いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第128話 神と魔王は殴り合う

(こぶし)でかかってこい……だとぉ?」

 

 魔王の台詞(セリフ)を聞いて、神が小声でそう(つぶや)く。下を向いて一言も発しないまま、両肩をぷるぷる震わせた。

 鉄仮面()しでは表情を読み取れないが、相当プライドを傷付けられた事は確かだ。全知全能であるはずの世界を創造した神が、及び腰な戦術を取っていると非難されたのだ。

 

 しばらく相手の()(ぶん)に反論しないまま黙り込んだが……。

 

「……良いだろう! その挑戦、受けて立とう! この私が魔法が得意なだけの、ただの鎧を着た中年男でない事を、とくとその身で味わうがいい!!」

 

 顔を上げて相手の方を見ると、()えて誘いに乗る事を強い口調で承諾する。自身が魔法だけでなく肉弾戦も得意だと豪語し、相手にそれを思い知らせてやろうと息巻く。

 

「魔王ザガート! 我が腕の中で息絶えるがいい!!」

 

 死を宣告する言葉を吐くと、すぐさま魔王めがけて全速力で駆け出す。近接戦の間合いに入ると強く握った右拳によるパンチを繰り出す。

 ゴォーーーッと風を切る音を鳴らしながら突き進む剛拳が魔王の顔面を狙う。金属製のガントレットを()めた(こぶし)は音速を超えた鉄球のようであり、ダイヤモンドの壁を一撃で粉砕しかねない破壊力だ。

 

「ふんっ!」

 

 魔王も負けじと右拳によるパンチを繰り出して、互いの拳と拳が正面から激突する。バァンッ! と岩が爆発したような音が鳴り、神殿全体がゴゴゴッと音を立てて激しく揺れた。

 

「うおおおおおおおおッ!!」

「ぬわぁぁぁぁああああああーーーーーーッ!!」

 

 ザガートとヤハヴェがほぼ同じタイミングで悲鳴を上げながら後ろへと吹き飛ばされる。空中でクルッと一回転した後咄嗟(とっさ)に両足を地面について着地し、ギリギリの所で踏ん張って地面に倒れるのを阻止する。

 拳同士の衝突はどちらか一方が勝った訳ではなく、相討ちになった形となる。

 

 しばらく相手の出方を(うかが)うように離れたまま(にら)み合う二人であったが……。

 

「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」

「キィィィェェェェェェエエエエエエエエーーーーーーーーッッ!!」

 

 互いに腹の底から絞り出したような奇声を発すると、相手めがけて一直線に駆け出す。拳が届く間合いに入ると、両拳を駆使した高速のラッシュを放つ。一撃の重さを捨てた代わりに手数に任せたガトリングの弾のようなパンチだ。

 

 互いの拳がぶつかるたびに激しい衝突音が鳴り、それがドガガガガガガッと()む事なく鳴り続ける。両者のスピードとパワーはほぼ互角であり、一撃の相殺(そうさい)漏らしも無い。魔王がパンチを繰り出せば神が自身のパンチでそれを迎え撃ち、神がパンチを繰り出せば魔王がそれを迎え撃つ。その駆け引きの攻防が延々と続く。

 

 相手が先に力尽きるのを期待したように打撃の応酬を続ける二人。

 その光景が数分ほど続いた後……。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

「……ムッ、ムゥゥゥゥ」

 

 それまで続いていた打撃の応酬がピタリと()む。両者が共に背筋を曲げて両腕をだらんとさせたまま、肩で激しく息をさせた。表情に疲労の色が浮かんで、全身から汗が滝のように流れ出ており、スタミナを大きく消耗したのが一目で分かる。

 相手の体力切れを狙った両者だが、今回も実質引き分けに終わった形となる。

 

 しばらく敵を前にしたまま棒立ちになる二人であったが、考える事は同じなのか、両者が共に数歩後ろへと下がる。疲労を()せ我慢したように背筋をまっすぐ伸ばして体勢を立て直すと、相手を()(かく)するようにじっと見る。

