いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
ケセフを倒した翌日……ムーア村から南西に数キロ離れた場所。
高さ十メートル以上はある断崖絶壁の根元に、人が通れる大きさの洞窟がポッカリ口を開ける。洞窟の前に一人の男と三人の少女が立つ。
「ここがケセフが根城にしていた洞窟か……」
ザガートが興味深そうに言いながら、迷宮の入口をしげしげと眺める。
そこは魔王が村長の家を訪れた時、冒険者の
「初めての迷宮攻略か……ワクワクするなッ!」
レジーナが未踏の秘境を前にしてテンションが上がる。どんな大冒険が待ち受けるのだろうと想像して胸を高鳴らせた。一刻も早く迷宮に入りたくてウズウズする。
「オイラの手に掛かれば、罠の発見なんてお手の物ッス!」
なずみが自分に任せろとばかりに江戸っ子のような腕まくりの仕草をする。迷宮攻略に必要な忍者の技を見せ付けられると、誇らしげに胸を張る。
これでようやく師匠の役に立てる……そんな思いが頭をよぎる。
「水を差すようで悪いが……二人が迷宮に行く必要は無い」
意気揚々と洞窟に乗り込む気でいた少女達に、ザガートがそっけない口調で言う。
予想外の魔王の言葉に王女はその場でズッコケて、なずみは悲しそうな顔をする。二人とも
「な……行く必要が無いとは、どういう事だッ!!」
レジーナが思わず声を荒らげて問い
「
ザガートが腕組みしながら得意げなドヤ顔で言う。ケセフ亡き今、わざわざ足を運ぶ必要は無いと伝える。
「何を言っている? 部下なんて何処にもいな……」
レジーナがそう言いかけた時、何処からかガラガラと大きな物音がある。
音の聞こえた方角に一行が振り返ると、一台の荷馬車が彼らの方へとやってくる。洞窟の前まで来て止まると、運転席にいた一人の男が馬車から降りる。
男は三十代から四十代くらいに見える小太りの大柄で、頭にターバンと呼ばれる布を巻く。褐色肌をしていて口周りに
ザガートが元いた世界で言う所の、『アラブの商人』と呼べる風貌をしていた。
「ザガート様、このお方は?」
初対面の人物を目にして、ルシルが素性を問う。
「彼はモハメド・ウル・ハッサン。金で雇われて遠くに荷物を運ぶ商人だ。今回彼に仕事を頼む事になった」
魔王が男の素性を教える。口ぶりから察するに、何らかの取引を行ったようだ。
「このたび私どもに仕事を任せて頂き、光栄の至りにございます。ぜひ今後ともご
男は腰の低い言葉で
ハッサンが手にしていたのは、砂のようなものがぎっしり詰まった袋だった。それを洞窟の真ん前にドサドサと二十袋ほど積み上げる。
「ご苦労だった……約束の報酬だ」
ザガートは
「報酬の金貨十枚、確かに受け取りました。ではこれにて失礼……また何かあれば私どもに仕事をご依頼下さい。報酬さえ頂ければ、どんな物でもお運びします」
別れの言葉を済ませてペコリと頭を下げると、馬車に乗ってその場から立ち去る。一行は
「さて……と」
商人が去った後、ザガートが洞窟の方へと振り返る。洞窟の前に積み上げられた二十個の大きな袋を、
「お前達、俺から少し離れていろ。今から呪文を唱える」
右手をサッと横に振って指示を出す。魔王の言葉に従い、三人は数メートル後ろへと下がる。
「一度は滅びた肉体よ、新たな魂を得て、我に仕えよ……
両手で
一瞬カッと
「ああっ……!!」
目の前に現れた魔物を見て、ルシルが驚きの言葉を発した。それもその
かつてミノタウロスを生き返らせた呪文で、今度はオークとゴブリンが生き返った。むろん新たな魂を吹き込まれた彼らは、以前のように人を襲う存在ではない。それどころか瞳から邪悪さが消え、キリッとして精悍な顔付きになっている。オークに至っては豚顔のはずなのに、表情のおかげでイケメンに見えてしまうほどだ。
「おお、我らが
群れの先頭にいたリーダー格のオークが、
口調も以前のような
「我が下僕どもよ、
ザガートが正面に手をかざして命令を下す。自分の代わりに迷宮へと足を運び、財宝を取ってくるよう言う。
「はっ! 我が主の
魔物達は一斉に立ち上がり、心臓のある左胸を握り拳でドンッと叩くと、迷宮の中へとゾロゾロ入っていく。
「……」
なずみとレジーナはポカーンと口を開けたまま一連の光景を眺める。あまりに予想外すぎる展開に思考が付いていけなかった。
◇ ◇ ◇
太陽が
一行は何もやる事が無いので、その場で時間を
オーク達が洞窟に入ってから二時間が経過した頃……。
「……彼らが戻ってきたようだ」
ザガートがそう言いながら、洞窟の入口へと目をやる。
直後ザッザッと足音が鳴り、魔物の一団が洞窟から出てくる。彼らは小さな宝箱を一人で運んだり、大きな宝箱を二人で運んだり、両手に
全員が洞窟の外に出ると、手にした宝をドサッと地面に置いて一箇所に集める。
ザガートはそれを鑑定するようにじっくり眺める。何らかの魔法を使ったのか、瞳が青く光り出す。宝に込められた記憶や魔力を読み取っているようだ。
(フーーム……魔力を帯びた品や、優れた武器防具の類は無い。せいぜい店に売り払って金に替える程度の使い道しか無さそうだ)
旅の役に立ちそうな宝が無いと知って、残念そうにため息をつく。
「洞窟の中にあったのは、これで全部か?」
念を押すようにオーク達に問いかけた。
「何かの役に立つかは分かりませんが……こんなものを見つけました」
