いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第12話 スライム襲来

 オークの群れを討伐し、滅亡の危機に(ひん)したヒルデブルク王国を救ったザガート……人々から英雄としてもてはやされる。国王タルケンから新たな村の情報を聞き出し、目的地を目指して旅立つのだった。

 

 レジーナを加えた一行は、王城の西にある樹海へと足を踏み入れる。その森の面積はかなり広く、地図に書かれた大きさと、これまで歩いた距離から計算して、ざっと十キロメートル四方はありそうだ。(はる)か視界の彼方まで木々がびっしり生えていて、地平を見渡す事が出来ない。

 魔族ではない野生動物がいるらしく、時折(ときおり)「チュンチュン」「ギャーギャー」と鳴く声が聞こえて、木の枝が音を立てて揺れる。

 

 地図に書かれた村は森の中央に位置しており、一行はそこを目指す。

 

 うっそうと()(しげ)った森を、ただ黙々と歩く三人……無駄話を一切しない。

 先頭に立つザガートが魔法探知を使っているのか、方角に迷う事なくまっすぐに進み続ける。地面に積み重なった落ち葉を踏む音がカサカサと鳴る。

 

「あの……ザガート様、一つ聞いても良いでしょうか」

 

 やがて沈黙に耐え切れず、ルシルが恐る恐る口を開く。

 

「何だ? 歩きながらで良ければ答えよう。遠慮せず好きに聞くがいい」

 

 ザガートが後ろを振り返らずに言葉だけ返す。少女に声をかけられても足を止めずにズカズカと先に進む姿からは、日が暮れるまでに目的地に着かんとする気迫が十二分に伝わる。

 

「それじゃお言葉に甘えて……私、あれからずっと気になってたんです。ミノタウロスを再生できたなら、バハムートも同じようにやれたんじゃないかって。どうしてそれをしなかったんだろうって」

 

 少女が()(ぼく)な疑問をぶつける。王城での戦いの時、ザガートは『生命創造(クリエート・ライフ)』によって牛頭の怪物を再生させて、部下として使役した。だがバハムートに対してはそれを行わなかった。大陸全土を焼き尽くす最強の魔王竜を味方に付ければ心強いのに、何故そうしなかったのか。少女はそれが気になった。

 

「フム……」

 

 ルシルの問いに魔王がしばし物思いに(ふけ)る。(あご)に手を当てて眉間(みけん)(しわ)を寄せて気難しい表情になりながら、あれこれ考える。

 少女が疑問を抱くのは(もっと)もだと感じて、どう答えるべきか思い悩む。

 

「実はそう思って、戦いの後何度か試してみたんだ。だがバハムートだけは何度やっても肉体の修復に成功しなかった。『生命創造(クリエート・ライフ)』のような汎用(はんよう)魔術とは異なる、アザトホースのオリジナル呪文(スペル)が使われたのかもしれん」

 

 やがて考えがまとまったように口を開く。実際に竜王の蘇生を(こころ)みた事、それに成功しなかった事実を伝える。上位魔族は大魔王本人でなければ創造できないのではないかと仮説を立てた。

 

「惜しい事だ……バハムートさえ味方に付ければ、ヤツの圧倒的な力で、残りの魔族を皆殺しに出来たかもしれんのだがな」

 

 残念そうにため息を漏らしながら、竜王を使役できない事を悔しがった。

 

「……バハムートなど味方にせずとも、お前一人の力だけで、魔族など余裕で滅ぼせるだろう」

 

 レジーナが(あき)れたように小声で(つぶや)く。オークの大群が殲滅(せんめつ)させられた光景を思い出し、敵を倒すのに竜の力など必要無いと毒づく。

 

「ハハハッ……それもそうだな。俺の力をよく分かっているじゃないか。(えら)いぞ」

 

 実力を()められた事に気を良くして、ザガートが嬉しそうに笑う。上機嫌にさせたご褒美(ほうび)とばかりに王女の頭をナデナデする。

 

「やめろっ! 私はお前の子供じゃない! そう気安く何度も頭を触るなっ!」

 

 レジーナが声を荒らげて男の手を払いのけた。いつまで()っても大人の女として見てもらえず、子供のように扱われた事にあからさまに不機嫌になる。

 

「すまない……無神経な事をした。女の心を分かったつもりでいたが、俺もまだまだ未熟だったようだ」

 

