いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第124話 ヤハヴェはザガートに挑戦状を叩き付ける

 ……神が召喚したバッタによる襲撃は、世界の十五箇所に及んだ。ザガートはそれら全てを二時間かけて回り、全てのバッタを駆逐して、全てのバッタの犠牲となった者達を生き返らせた。

 人的被害は無いに等しいが、それでも木造の家屋を破壊されて、収穫済みの作物を食べ尽くされたため、人類が受けた被害は甚大(じんだい)だ。

 

 人々は神のしでかした仕打ちを呪う。天に向かって呪いの言葉を吐き続ける。

 司教は衣を裂き、シスターは祈りを捧げるのをやめて、太陽の首飾りは地面へと投げ捨てられる。大天使ミカエルの像は地面に引き倒されてバラバラに砕け、ヤハヴェを信仰する教会はザガートを(あが)める建物へと作り替えられる。

 人類に対する神の愛が尽きたように、人の神への信仰は今日この日、ここに途絶えた。

 

 時刻が夕方の五時を回り、太陽が沈みかかっていた頃、当のザガート一行はソドムの村跡地の難民キャンプへと帰還していた。キャンプ地にもバッタの群れが襲来したらしく、(いた)る所にバッタの死骸が転がっている。

 

「コノヤロウ! テメエらに食われるくらいなら、先に俺がテメエらを食ってやる!!」

 

 いかついハゲのマッチョなおっさんが、大声で(わめ)きながらバッタの死骸を口の中に放り込む。襲われた仕返しをするようにバリバリと音を立てて()(しゃく)する。

 

「それ……さっき人肉を食べたバッタだよ」

「オエーーーー!!」

 

 その光景を(そば)で見ていた子供が都合の悪い事実を指摘すると、男は口に(ふく)んでいたバッタの死骸を「オエー」と吐き出す。

 ザガートは荒野にドガッと置かれた背もたれのある椅子(いす)に座りながら、二人のやりとりを眺めていた。

 

 当のザガートは表情に疲労の色を浮かべて、全身だらんとさせながら椅子にもたれかかっていた。二時間かけてバッタを掃討する作業で疲れたらしく、普段の彼からは想像も付かないほど疲労困憊(こんぱい)している。魔力は尽きていなくとも、気力を相当(けず)られたであろう事が容易に伝わる。

 (ふた)をした紙コップにストローを()したメロンソーダを、ストロー()しにチューチューと飲む。ルシルと鬼姫が、はした()のように魔王の腕や肩を()む。

 

「師匠、お疲れッス」

 

 心底疲れた様子の魔王になずみが(ねぎら)いの言葉を掛ける。

 ルシルが休憩に入ると、彼女と役目を交代する。

 

「それにしても凄まじい攻撃だった……もしお前がいなかったら、今日だけで人類は絶滅しただろう」

 

 レジーナがヤハヴェの情け容赦ない攻撃に驚嘆する。間違いなく世界を滅ぼしうるレベルの大災害から人類を救った魔王の活躍に心から感謝する。

 キャンプ地にいた他の村人達も(みな)が英雄の奮戦ぶりを称賛する。彼こそ我らにとっての救世主だ、神様だと口々に魔王を()(たた)える。

 

 だが村人が喜ぶのとは対照的に、魔王の表情は暗い。何処か(もの)()げな目をしながら、これからどうすべきか思い悩んだように空を見上げる。

 

(もし今回と同規模の攻撃がもう一度行われたら、如何(いか)に俺でも守りきれる自信が無い……)

 

 今後の明るい展望を思い描けず、(さき)()きを見通せない不安に押し(つぶ)されそうになった時……。

 

 

 

 突然空が、(かみなり)が落ちようとするようにゴロゴロと鳴りだす。それと共に黒い雲が何処からか立ち込めて、(またた)く間に世界中の空を覆い隠す。太陽光が(しゃ)(だん)されて大地が完全な闇に覆われて、世界が終わりそうな雰囲気を(かも)し出す。

 

「も、もう駄目だぁぁぁあああああーーーーーーっ!!」

「神様ーーー!!」

 

