いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
……西大陸の
ゾアルはたびたび魔物の侵攻を受けていたが、住人が武器を持って立ち向かい、どうにか彼らの侵攻を止めていた。更にここ数週間は魔物が襲ってくる頻度が大幅に減って、住人は
太陽が西の空へと落ちかかった午後三時、数人の村人が
「オイ、あれは何だ?」
村の若い男性の一人がそう口にしながら、空の彼方を指差す。
他の住人が男が指差した方角に目をやると、巨大な人の姿のようなものが空に浮かび上がる。
空に映し出された、半透明な鎧の騎士……それはこの世界を創造した神ヤハヴェに他ならない。ソドムの村を滅ぼした時と同様、再び全世界の人間に見える形で姿を現したのだ。
「聞くがいい、罪深き我が子らよ……裁きの日は訪れた。今こそ全人類が、永遠に炎が消える事のない地獄の
ヤハヴェは両腕を左右に広げて天を仰ぐようなポーズを取ると、世界中に響き渡るような大きな声で語りかける。表現は詩的で回りくどかったが、ようするに今から全人類を皆殺しにすると言っているのだ。
現世での救済を期待する者が聞いたら卒倒するレベルの発言だ。死刑宣告に等しい。
「地獄の
これから全人類が死ぬクラスの大災害が起きる事を前もって予告する。
「……死ぬがよい」
死を宣告する言葉を発すると、スゥーーッと姿が薄れて消えていく。
数秒が経過すると、さっきまで幻影が映し出されていた空に、黒い穴のようなものがポッカリと
「ああ……あれはッ!!」
望遠鏡で遠くを眺めていた村の男性が、空を飛ぶ虫の大群を目にして大きな声で叫ぶ。
黒い穴から出てきたもの……それはバッタの群れだった。
サバクトビバッタと呼ばれる、深刻な
十万匹を
バッタの群れは出現した空からゾアル村に向かってブブブッと羽音を立てて飛んでいく。数分と
村の中まで侵入すると、一番近くにいた村の若い男性めがけて突進する。
「うっ……うわぁぁぁぁぁぁあああああああああああッッ!!」
男は悲鳴を上げて逃げようとしたが、バッタの群れは彼を洪水のように
……虫が通り過ぎた後に残されていたのは、かつて彼であったと思しき白骨化した死体だけだった。肉も皮も内蔵も残らず、文字通り骨だけになった。バッタが彼を食べ尽くしたのだ。
むろん本来サバクトビバッタは人肉を食べたりなどしない。神が魔法で生み出したモンスターのバッタだからこそ、そのようにするのだ。
ただ村の男性は虫の大群に呑まれて一瞬で骨だけになったため、食べられたというより、体当たりを受けて肉を
「ひっ……ひぃぃぃぃいいいいいいいいっ!!」
男性が白骨化した死体になった光景を目にして、他の村人達が情けない悲鳴を漏らす。
バッタの大群が人を呑み込むたびにボッ、ボッと衝突音のようなものが鳴り、虫が通り過ぎた後に白骨死体だけが残る。その光景はまさしく悪夢そのものだ。
数名の村人が木造の家に逃げ込むと、バッタの群れは家の壁に向かって直接体当たりする。木で出来たものは壁であっても家具であっても一瞬で食べ尽くされ、家はあっという間に丸裸にされる。むろん中にいた人はすぐに
石造りの家に逃げ込んだ者も、扉が木造であった
村人が一人、また一人と犠牲になる中、十歳くらいの幼い少女が、足が悪い母親の手を引いて村の外を目指して走っていた。だが途中で手が離れてしまい、母親が道端に転ぶ。娘も手が離れたショックで前のめりにコケてしまい、互いに数メートル離れたまま転んだ状態となる。
その時、虫の大群が母親めがけて飛んできていた。
「お母さんっ!」
娘が慌てて上半身を起こし、母親の元へと駆け寄ろうとする。
「サリアっ! こっちに来ちゃダメ!!」
母親が大きな声で娘の行動を制止する。
次の瞬間バッタの大群が彼女を呑み込んだ。
「サリア……逃げ……て……」
娘に逃げるよう言おうとしたが、途中で言葉が切れる。『ボッ』と音が鳴って虫の大群が通り過ぎると、後には白骨化した死体だけが残された。
「いっ……いやぁぁぁあああああっ! お母さんっ! お母さぁぁぁぁぁああああああああんっ!!」
母親がバッタの
バッタはある程度の距離まで進んだ所で向きを変えると、今度は娘に向かって飛んでいく。そのまま彼女を捕食しようとする。
「神様、助けてぇぇぇぇぇええええええええっ!!」
少女が天に向かって祈る言葉を大きな声で叫んだ瞬間……。
村の中心にある広場に一筋の雷が落ちて、ドォーーーン! と大きな爆発音が鳴る。モクモクと煙が立ち込めて、広場一帯が見えなくなる。何が起こったのかは分からない。
