いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
仲間に別れの言葉を告げた魔王……最終決戦の地を目指して
敵地を目指して歩く間、魔物が襲ってくる気配は無い。元々アザトホース配下の魔族は大魔王の死とともに消滅したが、神が創造した怪物が待ち
最終決戦前の異様な空気を感じたのか、ネズミや虫などの野生動物の姿すら見かけない。静寂に包まれた荒野を一人の男が黙々と歩き続ける姿は
キャンプ地を離れた魔王が一時間ほど歩いていると、大きな
神殿は年代を感じさせる古代の建築物だったが、風雨に
(歴代の勇者の亡骸が埋葬されたと言い
最終決戦の地を前にして、ザガートがその名を口にする。
しばらく物思いに
神殿の中はシーーンと静まり返っていて、人の気配を全く感じさせない。使いの者が出迎えに来たりもしなければ、醜悪な怪物が襲いかかってきたりもしない。あまりの静けさに、本当にここに神がいるのか疑いたくなるほどだ。
(てっきり武装した天使かワルキューレの大群が
敵の壮大な歓迎が無かった事に魔王が
確かに神は一対一での決闘を提案したが、そうならない事も想定していた。その心構えは
ファンタジーのラストダンジョンといえば、多数の敵が待ち構えているのが定番だ。あまたのザコを
だが真の最終ダンジョンといえる神の神殿においては、そうはならなかったようだ。あるいは大魔王サタンが悪魔の軍勢を
◇ ◇ ◇
ザガートが神殿の回廊を黙々と歩き続けていると、大きな鉄製の扉がドンッと目の前に立ち
扉の左右に一つずつ配置された台座の上に
扉の
ザガートが扉の前に立ち止まると、扉の中央にボヤァッと人間の顔のようなものが浮かび上がる。
魔王の前に現れたその顔は、ツルツルのハゲ頭をした
半透明に
「魔王ザガート、よくここまで来た……
顔だけのハゲた中年男性が自己紹介する。自らを唯一神の分霊だと告げて、魔王の知識を試す試験官の役目を果たしに来たと教える。
「我は今から汝に一つの問いかけをする。汝が正しい答えを知る者ならば、
危険なクイズを出す事を予告して、心構えをするよう前もって忠告する。答えなければ先に進めないが、回答を間違えれば命を落とすリスクのある賭けなのだという。
頭上を飛ぶ死神は、失敗した時に首を刎ねる処刑人であったようだ。
魔王が承知したようにコクンと
「アダムとイヴが口にしたと言い
かつてエデンに植えられた木に
「……」
ザガートはしばし気難しい表情を浮かべて考え込んでいたが、やがて答えが決まると、左の皿に乗せられたバナナを手に取って、皮を
鍵を鍵穴に
「……何故リンゴを選ばなかった?」
顔だけのハゲた中年男性が、ザガートの選択の理由を聞く。
顔の番人は、多くの者が先述の問いにリンゴを選ぶだろうと考えた。世間では広くそうだと信じられているからだ。
だがザガートは俗説とは異なるバナナを選択した。死神が襲ってこない所を見れば魔王の選択が正しかった事になるが、何故その答えに行き着いたか、当てずっぽうではない理由を聞きたかったようだ。
「ヤハヴェは古代の中東で信仰された神……
魔王が番人の問いに答える。聖書に書かれた記述からエデンが中東の地にあると見抜いて、知恵の果実をリンゴだとする説は
「……その通りだ」
顔だけの番人は目を閉じて下を向いて深刻そうな表情を浮かべると、ただ一言そう
顔の態度は敗北を認めて悔しがったようにも、魔王の知恵の深さに感服したようにも見えた。
ザガートはしばらく何もせずその場に立ち止まっていたが、何かが起こる気配も無いので扉の奥に広がる回廊に向かって歩き出す。
(バナナを食べたせいで楽園を追放された……冷静に考えれば、何ともおかしな話だ)
かつてエデンで起こったであろう出来事を頭の中で想像して、その
◇ ◇ ◇
魔王が神殿の回廊を歩き続けていると、背後から彼を追いかけてくるらしい四つの足音が聞こえてくる。後ろを振り返ると、足音の主である四つの人影が回廊を猛スピードで走ってきていた。
「魔王ザガート、止まりなさい! それ以上先に進む事は許しません!!」
四人の先頭にいた女が大きな声で叫ぶ。
