いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
「……こうして町を離れてる間に二人が付き合ってた事を知らされた俺は、長年の恋心を打ち明けられないまま、
アランが失恋した
傷心に
「それで……それでお前は町を出て、そのまま魔竜王の討伐に向かったのかッ! たとえ世界を救ったとしても、彼女と結ばれる事など
悲しい過去を知らされて魔王が声を震わせた。望みが叶わないと知って
「ああ、行ったさ……魔竜王を討伐して、世界を救った。恋を失った俺には、もうそれしか残ってなかったから……」
アランが魔王の問いに答える。もう自分には勇者の使命しか残されていなかった事、それを果たす
「でも、駄目だった。魔竜王を倒しても、隕石が落下して結局世界は滅んだ。お前との戦いに敗れて世界を再生させる夢も
最後は両方の夢を果たせなかった自分を負け犬だと
瞳から大粒の涙がボロボロと
(………)
勇者がいつまでも泣く姿を見て、魔王は胸が痛んだ。彼を不幸な境遇へと追いやった運命に深い
それと同時に、何としても勇者の悲しみを取り除いてやらねばならない使命感に駆られた。どうすればそれが叶うのかすぐには思い付かなかったが、ひとまずポケットからハンカチを取り出して、涙を
「……お前がどれだけ自分を
勇者の
(………)
魔王の言葉が胸に刺さったのか、勇者の涙が止まる。それまでわんわんと声に出して泣いていたのが、次第に声量が小さくなっていって、最後は声を出すのをやめて泣き
勇者はしばらく魔王に慰めの言葉を掛けられた事に驚いたような放心状態になったが、やがて気持ちが落ち着くと、魔王に言われた言葉を何度も心の中で
魔王が発した言葉はただの気休めだったかもしれない。
だがどんな気休めの言葉だったとしても、それが相手を思いやって吐き出された言葉だという事が、勇者には分かっていた。
それもそのはず、さっきの
「ありがとうザガート……こんな俺なんかの為に泣いてくれて。誰かに泣かれるのが、こんなに嬉しい事だとは知らなかった。不思議だな……戦場で殺し合っただけの仲なのに、今は
魔王が自分の境遇を深く悲しんた事実に、勇者が感激の言葉を漏らす。これまで胸の内に抱えていたモヤモヤが晴れてスッキリしたような、晴れやかな笑顔になる。
自分の境遇を分かってくれる人がいた。その人が自分の為に泣いてくれた……彼にはそれだけで十分だった。他に何もいらなかった。
最後は魔王に友のような感情が湧いた気持ちを素直に打ち明ける。
「お前が望むなら、今からだって
ザガートが勇者の友になってもいい意思を伝える。その表情は真剣で、口調には一切迷いが無い。
「ありがとう……こんな俺なんかの
アランがザガートの言葉に感謝しかけた瞬間、ゴホゴホと
魔王に過去を語る為にこれまでどうにか持たせてきたが、勇者の命が尽きようとしている事が、その場にいる者に容易に感じ取れた。
アランがふと空を見上げると、頭上に雲一つない青々とした空が広がっていた。太陽が
顔を真横に向けると、二羽の
「ああ、なんて
再び空を見上げると、視界に映り込んだ空の美しさに
空の青さも、照り付ける太陽も、飛んでいく鳩も、日常で見かける何て事ない風景だ。だがこれから死にゆく彼にとって、それらの景色はかけがえの無い、美しいもののように思えた。
「後悔ばかりの人生だったが、悪い最期じゃなかっ……た……」
今にも消え入りそうにか
……ハンカチで拭いてもなお
「……!!」
勇者の死を目の当たりにして、魔王は思わず絶句した。
うまく言葉で言い表せない感情が胸の内に湧き上がり、手足の震えが止まらなくなる。全身にドッと冷や汗のようなものが噴き出し、胸がきゅうっと締め付けられて息が詰まりそうになる。
自分が彼を殺したのだ。その自分が殺したはずの相手の死に、誰よりも自分がショックを受けていた。
「うっ……うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーッ!!」
魔王は空を見上げると、胸の内に湧き上がる感情を天に向かってブチ
ひとしきり叫び終わると、勇者の亡骸の前に
勇者の死に顔は
だが勇者のその満足そうな死に顔が、かえって魔王の胸を強く痛め付けた。
魔王の心象が強く影響したのか、それまで青く晴れていた空が
勇者の
魔王はどれだけ激しい雨が降ろうと、雨が
……まるで冷たい雨に打たれ続ける事で、勇者を救えなかった自分を責めているかのように。
