いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第16話 メデューサの呪い

 ゴブリンの群れはなずみ達によって一掃され、ギルザードという名のイリエワニもザガートに一撃で倒される。

 村まで引き連れた部下を全滅させられたケセフだったが、(もの)()じする様子は無い。指をパチンと鳴らすと、彼の頭上に奇怪な悪魔が姿を現す。

 

「アタシハ メデューサ……ケセフ様ノ忠実ナル配下ダヨ。ヒエッヒェッヒェッヒェッ!!」

 

 その醜悪な魔女のような老婆こそ、ケセフが魔王を倒すために用意した切り札に他ならない。

 

「誰モ、アタシノ(ジュツ)カラハ(ノガ)レラレナイ……アンタ達全員、石ニオナリ! 石化呪縛(ストーン・カーズ)ッ!!」

 

 呪文らしき言葉を発すると、老婆の指先から紫に輝く光線のようなものが放たれて、魔王めがけて飛んでいく。

 ザガートは反射的に身構えたが、光線は彼を避けるようにグニャリと軌道を変えて、彼の背後にいるルシルとなずみへと一直線に向かう。

 

「くっ!」

 

 ルシルは咄嗟(とっさ)に防御の魔法を唱えようとしたが、とても間に合いそうにない。魔法が発動するより光線が届くタイミングの方が明らかに早かった。

 

「危ないッ!!」

 

 レジーナが大声で叫びながら慌てて飛び出す。両腕を左右いっぱいに広げたポーズで二人の前に立ち、自ら盾となって仲間を守ろうとした。

 光線が触れると王女の体がビキビキと音を立てて足の先から石になっていき、(またた)く間に腰まで石化する。

 

「王女様っ!」

(あね)さんっ!」

 

 ルシルとなずみが、すぐさま王女の元へと駆け寄る。自分達を(かば)って敵の呪いを受けた仲間の事が心配で、()ても立ってもいられない。

 

「ルシル……なずみ……二人が無事で……良かっ……た……」

 

 自分を悲しそうな目で見る二人を元気付けようと、レジーナが優しく微笑みかけた。胸の内に湧き上がった恐怖心を一切表に出さず、頭のてっぺんまで石になり、そのまま動かなくなる。

 

 ……完全に石へと変えられた王女の表情は、仲間を守れた満足感に(あふ)れていた。

 

「王女様……」

「姐さん……うっうっ」

 

 ルシルとなずみが王女の像にすがり付いたまま悲嘆に()れる。目から大粒の涙がボロボロと溢れ出し、声に出してすすり泣く。

 仲間に余計な心配させまいと気丈に振る舞う王女の気遣いに感激する思いと、他人に守られてばかりいる自分を情けなく感じる(いら)()ちとが複雑に入り混じって、何とも言えない気持ちになる。私はなんて不甲斐ないんだ、と自分を責める感情で胸が張り裂けそうになる。

 

「ヒヒヒッ……ヒエッヒェッヒェッヒェッ! 仲間ヲ守ッテ自分ガ石ニナルトハ、ツクヅク馬鹿ナ女ダヨッ! ドウセミンナ石ニナルンダカラ、何ノ意味モ無イッテ言ウノニネ!! ヒェッヒェッヒェッヒェッヒェッ!!」

 

 無力感に(さいな)まれて泣き続ける二人を、メデューサが腹の底から愉快そうに笑う。王女の自己犠牲を馬鹿げた愚行だと(あざ)笑い、少女達の心に(さら)なる追い打ちを掛けて、失意の奈落へと突き落とそうともくろむ。

 

「……不愉快だな」

 

 ザガートが小声でボソッと(つぶや)く。

 感情を押し殺して放たれた言葉は、しかしながら低音でドスが利いており、憤激を抱いている事が(はた)から見ても分かる。

 

「俺を狙うなら、まだ良い……どんな攻撃だって受けてやるし、恨み(ごと)も吐くまい。だが直接俺を狙うのでなく、俺の仲間に手を出すやり口、決して許せるものではない……」

 

 淡々とした口調で、敵の卑劣さに対する怒りを(にじ)ませた。

 彼からすれば、メデューサのやった事は何の戦略的価値も無い、ただの嫌がらせに過ぎない。弱い者を真っ先に狙うのは戦いの定石ではあったが、必殺の一撃が通用する前提なら、一番強い者を先に仕留める方が効果的だ。

 

 にも関わらず、この悪魔のように醜悪な老婆は、ザガートを不快な気分にさせる(ため)に、たったそれだけのために彼の大切な仲間を狙った。その陰湿なやり方に、大事に育てた花を踏み(にじ)られた気がして、男は心底胸糞が悪くなる。

 

「メデューサ……俺の仲間を傷付けた罪、貴様の命で(あがな)ってもらうッ!!」

 

