いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
ザガートがムーア村で戦っている
彼らの前に姿を見せたのは、白ウサギの姿をした猛獣……ボーパルバニーという名で知られた恐ろしい怪物だった。見た目で油断した兵士をたやすく一撃死させる。
ミノタウロスは兵士を城内に下がらせると、ウサギとの戦いを一手に引き受ける。熟練の暗殺者の
敵の集団を全滅させても、勝利の余韻に浸る
それこそ本物のケセフが岩の巨人を引き連れた姿に他ならない。
「この私自ら、城を攻め落としに参りましたよ……アダマン・ゴーレムを連れてねッ!!」
ケセフが自信に満ちた表情で巨人の名を口にする。
(アダマン・ゴーレムだと!? 宇宙最硬鉱物アダマンタイトを素材にしたゴーレムという事か。恐らく俺が
敵の材質を知らされて、ミノタウロスが自身の手に負える相手ではないと冷静に戦力を分析する。それでも
「お前達をここから先には一歩たりとも進ませんッ! うおおおおおおっ!!」
勇ましい言葉を吐くと、両手で握った大斧を高く振り上げたまま突進する。近接戦の間合いに入ると、敵の腹めがけて一直線に振り下ろす。
斧の刃がゴーレムの腹に触れた瞬間、ギィィィインッ! とけたたましい金属音が鳴る。牛男の両腕に電流のような衝撃が走り、斧の
(グッ……なんて硬さだ!!)
想定を上回る相手の強度に牛男が驚愕する。殴り付けた反動で両腕がビリビリ
「ならば、今度は力で勝負ッ!!」
それでも男は一切
だが男がいくら力を振り絞っても巨人はビクともしない。男が必死に「ンオオオッ……」と
「グモモモモッ……」
ゴーレムが突如奇声を発しながら前に歩き出す。一気にドカドカ前進するのではなく、体の重さによるものか、映像をスロー再生するようにゆっくり体を動かす。
牛男は彼の進軍を止められず、地に足をついて両手で組み付いたままズルズルと後ろに押されていく。さながら大人の力士に力負けした子供のようだ。
(クッ、力勝負でも駄目か……だったら!!)
このままでは
「うおおおおおおおおーーーーーーーーっっ!!」
天にも届かんばかりの大きな声で叫ぶと、大地を強く蹴って駆け出す。敵の前に立つと、両拳を駆使した高速のラッシュを放つ。機関砲のように繰り出されたパンチの連撃が、ゴーレムの腹にドガガガガッと音を立てて命中する。
いくら殴られても巨人の体は一ミリも後ろに下がりすらせず、腹には全く傷が付かない。それでも男はいつか手傷を負わせられるはずと信じて、ひたすら殴り続けた。
その光景が、およそ五分ほど続いた――――。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
牛男が激しく息を切らす。敵を殴る手が止まり、ガクッと
敵を殴り続けた拳は相手の強度に打ち負けて血だらけになる。
当のゴーレムは
レッサーデーモンなら間違いなくバラバラに吹き飛んだ威力の乱打を受けたにも関わらず、全く被害を受けていない。その硬さは
「……グフフフフッ」
体力が底を尽きたミノタウロスをゴーレムが
「フンヌッ!」
「ぐああああああああっ!!」
腹を強く蹴られた牛男が悲鳴を上げながら吹き飛ばされて、ゴロゴロと地面を転がる。蹴られた腹を
内蔵が砕けて骨が折れたのか、すぐには起き上がれず、ウウッと
ゴーレムは倒れたミノタウロスに向かってゆっくり歩いていき、動けない彼を勝ち誇ったように見下ろす。殺そうと思えばいつでも殺せるぞという、強者の余裕が伝わる。
「ホッホッホッ……さっきとは完全に立場が逆転したようですねぇ。ミノタウロスさん」
戦いを眺めていたケセフが、劣勢に立たされた牛男を見てニヤニヤする。とても嬉しそうに口元を
「ミノタウロスさん……貴方が以前と別人格である事は理解しましょう。ですがやはり、大魔王様を裏切った行いは到底許されるものではありません。その
元同僚に対して、主君を裏切った罪を
「さあゴーレム! その男を踏み
男を指差して部下に処刑を命じる。
「フンガァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」
ケセフの命を受けて、ゴーレムが任せてくれと言わんばかりに大きな声で叫ぶ。右足を高く上げて、ミノタウロスめがけて一気に下ろそうとする。
彼の体重から考えれば、足で踏み潰されたら牛男が絶命する事は目に見えている。
(ウウッ……俺はここで死ぬのか!? 与えられた使命も果たせぬとは、何と不甲斐ない! 主君の顔に泥を塗るに等しい所業ッ!!)
