いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
「
魔王の
鉄仮面
しばらく相手の
「……良いだろう! その挑戦、受けて立とう! この私が魔法が得意なだけの、ただの鎧を着た中年男でない事を、とくとその身で味わうがいい!!」
顔を上げて相手の方を見ると、
「魔王ザガート! 我が腕の中で息絶えるがいい!!」
死を宣告する言葉を吐くと、すぐさま魔王めがけて全速力で駆け出す。近接戦の間合いに入ると強く握った右拳によるパンチを繰り出す。
ゴォーーーッと風を切る音を鳴らしながら突き進む剛拳が魔王の顔面を狙う。金属製のガントレットを
「ふんっ!」
魔王も負けじと右拳によるパンチを繰り出して、互いの拳と拳が正面から激突する。バァンッ! と岩が爆発したような音が鳴り、神殿全体がゴゴゴッと音を立てて激しく揺れた。
「うおおおおおおおおッ!!」
「ぬわぁぁぁぁああああああーーーーーーッ!!」
ザガートとヤハヴェがほぼ同じタイミングで悲鳴を上げながら後ろへと吹き飛ばされる。空中でクルッと一回転した後
拳同士の衝突はどちらか一方が勝った訳ではなく、相討ちになった形となる。
しばらく相手の出方を
「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」
「キィィィェェェェェェエエエエエエエエーーーーーーーーッッ!!」
互いに腹の底から絞り出したような奇声を発すると、相手めがけて一直線に駆け出す。拳が届く間合いに入ると、両拳を駆使した高速のラッシュを放つ。一撃の重さを捨てた代わりに手数に任せたガトリングの弾のようなパンチだ。
互いの拳がぶつかるたびに激しい衝突音が鳴り、それがドガガガガガガッと
相手が先に力尽きるのを期待したように打撃の応酬を続ける二人。
その光景が数分ほど続いた後……。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「……ムッ、ムゥゥゥゥ」
それまで続いていた打撃の応酬がピタリと
相手の体力切れを狙った両者だが、今回も実質引き分けに終わった形となる。
しばらく敵を前にしたまま棒立ちになる二人であったが、考える事は同じなのか、両者が共に数歩後ろへと下がる。疲労を
「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーッ!!」
「ムォォォォォォオオオオオオオオオオオッッ!!」
数秒が経過すると、またも大声で叫びながら目の前の敵に向かって駆け出す。最初と同じように右拳によるパンチを繰り出して、全力で相手を殴り殺そうとする。
渾身の力を込めた両者の拳が正面から激突して、大地が割れんばかりの衝突音が鳴る。発せられた衝撃波は最初の衝突よりも大きく、神殿が激しく揺れて、建物から数キロ離れた場所にいるカラスまでもがギャーギャー鳴き出して、慌てて逃げる。
二人は互いにパンチを繰り出して拳が激突した瞬間のまま止まっている。ビデオを一時停止したように固まっており、ピクリとも動かない。まるで拳を突き出したポーズのまま死んでしまったかのようだ。
部屋の入り口から
その状態が永遠に続くかに思われた時……。
「うっ……ぐぁぁぁぁぁぁあああああああああああッッ!!」
ザガートが突如大声で叫びながら後ろに吹き飛ばされた。強い衝撃で地べたに叩き付けられると、ゴムボールのように何度もバウンドした挙句、両手足をだらんとさせて大の字に倒れたまま起き上がらない。
今回は受身を取る余裕すら無かったようで、
「フッ……フフフ……フハハハハハハッ! やった!
ヤハヴェが拳を突き出したポーズのまま声に出して笑う。これまで
相手を打ち負かした喜びのあまり、もう戦いそのものにまで勝った気でいる。
心の底から満足感に満たされて、勝利宣言を行う神であったが……。
正面に突き出した拳を覆うガントレットからミシッと音が鳴って、小さな亀裂が入る。亀裂は
それにより生身の拳が
ちなみに肌の色はザガートと同じ東洋人のような肌色だが、人種がそうなのかは分からない。
「なっ……何ィィィィィィイイイイイイイイーーーーーーーーッ!!」
拳を粉砕された光景に神が内蔵が飛び出んばかりに驚く。一瞬何が起こったのか全く理解できず、目の前の出来事を頭で受け入れるのに時間が掛かった。
拳同士の衝突で神は自分が勝ったと思った。だが実際は彼の方がより大きなダメージを負ったのだ。その事実は到底受け入れられるものではなく、あまりのショックの大きさに拳に湧き上がる痛みを忘れたほどだ。
「強さが同じなら、気持ちの強い方が勝つ……ゼウスがそう言っていた」
ザガートが上半身をムクッと起こしながら言う。二本の足でしっかりと立ち上がって体勢を立て直すと、体中に付いた砂と
拳同士の衝突で吹き飛ばされて地面に叩き付けられたはずだが、深手を負った様子は無い。やはりヤハヴェの方が被害は大きいようだ。
魔王は埃を払うのをやめると相手の方をじっと見る。拳を粉砕された事に慌てふためく神をゴミを見るような目で見ながら、
「ヤハヴェ……この勝負、俺の勝ちだ!!」
……男の表情は勝者の貫禄に満ちていた。
(い、イカン……負ける……このままでは負けてしまう!!)