 

「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーッ!!」

「ムォォォォォォオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 数秒が経過すると、またも大声で叫びながら目の前の敵に向かって駆け出す。最初と同じように右拳によるパンチを繰り出して、全力で相手を殴り殺そうとする。

 渾身の力を込めた両者の拳が正面から激突して、大地が割れんばかりの衝突音が鳴る。発せられた衝撃波は最初の衝突よりも大きく、神殿が激しく揺れて、建物から数キロ離れた場所にいるカラスまでもがギャーギャー鳴き出して、慌てて逃げる。

 

 二人は互いにパンチを繰り出して拳が激突した瞬間のまま止まっている。ビデオを一時停止したように固まっており、ピクリとも動かない。まるで拳を突き出したポーズのまま死んでしまったかのようだ。

 

 部屋の入り口から隙間(すきま)風が吹き抜けても微動だにしない。

 その状態が永遠に続くかに思われた時……。

 

「うっ……ぐぁぁぁぁぁぁあああああああああああッッ!!」

 

 ザガートが突如大声で叫びながら後ろに吹き飛ばされた。強い衝撃で地べたに叩き付けられると、ゴムボールのように何度もバウンドした挙句、両手足をだらんとさせて大の字に倒れたまま起き上がらない。

 今回は受身を取る余裕すら無かったようで、完膚(かんぷ)なきまでに敗れたように見て取れる。

 

「フッ……フフフ……フハハハハハハッ! やった! (つい)にやったぞザガート! してやった! この私が(こぶし)の勝負において、貴様に勝ったのだ!! これでようやく思い知っただろう! 神に創造された人間に過ぎぬお前より、創造主である私の方が(はる)かに上なのだと!!」

 

 ヤハヴェが拳を突き出したポーズのまま声に出して笑う。これまで()まった鬱憤(うっぷん)を晴らせた感動に全身を打ち震わせて、(あご)が外れんばかりに大きな声で笑う。いつまでも終わる事なく笑い続ける。

 

 相手を打ち負かした喜びのあまり、もう戦いそのものにまで勝った気でいる。

 心の底から満足感に満たされて、勝利宣言を行う神であったが……。

 

 

 

 正面に突き出した拳を覆うガントレットからミシッと音が鳴って、小さな亀裂が入る。亀裂は(またた)く間に広がっていき、拳全体を毛細血管のように覆った瞬間、ガントレットがガシャァーーーン! と音を立ててガラスのように(もろ)く砕けた。

 それにより生身の拳が()き出しになると、今度は時間差でダメージが伝わったように拳の骨が砕けて、皮膚が裂けて傷口から真っ赤な血が噴水のように噴き出す。神の拳は鉄球を叩き付けられて粉砕されたようなズタボロの状態になる。

 

 ちなみに肌の色はザガートと同じ東洋人のような肌色だが、人種がそうなのかは分からない。

 

「なっ……何ィィィィィィイイイイイイイイーーーーーーーーッ!!」

 

 拳を粉砕された光景に神が内蔵が飛び出んばかりに驚く。一瞬何が起こったのか全く理解できず、目の前の出来事を頭で受け入れるのに時間が掛かった。

 拳同士の衝突で神は自分が勝ったと思った。だが実際は彼の方がより大きなダメージを負ったのだ。その事実は到底受け入れられるものではなく、あまりのショックの大きさに拳に湧き上がる痛みを忘れたほどだ。

 

「強さが同じなら、気持ちの強い方が勝つ……ゼウスがそう言っていた」

 

 ザガートが上半身をムクッと起こしながら言う。二本の足でしっかりと立ち上がって体勢を立て直すと、体中に付いた砂と(ほこり)を手でパンパンッと叩いて払う。

 拳同士の衝突で吹き飛ばされて地面に叩き付けられたはずだが、深手を負った様子は無い。やはりヤハヴェの方が被害は大きいようだ。

 

 魔王は埃を払うのをやめると相手の方をじっと見る。拳を粉砕された事に慌てふためく神をゴミを見るような目で見ながら、(あざけ)るような言葉を吐く。

 

「ヤハヴェ……この勝負、俺の勝ちだ!!」

 

 ……男の表情は勝者の貫禄に満ちていた。

 

(い、イカン……負ける……このままでは負けてしまう!!)

