いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
ザガートは王宮に戻ると、一階の廊下の突き当たりにある執務室へと駆け込む。
執務室には引き出しのある机があり、机の後ろには
魔王が椅子に座ると、廊下にいた男性の兵士がドアを数回ノックしてから部屋へと入ってくる。男は高さ五十センチ以上はあろうという書類の
「……これが本日の処理案件でございます」
そう言うや
ザガートは鍵が掛かった机の引き出しから
ペタンペタン、ペタン……ペタンペタン、と不規則に印鑑を押す音が鳴り続けて、それぞれの箱に書類が積み重なっていく。魔王はかなり速読ではあったが、それでも書類は相当の量があり、全てに目を通した時には二時間が経過していた。
「本日の案件はこれで全部です。お疲れ様でした」
兵士が
魔王は次に机の引き出しから紙とペンを取り出すと、紙に何かを書き始める。書き続けながら紙に書かれた文章を声に出して読み上げる。
「ザカリアス帝国皇帝ザガート、隣国ギュッテンハイド国王ザルバドに書簡を送る……貴国が相次ぐ天候不良により
……文章を書き終えると、四つ折りにした手紙を封筒に入れて
「ブレイズ、いるか」
誰もいない空間に向かって側近の名で呼びかける。
『はっ……ここにおります』
まるで天井に隠れていた忍者のように、机の前にある床にブレイズが片
「この手紙を至急ザルバド王に届けてくれ」
ザガートは隣国の王に
ブレイズは封筒を受け取ると、承知したと言いたげにコクンと
一通りの用事を終わらせたザガートが窓の外を見てみると、
「……今日はもう休むとするか」
時刻が夕方に差し掛かったのを見て、魔王は本日分の仕事を切り上げる事にした。
◇ ◇ ◇
その日の晩……時計の針が『十二』の時刻を指した真夜中。
王宮の三階にある一室で、ザガートが腰に布を巻いただけの全裸のまま、ソファーにもたれかかりながら窓の外に広がる景色を眺めていた。その部屋は建物の外側に面した壁が一面ガラス張りになっており、カーテンを開ければ街の景色が一望できる。
ソファーの手前にはテーブルが置かれてあり、何種類かの野菜や果物が
魔王は夜の闇に包まれた街を一望しながら、新鮮なトマトを手に取って、皮を
「ザガートさまぁーーー、早くこっちに来て楽しみましょうよーーーー」
魔王が夜の景色を眺めていると、背後から気だるそうな女の声がする。
声が発せられた方角に男が振り返ると、部屋の
どうやらこの部屋は魔王のお楽しみ部屋だったようだ。ゴミ箱には使用済みティッシュが山のように積まれており、
最初に言葉を発した女はルシルだ。顔を
「まったく……まさか本当に一国の王になってしまうとはな。お前は本当に大した男だよ……」
レジーナが上半身を起こして魔王の方を見ながら、彼が成し遂げた偉業を
「師匠ほどの力があれば、全世界を手中に収める事だって可能だったはずッス」
なずみが寝そべったまま顔だけ魔王の方を見ながら言う。尊敬する師に世界の覇者となれる
鬼姫は真っ先に寝落ちしており、壁の方を向いたままスゥスゥと寝息を立てている。
「領土が広がれば広がるほど、王の仕事は増える……部下に仕事を分担したとしても、
弟子が抱いた疑問に魔王が答える。領土の広さは必ずしも自身にとってプラスにならない事、自身の統治能力限界と、それによる
魔王がソファーにもたれかかったまま女達と話していると、ブレイズが天井から降ってきた忍者のように現れて、男の背後にシュタッと着地する。
『我が
偵察任務によって
「例の国の王か……分かった、そっちの方は俺が何とかする。お前は引き続き周辺国の調査に当たれ」
魔王が報告を受けた案件について指示を出す。不穏な動きを見せた王には自分が対処する考えを伝えて、不死騎王には偵察任務を続行するよう命じる。
『はっ!!』
ブレイズが力強く返事して魔王の命令を受諾する。主君との会話を終わらせると、ヒュンッという音とともに瞬間移動したように消えて、一陣の突風となってその場から駆け抜けていく。
ザガートはソファーから立ち上がると、全裸のまま窓辺に立ちながら外の景色を眺める。
「我が魔力よ……一匹の蛇となりて、悪しき王に
正面に右手をかざして呪文の詠唱を行う。魔王の手のひらから
蛇が何処へ向かったのか……それは魔王にしか分からない。
◇ ◇ ◇
西大陸の北の果てに一つの国があり、バアル・ハモンという名の王がその地を治めていた。
王は民に重税を
民の王に対する怒りは激しいものがあり、何としても
王の部屋は王宮の二階にあり、二階から一階へは廊下を歩いてから階段を下りる構造になっている。一階のエントランスには大きなピアノが置かれていて、ベートーヴェンのような音楽家がクラシックの音楽を演奏していた。
その日、王がいつものように自室で女をはべらせて、酒と肉をかっ食らっていると、何者かが廊下をドカドカと早足で駆けてくる音が聞こえた。
「陛下、大変でございますッ! 重税に不満を抱いた領民が反乱を起こしました!!」
黒い甲冑を着た一人の兵隊がドアを開けて部屋へと駆け込んでくる。男は黒騎士隊と呼ばれる精鋭の一人らしく、城下で起こった出来事を報告しに来たようだ。
「フン……何を慌てておる。領民の反乱など、いつも通り武力で鎮圧すれば良いではないか」
「はっ……ですが領民をいたずらに
黒騎士が胸の内に湧き上がった懸念を伝える。民に対して横暴な振る舞いをすればザガートが何かするのではないかという恐れがあり、その
「あの救世主気取りの若僧か……だが心配あるまい。かの国とこことは遠く離れていて、ヤツには全く関係が無い話だ。ましてや自国の民をどう扱おうが、よその国に口出しする
ハモン王が心配する必要は無い
「
暴徒の鎮圧を決断すると、配下の黒騎士に武具を準備するよう命じる。自ら表舞台に立ち、反乱分子を皆殺しにすると強い口調で宣言する。
部下が用意した甲冑を着て、自身も黒騎士の姿になる王。何としても暴徒を鎮圧してやるぞと激しく息巻いて、ガニ
「シャーーーーッ!!」
ドアの陰に潜んでいた一匹の蛇が大声で
蛇は王の右足のふくらはぎにガブリと
「ギャァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーッ!!」
右足を蛇に咬まれた王が、この世の終わりと思えるほどの絶叫を発した。前のめりに地べたに倒れると、ゴロゴロと廊下を転げ回りながら激しくのたうち回る。咬まれた傷口を両手で押さえながら「痛い、痛い」と何度も叫んだが、やがて糸が切れた人形のように動かなくなる。
「陛下、大丈夫ですかッ! 陛下ッ! 陛下ぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーッ!!」
動かなくなった王を見て慌てた黒騎士がすぐさま駆け寄る。王が着ていた甲冑を脱がせて肌着だけにすると、心臓がある左胸に耳を当てて心音を確かめようとしたが……。
「し……死んでる!!」
黒騎士がそう叫んだ瞬間、ピアノを演奏していた音楽家が、ジャジャーーンデンデン!! と死のメロディを
ハモン王が死んだ急報がもたらされると、城に攻め上がる
王が毒蛇に咬まれて息絶えた事が王国内に知れ渡ると、人々は天誅が下ったのだろうと
バアル・ハモンの次にこの国の王となった人物は彼らの噂を信じ、前王と同じ