いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
「これでもう不死の力は使えなくなった……という事になるな」
悲嘆に
勇者に切断されて地面に転がっていた魔王の左腕が、自ら意思を持ったように宙に浮き上がり、かつて腕があった肩まで飛んでいく。切断面がビッタリくっつき合うと傷口がみるみる
自らの
「アラン……お前が何度負傷しても傷を
聖剣に隠された秘密について語りだす。アランが
「この剣がある限り俺は負けない」という勇者の言葉はハッタリでも何でもなく、剣の魔力によって不死の存在となった事実をこの上なく直球に伝えていたのだ。
「そしてアランよ、俺は剣に触れた事によりもう一つの事にも気付いた。剣の記憶を読み取った事で、それに気付けたのだ」
ザガートが
「剣に隠されたもう一つの秘密……それは長年剣の治癒能力に頼り続けた反動で、逆にお前の体は、それ以外のあらゆる回復魔法を受け付けなくなったという事だ! 傷を癒す魔法、状態回復のみならず、
エクスカリバーの使用に
アランは剣を失ったショックで
「……お前の言う通りだ」
観念したようにボソッと口を開く。ありのまま真実を突き付けられて言い逃れできない思いがあったのか、その場
「確かに俺が受けた傷は回復魔法では癒せない……だが、それが何だというのだ。傷を受けたら死ぬのなら、受けなければいい。たったそれだけの事だ……」
魔王の言葉を真実だと認めながらも、それだけで勝敗を決する要因とはならない意思を明確にする。最初こそ深い失意と絶望に打ちのめされていたものの、自分にはまだ手札が残っていると冷静に思い直したのか、すぐに聖剣を失ったショックから立ち直る。
魔王の方へと向き直ると、闘志に満ちた表情を浮かべながら二本の足でゆっくりと立ち上がる。
「聖剣エクスカリバーを失っても……俺にはこれがある!!」
そう叫ぶや
その剣は片手で振り回すロングソード型だったエクスカリバーと異なり、両手で扱うクレイモアのような大剣だったが、柄の根元から剣の先端に至るまで血のような赤色に染まっており、見る者に一目で魔剣だと分からせるほど
ラグナロクも魔剣ではあったが、それを
「これこそエクスカリバーと
アランが異空間から取り出した魔剣の性能について語る。癒えない傷を残すため、斬った相手を間違いなく死に
(フゥーーム、斬られたら確実に死ぬ魔剣……か。それが事実なら確かに
剣の能力を知らされて魔王が
勇者を回復不能な状況に追い込みはしたものの、斬られたら一撃で死ぬのなら、自分も置かれた立場は同じだ。実質、これから先の戦いは一撃でもクリーンヒットした方の負けという事になる。それだけに一瞬の判断の
どう戦うべきか思案を
「接近戦に持ち込むまでもないッ! 今この場で死ぬがいい!!」
正面に右手のひらをかざして、遠距離魔法でケリをつける意思を高らかに宣言する。
「青き光よ、雷撃となりて我が敵を
呪文の詠唱を行うと、魔王の手のひらがバチバチッと音を立ててスパークする。そこから青く光る一筋の
「ふんっ!」
勇者は
「なにっ!!」
電撃魔法を剣で防がれた光景に魔王が深く動揺する。まさかこうなるなどとは夢にも思わず、一瞬だけ頭が真っ白になる。
「ダインスレイフで斬れないものなど、宇宙には存在しないッ! 剣に触れたものなら、光であろうと
アランが雷を斬った剣の切れ味の鋭さを雄弁に語る。宇宙にあるものなら何でも斬れると豪語し、自分に攻撃魔法が効かない事の
(雷を
魔剣の力を思い知らされて、ザガートが深い懸念を抱く。遠距離から魔法で攻撃する戦術が使えなくなった状況に
(
頭の中である一つのアイデアを
「待て、敵に背を向けて逃げるつもりかッ! 卑怯者!!」
魔王がいきなり走り出した事に慌てて、勇者がすぐさま後を追いかける。相手の予期せぬ行動に