ゴブリンの一人がそう言いながら前に進み出て、手にした紙切れを渡す。相当の年代物だったのか、文字が色あせていて紙質も古い。
ザガートは受け取った紙切れをバサッと地面に広げて、まじまじと眺める。
「これは……ッ! お前達、これを何処で見つけた!?」
突如顔を上げて興奮気味に問い
紙切れに書かれたのは世界地図だった。だが
「迷宮の一番奥にあるケセフの部屋と思しき
地図を持ってきたゴブリンが答える。古ぼけた紙切れにどのような価値があるか分からない
「これは、大魔王の居城に行くために必要な十二の宝玉……それを持っている幹部の配置場所が書かれたものだッ! この場にいる者では俺にしか読めないであろう古代文字で、幹部間の連絡網が
ザガートはその場にいる全員に見せ付けるように地図を高々と掲げると、それがどれほど重要な書類かを早口で伝える。
「これがあれば、旅の目的を明確に定められる……当てもなくブラブラする必要が無くなる! でかしたぞ、お前達ッ! これこそ今回の探索で見つけた、
地図を手に入れた事に大喜びするあまり、ゴブリンやオークの背中を手でバンバン叩いたり、
「おお、我らにはもったいなきお言葉……ぜひこれからも主君のご期待にそえるよう、尽力する所存にございますッ!!」
魔物の一団が労いの言葉に深く感激する。オークもゴブリンも、
一連のやりとりをじっと眺めていたルシルであったが、オークの一人が腕に軽い傷を負っているのに気付く。よく見てみると、他のオーク達も大なり小なり怪我をしている。ゴブリンは体が小さいためか、あるいは罠を見抜く能力によってか、負傷している者はいない。
「みんな傷だらけで、とっても痛そう……迷宮の探索で怪我をしたの?」
何もせずただ見ているのが辛くなり、心配そうに言葉を掛ける。彼らの近くに寄ると、回復の呪文を唱えて一人ずつ順番に傷を
「おお、ありがたい……そうです。これは迷宮の探索中に付けられた傷です」
傷を癒されたオークが感謝しながら質問に答える。
「我らが入った洞窟は恐ろしい大迷宮でした……魔物こそ一人もいなかったものの、落とし穴、回転床、テレポーター
迷宮が侵入者を待ち構える罠の巣窟だったと告げる。仕掛けられた罠に掛かった事が負傷の原因であった事実を明かす。
魔物がいなかったのは、ムーア村とヒルデブルク城を襲撃するのに全兵力を使い切ったからだと推測できた。
「先に入った冒険者のものでしょう……白骨死体も転がっていました。並みの人間が足を踏み入れたら、死んでいたかもしれません」
先人の犠牲者がいた事を口にして、洞窟が
「そうか……」
オークの話を聞いて、ザガートが
「やはりお前達を洞窟に向かわせなくて正解だった……いくら強くても、俺一人だけで何処までお前達を守り切れるか分からん。ましてや洞窟の
三人を見回すと、彼女達を迷宮へと行かせなかった理由を教える。魔王にとって少女達はかけがえの無い大切な仲間であり、傷付いて欲しくないが
理由を話す魔王の眼差しは、愛する娘を見る父親のように優しく、口調は穏やかだ。彼が仲間の身をどれほど案じているか、痛いほどよく伝わる。
「そ、そうか……それなら仕方ないなッ! 今回はお前の言う事に従ってやる! お前の判断はいつでも正しいと信じているからなッ!!」
レジーナが気恥ずかしそうに顔を赤くしながら言う。家族呼ばわりされた事に照れがあったものの、それを隠そうと必死に強がってみせた。
「ザガート様……」
ルシルがとても嬉しそうに笑う。愛する男が自分達を気遣ってくれた事に、感激のあまり胸の内が熱くなる。
「……」
なずみだけが浮かない顔をする。下を向いたまま落ち込んだように黙り込む。何を考えたのか、表情からは読み取れない。
「それにしても、あれだけ醜悪だったオークが、こんなに真面目になるとは……肉体が同じなだけで、本当に中身は入れ替わってしまったんだなぁ」
レジーナが興味深そうに言いながら、オークの体を手でベタベタ触る。低俗な魔物の代表格だった豚頭の獣人が、紳士的な性格へと生まれ変わった事が不思議に思えてならない。驚いた顔をしながら彼らをまじまじと眺める。
「ええ……以前の我々は、大魔王に邪悪な魂を吹き込まれました。人間を家畜のような存在だと思い込ませて、女性をレイプし、村を
ベタベタ触られたオークが、王女の問いに答える。かつて魔王軍の手先であった頃の心境を素直に打ち明ける。これまで自分が犯してきた罪の重さと向き合い、少し暗い表情になる。
「ですが、我々は変わりました……ザガート様が変わらせてくれたのです。もはや我々の中に悪事を働こうと思う気持ちなど一ミリも無い。これからは女性をレイプするのをやめて、畑を
すぐに顔を上げて青空を眺めると、自分達が
空に昇る太陽の日差しが、罪の告白をしたオークを
「ハハハッ……それじゃまるで、オークはレイプするのが当たり前みたいな口ぶりじゃないか」
レジーナが冗談を口にしながら大きな声で笑う。完全に獣人と打ち解けたようにほっこり笑顔になる。王女の中に彼らを警戒する気持ちなど無い。
彼女に釣られて他の者も笑い出す。オークもゴブリンも、ザガートもルシルも、
「……」
その場にいた中でただ一人、なずみだけが笑っていない。彼女だけがうつむいて思い詰めた表情をする。ザガート以外、彼女の異変に気付けた者はいない。