いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
「さて、ケセフよ……お前の部下は全員死んだぞ。これからどうするつもりだ? またバハムートが死んだ時のように逃げる気か? それとも
どのみち卑屈で嫌味ったらしい性格の小男など、配下にした所で満足行く働きをするとも思えなかった。
下を向いたまま、相手の
「……クソが」
ボソッと小声で
ストレスではらわたが煮えくり返りそうになり、全身の血から炎が噴き出そうなほど熱くなる。
「よくも……よくもやってくれたなぁッ! 一度ならず二度までも俺様をコケにしやがってぇ! 許さん……絶対に許さねえぞッ! ズタズタに引き裂いて、なぶり殺しにしてやるッ! この魔王ヅラした、スカしたヤリチンのクソ野郎がぁぁぁぁぁあぼびゃろれらぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーッッ!!」
胸の内に湧き上がった怒りを声に出してブチ
これまでの敬語をあさっての方向にぶん投げて、汚らしいチンピラ口調になる。
「俺様の本気を見せてやるッ!」
そう叫ぶや
「グオオオオオオッ……!!」
それから数秒が経過すると、ケセフが声に出して苦しみ出す。突如その場にうずくまると、彼の体がドクンドクンと激しく脈打った後、全身の筋肉がムキムキに
背丈が三メートルほどに達すると肉体の変化が止まる。それに
全身は
「これが俺様が本気を出した姿……魔王軍十二将の一人、ウェアウルフッ!!」
獣人の姿に化けたケセフが自己紹介する。怪物になっても理性は失われておらず、流暢な言葉を話す。
「この姿にだけはなりたくなかった……これに変身するたび、俺の寿命は大きく縮まる。何より直接戦うなんて俺の主義に反する。だが
変身にはリスクが
「俺の動き、貴様には到底見切れまいッ!」
自信に満ちた
「ザガート様ッ!」
心配でたまらなくなり、ルシルが思わず名を叫ぶ。
狼男の走るスピードは常人には
レジーナもなずみも、心配そうになりながら戦いを見守る。
当のザガートは相手のスピードに動揺せず、好きなようにさせる。表情に焦りの色は
全く敵を恐れていないようにも、抵抗を諦めたようにも受け取れる。
ケセフはそんな魔王の姿を見て、彼が観念したと思い込む。
左側面に回り込むと、相手に向かって一直線に駆け出す。
「さらばザガートッ! 不敗の伝説と共に散れぇぇぇぇぇぇええええええええーーーーーーッッ!!」
死を宣告する言葉を発すると、鋭い爪による貫手を放って敵を
だが狼男の手が触れる直前、魔王の姿がフッとワープしたように消える。
「ど……何処だ!?」
ケセフが慌てて周囲を見回す。敵を見失った事に
「……ここだ」
そんな言葉が彼の背後から発せられた。狼男が急いで後ろを振り返ると、腰に手を当てて仁王立ちしたザガートが、目の前にデデーーンッと立つ。表情は余裕に満ちたドヤ顔を浮かべており、誇らしげに鼻息を吹かす。
殺そうと思えばいつでも殺せたが、あえてそれをしなかった……そんな感情が伝わる。
「クソッ! い……今のはまぐれだ! そうに決まっているッ!!」
ケセフが悔し
狼男への変身は彼にとって渾身の切り札だ。それが通用しないとなれば、後は殺されるしか道が無くなる。到底受け入れられるものではない。
ケセフは再度魔王から距離を取り、彼の周囲を走り回る。本気の力で走る事によって、さっきの倍の速さになる。これなら避けられないだろうという勝利への確信を胸に抱く。
背後に回り込んで一旦足を止めると、魔王めがけて全速力で駆け出す。
「俺様の力、目に焼き付けて死ねぇぇぇぇぇぇええええええええーーーーーーッッ!!」
大声で叫びながら貫手による突きを繰り出し、男の心臓を貫こうと
だがザガートは後ろを振り返りすらせず、サッと右に動いて相手の一撃を難なくかわす。その場で時計回りにクルッと回転して、全力の回し蹴りを放つ。
「バッ……ドブゥルァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーッッ!!」
頭を強く蹴られた狼男が、
「ハァ……ハァ……ハァ……」
後ろを振り返りながら激しく息を切らす。体中にびっしりと汗が浮かんで、手足がガクガク震えだす。表情は疲労の色に染まり、老人のように背筋が曲がった
「今のがお前の本気か? だとしたら、期待外れも良い所だな……」
疲労
ここに至って、両者の力の差がはっきり別れる事となる。もはや狼男には一ミリの勝機もありはしなかった。
「ハァ……ハァ……クソッ、何故だ! 何故俺の攻撃が当たらない! 貴様に俺の動きは見切れない
ケセフが思わず声に出して問いかける。二度も攻撃をかわされた事にどうしても納得行かず、質問せずにいられない。
「フゥーーッ……」
ザガートがやれやれと言いたげにため息をつく。いつまでも負けを認めない男の見苦しさに心底
「あの程度の速さに付いて来られないと、本気で思ったのか? 俺がその気になれば、今の貴様より十倍は速く動けるぞ」
自分が音速を
彼の発言がでまかせでない事は、これまでの状況を
(クソッ! ダメだ……
圧倒的な力の差を思い知らされて、ケセフが深く落胆する。逃れられぬ死という現実を突き付けられて、恐怖と絶望で頭がおかしくなりかけた。口の中が急に酸っぱくなり、脳の血管がキューッと締め付けられた感覚を覚える。心臓をワシ
(どうすれば……どうすればいい! どうすれば俺は生き残れる!? 何でも良い……俺が生きて帰れる方法を考えるんだッ!!)