◇ ◇ ◇
荒野を猛ダッシュで駆け抜けた魔王であったが、やがて逃げるのを諦めたようにピタリと足を止める。勇者が走ってくる方角へと向き直ると、服の左ポケットに手を突っ込んで、中にある『何か』に手を触れる。
それから数秒遅れて勇者が駆け付ける。魔王から数メートル離れた場所まで来て足を止める。
「ハァ……ハァ……ようやく死ぬ決心がついたようだな、魔王」
ここまで全力疾走してきた
魔王がすっかり逃走を諦めて観念したと思っており、奥の手があるなどとは考えも及ばない。相手が左ポケットに手を突っ込んでいる事など、気にも
深呼吸して気持ちを落ち着かせると、背筋をまっすぐ伸ばして姿勢を整える。剣を両手でしっかり握って構えると、正面の敵に向かって駆け出す。
勇者が駆け出した瞬間、魔王がポケットの中にある『何か』を指で触る。カチッとボタンを押したような音が小さく鳴る。
「さらば、魔王……無敵の伝説と共に散れぇっ!!」
勇者が死を宣告する言葉を発しながら魔王めがけて斬りかかる。ブゥンッと風を切る音を鳴らしながら横一文字に振られた剣が、魔王を
魔王はビュンッと残像を残しながら地を
「ゲヘナの火に焼かれて消し
魔王が間髪入れずに勇者の背中に手を当てながら呪文を唱えだす。相手が渾身の一撃を空振った
アランは敵に背後に回られた事に気付いたが、もう手遅れだ。何か行動を起こしたとしても、彼の反応が間に合うより相手の術が発動するタイミングの方が速い。
「しまっ……」
「
アランが自身の敗北を悟った瞬間、彼の背中に触れた手で大きな爆発音が鳴る。山をも吹き飛ばす威力のダイナマイトに匹敵する巨大な爆発が巻き起こると、勇者の体が太陽の中心温度に匹敵する灼熱の業火に
「がぁぁぁぁぁぁあああああああああああッッ!!」
体を骨の
炎はすぐに鎮火したが体のあちこちが黒く焦げていて、マントはボロボロだ。
「ナター……シャ……」
勇者がボロ
ザガートはしばらく離れた場所から様子を見たが、もうアランに戦う気力は残っていないだろうと考えて、カツカツと歩いていく。彼の前まで来て足を止めると、その場にしゃがみ込んで相手の顔をじっと見る。
「ううっ……何故だ……何故、俺の背後に回り込めた。俺とお前のスピードは同じはずなのに……」
アランが苦しそうに
本来起こり
「俺がさっき立っていた場所……あそこにテレポートの
勇者の疑問に魔王が種明かしをする。彼が立った地面に瞬間移動のトラップが仕込まれており、それを作動させて勇者の一撃をかわしたのだという。
敵に背を向けて逃げたのは、装置がある場所まで誘導する
「俺は再戦に備えて、いくつかの手札を用意した……『
勝負に勝つために万全の備えをしてあった計画を明かす。
「結局、お前の方が一枚
勇者が自身の敗北を素直に認める。相手の勝ち方を卑怯だと
魔王に対する称賛の言葉を口にしようとした瞬間、ゴホゴホと
「アラン……お前が本当に
ザガートが、まだ勇者の息があるうちに彼の過去を聞き出そうとする。彼が胸の奥にしまっていた悲しみを知れるのは今しかないと考えた。自分が他人の不幸を喜ぶ
「……胸の内にモヤモヤを抱えたまま死ぬより、いっそ全部ブチ
悩みを告白して死ねた方が、彼にとってもプラスになると提案を付け加えた。
「……」
ザガートの言葉を聞いてアランがしばし黙り込む。悩みを打ち明けるべきかどうか迷ったものの、相手の主張にも一理あると頭の中で考えた。
「昔……好きだった女がいたんだ」
やがて観念したように口を開く。
「……ナターシャか」
アランが『女』と言ったのを耳にして、ザガートが即座に言葉を返す。勇者が吹き飛ばされて地面に転がった時に口にした名が、その女の名だろうと推測する。
「そうだ……俺達二人は同じ村で生まれ育った幼なじみだ」
勇者は自分の過去について、ゆっくりと少しずつ語りだす。