 突然大地が闇で覆われた事に、キャンプ地にいた村人達が声に出してうろたえる。ある者はこの世の終わりを叫び、ある者は魔王に祈りを捧げ、皆が混乱してパニックになる。

 女達の視線が魔王へと向けられて、魔王が椅子からガタッと立ち上がる。テントの中からゼウスとブレイズが慌てて飛び出す。バーラ村長やハゲのおっさんら村の男性が数人駆け付けて、魔王を頼るように取り(かこ)む。

 

 周囲に緊迫した空気が漂った時、世界中に響き渡るほどの大きな声が空から聞こえてきた。

 

「聞くがいい、我が子らよ……」

 

 その声は(まぎ)れもなく唯一神ヤハヴェから発せられたものだ。空が暗雲で覆われた(ため)に姿は見えないが、バッタによる襲来を行った時と同様に全人類に語りかけているのだ。

 

(われ)は今から二十四時間後、極大魔法『隕石群落下(メテオ・スウォーム)』を発動させる……神である私がこの魔法を唱えたら、世界の全ての陸地に隕石が降り(そそ)ぐ。隕石の落下は七日間()む事が無い。地上に住む全ての生命は根絶やしにされて、大地は生命が生まれる前の状態へとリセットされる。我はそこに、知恵の果実を食べる事のない新たな人類を住まわせる……」

 

 極大魔法を唱えて現生人類を根絶やしにする気でいた事を高らかに告げる。ザガートが唱えた時は十万のオークを五分で全滅させた流星群を、七日間休まずに降らせるというのだ。二十四時間という猶予(ゆうよ)(もう)けたのは人類に慈悲を与えるためではなく、それだけ強大な魔法だから発動に時間が掛かるというのが真実のようだ。

 

 そして神のこの発言によって、彼が現生人類に見切りを付けた事、新たな人類を生む為の壮大なリセットをもくろんだ事、その為に人類抹殺を(くわだ)てた事……それらが世界中に知れ渡る形となった。

 

「異世界の魔王ザガート……我は(なんじ)に挑戦状を叩き付ける。ソドムの村跡地から北に十キロ向かった先にゴルゴダと呼ばれた(おか)があり、そこに私の神殿が建っている。隕石の落下を阻止したければ、そこに一人で来るがいい……我と一対一で勝負しよう」

 

 ヤハヴェはザガートに一対一での決闘を提案する。自らの神殿が北にある事を教えて、そこに向かうよう指示を出す。

 

「二十四時間が経過する前に我を殺せば、隕石の落下は阻止される……人類は絶滅の危機から救われて、汝は世界を救った英雄となる。だが汝が死ねば隕石の落下は予定通りに決行され、人類は根絶やしにされる……世界が滅ぶか(いな)かは我らの双肩(そうけん)に掛かっている」

 

 これからの勝敗が人類の命運を左右するのだという、揺るぎない事実を突き付けた。

 

「我と汝、どちらがこの世界の神となるに相応しいか、白黒ハッキリさせよう……」

 

 そう言い終えるとフェードアウトしていって音声が途切れる。

 以後は空から『神の声』が発せられない。

 

 今後について思い悩んだザガートだったが、神に決闘を挑まれた事、二十四時間以内に神を殺さなければ人類は絶滅するという事、それらは避けられない事実となった。

 

「ザガート様っ!」

 

 ルシルが真っ先に不安そうな顔をしながら声をかける。今後の方針について聞きたそうに魔王をじっと見る。

 

「フム……今すぐ神に戦いを挑みたいのは山々だが、バッタを駆逐する作業で俺もだいぶ疲れた。今日は一晩ゆっくり休んで、明日改めてヤツの神殿に向かおうと思う」

 

 ザガートが仲間の期待に応えようと、今後の方針を伝える。さっきの戦いで気力を消耗した事、人類滅亡まで十分に猶予(ゆうよ)がある為、その間に英気を養って万全の状態で挑もうと考えた事……それらの思考を打ち明ける。

 

「お前達も今日はいろいろあって疲れただろう。各々(おのおの)テントに戻ってゆっくり休むといい」

 

 仲間の体調を気遣って、先にテントに入るよう(うなが)す。

 