四つの人影は魔王から五メートルほど離れた場所まで来て立ち止まる。そのまま相手を
先頭にいたリーダー格と思しき女はウェーブが掛かった長めの金髪をしていて、二十代
先頭の女は普段着らしい白い衣を着ていたが、後ろの三人は『戦乙女』と呼ばれる天界の女戦士の格好をして、手に槍を持っていた。
(大天使長ミカエルと、その配下の三人の天使……か)
女達の姿を目にして、魔王が彼女達の素性を推測する。本人達が直接名乗った訳ではないが、今目の前に立つ四人の女こそが神に仕える著名な天使なのだろうと判断する。特に大天使ミカエルは彼女の像を崇敬する教会があった
「魔王ザガート……罪と
ミカエルが魔王を偽のメシアと呼び、神殿から退去するよう命じる。勧告に従わなければ武力行使に出ると、強い口調で
「ならば問おう、ミカエルよ……お前は神が全人類を皆殺しにしようとする今の状況を、正しい行いをしていると、そう考えているのか?」
ザガートが大天使に質問をぶつける。命を奪うと脅しを掛けられてもひるんだりしない。
神の忠実な
「
ミカエルが主人の判断を全肯定する。創造主である『主』の考えは常に正しいと力説して、魔王にそれに逆らうつもりなのかと問い
「神の行いに一切疑いを抱かなければ、それは目を閉じ、耳を
魔王が即座に言葉を返す。盲目的に信仰を抱き続ける行為の愚かさを指摘して、女の主張が間違っていると論理的な反論を行う。
「信仰を貫き通す事が、神の命令に絶対服従するのと同義であるならば、それは絶対的権力を持つ皇帝の奴隷になるのと何ら変わらないではないか」
ミカエルが力説する神への忠誠が、地上の権力者を
「……ッ!!」
魔王に正論をぶつけられてミカエルはぐうの
いっそ会話を一方的に打ち切って、いきなり襲いかかってしまおうか……そんな考えが彼女の頭をよぎりかけた。
「もう良い……もう良いのだ、ミカエルよ」
その時神殿全体に響き渡るほどの大きな声が発せられた。マイク
「私はそこにいる男と二人きりで話がしたい……そう告げた
魔王に戦いを挑もうとした女の独断専行を
「ですが……!!」
ミカエルが
「お前達などよりも、その男に敗れた勇者の方が
神が言葉を続ける。かつて魔王に敗れた勇者を引き合いに出して、天使達の強さは彼に遠く及ばない事、それにより魔王に戦いを挑む事の無意味さを
「お前達四人が魔王に殺される姿を見たくは無い……ここは大人しく引いてはもらえないか」
最後に部下達の身を案じる一言を付け加えた。
「……」
神に優しく言葉を掛けられて、ミカエルがしばし無言になる。これからどうすべきか迷ったように思い詰めた表情をしたが、やがて後ろを振り返ると合図を送るようにサッと右手を上げる。
後ろに控えた三人の天使は上司の合図を受けてコクンと
魔王はしばらく自分一人だけになった回廊にポツンと
◇ ◇ ◇
回廊の終わりに近い場所まで来ると、玉座の間に通じるらしき大きな鉄製の扉がある。ギギギッと扉を開けて中へ入ると、部屋の中は真っ暗だった。
ザガートが一歩足を踏み入れると、ポッと
部屋の中央にレッドカーペットが
ザガートが部屋の奥に向かって歩き出すと、何処からか声が聞こえてきた。
「真の
ヤハヴェのものと思しき声は、真の叡智とは何たるかについて語る。
魔王に向かって語りかけるその言葉は、男の行動を制止する魔法の
「知への飽くなき探究なくしては、本を百冊読んだとしても、偉大な十人の賢人の話を聞いたとしても、真の叡智に
好奇心が無ければ知識を求める行動そのものが意味を
「……神の存在を信じぬ者が聖書を読んだとしても、神の偉大さを知る事は決して無いのと同じように」
神の存在を信じない者にとって聖書は無価値であると
声が自説を述べ終わるのとほぼ同時に最後の
レッドカーペットが
「……ヤハヴェ!!」
男の姿を目にしてザガートがその名を口にする。
玉座に座って
扉の試練を用意したり、先ほどミカエルに話しかけたりはしたが、彼自身はずっと玉座に座ったまま魔王が来るのを待ち続けていたようだ。
「待っていたぞ、ザガート……我が息子よ」
神が自分の部屋を訪れた魔王に歓迎の