狼男の脳細胞がフル稼働する。この場を
精神的に追い詰められて冷静さを失いかけたケセフであったが、ふと周囲を見回すと、ルシル達三人の少女が視界に入る。
(……どんな手を使ってでも)
そんな言葉が頭をよぎり、ニヤァッと口元を
次の瞬間狼男が全速力で駆け出し、三人の背後に回り込む。少女のうち一人を捕まえると、再び全力でダッシュしてザガートの前に立つ。
狼男はなずみを捕まえて盾にすると、首筋に
「ザガートッ! この女の命が惜し……」
そう言いかけた瞬間、ケセフの意識が途絶えた――――。
「……あ?」
どれくらい時間が経過したか、男が目を覚ます。一瞬何が起こったか、全く理解できない。
視界が横に九十度回転しており、顔が地べたに倒れている。体を動かそうとしても全く反応が無い。首から急激に力が失われていき、脳が冷える感覚を覚える。首から下に、ある
視界の先に、首から上が無い自分が立っている。首の切断面から大量の血を噴きながら、糸が切れた人形のように倒れる。そこから少し離れた場所にザガートとなずみがいる。魔王の右手にはケセフのものと思しき血が付着する。
「人質の作戦など通用せん。俺の仲間を人質に取ろうとしたヤツは、その瞬間に首が胴体から離れている……」
魔王は冷たく言い放つと、右手を水平にサッと振って、付着した血を払いのける。服のポケットからハンカチを取り出して目障りそうに手を
狼男は自分が置かれた状況をようやく理解する。少女を人質に取ろうとした瞬間、魔王に手刀で首を
「あ……あ……」
首だけになったケセフが、何か言おうとして口をパクパクさせた。死にたくないという叫びか、魔王への命乞いかは分からない。だが思うように舌が回らず、あうあうと言葉にならない声しか出ない。そうこうしている間にもどんどん血が抜けていき、次第に意識が薄れてゆく。
ザガートがケセフに向かってズカズカと歩く。地べたに転がった狼男の生首に片足をガッと乗せる。このまま待っていても失血死する相手に、あえて
「これでお前のブサイクな
ここぞとばかりに侮蔑的な言葉を浴びせる。人質を取られた事に相当イラついたのか、ゴミを見るような視線を送る。
「二度と……俺の前に姿を見せるな」
そう言うや
ケセフは潰れたトマトのようになり、断末魔の悲鳴を発する間もなく息絶えた。相手が魔王でなければ数々の手柄を上げたはずの男の、それはあまりに
敵を仕留めると、ザガートは再びなずみの方へと歩く。ポケットから別のハンカチを取り出すと、少女に付いたケセフの返り血を丁寧に
「師匠……オイラ……」
魔王に顔を拭かれながら、なずみが暗い表情をする。下を向いたまま落ち込んだように肩を落とす。
うまく言葉が出なかったものの、人質に取られた事に、味方の足を引っ張ったのではないかと負い目を感じた様子だ。
「気にするな……お前は何の失態も犯してなどいない。あの状況では、誰が人質に取られてもおかしくなかった。三人の中で、たまたま選ばれたのがお前だった……たったそれだけの事だ」
少女の心情を察して、ザガートが優しく言葉を掛ける。冷静に状況を分析し、彼女が責任を感じる気持ちを少しでも和らげようとした。
二人がそうしたやりとりをしていると、何も無い空に魔力と思しき光が集まっていき、野球ボールくらいの大きさの、ガラスのような半透明の球体になる。
青い光を放ちながらゆっくりと落下する『それ』をザガートが両手で受け止めると、
(これが大魔王の城に行く
ケセフの死によって現れた宝玉が旅の目的に必要な道具だと気付いて、魔王がサッと
「おーーーーーーいっ!」
魔族の大群が全滅したと確信して、それまで固く閉ざされていた城門が開け放たれる。そこから総勢一万の兵士が一気に駆け出し、ザガート達へと集まる。
「ザガート様、再びこの国を守って頂いた事に深く感謝します!」
「国王陛下も喜んでおられました!」
「ミノタウロス様も、よくぞご無事でっ!」
「姫様も元気そうで何よりですっ!」
「魔王軍の幹部ケセフは死んだッ! これでこの国の平和が
「だが、ハンスが……」
一人の兵士が落ち込んだ様子で、城門の方を振り返る。視線の先に首を切られた男の死体が転がる。ボーパルバニーによる犠牲者が出た事を悔やむ。
「ハンスが死んだか……だが案ずる事は無い。俺がすぐに生き返らせる」
兵士の死体を見たザガートが心配する必要は無い
「我、魔王の名において命じるッ!
蘇生の呪文を唱えると天から
「おお、生き返った……俺、生き返ったぞぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーーッッ!! ヒャッホーーーーーーーーイ!!」
ハンスが、辺り一帯に響かんばかりの大きな声で叫ぶ。大の大人が子供のようにピョンピョン飛び跳ねてはしゃぐ。自分が生き返った嬉しさのあまり、
「うおおおお! ハンスが生き返ったぞおおおお!」
「ハンスッ! ハンスッ!」
「心配させやがって、コノヤロウ!」
数人の兵士が大騒ぎしながら彼の元へと集まる。一斉に男を取り囲んでもみくちゃにしたり、何度も名前を呼んだり、強く抱き合って泣いたりする。
「みんな……俺、この戦いが終わったら結婚して店をやろうと思うんだ」
「それは死ぬ前に言う
そんな会話が繰り広げられて、楽しそうに談笑する。戦友が死の
(良かったな……ハンス)
ザガートが心の中で
その場にいた兵士の何人かは、仲間が生き返った感謝の証として魔王に敬礼していた。
「……」
場がお祝いムード一色に染まる中、なずみだけが浮かない顔をする。
それに気付けたのはザガートただ一人だった。