 

 自身の不利を悟ってヤハヴェが心底焦りだす。これまであった勝者の余裕は一瞬で消し飛び、目の前の敵に殺されるかもしれない恐怖に心を支配された。

 

 自己治癒(ちゆ)能力があったのか、拳の傷はみるみるうちに修復されていき、粉々に粉砕されたガントレットも時間を巻き戻したように再生して元通りになる。神の右腕は完全に砕かれる前の状態へと戻り、ダメージを受けた事実は無かった事になる。

 だが体の傷が()えても、心の傷は癒えないままだ。拳のぶつかり合いに敗れた事実は、肉体よりも彼のプライドを深く傷付けた。

 

(……チャンスだっ!!)

 

 敵が冷静さを失ってうろたえる姿を見て、ザガートは千載一遇の好機とみなす。この機を逃さず一気に距離を詰めて、相手を殴り殺そうと思い立つ。考えが決まると正面の敵めがけて一直線に駆け出す。

 

 魔王がタタタッと走る音を聞いて、ヤハヴェが「はっ」と(われ)に返る。戦闘中にも関わらず他の事に気を取られていた自身に(かつ)を入れて、すぐさま冷静さを取り戻す。

 

(ひざまず)け……暗黒重力(ダーク・グラビティ)ッ!!」

 

 正面に右手のひらをかざして攻撃魔法を唱える。

 すると魔王が立っていた床からドォォーーーーンッ! と何かが爆発したような音が鳴り響いて、男が磁力で引き寄せられたように地べたに叩き付けられた。

 

「ウッ……うおおおおおおおおッッ!!」

 

 うつ()せに大の字に倒れたままザガートが悲鳴を上げる。全身を踏ん張らせて立ち上がろうとしたが、足の小指、手の指先一本すら動かせない。まるで地球と同じ大きさの岩に()(かか)られたような感覚があり、一瞬でも気を抜いたら気絶しそうになる。

 

 魔王は地球の百倍の重力を受けたとしても、ものともしない。その彼が全く動けずにいた。

 

「フハハハハッ! 私の暗黒重力(ダーク・グラビティ)は百倍や千倍などというチャチなレベルのものではない! 十万倍ッ! 地球の十万倍の重力が、貴様に()(かか)っているッ! これは無効化できなければ、たとえゼウスだったとしても地べたに叩き付けられて数分で息絶える威力ッ!!」

 

 ヤハヴェが魔王を倒れ込ませた技の性能を得意げに語る。これまで出てきた同型の技とは比べ物にならない(けた)違いの威力だと教えて、魔王がそれに耐えられないだろうと確信を抱く。

 

救世主(メシア)ザガートっ! 私はお前をアダムの代わりとなる義理の息子として迎え入れる事も、やぶさかでは無かった……最初は紳士的な態度で接したのもその(ため)だ。だがもう遅い! お前はここで死ぬ! ここでブザマに息絶えて、愚かな人間どもに(くみ)した事を後悔しながら死んでいくがいい!!」

 

 魔王を養子として迎える気でいた事、それを撤回して、完全に殺す方針に切り替えた意思を明確にする。最後は人類に肩入れした男の判断を、愚かな間違いをしたと糾弾(きゅうだん)する。

 

 神に好き放題言われても、魔王は全く動こうとはしない。十万倍の重力に抵抗できないように地べたに倒れ続けている。骨がミシミシと(きし)む音が鳴り、衣服がビリビリに破けそうになる。このまま放っておいたら五分と持たずに死ぬ事は明らかだ。

