いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第13話 謎の襲撃者

(フーーム……)

 

 ザガートが(あご)に手を当てて物思いに(ふけ)る。一向に減る気配が無い敵を前にして、どうすべきか考える。

 彼自身、ここまでスライムの数が多いとは予想しておらず、相手の規模を見誤った認識の甘さを嘆く。一刻も早く戦いを終わらせる(ため)に、全体魔法で勝負を付けるしかないという結論に達する。

 

 火炎龍嵐(ファイア・ストーム)を唱えれば一掃するのは簡単だが、それでは森まで焼いてしまう為思い(とど)まる。スライムだけを正確に狙い殺す魔法が理想的だと判断する。

 眉間(みけん)(しわ)を寄せて気難しい表情になりながら考え込んだが、やがて答えが見つかったように正面に右手をかざす。

 

「地より生まれし者腐れ落ち、大地に(かえ)らん……致死風(デッドリー・エア)ッ!!」

 

 呪文を唱えると、男の指先から黒い霧のような(もや)が放たれた。

 空気感染型バクテリアの集合体である黒い霧は、スライムにまとわり付くと高速で分解する。最初の一体がドロドロに溶かされた液体になって蒸発すると、他の個体へと襲いかかる。

 

「GYAAAAAAAaaaaaaa!!」

「ABAAAAAAAAAaaaaaaaaa!!」

「DOBEBEbebebe!!」

 

 声にもならない声が樹海に響き渡る。スライムの断末魔の悲鳴が幾重にも重なり、死のハーモニーを(かな)でる。

 スライムも(きん)の一種だが、暗黒魔法で生成された『それ』には到底太刀打ちできない。触れれば一瞬で溶かされて、ただの液体になる。

 

 三百体ほどいた魔物の群れは、一分と()たないうちに片付けられた。オークと違って最初から骨が無いため、文字通り跡形も残らない。

 

(死体を回収できないのでは、生命創造(クリエート・ライフ)に不向きか……)

 

 一切痕跡を残さずに消え去ったスライムを見て、ザガートは彼らを使役できない事を残念がる。魔物が溶けた場所の土を手ですくい上げてみたものの、気体となって蒸発してしまっており、一滴も染み込んでいない。

 

「ザガート!」

「ザガート様っ!」

 

 敵が一掃されたと確信して、レジーナとルシルが男の元へ駆け寄ろうとした。

 

「ムッ……二人とも、そこを動くなっ!」

 

 ザガートが異変を察知して、慌てて二人に忠告する。

 男の言葉を聞いて、二人がビクッと驚きながらその場に立ち止まる。

 

「この森に、俺達以外にまだ誰かいる! そいつは俺に敵意を向けている! 戦いはまだ終わっていない!!」

 

 魔王が言葉の真意について説明する。スライムは片付けたものの、この森にはまだ何者かが(ひそ)んでおり、その者は魔王の命を狙っているという。

 二人を遠ざけたのは、敵が明確に自分だけを狙っているため、一対一の勝負に持ち込んだ方がやりやすいとの判断からだった。

 

 気配を感じたものの、敵の姿を視界に(とら)える事が出来ない。いくら目を()らしても、見渡す限りの大きな樹海が広がっているだけだ。時折(ときおり)風が吹くたびに木の枝がカサカサと揺れる音が、気配の探知を邪魔する。

 

 このままでは(らち)が明かず、探知の魔法を使おうかと考え出した時……。

 

「……ムッ!?」

 

 殺気を感じて、男が慌てて後ろを向く。それと時を同じくして、彼から十メートル離れた先にある木の枝から、キラリと光る何かが放たれた。

 その物体は男の顔面めがけて一直線に飛んでいく。男はそれを素手で(つか)んで止める。

 

「これは……!!」

 

 自分に向けて投げられた武器を見て、魔王が一瞬驚いた顔をする。彼はその武器についてよく知っていたからだ。

 

 それは彼が元いた世界において、ニンジャが使う『くない』と呼ばれた武器だ。飛び道具としても、近接戦の武器としても、様々な用途に使える便利な忍具だ。くないが存在する事実は、この世界にもニッポンのような国があり、忍者がいた事を簡潔に分からせた。

 

 くないが発射された木をザガートが(にら)むと、木の枝の茂みからヒュンッと何かが飛び出す。動物のチーターくらいの大きさをした茶色い物体は、木の枝から枝へとジャンプする。それを何度も繰り返す。体重が軽いせいか、枝は上下に揺れるだけで折れたりしない。

 謎の物体は目にも止まらぬ速さで動いており、姿を正確に(とら)える事が出来ない。猫科の動物のように見えたが、猿のようにも見える。

 

 そうして森の中を軽快に駆け回りながら、ザガートに向けてくないを何度か発射する。男はそれを手刀で叩き落とす。

 

(的を(しぼ)られぬよう一箇所に(とど)まらず常に動きながら、相手の射程外から飛び道具での牽制(けんせい)……なかなか出来る。だが……甘いッ!!)