 魔王が頭を下げて素直に謝る。軽率な行動を取ったと感じて、自分の無知を深く()じる。

 

「……キスしてくれたら、許してやる」

 

 王女が(ほほ)を赤く染めながら、恥ずかしそうに言う。

 

「……お前がそれを望むなら」

 

 ザガートは了承したようにコクンと(うなず)くと、王女の両肩に手を乗せる。自分の方へと抱き寄せると、彼女の怒りを(しず)めるために(くちびる)にキスしようとした。

 

 ルシルの口から思わず「ああっ」と声が漏れる。

 二人の唇が数ミリの距離まで近付いて、触れ合おうとした瞬間……。

 

「BZRRRRRRRrrrrrrr!!」

 

 何処からともなく声が発せられた。とても文字に書き起こせない奇妙な音は、一度聞いただけでは動物の声か、肉を激しく打ち鳴らした音か判別できない。だがいずれにせよ、それが異変の予兆である事に違いはない。

 

 ただならぬ気配を感じて、慌てて二人の体が離れる。

 キスが未遂に終わった事にルシルがホッと一安心する。

 魔族の襲来を察知して、三人が身構えていると……。

 

「BUBBAAAAAAAaaaaaa!!」

「OZO! OZOZOzozozo!!」

「GERRGEGEEEEEeeeeee!!」

 

 不気味な音を鳴らしながら、前方の茂みから何かが飛び出してきた。

 それも一体や二体ではない。ざっと見た限りでは二十体はいそうだ。しかも後方から続々と援軍が駆け付けている。

 

 そこに現れたのは子犬くらいの大きさをした、ゼリー状の丸い物体だった。半透明に()けた水色をしており、内部に眼球のような形状をした(コア)がある。弾力あるグミのようにボヨンボヨンと跳ねたり、ナメクジのようにズルズルと地面を()いずったりする。

 言葉を発したというのに、何処に口があるかも分からない。

 

 その奇妙な生命体の群れは、三人を獲物と見定めたようにジリジリと迫る。どう見ても友好的な関係を築こうとしているように思えず、明らかな敵意に満ちている。

 彼らの襲撃を恐れて逃げたのか、気が付けば森から他の動物の気配が消えている。

 

「……スライム!!」

 

 魔族と思しきゼリー状の物体を目にして、ザガートがそう名を呼んだ。

 スライムはざっと見ただけで二十体はいたが、(なお)も後方から続々と増援が駆け付ける。その数は(またた)く間に三十体を()える。

 ザガート達を獲物と見定めたようにジリジリと距離を詰めていく。

 

「BUBBAAAAAAAaaaaaa!!」

 

 やがて魔物のうち一体が奇声を発しながら飛びかかる。(さら)に別のもう一体が数秒遅れて彼の後に続く。

 

「業火よ放て……火炎光矢(ファイヤー・アロー)ッ!!」

 

 ルシルが先頭の一体に両手のひらを向けながら魔法の言葉を唱える。すると手のひらから煌々(こうこう)と燃えさかる火球が放たれてスライムに命中する。

 

「ZGYAAAAAAAAaaaaaaaa!!」

 

 火の玉が直撃したスライムが悲鳴を上げて(もだ)え苦しむ。高熱の炎で焼かれて水分が蒸発し、影も形も残らず消滅する。

 

「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」

 

 レジーナが勇ましく雄叫びを上げながら二体目のスライムに斬りかかる。何としてもルシルに負けてられんと血気盛んに息巻く。

 両手で握った一振りの剣を横()ぎに振って、魔物を一刀両断する。

 剣で斬られたスライムが二つに分かれて地面に落下する。だが……。

 

「何ッ!?」

 

 次の瞬間起こった出来事に、王女は我が目を疑う。

 二つに分かれたスライムの体が再生して、それぞれ別の一体として動き出したのだ。

 

「気を付けろ! スライムはゴブリンと並ぶ最弱の魔物だが……剣で斬れば分裂するッ!!」

 

 ザガートが仲間に警告を発する。ゼリー状の魔物の恐るべき特性を教えて、同じ(あやま)ちを繰り返さぬよう(くぎ)を刺す。

 

「くっ……それではこの戦い、私は何の役にも立てんじゃないか!!」

 

 魔王の忠告を受けて、レジーナが()(だん)()を踏んで悔しがる。この戦いに(さい)して一切勝利に貢献できない事実に、腹立たしさのあまり割れんばかりの勢いで歯(ぎし)りした。