 

 魔王は重力に押し(つぶ)されて死ぬだろう……ヤハヴェがそう確信した瞬間。

 

「……後悔など、しない」

 

 ザガートがボソッと小声で(つぶや)く。

 その時魔王の体が一瞬ピクリとだけ動いたように、神には見えた。

 

 まさかと思い、神がよく目を()らして相手をよく見ると、魔王の右手の小指が(かす)かに動いている。目の錯覚かもしれないと疑い、顔を左腕でゴシゴシ(ぬぐ)ってからもう一度見てみたが、確かに相手の小指が動いている。目の錯覚などではない。

 

 最初に右手の指……次に右手全体が動きだし、最後は両腕が動かせるようになる。やがて両足までもが動くようになると、四肢(しし)に力を入れてゆっくりと起き上がる。まず右足の裏を大地に立たせて、次に左足を同じように立たせると、その姿勢のままグググッと重力に(あらが)うように体を立ち上がらせていく。

 

「かけがえの無い大切な家族を……これ以上誰一人死なせないと、そう心に決めたのだ!! その(ため)なら、たとえこの場で死んだとしても、後悔などするものか!!」

 

 最後は二本の足でしっかりと立ち上がると、断じて神に屈しない意思を言葉によって伝える。そのまま神がいる方へとゆっくりと歩き出す。

 

 魔王は重力を無効化などしていない。重力結界は変わらず維持され続けており、男の骨がミシミシ悲鳴を上げて、服の(はし)がビリビリに裂け始めて、皮膚が高速で振動しているのが目で見て取れる。それでも魔王は力を振り絞って、気迫で、執念で……重力に抗っていた!

 

(ななな、なんて事だ!! 重力魔法の結界を維持する為には、唱えた場所から一歩たりとも離れてはならない! かといってこの場から離れる為に重力魔法を解除すれば、その瞬間自由になったザガートが高速ですっ飛んできて、私を殴る事は目に見えている! つまりヤツが重力結界の中で動けるようになった時点で、私は(すで)に詰んでいる!!)

 

 魔王が重力に抗う姿を見て、ヤハヴェが心底驚嘆する。重力魔法の特性を心の中で復唱して、自分が八方(ふさ)がりな状況に追い込まれたと確信を抱く。その事実に落胆したあまり()(まい)と吐き気がして気が遠くなりかけた。

 

 そうこうしている間に魔王が拳の届く距離まで近付いてきていた。もはや神を生かすも殺すも、男の思うがままだ。

 

「ちょっ……まっ……」

 

 神が咄嗟(とっさ)に相手の説得を(こころ)みようとした。

 

「待たんッ!」

 

 魔王は相手の言葉に聞く耳持たず、間髪入れず神の顔面に全力の右ストレートを叩き込んだ。男の拳がドガァッと(てつ)(かぶと)にめり込んで、装甲がグニャァッとひしゃげる音が鳴る。直後神の両足が地面から離れて、体が宙に浮き上がる。

 

「まっ……へぶるぁぁぁぁぁぁああああああああっっ!!」

 

 ヤハヴェが滑稽(こっけい)な奇声を上げながら豪快に吹っ飛ぶ。時速三百キロの新幹線に()ねられた勢いで飛んでいって墜落するように地面に激突すると、ゴムボールのように何度もバウンドした挙句、手足をだらんと伸ばして大の字に倒れたまま手足をピクピクさせた。

 殴られたダメージがよほど深刻だったのか、いつまで()っても起き上がらない。パッと見では気絶しているようにも感じ取れた。

 

 ザガートは重力魔法が解除されて体が軽くなると、数歩前へと進んでピタリと足を止める。腕組みしてふんぞり返りながら、地べたに倒れた神を見下すように遠くから眺める。大打撃を与えた達成感に(ひた)るようにフフンッと鼻息を吹かす。

 

「ヤハヴェ……茶番は終わりにして、そろそろケリを付けよう!!」

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