 

 相手の狙いを読み取り、(たく)みな戦術に魔王が感心する。一方で追い詰められた事への焦りは()(じん)も無く、ニヤリと口元を(ゆが)ませる余裕すら見せた。

 

「小手先の戦術では、俺には勝てん! 風の精霊よ、盟約に(もと)づき敵を狙い撃て……追尾魔法(マジックミサイル)ッ!!」

 

 強気な台詞(セリフ)を吐きながら、攻撃呪文の詠唱を行う。男の手から空気を圧縮した(かたまり)らしき透明な球体が放たれて、敵に向かって飛んでいく。

 謎の敵は必死に逃げ回ったが、風をまとった弾丸は何処までも相手を追う。途中で木にぶつかっても、そのまま木を貫通してブチ抜く。やがて標的に命中すると、風船が割れたようにバァンッ! と音を立てて破裂した。

 

「うわああああああああっ!」

 

 魔法の矢をぶつけられた何者かが、大声で叫びながら木の枝から転落する。大の字になりながらうつ伏せに地面に激突して、車に()かれたカエルのようになる。

 

「ううっ……」

 

 (うめ)き声を漏らしながら、手足をピクピクさせた。全身を強打した痛みが大きかったせいか、その場から動こうとしない。時折(ときおり)痛みに(もだ)えるように体をよじらせる。

 

「これは……!!」

 

 敵の正体を見ようと駆け付けたザガート達が、驚きの言葉を発する。

 魔王を襲ったのは醜悪な魔族でもなければ、森に()む野生の猿でもなかった。

 

 そこに倒れていたのは十二歳くらいに見える人間の子供だった。

 アーモンドのような褐色肌をしていて、後ろでポニーテールに結んだ髪は黒い。腕と脚の肌を露出した『くノ一』の格好(かっこう)をしていて、手首と足首に包帯のような白い布を巻く。足には白い足袋(たび)と、その下に歩きやすい草鞋(わらじ)を履く。

 戦いでは使用しなかったが、腰に巻いた(おび)の背中には、(さや)に収まった忍者用の短刀が()してある。

 

 (すそ)(たけ)は短く、脚の角度によってフンドシらしき白い布がチラッチラッと見える。

 東洋人と思われる顔付きだったが、少女か少年かは分からない。服装から忍者であろうと思われたが、猿のような野生児の印象も与える。

 

 ザガートが意図的に殺傷能力を抑えたため、直撃した魔法は深手を負わせてはおらず、木の棒で強く叩かれたように尻が真っ赤に()れ上がる程度に(とど)まる。

 

「ううっ……オイラの負けッス」

 

 だらしなく地べたに倒れた子供が、ゆっくりと体を起こす。何とも特徴的な喋り方をする。地面に叩き付けられた痛みは引いたものの、それでも辛そうに泣きべそを()きながら内股でへたり込む。

 

「小僧、よくも私の仲間の命を狙ったな! 許さんッ! どうせ貴様もギド同様、魔族が化けているんだろう!!」

 

 レジーナが子供を男性と決め付けて、鼻息を荒くしながらズカズカと迫る。ザガートを襲撃した行為に深く(いきどお)るあまり、正体が魔族だと思い込む。

 

「まだ何か武器を隠しているに違いない! 身ぐるみ引っペがしてやる!!」

 

 そう叫ぶや(いな)や、相手の衣服を乱暴に脱がし始めた。

 

「き、金髪の(あね)さんっ! やめるッスよぉぉぉぉおおおおおお!!」

 

 子供が露骨に嫌そうな顔をしながらジタバタ暴れる。服を脱がす手を必死に止めようとしたが、日々の鍛錬で鍛えられた王女の怪力は凄まじく、子供の細腕ではどうにもならない。

 

