いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第15話 ケセフ襲来す

 ザガート達一行がムーア村を訪れた日の翌朝。

 時計の針が『六』を指して、東の空が明るくなって太陽が昇ろうとした時……。

 

「ムッ……あれは!?」

 

 木製の物見(やぐら)に上がって、望遠鏡で遠くの森を監視していた村人が異変に気付く。

 視界の先にある茂みがガサガサと音を立てて揺れて、小さな人影が動いているのが見えた。それも一人や二人ではなく、数十人が隊列を組んで村へと向かっている。

 木の影に隠れてはっきりと姿は見えないが、目は赤く光っており、魔族である事を容易に悟らせた。

 

「まっ、魔族だぁーーーーっ! 魔族が村に攻めてきたぞぉぉぉぉおおおおおおーーーーーーっ!!」

 

 大声で叫びながら鐘をカンカン鳴らして、敵の襲来を告げる。

 彼の(しら)せを聞いて、建物の中にいた村人が一斉に外へと飛び出し、広場に集まる。村長ゾシーも、ザガートとその仲間達もいる。レジーナは鎧に着替えて剣を装備し、なずみも両腰に数本のくないをぶら下げている。

 

「村長は皆を連れて安全な場所に隠れていろ! 魔族の群れは俺達が迎え撃つ! 村人には一人の犠牲者も出させはせん!!」

 

 ザガートがテキパキと指示を出す。敵との戦いを一手に引き受ける事を提案する。

 相手の狙いは恐らく自分達であろうと考え、赤の他人に迷惑を掛けられない思いが胸中にあった。

 

「分かりました! ここは貴方がたにお任せします。ですが、どうかお気を付けて……」

 

 魔王の心情を察して、ゾシーが(こころよ)く了承する。一行の強さを信じながらも、身を案ずる言葉を掛けた。

 無事を祈るようにペコリと頭を下げると、村人を連れて移動を始める。村の中央にある鉄製の倉庫のような建物へと入ると、扉を閉めて鍵を掛けた。

 

 住人の避難が完了したのとほぼ同時に、(さく)(かこ)まれた村の入口に魔物の群れが到着する。最初に四十体のゴブリンが姿を現した後、それらが左右二十体ずつに分かれて道を開けて、中央をのっしのしと巨大な何かが四足歩行で歩いてくる。

 

 それは全長七メートルを()すイリエワニの姿をした爬虫類の化け物だった。皮膚は(はがね)のように硬く、牙は剣のように鋭い。オーク程度なら簡単に捕食してしまいそうだ。

 (さら)にその背中に、トランプのジョーカーのような道化師の格好をした小男が乗る。

 

「数日ぶりだな……ケセフ」

 

 見覚えのある男の姿を目にして、ザガートが名を口にする。

 

「ホワッハッハッハッ! 相変わらず元気そうですね……異世界の魔王ッ! 貴方がこの村にいると、部下から報告を受けましてね……洞窟で待っているのは面倒だと思い、こちらから攻めて来てあげましたよ!!」

 

 ケセフが魔獣の背中からピョンッと飛び降りて、笑いながら挨拶(あいさつ)する。村の南西にある洞窟が彼の根城であった事、そこから部下を引き連れて襲撃してきた事を伝える。

 

「わざわざ洞窟に向かう手間が省けて、大変助かる。だが良いのか? オークの大群十万を全滅させた俺に対して、その程度の戦力ではいささか力不足ではないか?」

 

 ザガートが皮肉()じりに言葉を返す。敵が従えた現行戦力では、自分を殺すには到底足りないと指摘する。

 

「フフフッ……余計な心配はご無用。貴方を殺すための手札はちゃんと用意してあります。そうして余裕ぶっていられるのも今のうちですよ」

 

 道化師が意味ありげにニヤリと笑う。彼の口にした手札というのがここまで乗ってきたイリエワニなのか、それとも別に何かいるのかは分からない。

 

「さあゴブリン共、此奴(こやつ)らを血祭りに上げなさいッ! 我らに逆らいし愚か者どもをバラバラに引き裂いて、(こま)()れの肉片にして、大魔王様への()(もつ)として捧げるのです!!」

 

 一行を指差しながら部下達に処刑を命じる。

 彼の命を受けて、ゴブリン達が武器を構えながら一斉に前へと歩き出す。

 ワニは仲間を巻き込まないようにする(ため)か、ひとまずその場に待機する。

 

「ギギギィィィイイイイイーーーーーーッ!」

 

