いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
「グッ……グヌヌゥゥゥ」
神が悔しげに歯
拳で殴られてひしゃげた
今後について思い悩んだように無言のまま立っていたが……。
「茶番は終わりにする……だとぉ!? それはこっちの
やがて相手を
「はらわたをブチ
死を宣告する言葉を発すると、相手に左手の人差し指を向けて攻撃の呪文を唱える。紫の光が指先に集まっていって、凝縮されて一筋の光線となって発射された。
魔王は自身に向けて放たれた光線をサッと横に動いてかわすと、間髪入れず反撃に移ろうと、右手のひらを相手に向ける。
「ゲヘナの火に焼かれて、消し
攻撃魔法を詠唱すると、
太陽の中心温度に匹敵する灼熱の火の玉を、ヤハヴェがガントレットを
バラバラに砕けた炎は大気に霧散して、
「なにっ!」
灼熱の魔法を防がれた光景にザガートが
ヤハヴェは魔法を防ぐためのバリアすら張らなかった。それは至近距離で魔法が直撃したとしても致命傷にならない事実を物語る。
「フハハハハ、バカめっ! その程度の魔力で
魔法を防がれたショックで
「そしてザガート……我が最大威力の魔法を
相手を抹殺したい覚悟を大きな声で叫ぶと、両手で
(……ここだッ! ゼウスから伝授された切り札を邪魔されずに使えるのは、相手がより長い詠唱の魔法を唱えようとした、ここしか無い!!)
神が必殺の魔法を唱え始めたのを見て、ザガートが千載一遇の好機とみなす。とても
使用の判断に踏み切ると、正面に両手のひらをかざして呪文の詠唱を始める。
「ザラズズール・ギラズズール・ディルケイム・ザザートマ……天の光よ、裁きの
ヤハヴェが非常に長い詠唱を行う。かつてソドムの村を焼き払った時に使用した、あの極大核撃魔法だ。
「オリンポスの十二柱の神々よ……
ザガートが数秒遅れて詠唱を開始する。敵の詠唱に割り込もうと判断しただけあって、相手が使う魔法より詠唱がかなり短い。
「
「
両者がほぼ同じタイミングで魔法名を叫ぼうとしたが、詠唱の長さの違いにより、ザガートの方が唱え終わるのが一瞬早かった。
魔王の手のひらから紫に輝く不気味な光が、極太レーザーのように発射されて、目の前にいる神を直撃する。神の全身が一瞬
「……
一瞬遅れた後に神が魔法を唱え終わる。だが魔法は発動しない。
ただ神が「アナテマ」と大きな声で叫んだのが神殿内に響き渡るだけだ。
数秒が経過しても、極大魔法が発動する気配は一切ない。神殿内にヒュゥウウッと吹き抜ける冷たい風は、魔法の発動に失敗した神を
「なっ……!!」
渾身の魔法が不発に終わった事に神が
それは彼にとって決してあってはならない事だ。この最大威力の魔法を唱えたら、目の前にいる相手は絶対に死ななければならないのだ。彼はそのつもりで魔法の使用に踏み切った。
にも関わらず魔法は不発に終わり、目の前の敵はピンピンしている。
絶対に起こってはならない事態が起こってしまい、神は脳の血管がキューーッと締め付けられて、口の中が急激に
「
最後は精神的ショックを受けたあまり大きな声で
「ザガート……貴様かッ! 貴様がやったのか!? 貴様がこれをしたのかッ! おのれザガート……貴様、一体私の体に何をしたぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああッッ!!」
「天界の神にしか効かない代わりに、神相手なら必中で成功する魔法……それが『
ザガートが腕組みしてふんぞり返りながら勝ち誇ったドヤ顔になる。相手に
「この魔法を受けた神は、一切の魔力が使えなくなる……攻撃魔法はもちろん、回復の術も、防御結界も、空間を切り裂く技も、全てだ。しかも術の効果は、使用者が生きている限り永続的に発動し続ける……」
ヤハヴェにぶつけた技が単に『
全知全能であるはずの神が、『鎧を着た
「ゼウスはいずれお前を殺す必要が生じた時の
最後にこの技がゼウスから伝授された手札であると教えて話を終わらせた。
(神同士の私闘が禁じられたにも関わらず、私を殺す為の技を用意していただと!? おのれゼウスめッ! 異世界転生者を差し向けた一番の理由は、それだったという訳か!!)