バッタの群れは何やらただならぬ気配を感じて、少女に触れる寸前でピタリと止まる。雷が落ちた方角を、警戒するように全てのバッタが振り返る。
やがて広場を覆っていた煙が消えてなくなると、そこに一人の男が立っていた。
「よくも……よくもこうも簡単に、人の命を踏み
頭に悪魔の
言うまでもなく、その者は異世界から来た魔王ザガートだ。ゾアル村がバッタの大群に襲われたと聞いて、慌てて駆け付けてきた。
「虫けらども、一匹残らずこの世から駆逐してやる!!」
ザガートは
「ギギギッ!!」
魔王が駆け付けたと知って、群れの先頭にいた一匹のバッタがけたたましい声で鳴く。その声が合図となったようにバッタの集団がザガートめがけて飛んでいく。
だが魔王に触れようとした先頭のバッタ達は、彼から数センチ離れた場所にある空気に触れた途端発火する。超高熱の炎で焼かれて一瞬で灰になり、地面にパラパラと降り落ちる。
魔王の体から真夏のような熱気がゆらゆらと立ち
「ギィィィーーーーーッ!!」
さっきのとは異なるバッタが、仲間に指令を下すように大きな声で鳴く。その声を受けて全てのバッタが方向転換し、魔王がいない方角へと一斉に飛び去る。ザガート相手では
「馬鹿め、俺を敵に回して生き延びられると本気で思ったか!! 俺をその気にさせた事を後悔しながら地獄に落ちるがいい!!」
ザガートが正面に右手をかざして死を宣告する言葉を吐く。彼を本気にさせたバッタどもを皆殺しにする事を高らかに宣言する。
「青き光よ、雷撃となりて我が敵を
魔法の言葉を叫ぶと、彼の右手から青く光る一筋の
雷は進行ルートにいたバッタを一瞬で感電死させる。雷に触れたバッタは黒焦げの焼死体となり、ボトボトと地面に落下する。直撃を
やがて数分と
……バッタを仕留め終わったザガートが辺りを見回すと、村は
バッタの進行ルートにあったものは木、木造の家屋、畑、牛や馬などの家畜、あらゆるものが食べ尽くされ、村の
生存者もいるにはいたが、それでも半数以上の村人がバッタの
「ううっ……お母さん……お母さぁぁあああん」
サリアと呼ばれた少女が、母親の白骨死体を両手で抱きかかえて泣く。目から大粒の涙をボロボロと
他の生存者も、ある者は身内を殺された悲しみで、ある者は村の
(これが……こんなものが、神の望んだ光景だというのか。だとしたら、あまりにも
村人が悲しむ姿を見てザガートは胸が痛んだ。
彼らは何も悪い事などしていない。善良で無力な、ただの人間だ。にも関わらず突然このような天災に見舞われた。それら全てが、神の身勝手な言い草によるものなのだ。とても愛する我が子に向けたとは思えない仕打ちに、ザガートは怒りで脳の血管が爆発寸前になる。
今すぐ神に戦いを挑みたくなった魔王であったが、村をこのままにしておく訳にもいかず、彼らを助けてやらねばならないと思い立つ。
「我、魔王の名において命じるッ!
両腕を左右に広げて天を仰ぐようなポーズを取ると、魔法の詠唱を高らかに叫ぶ。
空から巨大なサーチライトのような光が
村の至る所に倒れていた人達が一人、また一人と起き上がっていく。サリアの母親も同様に生き返る。
「ああっ……!!」
母親が生き返った光景を目にして、サリアが喜びのあまり全身を打ち震わせた。絶望に引き裂かれていた心は一瞬で歓喜の色に染まり、表情が満面の笑顔になる。悲しみの涙が感動の涙へと変わる。
「お母さんっ! お母さぁぁぁぁぁああああああああんっ!!」
「サリアーーー!!」
親子は互いに相手の名を呼ぶと、深く抱き締めて喜び合った。
「うおおおおおッ! 俺達生き返ったぞ!!」
「やったな、ジョセフ!!」
他の村人達も、死人が生き返った事を喜び合う。ある者は自分が生き返った事を、ある者は身内が生き返った事を、
ヒトだけでなく樹木や畑の作物、牛や馬などの家畜、その他バッタの犠牲となったものの中で『命』と呼べたものは全て生き返った。さすがに木造の家具や家屋、収穫済みの作物は生き返らない
「ザガート様、ばんざーーーい!!」
「ばんざーーーい!!」
「おお救世主よッ! よくぞ……よくぞ村をお救い下さった!!」
「アンタは俺達を救った英雄だ!!」
「おおザガート……我らを破滅からお救い下さる方……」
村人が思い思いの言葉を口にする。バッタの害から命を助けてくれた英雄の奮闘に皆が感謝する。ある者は
皆の歓声に包まれて、魔王が
「た、大変じゃぁぁぁぁああああああーーーーーーッ!!」
鬼姫が大声で叫びながら慌てて魔王の元へと駆け寄ってくる。ここまで全力疾走してきたようで、何やら
「バッタが……バッタの群れが、他の町にも攻めてきよった!!」
「何ッ!!」