いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第132話 皇帝の采配

 ザガートは王宮に戻ると、一階の廊下の突き当たりにある執務室へと駆け込む。

 執務室には引き出しのある机があり、机の後ろには椅子(いす)が置かれている。机の上に書類を乗せる(ため)空箱(からばこ)が二つ置かれてあり、それぞれ『承認』『却下』と文字が書かれていた。

 

 魔王が椅子に座ると、廊下にいた男性の兵士がドアを数回ノックしてから部屋へと入ってくる。男は高さ五十センチ以上はあろうという書類の(たば)を両手で抱えたまま歩いていた。

 

「……これが本日の処理案件でございます」

 

 そう言うや(いな)や、書類の束を机の上にドサッと乗せる。

 

 ザガートは鍵が掛かった机の引き出しから朱肉(しゅにく)と印鑑を取り出すと、束の一番上に乗っていた書類を手に取る。数秒間じっと眺めて内容を精査すると、印鑑をペタッと押して『承認』の箱に入れる。次に手に取った書類は数秒間眺めはしたものの、印鑑を押さず『却下』の箱に入れる。そうして書類に一枚一枚目を通しては、印鑑を押したり押さなかったりして、二つの箱に振り分けていく。

 

 ペタンペタン、ペタン……ペタンペタン、と不規則に印鑑を押す音が鳴り続けて、それぞれの箱に書類が積み重なっていく。魔王はかなり速読ではあったが、それでも書類は相当の量があり、全てに目を通した時には二時間が経過していた。

 

「本日の案件はこれで全部です。お疲れ様でした」

 

 兵士が(ねぎら)いの言葉をかけて、膨大な作業を終わらせた魔王を気遣う。ペコリと頭を下げて一礼すると、『承認』の箱に乗せられた書類の束を手に持って部屋から出ていく。

 

 魔王は次に机の引き出しから紙とペンを取り出すと、紙に何かを書き始める。書き続けながら紙に書かれた文章を声に出して読み上げる。

 

「ザカリアス帝国皇帝ザガート、隣国ギュッテンハイド国王ザルバドに書簡を送る……貴国が相次ぐ天候不良により()(きん)に見舞われ、食糧難に(おちい)っている事は小生(しょうせい)の耳にも届いている。そこで不肖(ふしょう)このザガート、貴国に食糧物資の援助を行いたいと考えている。隣国の民の窮状(きゅうじょう)を一心に思っての行動であり、下心が無い事をご理解頂きたい。貴殿がこの申し入れを受けて下さる事を(せつ)に願う……」

 

 ……文章を書き終えると、四つ折りにした手紙を封筒に入れて(のり)(ふた)をする。最後の仕上げとして封筒に署名をして(はん)を押す。

 

「ブレイズ、いるか」

 

 誰もいない空間に向かって側近の名で呼びかける。

 

『はっ……ここにおります』

 

 まるで天井に隠れていた忍者のように、机の前にある床にブレイズが片(ひざ)をついたポーズのままシュタッと着地して現れる。

 

「この手紙を至急ザルバド王に届けてくれ」

 

 ザガートは隣国の王に()てた手紙を不死騎王に手渡す。

 ブレイズは封筒を受け取ると、承知したと言いたげにコクンと(うなず)いてからヒュンッとワープしたように姿を消す。一陣の突風となって駆け抜けていったようだが、窓から出たのかドアから出たのかは分からない。

 

 一通りの用事を終わらせたザガートが窓の外を見てみると、(すで)に太陽が沈みかかっていて、周囲の景色が暗くなり始めていた。(はる)か空の彼方を飛ぶカラスの群れがカーカーと鳴く声が夕暮れの景色を演出する。地上では学校から帰る子供達の姿を見かける。

 

「……今日はもう休むとするか」

 

 時刻が夕方に差し掛かったのを見て、魔王は本日分の仕事を切り上げる事にした。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 その日の晩……時計の針が『十二』の時刻を指した真夜中。

 

 王宮の三階にある一室で、ザガートが腰に布を巻いただけの全裸のまま、ソファーにもたれかかりながら窓の外に広がる景色を眺めていた。その部屋は建物の外側に面した壁が一面ガラス張りになっており、カーテンを開ければ街の景色が一望できる。

 ソファーの手前にはテーブルが置かれてあり、何種類かの野菜や果物が(かご)に乗せられたまま置かれている。

 

 魔王は夜の闇に包まれた街を一望しながら、新鮮なトマトを手に取って、皮を()かないままかぶりついてムシャムシャと食べる。口の中にほんのり広がる甘みを堪能(たんのう)しながら、自分がこの街を支配下に収めた達成感に(ひた)る。

