いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第20話 雑用は部下にやらせればよい

 ケセフを倒した翌日……ムーア村から南西に数キロ離れた場所。

 高さ十メートル以上はある断崖絶壁の根元に、人が通れる大きさの洞窟がポッカリ口を開ける。洞窟の前に一人の男と三人の少女が立つ。

 

「ここがケセフが根城にしていた洞窟か……」

 

 ザガートが興味深そうに言いながら、迷宮の入口をしげしげと眺める。

 

 そこは魔王が村長の家を訪れた時、冒険者の(うわさ)として伝え聞いた場所だ。夜が明けたら行くつもりでいたが、魔族の襲来によって先延ばしにされた。敵を片付けたので、改めて行く事が決まる。

 

「初めての迷宮攻略か……ワクワクするなッ!」

 

 レジーナが未踏の秘境を前にしてテンションが上がる。どんな大冒険が待ち受けるのだろうと想像して胸を高鳴らせた。一刻も早く迷宮に入りたくてウズウズする。

 

「オイラの手に掛かれば、罠の発見なんてお手の物ッス!」

 

 なずみが自分に任せろとばかりに江戸っ子のような腕まくりの仕草をする。迷宮攻略に必要な忍者の技を見せ付けられると、誇らしげに胸を張る。

 これでようやく師匠の役に立てる……そんな思いが頭をよぎる。

 

「水を差すようで悪いが……二人が迷宮に行く必要は無い」

 

 意気揚々と洞窟に乗り込む気でいた少女達に、ザガートがそっけない口調で言う。

 予想外の魔王の言葉に王女はその場でズッコケて、なずみは悲しそうな顔をする。二人とも(えさ)をもらえなかった子犬のように落ち込む。

 

「な……行く必要が無いとは、どういう事だッ!!」

 

 レジーナが思わず声を荒らげて問い(ただ)す。出鼻を(くじ)かれた事に深く(いきどお)っており、納得の行く説明を求めた。もし男の言葉に納得しなければ、一人でも迷宮に乗り込みそうな勢いだ。

 

(あるじ)のいない迷宮に魔王自らが乗り込んでも仕方あるまい。そのような雑用は部下にやらせておけば良い」

 

 ザガートが腕組みしながら得意げなドヤ顔で言う。ケセフ亡き今、わざわざ足を運ぶ必要は無いと伝える。

 

「何を言っている? 部下なんて何処にもいな……」

 

 レジーナがそう言いかけた時、何処からかガラガラと大きな物音がある。

 音の聞こえた方角に一行が振り返ると、一台の荷馬車が彼らの方へとやってくる。洞窟の前まで来て止まると、運転席にいた一人の男が馬車から降りる。

 

 男は三十代から四十代くらいに見える小太りの大柄で、頭にターバンと呼ばれる布を巻く。褐色肌をしていて口周りに(ひげ)を生やしており、愛想良くニコニコと笑う。

 ザガートが元いた世界で言う所の、『アラブの商人』と呼べる風貌をしていた。

 

「ザガート様、このお方は?」

 

 初対面の人物を目にして、ルシルが素性を問う。

 

「彼はモハメド・ウル・ハッサン。金で雇われて遠くに荷物を運ぶ商人だ。今回彼に仕事を頼む事になった」

 

 魔王が男の素性を教える。口ぶりから察するに、何らかの取引を行ったようだ。

 

「このたび私どもに仕事を任せて頂き、光栄の至りにございます。ぜひ今後ともご贔屓(ひいき)に……では早速(さっそく)仕事に取り掛かるとしましょう」

 

 男は腰の低い言葉で挨拶(あいさつ)すると、馬車から荷物を下ろす。

 ハッサンが手にしていたのは、砂のようなものがぎっしり詰まった袋だった。それを洞窟の真ん前にドサドサと二十袋ほど積み上げる。

 

「ご苦労だった……約束の報酬だ」

 

 ザガートは(ねぎら)いの言葉を掛けると、(ふところ)から金貨が入った袋を取り出し、商人に手渡す。商人は袋から金貨を一枚ずつ取り出して数えた後、満足そうな笑顔になる。

 

「報酬の金貨十枚、確かに受け取りました。ではこれにて失礼……また何かあれば私どもに仕事をご依頼下さい。報酬さえ頂ければ、どんな物でもお運びします」

 