 群れの先頭にいた一体が不気味な奇声を発しながら、先陣を切るように駆け出す。まず真っ先に弱い獲物から狙おうと考えたのか、他の敵には目もくれず、ルシルへと向かっていく。

 

「業火よ放て……火炎光矢(ファイヤー・アロー)ッ!!」

 

 ルシルが正面に両手のひらをかざしながら攻撃呪文を唱える。手のひらから煌々(こうこう)と燃え盛る火球が放たれてゴブリンに命中し、一瞬にして体が炎に包まれた。

 

「ウギャアアアアアーーーーーッ!」

 

 全身を灼熱の業火で焼かれた小鬼が悲鳴を上げて(もだ)える。火だるまになったままゴロゴロと地面を転げ回ったが、やがてピクリとも動かなくなる。

 

「オノレェェェェエエエエエエッ!!」

 

 仲間を殺された事に激昂した一体が、仇を取らんと群れから飛び出す。別の一体が数秒遅れて彼の後に続く。

 

「でやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」

 

 レジーナが勇ましく()えながら敵に向かって駆け出す。両手で握った一振りの剣を横()ぎに振って、すれ違いざまにゴブリンの腹を切り裂く。そのまま足を止めずに走ると、剣を下から上へとスイングするように高く振り上げて、目の前にいる二体目を一刀両断する。

 

「ギャアアアアアアアッ!!」

「グワアアアアーーーーッ!」

 

 二匹の小鬼が断末魔の悲鳴を発する。横一文字に斬られた最初の一体は胴体が上と下半分ずつに分かれて、上半身がズルリと(すべ)るように転がり落ちて、そのまま動かなくなる。縦一閃(いっせん)に切り裂かれた二体目は傷口から真っ赤な血を噴きながら後ろに倒れて、苦痛に顔を(ゆが)ませたまま息絶えた。

 

「死ネエエエエエッ!!」

 

 剣を大きく振って(すき)を見せた王女を狙わんと、三体のゴブリンが駆け出す。手にしたナイフで相手をメッタ刺しにしようともくろむ。

 

「させないッス!」

 

 なずみが腰にぶら下げてあったくないを手で引き抜いて投げ付ける。レジーナに襲いかかろうとした三体の眉間(みけん)、首元、左の脇腹にそれぞれ命中する。

 

「ギャ!」

「グエッ!」

「ウゲェッ!」

 

 くないがブスリと刺さった痛みで、足で踏まれたウシガエルのような絶叫がこだまする。王女を襲おうとした手が止まり、傷口を両手で抑えながら(もだ)える。

 

「師匠にカッコイイ所、見せるッスよ!」

 

 なずみが強い意気込みを口にしながら三体のゴブリンに向かって駆け出す。痛みに気を取られた今が絶好のチャンスと見抜く。背中の帯に()してあった(さや)から短刀を引き抜くと、先頭にいた一体に斬りかかる。

 少女の刀は急所を正確に(とら)えて、ゴブリンの(けい)動脈にザックリと刀傷が付けられた。

 

「ギャアアアアアッ!」

 

 傷口から真っ赤な血を噴いた小鬼が、激痛にもがき苦しみながら息絶えた。

 なずみは残る二体にも襲いかかっていき、同じようにズバズバと切り裂く。彼らも首筋から真っ赤な血を噴いて死ぬ。

 少女の攻撃は(わず)か一瞬の間に行われ、とてもゴブリン(ごと)きに見切れる速さではない。

 (さら)にパワーでは王女に大きく劣る非力さを、敵の急所を正確に射抜く事によってカバーしていた。(すで)に実戦の経験を積んでいるであろう事が(うかが)える。

 

(ほう……三人とも、なかなかやるじゃないか)

 

 少女たちの奮戦ぶりにザガートが思わず舌を巻く。予想以上の戦果を上げた事に素直に感心する。

 

 彼女たちをゴブリンと戦わせる事に内心不安があった。この程度の魔物に苦戦するようなら、過酷な旅に連れて行くべきでは無いかもしれないとも考えた。

 だが期待以上の強さを見せ付けた頼もしさに、抱いた不安が()(ゆう)であったと気付く。この先彼女たちに倒せる程度の敵が現れたら、()えて任せる事によって実戦経験を積ませ、成長を(うなが)させるべきだと思い至るのだった。

 

「ギギギッ……!!」

 

 (またた)く間に六匹の仲間が殺された事に、ゴブリンの群れが浮き足立つ。ゆっくり前進した足を止めて、表情に(おび)えの色が浮かぶ。予想以上の強さを見せ付けた相手に、こんなはずじゃ無かったという気持ちになる。

 