 

 彼女は魔法を発動する指輪を受け取っていない。それはひ弱な村娘であるルシルと違い、元から戦う力を持っていた事によるものだが、スライムとの戦闘において裏目に出る結果となる。

 

火炎光矢(ファイヤー・アロー)ッ! 火炎光矢ッ! 火炎光矢ッ!」

 

 ルシルが火球を連続発射して、スライムを片っ端から焼き払う。低威力の一撃でも確実に仕留められる(ため)、魔力を増幅する詠唱をすっとばす。

 ザガートも手と足に炎のオーラを(まと)わせ、キックとチョップで敵を片付けていく。レジーナは敵を倒す手段が無いため、見ている事しか出来ない。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 やがてルシルが激しく息を切らす。(ひたい)から滝のように汗が流れ、表情に疲労の色が浮かぶ。手足が震えてまともに立っていられなくなり、ガクッと(ひざ)をついてうなだれた。指輪の魔力が無限でも、呪文を唱える彼女の体力が尽きかけた。

 (すで)に五十体近く敵を仕留めたというのに、一向に減る気配が無い。それどころかどんどん数が増えている。むろん分裂して増えた訳ではなく、森の彼方から駆け付けた増援が、だ。

 

「……何という事だ」

 

 その時目にした光景に、王女は背筋が凍り付いた。

 

 この森に()まうスライムの総数が二百匹……いや三百匹を超えたのだ。それらがザガート達を四方八方から取り(かこ)む。

 何処にも逃げ道など無い。この見るからに醜悪なゼリー状の怪物(ども)は、極上の獲物を必ず喰らうのだと舌なめずりするようににじり寄る。

 

「FUNNNNnnnn!!」

 

 やがて一行を包囲するスライムのうち一体が、疲労困憊(こんぱい)したルシルめがけて水滴のようなものを飛ばす。

 

「危ないっ!」

 

 レジーナがルシルを(かば)おうとして咄嗟(とっさ)に彼女の前に立つ。水滴は鎧で覆われていない左脚の太腿(ふともも)に命中し、ジュッと肉が焦げる音が鳴る。

 

「ぐああああああああっ!」

 

 王女が悲痛な声で叫びながら(もだ)える。太腿に湧き上がる激痛に顔を(ゆが)ませながらのたうち回る。

 水滴が触れた箇所は肉が焼け(ただ)れており、鼻をつくニオイと共に白煙を立ち(のぼ)らせた。

 スライムが飛ばしたのは強酸性の液体だった。それは彼らの体を構成する主成分でもあるようだ。

 

「王女様、大丈夫ですかっ!」

 

 負傷した王女を心配してルシルが慌てて駆け寄る。急いで(いや)しの呪文を唱えると、酸で溶けた傷口がみるみるうちに(ふさ)がり、攻撃を受ける前の状態へと戻る。それでも痛みを受けた記憶が消えて無くなる訳ではない。

 

「私なんかのために……」

 

 思わずそんな台詞(セリフ)が口を()いて出た。自分を庇って強酸の餌食(えじき)となった仲間に負い目を感じたあまり、目から涙が(あふ)れ出す。

 

「良い……これで良いんだ。攻撃役(アタッカー)として戦闘に参加できない以上、肉の壁となって仲間を守るぐらいしか、私にやれる事など無い。(わず)かでも誰かの役に立てたなら光栄だ」

 

 レジーナがニッコリ笑って言葉を返す。深く責任を抱いた少女に、気にするなと言いたげに優しく微笑みかけた。

 

(……レジーナさん)

 

 気遣いに満ちた王女の態度に、ルシルは感激で胸がいっぱいになる。思わず泣きそうになるのを(こら)えるのに必死だった。

 

 出会って間もない頃、彼女の事を警戒した。愛する人を取られるのではないかと心の中に不安を抱いた。ザガートが自分よりも王女を気にかけているのではないかと感じて、彼女に嫉妬(しっと)した。

 

 だが今、彼女は危険を(かえり)みず、身を(てい)して自分を助けたのだ。(いち)()に仲間の身を案じる献身的な行動に、ルシルは彼女にわだかまりを抱いた事を深く()じた。

 

 恋のライバルには違いない。だがそれでも彼女と良好な関係を築いたいと願う。

 あわよくばどちらかが獲物を独占する事なく、仲良く分け合う事が出来れば良いと……そう思わずにいられなかった。

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