いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第120話 決着

「これでもう不死の力は使えなくなった……という事になるな」

 

 悲嘆に()れるアランの姿を遠くから眺めながら、ザガートが勝ち誇ったように言う。勇者の剣を破壊できた事実に、自らが優位に立てた事を確信して胸を(おど)らせた。

 

 勇者に切断されて地面に転がっていた魔王の左腕が、自ら意思を持ったように宙に浮き上がり、かつて腕があった肩まで飛んでいく。切断面がビッタリくっつき合うと傷口がみるみる(ふさ)がっていき、剣で斬られる前の状態へと戻る。(さら)にこれまでの戦いで破れた衣服も修復されていき、完全に元通りになる。

 

 自らの治癒(ちゆ)が完了すると、ザガートがまたも口を開く。

 

「アラン……お前が何度負傷しても傷を(いや)されるのは、その剣に秘密があった。聖剣エクスカリバーには持ち主を自然治癒させる力があったんだ。だから『絶対圧縮爆裂(アブソリュート・ディスラプト)』を受けた瞬間に剣を手放した。たとえ持ち主がバラバラに吹き飛んだとしても、剣さえ無事なら復活できたからだ」

 

 聖剣に隠された秘密について語りだす。アランが(こな)微塵(みじん)に吹き飛んでも瞬時に再生したのは剣の力によるものであったという事、彼が爆発する寸前に剣を手放したのは、剣が傷付かないようにする(ため)だった事……それらの事実を指摘する。

 

 「この剣がある限り俺は負けない」という勇者の言葉はハッタリでも何でもなく、剣の魔力によって不死の存在となった事実をこの上なく直球に伝えていたのだ。

 

「そしてアランよ、俺は剣に触れた事によりもう一つの事にも気付いた。剣の記憶を読み取った事で、それに気付けたのだ」

 

 ザガートが(なお)も突き止めた真実について語る。剣にチョップを叩き込んだ時に相手の記憶を読んで、それを知ったのだという。

 

「剣に隠されたもう一つの秘密……それは長年剣の治癒能力に頼り続けた反動で、逆にお前の体は、それ以外のあらゆる回復魔法を受け付けなくなったという事だ! 傷を癒す魔法、状態回復のみならず、蘇生術(リザレクション)までもッ! だから剣を失った後に致命傷を受ければ、お前は確実に死ぬ……そうだろう!!」

 

 エクスカリバーの使用に重篤(じゅうとく)な副作用があった事、それにより、剣を()くした後に負った傷は簡単には治せない事……それらの事実を強い口調で突き付けた。

 

 アランは剣を失ったショックで(ひざ)をついてうなだれたまま、ただ黙って魔王の言葉に聞き入っていたが……。

 

「……お前の言う通りだ」

 

 観念したようにボソッと口を開く。ありのまま真実を突き付けられて言い逃れできない思いがあったのか、その場(しの)ぎの嘘をついたりしない。

 

「確かに俺が受けた傷は回復魔法では癒せない……だが、それが何だというのだ。傷を受けたら死ぬのなら、受けなければいい。たったそれだけの事だ……」

 

 魔王の言葉を真実だと認めながらも、それだけで勝敗を決する要因とはならない意思を明確にする。最初こそ深い失意と絶望に打ちのめされていたものの、自分にはまだ手札が残っていると冷静に思い直したのか、すぐに聖剣を失ったショックから立ち直る。

 魔王の方へと向き直ると、闘志に満ちた表情を浮かべながら二本の足でゆっくりと立ち上がる。

 

「聖剣エクスカリバーを失っても……俺にはこれがある!!」

 

 そう叫ぶや(いな)や、空間の裂け目から(さや)に収まった一振りの剣を取り出す。鞘から剣を引き抜いて鞘を地面に放り投げると、(つか)を両手で握って構える。

 

 その剣は片手で振り回すロングソード型だったエクスカリバーと異なり、両手で扱うクレイモアのような大剣だったが、柄の根元から剣の先端に至るまで血のような赤色に染まっており、見る者に一目で魔剣だと分からせるほど禍々(まがまが)しかった。

 ラグナロクも魔剣ではあったが、それを(はる)かに上回るもののように思えた。

 

「これこそエクスカリバーと(つい)をなす魔剣ダインスレイフ……この剣で斬られた傷はどんな魔法でも癒せないため、斬った相手を確実に殺すと(つた)えられた、伝説の魔剣ッ! ザガート! この剣の切れ味を(もっ)て、俺達の長かった戦いを、ここで終わらせる!!」

 

 アランが異空間から取り出した魔剣の性能について語る。癒えない傷を残すため、斬った相手を間違いなく死に(いた)らしめるのだという。それによって魔王との勝負に終止符を打つ意思を高らかに宣言する。

 

(フゥーーム、斬られたら確実に死ぬ魔剣……か。それが事実なら確かに厄介(やっかい)だ)

 