 

「ザガートさまぁーーー、早くこっちに来て楽しみましょうよーーーー」

 

 魔王が夜の景色を眺めていると、背後から気だるそうな女の声がする。

 声が発せられた方角に男が振り返ると、部屋の(すみ)に置かれたダブルベッドに四人の女が裸のまま寝そべっていた。

 どうやらこの部屋は魔王のお楽しみ部屋だったようだ。ゴミ箱には使用済みティッシュが山のように積まれており、(すで)に一度やり終えた事が(うかが)える。

 

 最初に言葉を発した女はルシルだ。顔を火照(ほて)らせて発情した雌犬の顔をしており、両足をだらしなく開いたポーズで魔王をベッドに誘う。かつて性の(よろこ)びを知らない純朴な田舎娘であったはずの少女は、もはや淫欲に身を任せたエロ女になってしまった。

 

「まったく……まさか本当に一国の王になってしまうとはな。お前は本当に大した男だよ……」

 

 レジーナが上半身を起こして魔王の方を見ながら、彼が成し遂げた偉業を()(たた)える。全裸であったとはいえ口調は普段通りであり、ルシルに比べれば理性を保っているように見えた。

 

「師匠ほどの力があれば、全世界を手中に収める事だって可能だったはずッス」

 

 なずみが寝そべったまま顔だけ魔王の方を見ながら言う。尊敬する師に世界の覇者となれる(うつわ)があると考えており、現状はそれに見合っていないのではないかと疑念を(てい)する。

 

 鬼姫は真っ先に寝落ちしており、壁の方を向いたままスゥスゥと寝息を立てている。(みな)の会話に参加しない。

 

「領土が広がれば広がるほど、王の仕事は増える……部下に仕事を分担したとしても、(ほころ)びは生じやすくなる。俺には今の領土と、世界最強になった肩書きさえあれば十分だ」

 

 弟子が抱いた疑問に魔王が答える。領土の広さは必ずしも自身にとってプラスにならない事、自身の統治能力限界と、それによる(なが)きに渡る政権の安定を(かんが)みて、今の領土がベストだと判断した事を伝える。自分が最強だと知れ渡った現状に達成感を得られた事を付け加えた。

 

 魔王がソファーにもたれかかったまま女達と話していると、ブレイズが天井から降ってきた忍者のように現れて、男の背後にシュタッと着地する。

 

『我が(あるじ)よ……北の小国の王が、民に対して不穏な動きを見せておる』

 

 偵察任務によって(つか)んだらしき情報を伝える。

 

「例の国の王か……分かった、そっちの方は俺が何とかする。お前は引き続き周辺国の調査に当たれ」

 

 魔王が報告を受けた案件について指示を出す。不穏な動きを見せた王には自分が対処する考えを伝えて、不死騎王には偵察任務を続行するよう命じる。

 

『はっ!!』

 

 ブレイズが力強く返事して魔王の命令を受諾する。主君との会話を終わらせると、ヒュンッという音とともに瞬間移動したように消えて、一陣の突風となってその場から駆け抜けていく。

 

 ザガートはソファーから立ち上がると、全裸のまま窓辺に立ちながら外の景色を眺める。(あご)に手を当てて眉間(みけん)(しわ)を寄せて気難しい表情になりながら、今後についてあれこれ考えたが……。

 

「我が魔力よ……一匹の蛇となりて、悪しき王に鉄槌(てっつい)を下せ」

 

 正面に右手をかざして呪文の詠唱を行う。魔王の手のひらから(なし)くらいの大きさの白い光球が放たれて、空に向かって飛んでいく。光球は長い距離を飛んだ後、地面に降り立って一匹の蛇へと姿を変える。蛇は大地をスルスルと(はら)()いになって進みながら地平の彼方へと姿を消す。

 

 

 蛇が何処へ向かったのか……それは魔王にしか分からない。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 西大陸の北の果てに一つの国があり、バアル・ハモンという名の王がその地を治めていた。

 

 王は民に重税を()しては、取り立てた金で享楽に(ふけ)っており、すこぶる民の評判が悪い。王のやり方に反発した善良な臣下は(みな)粛清されてしまい、ご機嫌取りに邁進(まいしん)する悪臣だけが残った。

 民の王に対する怒りは激しいものがあり、何としても(じゃ)()暴虐(ぼうぎゃく)の王を取り除かねばならないと思わせるほどであったが、王には『黒騎士隊』と呼ばれる一万の精鋭部隊がいた(ため)、誰も手出し出来ずにいた。

 