魔王に真相を知らされたヤハヴェが割れんばかりの勢いで歯
早急に手を打つべきだった、どうしてこうなった……そんな後悔の念が湧き上がる。もっと早くに魔王を殺しに行っていたら、こうならなかったのではないか……そんな『もしも』の分岐した未来を頭の中に思い描く。
だが今となっては、何もかもが遅すぎた。
「そして魔法を封じられた相手にだけ使おうと思って、これまで使わずに取っておいた、俺の奥の手を見せてやろう!!」
落胆した神に追い打ちを掛けるようにザガートが言う。
「ザルダーク・ギルダーク・ヴェルギム・ベベウ……
非常に長い呪文の詠唱を行う。かなりスケールの大きな技らしく、詠唱の長さは『
「……
最後に技名を大きな声で叫ぶ。
魔法を唱え終わるとヤハヴェの足元にある地面に、黒い大きな穴のようなものが生まれる。穴は異空間に繋がるゲートだったらしく、真上に立つ神をズブズブと底なし沼のように引きずり込んでいく。
「うっ……うおおおおおおおおっ!!」
ヤハヴェが大声で叫びながら手足を動かして暴れる。吸い込む力に全力で
やがて全身が穴に呑み込まれると、彼の意識はそこで途絶えた。
◇ ◇ ◇
「うっ……ここは」
穴に吸い込まれて気を失っていた神が意識を取り戻す。
地面に倒れていた彼が目を開けて起き上がり、二本の足でゆっくり立ち上がって周囲を見回すと、そこは
草木は一本も生えておらず、山も海もない。森も川も存在しない。本当に何も無いただの荒野が、何処までも広がっているだけだ。
彼以外に人の気配は無く、静寂に包まれた荒野に一人ポツンと取り残された。
空は星も月もない完全な闇に覆われていたが、荒野の所々に青白い炎が
何より不気味なのは、大地の土が暗めの紫色に染まっていた事だ。普通の茶色ではない。まるでここがザガートの作り出した、人造の地獄か魔界だと主張しているかのようだ。
奇妙な空間に放り込まれた神であったが、
この異様な状況に遭遇したとしても冷静さを失わない判断の的確さは、さすが神と言うべきか。
(……何処かに出口があるかもしれない)
ヤハヴェが渇いた紫の大地を、時間にしておよそ一分半ほど歩いた時……。
「……!!」
何かの異変に気付いてピタリと足を止める。
直後、彼から数メートル離れた場所にある大地の土がモコモコと盛り上がり、ボコッと音を立てて割れると、中から人影のようなものが出てきた。
土の中から出てきたもの……それはスケルトンと呼ばれる人型の骸骨だ。獲物が近付いてくるのを土中で待ち
不死の魔物は右手にロングソードと呼ばれる剣を握っており、瞳は不気味に赤く光り、神の方を見ながら歯をカタカタと動かして笑う。
スケルトンは最初に一体が現れた後、彼に続くように何十、何百という土がモコモコと盛り上がり、ボコッボココッと割れて、仲間の骸骨が次々に姿を現す。
神が慌てて周囲を見回すと、五分と
彼からもっとも近い位置に立っていたスケルトンがゆっくりと近付いてきて、手に持っていた剣をブゥンッと正面に突き出す。つるぎの先端は白銀の鎧を豆腐のように貫通して、神の左
「ぐぁぁぁぁぁぁあああああああああああッッ!!」
傷口にこみ上げる激痛に神が思わず悲鳴を上げる。慌てて数メートル後ろに下がると、太腿に突き刺さった剣を手で引き抜いて、骸骨がいない地面に向かってポイッと放り投げる。
傷口を数秒間凝視してみたが、自力で治る気配は無い。魔力を封じられた
(ど、どういう事だ!? 私の鎧はオリハルコン製……並みの攻撃など一切通じない
神が自分の置かれた状況に
「『
荒野の
神の頭上二十メートルほどの高さにポッカリ小さな穴が
魔王は神に掛けた術の特性について語る。これまで犯した罪が怨霊となって襲いかかる事を教えて、罪の
そうこうしている間にも骸骨達が神に襲いかかろうと、一歩、また一歩と近付いてきていた。
「ぐっ……おのれぇぇぇぇぇぇえええええええええええッッ!!」
ヤハヴェが大声で怒鳴りながら激高する。何としても骸骨達に殺されてなるものかと激しく息巻く。
骸骨が持っていた剣の一本を奪い取ると、それをブンブン振り回して敵に斬りかかる。だが神がいくら剣を振ったとしても骸骨達には全く当たらない。まるで立体映像を斬ったようにスッスッと剣が通り抜けてしまう。
逆に骸骨達の剣はブスブスと容赦なくヤハヴェに突き刺さる。神は一方的な虐殺ショーへと追いやられた形だ。
「自分の犯した罪は、剣では斬れない……せいぜい土下座して謝れば、もしかしたら許してくれるかもしれない程度だ」
ザガートが術の特性について説明を付け加えた。神の犯した罪が具現化したものであるがゆえに神の攻撃では絶対倒せない事、心から反省して謝れば、骸骨が攻撃をやめるかもしれない事……それらの情報を、この場から生き延びる唯一の手段として伝えた。
「こ……この私に自分の行いを反省しろと言うのか!? ザガートッ! 貴様は私がそれをやると、本気で考えているのかッ!!」
魔王の忠告にヤハヴェが声を荒らげて反論する。たとえ男のもたらした情報が真実だったとしても、この場から助かるために自身の信念を曲げる考えは無い意思を明確に打ち出す。
「ならばここで骸骨達に全身をメッタ刺しにされて死ぬがいい……」
ザガートは最後にそう一言だけ述べると、下を
二人が言葉を
骸骨達は
群れの先頭にいた一体がニタァッと不気味な笑いを浮かべた。
今から襲いかかる合図をしたかのように……。
「やめろザガートッ! やめろ! やめろ……やめろぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーーーーッッ!!」
ヤメローーーーッ、メローーーッ、ローーッ、オーーッ……。
神の断末魔の悲鳴が、ドスドスドスドスドスッと全身を刺し貫かれた音と共に、残響音となって鳴り響く。
そして閉鎖空間内で生じる物音は、そこで途絶えた――――。
「……
ザガートが何も無い神殿の床を見つめながら、警告するように言葉を発した。
そこはさっきまで異空間に通じる穴が開いていた場所だ。