◇ ◇ ◇
四つの空間に分断される前に一行が集まっていた荒野……そこに四人の女がいた。その者達は言うまでもなくザガートの仲間であるルシル、レジーナ、なずみ、鬼姫といういつもの面々だ。彼女達は他の二人の男より速いタイミングで現実空間に帰還していた。
女達が魔王の帰還を待ち望みながらたわいもない話をしていると、荒野の何も無い空間に、人が通れる大きさの黒い横穴がドアのように開く。そこから一人の男がスタスタと歩いて出てくる。
男が完全に出終わると穴は再び閉じていって、何も無い空間へと戻る。
「おお魔王よ、無事じゃったか! 心配しておったのだぞ!!」
穴から出てきた男の姿を見て鬼姫が、いの一番に言葉を掛けた。
「ザガート様っ!」
「師匠ッ!!」
「やはり無事だったか!」
他の女達がワンテンポ遅れて、魔王が戻ってきた事に歓喜する。愛する男が無事だった姿を見て深い安心感に包まれると、猛ダッシュで彼の元へと駆け寄っていき、
「服が濡れてるじゃないか。一体どうしたんだ?」
魔王の服がにわか雨に降られたように濡れてる事に気付いて、レジーナが問い
服が濡れているのは勇者の死に悲嘆した魔王が、数時間激しい雨に打たれ続けたからだが、女達には知る
「何でもない……こんなもの、放っておけば数分と
ザガートが王女の疑問に
口調はかなり不機嫌で、胸の内に抱えたモヤモヤを隠し切れていない。それだけでも周囲に何かあったと思わせる材料として十分だったが、魔王が話したがらないので、女達は聞くに聞けない。
魔王の言葉通り、服に染み付いた水分は一分と経たないうちに蒸発して、完全に乾いた状態になる。
「騎士の
ブレイズがどれだけ待っても姿を現さない事をなずみが不安がる。
「心配する事は無い。ここでは数分の出来事だったとしても、向こうでは数日、あるいは数週間戦ってる場合もある……ここは気長に待つとしよう」
ザガートが心配する必要は無い
仲間の帰還を待つために三十分ほど取り
「ようやく戻ってきおったか。ずいぶんと待たせてくれたのう」
帰還を果たした仲間に鬼姫が真っ先に声をかけた。長時間の待ちぼうけを食らわされた事実を、苦言を
『
女の不満に不死騎王が言葉を返す。自分が担当を引き受けた相手がかなりの頑丈さだった事を伝えて、彼ほどの戦士は二度と現れないだろうと
「じゃが、勝ったのであろう?」
鬼姫が念を押すように問いかけた。
『ああ……勝った』
ブレイズが女の問いに言葉少なげに答える。
「これで異世界の勇者パーティを全滅させて、私達が勝利を収めた……という事になる訳ですね」
ルシルが相手のパーティに勝利した喜びを口にする。異世界の勇者同士の対決という構図にライバル意識を燃やしていたらしく、自軍の犠牲者を一人も出さずに勝てた満足感に
「……」
仲間の言葉など気にも
まるで大切な仲間を失ったように気落ちしており、とても勝利した者の姿とは思えない。
「何じゃ? さっきから様子が変じゃぞ。何か悩み事があるなら話してみい」
明らかにただ事ではない雰囲気の魔王を見て、鬼姫が
「別に大した事じゃない……話したくなったら、そのうち話す」
ザガートが気にかける必要は無い
「まあよい。男にだって人に話したくない秘密の一つや二つ、あるじゃろう」
魔王の返答を聞いて、鬼姫がそれ以上聞くのをやめる。よほど言いたくなさげな男の心情を察して、ここは相手の意思を尊重すべきだと大人しく引き下がる。
鬼姫が深く突っ込まなかったので、他のメンバーも彼女の方針に
ザガートはふと顔を上げて空を見上げると、何処か遠くを見るような目をしながら空の彼方を眺める。
(自分で殺しておきながら、殺した相手の過去を知って同情する……つくづく矛盾している)
自分のこれまでの言動を
(だが……だがそれでも、俺は……)
魔王が心の中である言葉を口にしかけた時……。
「たたた、大変じゃぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーッ!!」
異界の神ゼウスが大声で叫びながら、一行の元へと
「いいい、一体どうしたんだ!?」
「あ、あれを見るんじゃぁぁぁああああっ!!」
ゼウスはそう叫ぶや
……旧約聖書に次のような記述がある。
かみ食らういなごの残したものは、
群がるいなごがこれを食い、
群がるいなごの残したものは、
とびいなごがこれを食い、
とびいなごの残したものは、
滅ぼすいなごがこれを食った。
(ヨエル書 第一章)