「待てレジーナ、早まるな! そいつは……」

 

 何かに気付いたザガートが慌てて王女を止めようとした。だが時(すで)に遅く、衣服は全て()ぎ取られていた――――。

 

 

 

「なん……だと……」

 

 全裸にひん()かれた子供の体を見て、王女がポカンと口を開けた。予想外の展開に驚くあまり、金魚のように口をパクパクさせる。

 

 それもそのはず、子供の股間には男性なら付いている『モノ』が、付いてなかったのだ。

 

「ううっ……オイラ、小僧じゃないッス」

 

 一糸(いっし)(まと)わぬ姿になった少年……いや少女が、大事な所を手で隠しながら涙目になる。裸にされた恥辱に耐えられず、顔を真っ赤にしたまま両肩をプルプル震わせた。

 

 その子供は(まぎ)れもなく女性だった。十二歳という幼さと中性的な見た目、奇妙な喋り方により、王女が勝手に男性だと早とちりしたのだ。

 

「……だから早まるなと言ったのだ」

 

 ザガートが(あき)れたように口にしながら、頭を手でボリボリと()く。やれやれと言いたげに王女を見ながら溜息(ためいき)を漏らす。

 彼は最初に姿を見た時点で、相手が少女だと分かった。だからこそ仲間の暴走を止められなかった失態を嘆く。

 

「すまない……本当にすまない事をした! いくら襲ってきたとはいえ、(とし)()も行かぬ少女をあられもない姿にするなど、このヒルデブルク王女レジーナ、一生の不覚ッ! お()びにどんな事でもしよう! 何ならいっそ私を(みにく)いメス豚と(ののし)り、ゴミを見るような目で(さげす)んでもらっても構わない!!」

 

 レジーナが(ひざ)をついて土下座しながら謝る。何度も地に(ひたい)(こす)り付けて、申し訳なさそうに詫びの言葉を述べる。少女を(はずかし)めた罪悪感のあまり()ても立ってもいられず、穴があったら入りたい気分にすらなる。

 

「もう良いッス、(あね)さん……どうか顔を上げて下さい。いきなり襲ってきたオイラが悪かったッス」

 

 ルシルに服を着せられた少女が、落ち着いた様子で話す。奇襲を掛けた負い目から、レジーナの愚行を(とが)めたりしない。

 

「それで……お前は一体何者だ? 何故俺に奇襲を掛けた」

 

 状況が落ち着いたのを見計らい、ザガートが少女に問いかける。魔族ではない人間の少女が命を狙ってきた理由を聞き出そうとする。

 

「……」

 

 男の問いに即答できず、少女が黙り込む。顔を合わせ辛そうに下を向いたまま、トイレを我慢するように体をモジモジさせる。とても話しにくい理由だったようにも、単に相手に(おび)えたようにも見える。

 しばらく言うべきかどうか迷っている様子だったが……。

 

「……師匠ッ! お願いです! どうか……どうかオイラを弟子にして下さい!!」

 

 突然そう叫びながら(ひざ)をついて土下座し、魔王に弟子入りを懇願した。

 

「俺に弟子入り……だと!?」

 

 森で襲ってきた少女が弟子入りを懇願するなどとは夢にも思わず、ザガートが困惑する。少女の申し出は(まさ)に『寝耳に水』と呼べるものだった。

 男には忍術の心得など全く無い。くノ一が魔王に弟子入りするなど、荒唐無稽にも(ほど)がある。

 

「何か理由があるのだろう……詳しく話せ。弟子にするかどうかの判断はそれからだ」

 

 それでも即断したりはせず、気持ちを落ち着かせようとゴホンと(せき)をすると、冷静に理由を問う。事情を知ってからでも判断は遅くはないと、ひとまず返答を保留する。

 

「オイラ、霧風(きりかぜ)なずみって言うッス。大陸の東にあるニッポンという国、そこにある忍者一族の頭目の娘ッス」

 

 少女は土下座をやめて顔を上げると、自らの素性について語りだす。(はる)か東方にある国の忍者の末裔(まつえい)である事を明かす。

 

「オイラがいくら忍術を頑張っても、周囲は認めてくれなかったッス……女に頭目の(あと)()()がせられないと、そう言われたッス。オイラ、それが悔しくて……たまらず(さと)を飛び出してきたッス」

 