 王の部屋は王宮の二階にあり、二階から一階へは廊下を歩いてから階段を下りる構造になっている。一階のエントランスには大きなピアノが置かれていて、ベートーヴェンのような音楽家がクラシックの音楽を演奏していた。

 

 その日、王がいつものように自室で女をはべらせて、酒と肉をかっ食らっていると、何者かが廊下をドカドカと早足で駆けてくる音が聞こえた。

 

「陛下、大変でございますッ! 重税に不満を抱いた領民が反乱を起こしました!!」

 

 黒い甲冑を着た一人の兵隊がドアを開けて部屋へと駆け込んでくる。男は黒騎士隊と呼ばれる精鋭の一人らしく、城下で起こった出来事を報告しに来たようだ。

 

「フン……何を慌てておる。領民の反乱など、いつも通り武力で鎮圧すれば良いではないか」

 

 椅子(いす)に座って偉そうにふんぞり返った、五十代半ばで(ひげ)を生やした悪人(づら)の中年男性が、不機嫌そうな顔をしながら言う。領民が反乱を起こしたと聞いても慌てる素振りは()(じん)も無く、それどころか自国の民を虫ケラのように扱う。

 

「はっ……ですが領民をいたずらに(しいた)げれば、ザカリアス帝国の皇帝がいずれ口を挟んでくるやもしれませぬ」

 

 黒騎士が胸の内に湧き上がった懸念を伝える。民に対して横暴な振る舞いをすればザガートが何かするのではないかという恐れがあり、その(ため)王の命令を実行に移す事を躊躇(ちゅうちょ)する。

 

「あの救世主気取りの若僧か……だが心配あるまい。かの国とこことは遠く離れていて、ヤツには全く関係が無い話だ。ましてや自国の民をどう扱おうが、よその国に口出しする(いわ)れは無い」

 

 ハモン王が心配する必要は無い(むね)を告げる。あくまで自国の民を痛め付けるだけであって、他国には何の迷惑も掛けていないから干渉される(いわ)れは無いと強気に出る。

 

()の剣と鎧を持って来いッ! かくなる上はワシ自ら陣頭指揮を取り、反乱に加わった者共を一人残らず斬り殺して、川沿()いに()(くび)を並べて見せしめとしてくれようぞ!!」

 

 暴徒の鎮圧を決断すると、配下の黒騎士に武具を準備するよう命じる。自ら表舞台に立ち、反乱分子を皆殺しにすると強い口調で宣言する。

 

 部下が用意した甲冑を着て、自身も黒騎士の姿になる王。何としても暴徒を鎮圧してやるぞと激しく息巻いて、ガニ(また)になってのっしのしと歩きながら部屋から出ようとした時……。

 

「シャーーーーッ!!」

 

 ドアの陰に潜んでいた一匹の蛇が大声で()えながら王へと襲いかかる。

 蛇は王の右足のふくらはぎにガブリと()み付くと、とても蛇とは思えないほどの猛スピードで床を()って移動し、窓の(すき)()から建物の外へと逃げ去る。その逃げる速さは(じん)(じょう)ならざるものがあり、さながらビデオを早回ししたかのようであった。

 

「ギャァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーッ!!」

 

 右足を蛇に咬まれた王が、この世の終わりと思えるほどの絶叫を発した。前のめりに地べたに倒れると、ゴロゴロと廊下を転げ回りながら激しくのたうち回る。咬まれた傷口を両手で押さえながら「痛い、痛い」と何度も叫んだが、やがて糸が切れた人形のように動かなくなる。

 

「陛下、大丈夫ですかッ! 陛下ッ! 陛下ぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーッ!!」

 

 動かなくなった王を見て慌てた黒騎士がすぐさま駆け寄る。王が着ていた甲冑を脱がせて肌着だけにすると、心臓がある左胸に耳を当てて心音を確かめようとしたが……。

 

「し……死んでる!!」

 

 黒騎士がそう叫んだ瞬間、ピアノを演奏していた音楽家が、ジャジャーーンデンデン!! と死のメロディを(かな)でた――――。

 

 

 

 ハモン王が死んだ急報がもたらされると、城に攻め上がる(ため)に集まっていた民衆はすぐさま撤収し、王国に平和が訪れる。民は(じゃ)()暴虐(ぼうぎゃく)の王が取り除かれた事に歓喜し、夜通し祭りをして喜ぶ。暴君の死を悲しむ者などいない。

 

 王が毒蛇に咬まれて息絶えた事が王国内に知れ渡ると、人々は天誅が下ったのだろうと(ウワサ)しあう。

 バアル・ハモンの次にこの国の王となった人物は彼らの噂を信じ、前王と同じ(てつ)を踏むまいと固く決意して善政を()いたと、そう言い伝えられている。

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