵な台詞(セリフ)を吐きながら、地面に落ちたエクスカリバーを拾い上げた。

 

「もうさっきの手は通用しないぞザガートッ! 覚悟しろ!!」

 

 アランは勇ましい言葉を吐くとシュタタタッと走っていって、魔王を剣で斬ろうとする。勇者が横一文字に振った剣を、魔王は後ろに大きくジャンプしてかわす。

 魔王は両足で着地すると、今後の作戦について一秒間だけ考える。勇者が復活した原理を突き止めるべきではないかと思い悩んだが、今はあれこれ考えている余裕は無く、目の前の敵に意識を集中すべきだと結論付けた。

 

「全身メッタ刺しにされて息絶えるがいい……針千本地獄(サウザンド・ニードル)ッ!!」

 

 正面に右手をかざして魔法の言葉を唱えると、彼の前にある空間にバレーボールくらいの大きさのブラックホールが生まれる。そこから細長い金属の針のようなものがプププッと無数に発射された。

 ガトリングの弾のように発射された針はアランめがけて一直線に飛んでいく。詠唱の言葉通り千本の針で彼を突き殺そうとする。

 

「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーッ!!」

 

 アランは腹の底から絞り出したような雄叫びを発すると、剣を縦横無尽に振り回して針を叩き落とそうとする。キンキンキンッと激しい金属音が鳴り、剣に弾かれた針が雨あられのように地面に落下する。

 アランは千本のうち九百九十七本を正確に叩き落としたが、それでも右の二の腕、左脚の太腿(ふともも)、右の脇腹の合計三箇所をブスブスと針で刺される。針は鎧の装甲を貫通し、傷口からボタッ……ボタッ……と赤い血が(したた)り落ちる。

 

 だがさっきと同じようにエクスカリバーがチカッチカッと光ると、刺さっていた針が肉に押し出されたように(ひと)りでに抜け落ちて、皮膚も鎧の破損箇所もみるみるうちに修復されていって、攻撃を受ける前の状態へと戻る。

 

(エクスカリバーがある限り、俺に敗北は無い……か……)

 

 またも勇者の傷が(ふさ)がった光景を目にして、魔王が戦いが始まる前に聞いた台詞(セリフ)を思い出す。剣が光るたびに勇者の傷が(いや)される事実に目を向けて、彼が死なない理由について、頭の中にある憶測が浮かび上がる。

 

(……試してみるか)

 

 仮説を実証するために賭けに打って出ようと思い立つ。

 

「考え事をしている(ひま)は無いぞ、ザガートっ!!」

 

 魔王が物思いに(ふけ)ていたのを見て、アランが腹立たしげに叫びながら正面へと駆け出す。剣を力任せに振ると、魔王はまたしても後ろにジャンプして相手の一撃をかわす。

 

「……ううっ」

 

 着地した瞬間、魔王が(おお)袈裟(げさ)に疲れた顔をしながら片(ひざ)をつく。そこからゆっくり立ち上がろうとする。

 相手の攻撃を誘い出すためにわざと疲れた演技をしたのだ。

 

(チャンスだ!!)

 

 そうとも知らずに勇者が千載一遇の好機に胸を(おど)らせた。この機を逃してはなるまいと息巻くと、剣を大地に振り下ろした状態のまま敵に向かって走っていく。

 

「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」

 

 近接戦の間合いに入ると、両手で握った剣を下から上に向かってスイングするように振り上げた。

 魔王は右に避けて相手の一撃をかわそうとしたが、完全にはかわし切れず、左腕を切断される。肩から先の左腕が地面に転がっていって、切断面から血がドクドクと流れる。

 

「……左腕は(いただ)いたぞ」

 

 アランが剣を振り上げたポーズのままニヤリと笑う。敵に深手を負わせられた事実に大きな喜びが湧いて、もう自分は勝ったのではないかという気にすらなる。

 

「……腕の一本で済むなら安い犠牲だ」

 

 勇者の喜びをあざ笑うように魔王がほくそ笑んだ。一連の流れが彼の目論見(もくろみ)通りであった事実を言葉によって伝える。

 

「ふんっ!」

 

 気合を入れるように鼻息を吹かすと、左足を高く蹴り上げて、アランが両手で握っていた剣の(つか)の底面を足のつま先でガッと蹴る。

 

「ぐっ!」

 

 手にビリビリと衝撃が伝わり、アランが柄を握っていた手をうっかり離す。彼の手から離れた聖剣が、キックの衝撃でポーーンと空高く舞い上がる。

 剣は上空十メートルほどの高さまで打ち上がり、地面に落下するまで数秒かかる。

 

 ザガートは間髪入れずにジャンプすると、聖剣と同じ高さまで飛び上がる。

 

「うおおおおおおおおッ!!」

 

 気迫の篭った雄叫びを上げると、刃の側面の真ん中に、右手による水平チョップを叩き込んだ。

 手刀が直撃して鈍い金属音が鳴った瞬間、エクスカリバーがボッキリと真っ二つに折れる。上と下半分ずつに分かれてそれぞれ別の方角へと落下していき、ガランッガランと地面に転がり落ちる。ザガートはそれから数秒遅れて着地する。

 

 アランは二つに分かれた剣を全速力で走って回収したが、剣はみるみるうちにくすんだ灰色へと変わり、石の剣のような姿になる。かつての氷の剣のような美しさは見る影も無くなり、魔力を失ってただの石ころになった事が(はた)から見ても分かる。

 

「……なんという事だ」

 

 聖剣が力を失った姿を見てアランが失意の言葉を漏らす。これまで彼の強さを支えてきたであろうと思われる剣を失った事実に深く落胆の表情を浮かべて、絶望の奈落へと突き落とされたようにガクッと(ひざ)をついた。

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