 なずみと名乗る少女は(まぶた)を閉じて下を向いたまま体を震わせる。正当に努力を評価されなかった悔しさのあまり、うっすらと目に涙が浮かんで今にも泣きそうになる。今までどれだけ辛い思いをしたか、その無念さが嫌というほど伝わる。

 

「こっちに渡ってきた時、とても強い魔王の(ウワサ)を耳にしたッス。それで本当に強いかどうか、勝負を挑んで確かめたかったッス。その(ため)に森に行ったらスライムと(はち)合わせたんで、慌てて逃げ隠れて様子を見てたッス」

 

 森に姿を現した事、魔王に戦いを挑んだ経緯について話す。スライムとは偶然出会っただけで、何の関係も無い事を明かす。

 

「改めてお願いするッス! どうか……どうかオイラを弟子にして下さい! オイラ、故郷のみんなをギャフンと言わせてやりたいッス! メチャクチャ強くなって、オイラを認めなかった事を後悔させて、見返してやりたいッス! その為に世界で一番強い師匠の弟子になって、実戦の経験を積めば、もっと強くなれるかもしれないと、そう思ったッス!!」

 

 またも地に(ひたい)(こす)りつけて土下座すると、魔王への弟子入りを懇願する。周囲に認められる為にはこれしか手段が無いのだと、強い口調で訴える。

 少女の決意は固く、テコでも動こうとしない。男が首を縦に振らなければ、日が()れてもこの場に()続けそうな、そんな気迫があった。

 

(フーーム……)

 

 なずみの話を聞いて、ザガートが深く考え込む。(あご)に手を当てて気難しい表情になりながら、どうすべきか思い悩む。少女の願いを無下(むげ)に断ったりはしない。

 

(森での戦いぶり、なかなか見事だった……(みが)き上げれば間違いなく立派な戦士になる素質がある。それを女性だからという理由で(つぶ)してしまうのは、あまりにもったいない事ではないか?)

 

 先ほどの勝負を思い起こし、少女の(あふ)れんばかりの才能を見抜く。何とかして彼女の才能を有効活用したい、彼女が実力を認められる環境を整えたいと思いを抱く。努力にはそれに見合った評価が与えられるべきとも考えた。

 

「俺の弟子になっても、忍術が上達するとは限らんぞ。それでも良ければ、好きにするがいい……」

 

 そう言い終えると、恰好(かっこう)を付けるように背を向けてマントをバサッと閉じる。そのまま森の出口がある方角に向かってカツカツと歩き出す。

 「好きにするがいい」……その言葉が付いてくる事を許可したものである事は、誰の目にも明らかだった。

 

「分かったッス! お言葉に甘えて、好きにさせてもらうッス! オイラ、何処までも師匠に付いていくッスよ!!」

 

 男の心情を読み取り、なずみの表情が晴れやかになる。すぐさま土下座をやめて立ち上がると、嬉しそうに早足で駆けながら後を追う。飼い主に(なつ)いた猫のように、ピッタリと男の後ろにくっついて歩く。

 

「オイ、正気か!? いくら戦いの才能があるとはいえ、まだ十二歳の子供だぞ!!」

 

 レジーナが慌てて横に並び歩きながら魔王に問い(ただ)す。幼い子供を危険な旅路に巻き込む事に懸念を表明する。

 

「旅の仲間が何人増えようと、一向に構わん……本当に危険だと判断した時は俺が全力で守る」

 

 ザガートが足を止めないまま王女に言葉を返す。か弱い少女を旅に動向させる事に少しも不安を抱かない。仲間の命を守る自信に満ち(あふ)れたように堂々としている。

 

「全く、お前らしい答えというか……」

 

 王女が(あき)れたように口にする。お前がそう言うなら仕方ない、と言いたげにしぶしぶ納得する。

 普通ならば、守るべき対象が増えれば増えるほどピンチに(おちい)る確率が上がる。だが圧倒的な力を持つ魔王なら、それをはねのけてしまうだろうという考えがあり、男の意思を尊重する事にした。

 

(……新しい女が増えた)

 

 またも一行に女性メンバーが加わった事に、ルシルが内心不満を抱く。

 超絶イケメンである魔王が着々とハーレムを築くのを仕方のない事だと割り切りつつも、どんどん自分が構われなくなるのではないかと不安になり、心がモヤモヤする。

 けれどもそれを口には出せず、顔をむくれさせたまま黙って三人の後に付いていくのだった。

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