 恐怖に心を支配されて逃げたい衝動に駆られた彼らであったが、後ろを振り返るとワニが大きく口を開けて待ち伏せる。ギロリと鋭い眼光で()(かく)するように彼らを(にら)む。逃げられんぞ……そう言いたげなのが表情だけで伝わる。

 

「ギッ……ギギギギギィィィイイイイイーーーーーーッ!」

 

 戦って勝つ以外に生き延びる方法が無いと悟り、小鬼の群れが大声で叫びながら一斉に駆け出す。ワニに食い殺されるくらいなら敵と戦って死んだ方がマシだと(なか)ばヤケを起こす。

 

「行くッスよ、(あね)さん!」

「ああ、私達の力を見せ付けてやる!」

 

 なずみとレジーナも負けじと敵に向かって走り出す。それぞれ手にした短刀と剣を振り回して、目の前の敵を豆腐のようにズバズバ斬っていく。ゴブリン達は二人の(すき)を狙おうとしたが、絶好のタイミングで襲いかかった瞬間二人の後方から火炎光矢(ファイヤー・アロー)が飛んできて彼らを焼き払う。ルシルが離れた場所から仲間を援護する。

 

 三人の息の合った連携は敵に付け入る隙を与えない。やがて数分と()たない内にゴブリンは一匹残らず倒された。

 

「お行きなさい、ギルザードッ! あの生意気な小娘どもを()み殺すのです!!」

「グアアアアアアッ!」

 

 ケセフが少女達を指差して命じると、男からギルザードという名で呼ばれたイリエワニが、大きく口を開けてドスンドスンと地面を揺らしながら歩き出す。その巨体からは想像も付かないほど俊敏な動きで前へと進んでいく。

 

(……さすがにコイツは三人の手には負えないか)

 

 少女達が(かな)う相手ではないと瞬時に悟り、ザガートがワニの前に立ちはだかる。敵に右手の人差し指を向けて魔法の詠唱を行う。

 

「ゲヘナの火に焼かれて、消し(ずみ)となれッ! 火炎光弾(ファイヤー・ボルト)ッ!!」

 

 魔法名を口にすると、男の指先からメラメラと燃え盛る火球が放たれた。

 火球は敵に触れると火が()いたダイナマイトのように爆発して、一瞬にして魔獣の体が地獄の炎で焼かれる。

 

「グギャアアアアアアアアッ!」

 

 太陽の中心温度に匹敵する超高熱に全身を燃やされたワニが、悲鳴を上げてのたうち回る。痛みから逃れるようにジタバタと激しく暴れたが、十秒と経たないうちに黒焦げの焼死体になる。その死体も完全に炭化しており、カサカサに乾燥した黒い灰のようになって、風に流されてボロボロと散っていく。

 

「さて……ケセフよ。貴様の部下は全滅したぞ。いい加減素直に負けを認めたらどうだ? それともまだ何か手札を隠しているのか」

 

 敵を仕留めたザガートが道化師の方を振り返りながら言う。敵に手の内を(さら)け出させようと、()えて挑発的な物言いをする。

 

「フフフッ……言ったはずですよ。貴方を殺すための手札はちゃんと用意してあると……」

 

 ケセフが意味ありげに(うす)ら笑いを浮かべる。部下を全滅させられても(もの)()じしない。やはりワニとは別の(こま)を用意してあったようだ。

 

「私の取って置きを見せてあげましょう……おいでなさい、我が(しもべ)よッ!!」

 

 合図を送るように指をパチンッと鳴らすと、彼の頭上にある空間に、黒く(よど)んだ雲がモクモクと集まっていき、一つの大きなガス状の塊になる。そこからヌゥッと何かが飛び出してきた。

 

 それは二メートルを()す背丈の、ガリガリに()せ細った老婆だった。肌は(こけ)のように薄汚れた緑色をしており、ボロボロの白い衣服を(まと)う。手には鋭い爪を生やし、髪の毛一本一本が小さい蛇になっていて、生きているようにウネウネ動く。老いた魔女のような鷲鼻(わしばな)と、眼球のない黒い(まぶた)で「ヒヒヒ」と不気味に笑う。

 

 幽霊のように足が無く、背筋を曲げてグワッと開いた両手を正面に突き出したポーズのまま、フワフワと宙に浮く。

 

「アタシハ メデューサ……ケセフ様ノ忠実ナル配下ダヨ。ヒエッヒェッヒェッヒェッ!!」

 

 西洋の童話に出てくる悪しき魔女のようなしゃがれた声で、笑いながら自己紹介するのだった。

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