「ああ、そうさせてもらう」

「魔王、お主も早く休むのじゃぞ」

 

 レジーナと鬼姫が魔王の言葉に(うなず)く。無理をしないよう忠告すると、キャンプ地の中央に建てられた大きなテントに向かって歩いていく。他の者達もそれぞれのテントへと戻っていき、魔王とゼウスだけがその場に取り残された。

 

「さて、ワシも休むとしようかのう」

 

 ゼウスがそう言いながら、中央にある大きなテントに向かって歩き出そうとした時……。

 

「待て、異世界の神よ。アンタにしか出来ない秘密の相談がある」

 

 ザガートが慌てて彼を呼び止める。二人だけの秘密にしておきたい相談があると前置きすると、他人に聞かれないようひそひそと小声で耳打ちする。

 ゼウスは小声で(ささや)かれながら、魔王の申し出を受けたようにウンウンと何度も(うなず)く。

 

「フム……ではヤハヴェに盗み聞きされない場所へ行って、そこで打ち合わせをしよう」

 

 (じい)がそう言うと、二人はキャンプ地の外に広がる荒野へと歩いていった。

 二人が何処へ向かったのかは誰も……神であるヤハヴェすらも知らない。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 その日の晩……時計の針が十二時を過ぎた真夜中の事。

 ザガートはテントの床に()かれた毛布にくるまって深い眠りに落ちていた。その彼が見た夢の中での出来事……。

 

「……」

 

 魔王が目を開けると、彼は荒野の大地にうつ()せに倒れていた。衣服は普段着のままだ。特におかしな事をされた様子は無い。

 一瞬何が起こったか分からず混乱しかけた彼であったが、ひとまず体を起こしてゆっくりと立ち上がる。二本の足でしっかりと大地に立つと、自分が今置かれた状況を確認しようと周囲を見回す。

 

 彼がいた場所……それは(かわ)いた大地が何処までも果てしなく続く、閑散(かんさん)とした荒野だった。東には大きな山がそびえ立ち、西には広大な海が広がっている。

 時刻は真夜中だったらしく、(はる)か上を見渡すと美しい夜空が広がっていたが、現実空間と違って暗雲に覆われていない。満月が燦々(さんさん)と輝いて、辺り一面を照らし出している。ヒュウウッと冷たい夜風が吹き抜けて肌をヒヤッとさせる。

 

 明らかに寝る前と違う場所に倒れていた事に、ザガートはここが夢の世界なのだろうと察する。

 

 しばらく様子を見るように何もしないまま棒立ちになっていると、北の荒野から一人の男がザッザッと歩いてくる。男はザガートから数メートル離れた場所まで来て止まる。

 背丈二メートルほどある、フルプレートの鎧を着て騎士の鉄仮面を被った大男……魔王は彼の姿に見覚えがあった。

 

「……ヤハヴェ」

 

 ザガートが男の名を呼ぶ。魔王の前に現れたこの男こそ、第七世界の創造主にして、人類を滅ぼそうとする諸悪の根源である『神』その人だ。

 ザガートは神がこの場に現れた事に、自分が今置かれた状況は彼による精神攻撃を受けたに違いないと考える。

 

「異世界の魔王ザガート……(われ)はこれから(なんじ)に無理難題を押し付けるッ! もし汝がまことに神の領域に到達した者ならば、それらの難題を見事こなしてみせよッ! もし出来ぬというなら、汝に神と戦う資格など無いと知れ!!」

 

 ヤハヴェが(やぶ)から(ぼう)に用件を伝える。初対面だというのに自己紹介すらしない。

 魔王に常人には到底こなせない難問をぶつける事を予告して、それによって彼に神と戦う資質があるかどうかを見定めに来たという。

 

「俺を試そうというのか。良いだろう……その挑戦、受けて立とう」

 

 神の挑戦をザガートが二つ返事で承諾する。無理難題を押し付けられると聞いて、たじろいだりしない。どんな難問でもドンと来いとばかりにどっしり構える。

 

「その言葉……後悔するなよ」

 

 ヤハヴェが勝利を確信したようにニヤリと笑う。

 

