いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
オークの群れを討伐し、滅亡の危機に
レジーナを加えた一行は、王城の西にある樹海へと足を踏み入れる。その森の面積はかなり広く、地図に書かれた大きさと、これまで歩いた距離から計算して、ざっと十キロメートル四方はありそうだ。
魔族ではない野生動物がいるらしく、
地図に書かれた村は森の中央に位置しており、一行はそこを目指す。
うっそうと
先頭に立つザガートが魔法探知を使っているのか、方角に迷う事なくまっすぐに進み続ける。地面に積み重なった落ち葉を踏む音がカサカサと鳴る。
「あの……ザガート様、一つ聞いても良いでしょうか」
やがて沈黙に耐え切れず、ルシルが恐る恐る口を開く。
「何だ? 歩きながらで良ければ答えよう。遠慮せず好きに聞くがいい」
ザガートが後ろを振り返らずに言葉だけ返す。少女に声をかけられても足を止めずにズカズカと先に進む姿からは、日が暮れるまでに目的地に着かんとする気迫が十二分に伝わる。
「それじゃお言葉に甘えて……私、あれからずっと気になってたんです。ミノタウロスを再生できたなら、バハムートも同じようにやれたんじゃないかって。どうしてそれをしなかったんだろうって」
少女が
「フム……」
ルシルの問いに魔王がしばし物思いに
少女が疑問を抱くのは
「実はそう思って、戦いの後何度か試してみたんだ。だがバハムートだけは何度やっても肉体の修復に成功しなかった。『
やがて考えがまとまったように口を開く。実際に竜王の蘇生を
「惜しい事だ……バハムートさえ味方に付ければ、ヤツの圧倒的な力で、残りの魔族を皆殺しに出来たかもしれんのだがな」
残念そうにため息を漏らしながら、竜王を使役できない事を悔しがった。
「……バハムートなど味方にせずとも、お前一人の力だけで、魔族など余裕で滅ぼせるだろう」
レジーナが
「ハハハッ……それもそうだな。俺の力をよく分かっているじゃないか。
実力を
「やめろっ! 私はお前の子供じゃない! そう気安く何度も頭を触るなっ!」
レジーナが声を荒らげて男の手を払いのけた。いつまで
「すまない……無神経な事をした。女の心を分かったつもりでいたが、俺もまだまだ未熟だったようだ」
魔王が頭を下げて素直に謝る。軽率な行動を取ったと感じて、自分の無知を深く
「……キスしてくれたら、許してやる」
王女が
「……お前がそれを望むなら」
ザガートは了承したようにコクンと
ルシルの口から思わず「ああっ」と声が漏れる。
二人の唇が数ミリの距離まで近付いて、触れ合おうとした瞬間……。
「BZRRRRRRRrrrrrrr!!」
何処からともなく声が発せられた。とても文字に書き起こせない奇妙な音は、一度聞いただけでは動物の声か、肉を激しく打ち鳴らした音か判別できない。だがいずれにせよ、それが異変の予兆である事に違いはない。
ただならぬ気配を感じて、慌てて二人の体が離れる。
キスが未遂に終わった事にルシルがホッと一安心する。
魔族の襲来を察知して、三人が身構えていると……。
「BUBBAAAAAAAaaaaaa!!」
「OZO! OZOZOzozozo!!」
「GERRGEGEEEEEeeeeee!!」
不気味な音を鳴らしながら、前方の茂みから何かが飛び出してきた。
それも一体や二体ではない。ざっと見た限りでは二十体はいそうだ。しかも後方から続々と援軍が駆け付けている。
そこに現れたのは子犬くらいの大きさをした、ゼリー状の丸い物体だった。半透明に
言葉を発したというのに、何処に口があるかも分からない。
その奇妙な生命体の群れは、三人を獲物と見定めたようにジリジリと迫る。どう見ても友好的な関係を築こうとしているように思えず、明らかな敵意に満ちている。
彼らの襲撃を恐れて逃げたのか、気が付けば森から他の動物の気配が消えている。
「……スライム!!」
魔族と思しきゼリー状の物体を目にして、ザガートがそう名を呼んだ。
スライムはざっと見ただけで二十体はいたが、
ザガート達を獲物と見定めたようにジリジリと距離を詰めていく。
「BUBBAAAAAAAaaaaaa!!」
やがて魔物のうち一体が奇声を発しながら飛びかかる。
「業火よ放て……
ルシルが先頭の一体に両手のひらを向けながら魔法の言葉を唱える。すると手のひらから
「ZGYAAAAAAAAaaaaaaaa!!」
火の玉が直撃したスライムが悲鳴を上げて
「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」
レジーナが勇ましく雄叫びを上げながら二体目のスライムに斬りかかる。何としてもルシルに負けてられんと血気盛んに息巻く。
両手で握った一振りの剣を横
剣で斬られたスライムが二つに分かれて地面に落下する。だが……。
「何ッ!?」
次の瞬間起こった出来事に、王女は我が目を疑う。
二つに分かれたスライムの体が再生して、それぞれ別の一体として動き出したのだ。
「気を付けろ! スライムはゴブリンと並ぶ最弱の魔物だが……剣で斬れば分裂するッ!!」
ザガートが仲間に警告を発する。ゼリー状の魔物の恐るべき特性を教えて、同じ
「くっ……それではこの戦い、私は何の役にも立てんじゃないか!!」
魔王の忠告を受けて、レジーナが
彼女は魔法を発動する指輪を受け取っていない。それはひ弱な村娘であるルシルと違い、元から戦う力を持っていた事によるものだが、スライムとの戦闘において裏目に出る結果となる。
「
ルシルが火球を連続発射して、スライムを片っ端から焼き払う。低威力の一撃でも確実に仕留められる
ザガートも手と足に炎のオーラを
「ハァ……ハァ……ハァ……」
やがてルシルが激しく息を切らす。
「……何という事だ」
その時目にした光景に、王女は背筋が凍り付いた。
この森に
何処にも逃げ道など無い。この見るからに醜悪なゼリー状の怪物
「FUNNNNnnnn!!」
やがて一行を包囲するスライムのうち一体が、疲労
「危ないっ!」
レジーナがルシルを
「ぐああああああああっ!」
王女が悲痛な声で叫びながら
水滴が触れた箇所は肉が焼け
スライムが飛ばしたのは強酸性の液体だった。それは彼らの体を構成する主成分でもあるようだ。
「王女様、大丈夫ですかっ!」
負傷した王女を心配してルシルが慌てて駆け寄る。急いで
「私なんかのために……」
思わずそんな
「良い……これで良いんだ。
レジーナがニッコリ笑って言葉を返す。深く責任を抱いた少女に、気にするなと言いたげに優しく微笑みかけた。
(……レジーナさん)
気遣いに満ちた王女の態度に、ルシルは感激で胸がいっぱいになる。思わず泣きそうになるのを
出会って間もない頃、彼女の事を警戒した。愛する人を取られるのではないかと心の中に不安を抱いた。ザガートが自分よりも王女を気にかけているのではないかと感じて、彼女に
だが今、彼女は危険を
恋のライバルには違いない。だがそれでも彼女と良好な関係を築いたいと願う。
あわよくばどちらかが獲物を独占する事なく、仲良く分け合う事が出来れば良いと……そう思わずにいられなかった。