ミノタウロスが自身の非力さを嘆く。あまりの情けなさに涙が出そうになる。それでも何の手立ても思い付かず、ただ
(我が
主君に謝る言葉が頭をよぎった時……。
それは
黒い大きな
「グオオオオオオオオッ!!」
直後岩の巨人が奇声を発しながら弾き飛ばされる。強い衝撃で地面に全身を打ち付けて、ドガガガガッと大地の土を豪快に
「なっ……何だぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーっっ!!」
ケセフが
「なっ、何だこれは! 何が起こった!? これは一体どういう事なんだッ!!」
声に出してうろたえながら、両手で頭を
とても正気ではいられなかった。アダマン・ゴーレムの重さは
ケセフが
「ケセフよ……今度こそ本当に久しぶりだな。俺が
ローブを羽織った男が後ろを振り返りながら道化師に言い放つ。
「きっ、貴様はザガート……異世界の魔王ッ!!」
目の前に現れた男の姿を見て、ケセフが驚きながら名を口にする。
とても信じられるものではなかった。城から村まで
だが不可能だと確信した『それ』を、男は平然とやってのけた。その事実が到底受け入れられず、ケセフは頭がおかしくなりかけた。
「ザガート様ぁーーーーーーっ!」
「ミノタウロス、無事かッ!」
「師匠、待って下さいッス!!」
道化師が困惑していると、魔王が飛んできた方角から三人の少女が遅れて駆け付ける。方法は分からないが、彼女達もこの場へと来ていた。
ルシルは負傷したミノタウロスの元へと駆け寄り、回復魔法で傷を
「おおザガート様……我が魔王ッ! よくぞ……よくぞお戻りになられた!!」
傷を癒されながら牛男が感激の言葉を漏らす。絶体絶命の危機に駆け付けた主君の頼もしさに胸を打たれて思わず泣きそうになる。
「ミノタウロス……俺が戻るまでよく持ち
ザガートが
「ああ……
優しく声をかけられて、ミノタウロスが感動のあまりむせび泣く。目から大粒の涙が
新しい魂を吹き込まれた今の彼にとって、ザガートは生みの親に等しい。だがその事実が無かったとしても、アザトホースと比較して、魔王こそ忠義を尽くすに
彼らがそうしたやりとりをしていると、
「ザガート……貴様どうやってここへ戻ってきた!!」
城へ帰還した方法を慌てて問い
「どうやって来ただと? 簡単な事だ……
男の質問に魔王が答える。さも当然だと言いたげに腕組みしながらフフンッと鼻息を吹かせて、誇らしげなドヤ顔になる。
(転移の呪文だと!? そんな馬鹿げた話があるかッ! あれは
魔王の返答を聞いて、ケセフは視界が真っ暗になる。あっさり不可能を可能にしてみせた男のデタラメぶりに
「……ズモモモモッ」
道化師が立ちくらみを起こした時、魔王に蹴られて地面に倒れていたゴーレムが動き出す。体が大地に埋まって動けずにいた彼であったが、
二本の足でしっかり大地に立つと、視界の先にいる魔王を目指してゆっくりと歩き出す。
「ほう……アダマン・ゴーレムか」
向かってくる巨人を目にして、ザガートが思わず感心したように
「ホッ……ホワッハハハハッ! そうですッ! 宇宙で一番硬い物質アダマンタイトで作られたゴーレム……それがこのアダマン・ゴーレム! 万一貴方が戻ってきた時の
ケセフが
「こいつに攻撃の呪文は一切効きませんッ! バハムートを仕留めた細胞を爆裂する呪文も、恐らく効かないでしょう! そしてミノタウロスを上回るパワーと強度の持ち主ッ!!」
巨人がどれだけ強いのかを流暢に語る。魔王の攻撃が通用しない事に絶対の自信を抱き、嬉しさのあまりウキウキが止まらなくなる。
「魔王ザガートッ! 貴方にこいつを倒す手段など、一つも存在しないのです! つまり貴方の敗北は約束されたも同然ッ! 無駄な抵抗を諦めて、魔王軍に逆らった事を後悔しながら死んでいきなさい! ウッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!」
死を宣告する言葉を発すると、顔を
「ならば……試してみるか?」
道化師の話を聞いて、ザガートがニヤリとほくそ笑む。巨人の強さを知らされても恐れを抱く様子は全く無く、それどころか男を
両者が言葉を
ザガートは右拳をググッと握り締めて力を
「フンッ!」
男の拳が触れた瞬間、ドォォォーーーーンッ! と大陸中に響かんばかりの爆発音が鳴る。そこから発せられた衝撃波が周囲へと伝わり、大地が激しく揺れて空気がビリビリと振動する。異変を察知したカラスの群れがギャーギャーと鳴きながら空の彼方に逃げる。
殴った魔王も、殴られたゴーレムも微動だにしない。映像を止めたように、拳が当たった時の体勢のまま静止する。戦いを見ていた仲間達も無言のままそれを見守る。緊張感が胸に湧き上がり、ゴクリと
場に
そのまま数秒間が過ぎ去ったかに思われたが――――。
「グオオオオオオオオッ!!」
ゴーレムが突如悲鳴を上げて苦しみ出す。数メートル後ろへと下がると、両手で
次の瞬間、殴られた箇所からビシビシと亀裂が入りだす。亀裂は
無敵であったはずの巨人は、ただの物言わぬ
「ひぃぃぃぃ! なんて事だッ! いくら魔王が肉体強化の術を使ったとはいえ、宇宙で一番硬いゴーレムを素手で破壊するとはッ!!」
頼みの
「フンッ……何を勘違いしている? 俺は魔法で肉体強化なんかしちゃいない。素の腕力で、思いっきりぶん殴った……たったそれだけだ」
慌てる道化師をザガートが鼻で笑う。手に付いた
ザガートは
ケセフも、そして魔王の仲間達も、彼が魔術に特化した人物だと思い込んだ。彼が強大な魔力の持ち主であった事、これまで多くの敵を魔術で
それがとんだ思い違いだったと知らされて、ケセフは頭を抱え込んだ。
もはや魔王に弱点など無いのか……そんな言葉が胸をよぎり、目の前が真っ暗になる。