自身の不利を悟ってヤハヴェが心底焦りだす。これまであった勝者の余裕は一瞬で消し飛び、目の前の敵に殺されるかもしれない恐怖に心を支配された。
自己
だが体の傷が
(……チャンスだっ!!)
敵が冷静さを失ってうろたえる姿を見て、ザガートは千載一遇の好機とみなす。この機を逃さず一気に距離を詰めて、相手を殴り殺そうと思い立つ。考えが決まると正面の敵めがけて一直線に駆け出す。
魔王がタタタッと走る音を聞いて、ヤハヴェが「はっ」と
「
正面に右手のひらをかざして攻撃魔法を唱える。
すると魔王が立っていた床からドォォーーーーンッ! と何かが爆発したような音が鳴り響いて、男が磁力で引き寄せられたように地べたに叩き付けられた。
「ウッ……うおおおおおおおおッッ!!」
うつ
魔王は地球の百倍の重力を受けたとしても、ものともしない。その彼が全く動けずにいた。
「フハハハハッ! 私の
ヤハヴェが魔王を倒れ込ませた技の性能を得意げに語る。これまで出てきた同型の技とは比べ物にならない
「
魔王を養子として迎える気でいた事、それを撤回して、完全に殺す方針に切り替えた意思を明確にする。最後は人類に肩入れした男の判断を、愚かな間違いをしたと
神に好き放題言われても、魔王は全く動こうとはしない。十万倍の重力に抵抗できないように地べたに倒れ続けている。骨がミシミシと
魔王は重力に押し
「……後悔など、しない」
ザガートがボソッと小声で
その時魔王の体が一瞬ピクリとだけ動いたように、神には見えた。
まさかと思い、神がよく目を
最初に右手の指……次に右手全体が動きだし、最後は両腕が動かせるようになる。やがて両足までもが動くようになると、
「かけがえの無い大切な家族を……これ以上誰一人死なせないと、そう心に決めたのだ!! その
最後は二本の足でしっかりと立ち上がると、断じて神に屈しない意思を言葉によって伝える。そのまま神がいる方へとゆっくりと歩き出す。
魔王は重力を無効化などしていない。重力結界は変わらず維持され続けており、男の骨がミシミシ悲鳴を上げて、服の
(ななな、なんて事だ!! 重力魔法の結界を維持する為には、唱えた場所から一歩たりとも離れてはならない! かといってこの場から離れる為に重力魔法を解除すれば、その瞬間自由になったザガートが高速ですっ飛んできて、私を殴る事は目に見えている! つまりヤツが重力結界の中で動けるようになった時点で、私は
魔王が重力に抗う姿を見て、ヤハヴェが心底驚嘆する。重力魔法の特性を心の中で復唱して、自分が八方
そうこうしている間に魔王が拳の届く距離まで近付いてきていた。もはや神を生かすも殺すも、男の思うがままだ。
「ちょっ……まっ……」
神が
「待たんッ!」
魔王は相手の言葉に聞く耳持たず、間髪入れず神の顔面に全力の右ストレートを叩き込んだ。男の拳がドガァッと
「まっ……へぶるぁぁぁぁぁぁああああああああっっ!!」
ヤハヴェが
殴られたダメージがよほど深刻だったのか、いつまで
ザガートは重力魔法が解除されて体が軽くなると、数歩前へと進んでピタリと足を止める。腕組みしてふんぞり返りながら、地べたに倒れた神を見下すように遠くから眺める。大打撃を与えた達成感に
「ヤハヴェ……茶番は終わりにして、そろそろケリを付けよう!!」