 悪事を行った代償として、敵の命を全力で奪う事を宣言するのだった。

 

「ヒエッヒェッヒェッヒェッ! イクラ怒ッタッテ無駄ダヨ! ドウセアンタニ、アタシノ(ジュツ)ヲ破レハシナインダカラネッ!!」

 

 ドスの利いた声で凄まれても、メデューサは一切(もの)()じしない。完全に勝利を確信して相手を()めた態度を取る。自分が負けるかもしれないなどとは()(じん)も考えない。

 

「サァ、仲間ヲ守レナイ悔シサデ()(ギシ)リシナガラ、アノ世ヘオ()キッ! 石化呪縛(ストーン・カーズ)ッ!!」

 

 またも老婆の指先から相手を石にする光線が放たれる。今度は仲間を狙ったりせず、一直線に魔王めがけて飛んでいく。

 ザガートは防御の構えを一切取らず、腕組みしながら(えら)そうにふんぞり返ったまま仁王立ちする。やれるものならやってみろと言わんばかりの余裕に満ちた表情で(のぞ)む。何か考えがあるのかは分からない。

 

 何の抵抗もしないまま石化の術が命中し、勝敗は決したかに思われた。だが……。

 

「……!?」

 

 次の瞬間目にした光景に、メデューサがあんぐりと口を開けた。

 光線が触れたにも関わらず、石化の呪いが発動しない。まるで何事も無かったかのように男の体はピンピンしている。

 

「ソ……ソンナ馬鹿ナッ! ドウシテ……ドウシテ、アタシノ術ガ効カナインダイ!? アンタハ間違イナク石ニナル(ハズ)ダッテイウノニッ!!」

 

 渾身の一撃が通用しなかった事に、老婆が(にわ)かに慌てふためく。錯乱したように頭の蛇を両手で()(むし)りながら、声に出して狼狽(ろうばい)する。

 それは彼女にとって決してあってはならない事だった。男は防御結界を張り(めぐ)らせた形跡すら無く、老婆の技を無傷で耐え(しの)いだ。その事実が到底受け入れられず、正気を失いかけた。

 

「フンッ……馬鹿め、知らなかったのか? 対象を石化や即死させるタイプの術は、相手の魔力が術者より上だと効きが弱くなる……倍以上の開きがあった場合は絶対に効かなくなる」

 

 困惑する老婆をザガートが鼻で笑う。最初からこうなる事が分かっていたらしく、無知を(さら)け出した敵に侮蔑する眼差しを向けた。

 

「メデューサよ……俺を必中で石化させる(ため)には、貴様の魔力が今の一万倍は必要になるのだ」

 

 両者の実力差に圧倒的な開きがあり、それが埋まらない限り呪いを発動させられない事を教える。

 

(いいい、一万倍だとぉ!? アザトホース様ですら、そこまであるかどうか分からんぞッ! それが事実だとするなら、魔王ザガート……なんて恐ろしい力の持ち主だッ!!)

 

 魔王の言葉を聞いて、ケセフが恐怖で体を震え上がらせた。相手の底知れぬ力の強大さに心底ゾッとさせられた。彼が嘘を言っているように思えないから尚更(なおさら)だ。

 

「キィイイーーーーーーッ! ソンナハズハ無イッ! ソンナハズ無インダヨッ! アタシハ、アンタノ言ウ事ナンテ、絶対信ジナインダカラネッ! コレハ、タダノマグレダッ! 何カノ間違イナンダヨッ! チクショウ!!」

 

 ケセフとは対照的に、メデューサが耳(ざわ)りな金切り声で叫ぶ。残酷な事実を突き付けられても(かたく)なに受け入れようとせず、ヒステリックに(わめ)き散らす。口から大量の(つば)が飛ぶ。

 現実から目を()らす事で、まだ自分に勝機が残っていると思い込む。

 

「一発()カナカッタカラッテ、良イ気ニナルンジャナイヨッ! 効カナイナラ、効クマデ何度ダッテ掛ケテヤルッ! 喰ライナッ! 石化呪縛(ストーン・カーズ)ッ!!」

 

 (なか)ばヤケクソ気味になりながら、石化の魔法を唱える。老婆の指先から紫に輝く光線が放たれて、魔王へと進んでいく。

 

(なんじ)より放たれし力、(じゅ)()となりて汝へと(かえ)らん……魔法反射(スペル・バウンド)ッ!!」

 

 ザガートが両手で(いん)を結んで魔法の言葉を唱える。術の効果が発動すると、男の正面に半透明に青く光るカーテンのようなバリアが出現する。

 紫の光線はバリアに触れると飛んできた方向へとそのまま跳ね返されて、術者である老婆へと命中する。

 

「ギャアアアアアアッ! ソンナ……馬鹿……ナ……」

 