 剣の能力を知らされて魔王が溜息(ためいき)を漏らす。眉間(みけん)(しわ)を寄せて気難しい表情になりながら、今後についてあれこれ考える。

 勇者を回復不能な状況に追い込みはしたものの、斬られたら一撃で死ぬのなら、自分も置かれた立場は同じだ。実質、これから先の戦いは一撃でもクリーンヒットした方の負けという事になる。それだけに一瞬の判断の(あやま)りが命取りになる。

 

 どう戦うべきか思案を(めぐ)らせた魔王であったが、まずは行動を起こさなければ始まらないと冷静に思い直す。

 

「接近戦に持ち込むまでもないッ! 今この場で死ぬがいい!!」

 

 正面に右手のひらをかざして、遠距離魔法でケリをつける意思を高らかに宣言する。

 

「青き光よ、雷撃となりて我が敵を()ぎ払え! 雷撃龍嵐(サンダー・ストーム)ッ!!」

 

 呪文の詠唱を行うと、魔王の手のひらがバチバチッと音を立ててスパークする。そこから青く光る一筋の(いかずち)が勇者に向けて放たれた。

 

「ふんっ!」

 

 勇者は(かつ)を入れるように鼻息を吹かすと、両手で握った剣を横一文字に振って、自分めがけて飛んできた雷を真っ二つに切り裂く。雷は二つに(えだ)分かれするとそれぞれ別の方角へと飛んでいき、フェードアウトしたようにうっすらと薄れて消えていく。

 

「なにっ!!」

 

 電撃魔法を剣で防がれた光景に魔王が深く動揺する。まさかこうなるなどとは夢にも思わず、一瞬だけ頭が真っ白になる。

 

「ダインスレイフで斬れないものなど、宇宙には存在しないッ! 剣に触れたものなら、光であろうと()つ!!」

 

 アランが雷を斬った剣の切れ味の鋭さを雄弁に語る。宇宙にあるものなら何でも斬れると豪語し、自分に攻撃魔法が効かない事の(あかし)とした。

 

(雷を()つ剣か……やれやれ、ますます厄介な強さになった)

 

 魔剣の力を思い知らされて、ザガートが深い懸念を抱く。遠距離から魔法で攻撃する戦術が使えなくなった状況に手詰(てづ)まりを感じる。

 

(イチ)(バチ)か……賭けに打って出るしか無さそうだ)

 

 頭の中である一つのアイデアを(ひらめ)くと、荒野の何も無い場所に向かって一目散に駆け出す。あたかも勇者から全速力で逃げようとしているようで、走りに一切の迷いが無い。

 

「待て、敵に背を向けて逃げるつもりかッ! 卑怯者!!」

 

 魔王がいきなり走り出した事に慌てて、勇者がすぐさま後を追いかける。相手の予期せぬ行動に(ひど)く困惑したようで、後先(あとさき)考える(ひま)がない。それが魔王の狙い通りなどとは知る(よし)もない。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 荒野を猛ダッシュで駆け抜けた魔王であったが、やがて逃げるのを諦めたようにピタリと足を止める。勇者が走ってくる方角へと向き直ると、服の左ポケットに手を突っ込んで、中にある『何か』に手を触れる。

 

 それから数秒遅れて勇者が駆け付ける。魔王から数メートル離れた場所まで来て足を止める。

 

「ハァ……ハァ……ようやく死ぬ決心がついたようだな、魔王」

 

 ここまで全力疾走してきた(ため)か表情に疲労の色が浮かぶ。肩でゼェハァと激しく息をさせて、(ひざ)に手をついて背筋を曲げてうなだれる。

 魔王がすっかり逃走を諦めて観念したと思っており、奥の手があるなどとは考えも及ばない。相手が左ポケットに手を突っ込んでいる事など、気にも()めない。

 

 深呼吸して気持ちを落ち着かせると、背筋をまっすぐ伸ばして姿勢を整える。剣を両手でしっかり握って構えると、正面の敵に向かって駆け出す。

 勇者が駆け出した瞬間、魔王がポケットの中にある『何か』を指で触る。カチッとボタンを押したような音が小さく鳴る。

 

「さらば、魔王……無敵の伝説と共に散れぇっ!!」

 

 勇者が死を宣告する言葉を発しながら魔王めがけて斬りかかる。ブゥンッと風を切る音を鳴らしながら横一文字に振られた剣が、魔王を(とら)えようとした瞬間、男の姿がフッとワープしたように消えた。

 

 

 

 魔王はビュンッと残像を残しながら地を(すべ)るように高速で移動して、一瞬にして勇者の背後へと回り込む。あたかも魔王だけが千倍の速さで動いたかのようで、勇者には全く反応する(ひま)がない。

 

「ゲヘナの火に焼かれて消し(ずみ)となれ……」

 

 魔王が間髪入れずに勇者の背中に手を当てながら呪文を唱えだす。相手が渾身の一撃を空振った(すき)を逃さない。

 アランは敵に背後に回られた事に気付いたが、もう手遅れだ。何か行動を起こしたとしても、彼の反応が間に合うより相手の術が発動するタイミングの方が速い。

 