「山を見よッ!」

 

 神がそう叫びながら東にそびえ立つ山を指差す。

 すると山が今にも噴火しそうな勢いで轟々(ごうごう)と鳴りだす。

 

「海を見よッ!」

 

 今度は西の海を指差す。

 すると嵐が吹き荒れたように海が荒波を立てて激しく荒れる。

 

「空を見よッ!」

 

 最後に空を指差す。

 すると災害級の台風が直撃したように風がビュウビュウと音を立てて吹き抜ける。

 

「ザガートッ! 汝がまこと神に等しき存在であるならば、これら天地の怒りを見事(しず)めてみせよ!!」

 

 ヤハヴェが、目の前で起こっている自然現象を元通りにしろと命じる。

 常人にはとても不可能な難問だが、神ならばそれが可能だというのだ。

 

「……良かろう」

 

 神の言葉を聞いてザガートが不敵な笑みを浮かべる。難問を押し付けられて(おじ)()づいた様子は無い。

 

「山よ、鎮まれッ!」

 

 山に向かって右手をかざしながら命じる。

 するとそれまで噴火しかけていた山が、大人に(しか)られて小さくなった子供のように静かになる。

 

「海よ、治まれッ!」

 

 次は海に向かって命じる。

 すると荒波を立てて荒れていた海が急に穏やかになる。

 

「風よ、()めッ!」

 

 最後は空に向かって命じる。

 するとビュウビュウと吹き抜けていた風がピタリと止む。

 

「どうだ? ヤハヴェよ。お前の要求通り、天地の怒りを鎮めてやったぞ」

 

 ザガートはこれら一連の事をやり終えると、神の方を向いて腕組みしながら誇らしげなドヤ顔になる。フフンッと小馬鹿にするように鼻息を吹かせながら、相手がどう反応するか楽しみにしたようにニヤニヤする。

 

「……」

 

 勝利者の余裕を見せ付けられて、ヤハヴェが思わず押し黙る。鉄仮面()しでは表情を(うかが)い知る事は出来ないが、こうもたやすく難問を突破された事に()(ぜん)とした様子だ。

 こんなはずじゃ無かった……そう言いたげなのが伝わる。

 

「……ええいッ! まだだ、ザガート! 私の試練はまだ終わっていないッ!!」

 

 しばらく無言のまま棒立ちになっていた神だったが、(せき)を切ったように大きな声で(わめ)き散らす。自らの試練がまだ終わっていない事を告げて、勝った気でいるのは早いと(くぎ)を刺す。

 

「今からあの山を、海へと移動させてみせよッ!」

 

 再び大きな山を指差すと、今度は別の場所へと移し替えてみよと無理難題を押し付ける。こんな事お前に出来るはずが無いという思惑が彼の中にはあった。

 

「そんな簡単な事で良ければ、お安い御用だ」

 

 神の無茶な要求をザガートが二つ返事で了承する。どうやってそれを成し遂げようかと一瞬悩んだ素振りすら無い。

 

「山よ! 今すぐ立ち上がって、海に向かって走れッ!!」

 

 山に向かって右手をかざしながら大きな声で命じる。

 すると山が上と下半分ずつに分かれて、上半分に人間の足がニョキッと生えて立ち上がる。そのまま海に向かってダダダッと物凄い速さで走っていき、ザバァーーーン! と勢いよく飛び込んで、海中深く沈んでいく。

 

「……」

 

 山のあまりにも豪快な入水自殺を、神は呆気(あっけ)に取られて眺めていた。

 完全に彼にとって想定外の事態だ。山が動くなんて本来ありえない。自分に出来たとしても、魔王に出来るはずが無い。そう思って無茶な要求をした。

 今彼の目の前にいるザガートという男は、(かん)()なきまでに神の予想を(くつがえ)した形となる。

 

 しばらく悲嘆に()れたような棒立ちになった神であったが、やがて何も無い空間に手刀を繰り出して大きな裂け目を作る。そこから彼の背丈ほどある大きな屏風(びょうぶ)を取り出した。

 屏風には虎の絵が描かれている。今にも飛び出しかねない勢いの、とても強そうな虎だ。

 