 石化の呪いを反射されたメデューサが大きな悲鳴を上げる。体が下半身からビキビキと音を立てて石になっていき、十秒と()たないうちに物言わぬ石像と化す。自力で石化を解除する気配は()(じん)も無く、口惜しげな表情を浮かべたまま沈黙する。

 

「自分が石にされるのはどんな気分だ? ……と言っても、もう聞こえはしないのだろうが」

 

 ゴロンと落下して地面に転がったメデューサの像を、ザガートが足で踏み付ける。その醜悪さに相応しい末路を迎えた老婆を心から見下す。

 

「……うっ! はぁはぁ」

 

 老婆が石にされた事により術が解けたのか、レジーナが元の姿に戻る。水面から顔を出したように激しく息をすると、状況を確かめようとキョロキョロ周囲を見回す。

 

「王女様っ!」

(あね)さぁぁぁああああんっ! 元に戻れて良かったッスよぉぉぉおおおっ!!」

 

 ルシルとなずみが名を呼びながら王女に抱き着く。仲間の石化が解けた事に深く感激の涙を流しながらベタベタ寄り()う。王女は一瞬二人の反応に戸惑ったものの、彼女達の心情を察して(こころよ)く受け入れた。

 

(良かったな……三人とも)

 

 ザガートはそんな彼女達を遠くから眺めながら、愛する娘を見守る父親のように穏やかな笑みを浮かべた。

 

「ひぃぃぃぃ! メデューサが……メデューサがやられたぁっ!!」

 

 奥の手が倒された事にケセフが深くうろたえる。声は裏返り、鼻水がだだ漏れて、親に(しか)られた子供のような泣きべそを()く。足腰がガタガタ震えて地べたに尻餅(しりもち)をつく。

 手札を全て失って戦意を喪失し、慌ててその場から走り去ろうとした。

 

「逃がさんッ!!」

 

 ザガートがメデューサの像を軽々と両手で持ち上げて、ヒョイッと投げる。像はゴォォーーッと風を切る音を鳴らしながら、ケセフの頭上めがけて飛んでいく。

 

「グエッ!」

 

 小男は飛んできた像を避け切れず、下敷きになって動けなくなる。足で踏まれたカエルのような声が口から出る。必死にその場から抜け出そうと手足をバタつかせたものの、像はかなりの重量らしく微動だにしない。やがて抵抗を諦めたようにグッタリして大人しくなる。

 

 像に押し(つぶ)されたまま動かないケセフの元へズカズカと歩いていくザガートだったが……。

 

「……何ッ!?」

 

 目の前に立った瞬間、驚くべき光景を見る。

 ケセフの体が(まばゆ)い光を放ったと思ったら、全く別の魔物へと姿が変わっていくではないか。

 それはゴブリンを全裸にして背中にコウモリの羽を生やし、耳を大きくしたような醜悪な小悪魔だった。肌は暗めの紫色に染まり、舌が蛇のように長い。

 

「ケケケッ……俺様ハ、グレムリン……タダノ小悪党サ。本物ノケセフ様デハナイ。ケセフ様ニ命ジラレルガママ、アノオ方ノ振リヲシテ、村ヲ襲ッタダケダ……」

 

 小悪魔が自らの正体を明かす。ケセフの命令通りに動いただけの下っ端に過ぎない事を教える。

 

(しまった……まんまと一杯喰わされたッ! 魔族が人間に化けた事までは見抜けても、魔族が別の魔族に化けるなどとは予想も付かなかった! ()(かつ)にも(ほど)があるッ!!)

 

 ザガートが敵の変装を見抜けなかった自分の失態を嘆く。右手で顔を覆って困り果てた表情を浮かべながら、ガクッと(ひざ)を曲げてうなだれた。心底してやられたという気持ちになり、自らの浅はかさを深く呪う。

 

「俺ノ使命ハ、オ前達ノ注意ヲ引キ付ケル事……オ前達ノ討伐ニ成功シヨウガ、シマイガ関係ナイ。今頃トックニ本物ノケセフ様ガ本隊ヲ(ヒキ)イテ、ヒルデブルク城ヲ襲撃シテイル頃ダロウ」

 

 自分が(おとり)に過ぎない事、(すで)に別働隊が城に向かっている事実をグレムリンが口にする。()えて教える辺りからは、もう間に合わないだろうという余裕が浮かぶ。

 

「オ前達ガ、ココデチンタラ遊ンデイル間ニ、城ハ我ラノモノダ。ゲハハハハハハッ……ガハァッ!!」

 

 一行を小馬鹿にして(あざ)笑うと、血を吐いて力尽きたように息絶えた。

 

「何という事だ……一刻も早く城に戻らなければッ!!」

 

 敵の計画を知らされて、ザガートが(にわ)かに焦りだす。

 何としても魔族に城を落とさせる訳には行かない……そう決意を胸に抱くのだった。

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