「しまっ……」

火炎光弾(ファイヤー・ボルト)ッ!!」

 

 アランが自身の敗北を悟った瞬間、彼の背中に触れた手で大きな爆発音が鳴る。山をも吹き飛ばす威力のダイナマイトに匹敵する巨大な爆発が巻き起こると、勇者の体が太陽の中心温度に匹敵する灼熱の業火に()まれた。

 

「がぁぁぁぁぁぁあああああああああああッッ!!」

 

 体を骨の(ずい)まで焼かれる痛みに、勇者が断末魔のような悲鳴を上げた。爆発の衝撃で吹き飛ばされた拍子(ひょうし)にダインスレイフから手を離す。地面に落下して全身を強く叩き付けられると、地べたをゴロゴロと横向きに転がって、最後は仰向けに倒れたまま手足をピクピクさせた。

 炎はすぐに鎮火したが体のあちこちが黒く焦げていて、マントはボロボロだ。火傷(やけど)した箇所からブスブスと白煙が立ち(のぼ)っていて、鼻をつくニオイが漂う。致命傷を受けた事は疑いようがない。

 

「ナター……シャ……」

 

 勇者がボロ雑巾(ぞうきん)のように倒れたまま、女の名を口にした。

 

 ザガートはしばらく離れた場所から様子を見たが、もうアランに戦う気力は残っていないだろうと考えて、カツカツと歩いていく。彼の前まで来て足を止めると、その場にしゃがみ込んで相手の顔をじっと見る。

 

「ううっ……何故だ……何故、俺の背後に回り込めた。俺とお前のスピードは同じはずなのに……」

 

 アランが苦しそうに(うめ)きながら、自身の中に湧き上がった疑問を口にする。彼が『神速の腕輪』を装備している以上、魔王が目の前にいる相手より数倍速く動き回るなどありえない事だ。そのありえない事が起こった。

 本来起こり()ないはずの事象が決着を付ける要因となった事に到底(とうてい)納得が行かず、聞いて確かめずにはいられない。

 

「俺がさっき立っていた場所……あそこにテレポートの(わな)が仕込んであった。お前に斬られる直前、俺はポケットの中にあるボタンを押して装置を作動させた。それによって、一瞬にしてお前の背後に回り込めた……これが真相だ」

 

 勇者の疑問に魔王が種明かしをする。彼が立った地面に瞬間移動のトラップが仕込まれており、それを作動させて勇者の一撃をかわしたのだという。

 敵に背を向けて逃げたのは、装置がある場所まで誘導する(ため)だったという事になる。

 

「俺は再戦に備えて、いくつかの手札を用意した……『死の選択肢(デス・セレクション)』もさっきの仕掛けも、そのうちの一つだったという訳だ」

 

 勝負に勝つために万全の備えをしてあった計画を明かす。(すで)に使用した二つばかりでなく、他にも未使用の手札があった事を(にお)わせた。

 

「結局、お前の方が一枚(うわ)()だった……という事か。さすが魔王、俺の完敗だ。やはりお前は異世界最きょ……ゴホッゴホッ!!」

 

 勇者が自身の敗北を素直に認める。相手の勝ち方を卑怯だと(ののし)ったりしない。

 魔王に対する称賛の言葉を口にしようとした瞬間、ゴホゴホと()き込んで大量の血を吐き出す。(すで)に立ち上がる力を失っており、数分が経過すれば死は(まぬが)れない状況だ。エクスカリバーを失った彼には回復呪文が一切通じないのだから。

 

「アラン……お前が本当に(かな)えたかった願いがあるなら、今この場で全部話して欲しい。望みを叶えられる訳じゃないが、こんな俺でも(なぐさ)めの言葉くらいは掛けてやれるかもしれない。俺が他人の不幸をあざ笑う性格じゃない事は、お前ならとうに知ってるはずだ」

 

 ザガートが、まだ勇者の息があるうちに彼の過去を聞き出そうとする。彼が胸の奥にしまっていた悲しみを知れるのは今しかないと考えた。自分が他人の不幸を喜ぶ性分(しょうぶん)ではないと、あらかじめ念を押す。

 

「……胸の内にモヤモヤを抱えたまま死ぬより、いっそ全部ブチ()けた方がスッキリするかもしれんぞ」

 

 悩みを告白して死ねた方が、彼にとってもプラスになると提案を付け加えた。

 

「……」

 

 ザガートの言葉を聞いてアランがしばし黙り込む。悩みを打ち明けるべきかどうか迷ったものの、相手の主張にも一理あると頭の中で考えた。

 

「昔……好きだった女がいたんだ」

 

 やがて観念したように口を開く。

 

「……ナターシャか」

 

 アランが『女』と言ったのを耳にして、ザガートが即座に言葉を返す。勇者が吹き飛ばされて地面に転がった時に口にした名が、その女の名だろうと推測する。

 

「そうだ……俺達二人は同じ村で生まれ育った幼なじみだ」

 

 勇者は自分の過去について、ゆっくりと少しずつ語りだす。

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