「この屏風に描かれた虎を、見事捕まえてみせよッ!!」

 

 神がまたしても無茶な要求を突き付ける。ただの『絵』に過ぎない虎を、物理的に捕獲しろというのだ。

 

「……良いだろう」

 

 ザガートが神の要求を聞いてニヤリと笑う。そんな事出来る訳が無いなどと反論する素振りは全く無い。

 

「虎を捕まえる(ため)の縄を用意してもらいたい」

 

 気持ちを切り替えたように真剣な顔付きになると、虎を捕獲する道具の提供を求める。

 ヤハヴェは空間の裂け目から綱引きに使う太さの縄を取り出し、魔王めがけて放り投げる。魔王はそれをキャッチすると、両手でしっかり握ったまま屏風に描かれた虎を凝視する。そのまま相手の出方を(うかが)うように数秒間眺めていたが……。

 

「虎よ! 今すぐ屏風から出てきて、俺に襲いかかれッ!!」

 

 突然虎に屏風から出てくるよう大きな声で命じる。

 すると『絵』であるはずの屏風から、本物の生きた虎がピョーーンと出てくる。作り物ではない、正真正銘の質量を持った生きた猛獣だ。

 虎が三次元の空間に出るのと入れ替えに、屏風には何も描かれていない状態になる。本当に魔王の力によって屏風から虎が抜け出したようだ。

 

「グオオオオオオーーーーーーッ!」

 

 虎はけたたましい咆哮(ほうこう)を上げるや(いな)や、目の前にいる魔王めがけて走っていく。大きく口を開けて飛びかかり、鋭い牙で相手を噛み殺そうともくろむ。

 

 ザガートは手に持っていた縄を虎に向かってヒョイッと放り投げる。縄は自ら意思を持った蛇のように虎にグルグルと巻き付いて、体中を(しば)り上げて動けなくする。

 全身を太い縄で縛られて動きを封じられた虎が地面に倒れてジタバタとのたうち回る。体を激しく動かして縄を力ずくで振り(ほど)こうとしたが、縄は鋼鉄の鎖のように頑丈でビクともしない。むしろもがけばもがくほど、縄はキツく締まる。

 

「……グルルゥゥ」

 

 やがて猛獣は負けを認めたようにか(ぼそ)い声で鳴くと、飼い主に服従した猫のように大人しくなる。以後は暴れたりしない。

 

「どうだ? 屏風の中にいた虎を捕まえてやったぞ。これで満足か」

 

 ザガートがまたも得意げなドヤ顔になりながら神の方を向く。

 ()えて相手を(あお)るように挑発的な言葉を吐く。

 

「神よ、もういい加減諦めたらどうだ。お前がいくら難問をぶつけても、俺を屈服させる事など出来やしない。俺はヨブではないのだ……これ以上だだをこねれば、かえってお前が(はじ)をかくだけだぞ」

 

 最後にダメ押しの一言を付け加えた。

 魔王自身、同じ流れを繰り返すのにさすがに()きていた。

 この不毛な戦いをやめるべきだと考えた。

 

「……」

 

 正論を突き付けられてヤハヴェはぐうの()も出ない。反論する言葉が思い浮かばず、ただ相手の言うがままにさせるしかない。

 

 しばらく何もせず棒立ちになっていた神であったが、合図を送るようにサッと右手を上げる。

 するとザガートの視界がフェードアウトしたように暗くなっていき、最後は完全な闇に覆われる。彼の意識はそこで途絶えた。

 

  ◇    ◇    ◇

 

「……むっ」

 

 魔王が目を開けると、そこはテントの中だった。毛布にくるまれたまま横になっており、夢から覚めた状態だ。それは神による精神攻撃が終わりを迎えた事を意味する。

 ふと時計の針を見ると、まだ夜中の一時を回ったばかりだ。起きるには随分(ずいぶん)早い。

 

(ヤハヴェよ……魔王(オレ)を試そうとしても無駄だぞ。俺はただの(ひと)ではないのだから……)

 

 ザガートは神に語りかけるように心の中で(つぶや)くと、再び眠りに()くのだった。

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