 別れの言葉を済ませてペコリと頭を下げると、馬車に乗ってその場から立ち去る。一行は(こころよ)く手を振って彼を見送った。

 

「さて……と」

 

 商人が去った後、ザガートが洞窟の方へと振り返る。洞窟の前に積み上げられた二十個の大きな袋を、(あご)に手を当ててじっくりと眺める。少女達には全く使い道が想像できない代物(しろもの)だが、魔王は何か考えがあるようだ。

 

「お前達、俺から少し離れていろ。今から呪文を唱える」

 

 右手をサッと横に振って指示を出す。魔王の言葉に従い、三人は数メートル後ろへと下がる。

 

「一度は滅びた肉体よ、新たな魂を得て、我に仕えよ……生命創造(クリエート・ライフ)ッ!!」

 

 両手で(いん)を結ぶと魔法の言葉を唱える。すると袋が破けて中に入っていた黒い砂のようなものが外へ飛び出し、宙に舞う。自ら意思を持つように空を飛び回った後、サラサラと地面に降り積もって人の形を取っていく。

 一瞬カッと(まばゆ)い光を放つと、それは生きた魔物の姿へと変わる。

 

「ああっ……!!」

 

 目の前に現れた魔物を見て、ルシルが驚きの言葉を発した。それもその(はず)、彼女達の前に立っていたのは二十体のゴブリンと、十体のオークだったからだ。

 

 かつてミノタウロスを生き返らせた呪文で、今度はオークとゴブリンが生き返った。むろん新たな魂を吹き込まれた彼らは、以前のように人を襲う存在ではない。それどころか瞳から邪悪さが消え、キリッとして精悍な顔付きになっている。オークに至っては豚顔のはずなのに、表情のおかげでイケメンに見えてしまうほどだ。

 

「おお、我らが(あるじ)……異世界の魔王よ。新たな命をお与え頂いた事、深く感謝します……何なりとご命令を」

 

 群れの先頭にいたリーダー格のオークが、(ひざ)をついて(こうべ)を垂れる。他の者も後に続くように(ひざまず)く。自分を生み出してくれた主君に絶対の忠誠を誓う。

 口調も以前のような片言(かたこと)ではなく、流暢な人間の言葉を話す。

 

「我が下僕どもよ、(なんじ)らに命じる……そこの洞窟に入り、中にある宝を残らず回収して地上へと運び出せ。我への(ささ)げ物として献上するのだ」

 

 ザガートが正面に手をかざして命令を下す。自分の代わりに迷宮へと足を運び、財宝を取ってくるよう言う。

 

「はっ! 我が主の(おお)せのままにッ!!」

 

 魔物達は一斉に立ち上がり、心臓のある左胸を握り拳でドンッと叩くと、迷宮の中へとゾロゾロ入っていく。

 

「……」

 

 なずみとレジーナはポカーンと口を開けたまま一連の光景を眺める。あまりに予想外すぎる展開に思考が付いていけなかった。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 太陽が燦々(さんさん)と照り付ける、よく晴れた日の午後……鳥がチュンチュンと鳴く声が聞こえる。

 

 一行は何もやる事が無いので、その場で時間を(つぶ)す。四人で空をボーッと眺めたり、雑談に花を咲かせたり、しりとりをして遊ぶ。ジャンケンもしたが、動体視力が反則級である魔王の後出しに勝てる者などいない。

 

 オーク達が洞窟に入ってから二時間が経過した頃……。

 

「……彼らが戻ってきたようだ」

 

 ザガートがそう言いながら、洞窟の入口へと目をやる。

 直後ザッザッと足音が鳴り、魔物の一団が洞窟から出てくる。彼らは小さな宝箱を一人で運んだり、大きな宝箱を二人で運んだり、両手に(こぼ)れんばかりの金銀財宝を抱える。(みな)が何かしらの宝を手にする。

 

 全員が洞窟の外に出ると、手にした宝をドサッと地面に置いて一箇所に集める。

 ザガートはそれを鑑定するようにじっくり眺める。何らかの魔法を使ったのか、瞳が青く光り出す。宝に込められた記憶や魔力を読み取っているようだ。

 

(フーーム……魔力を帯びた品や、優れた武器防具の類は無い。せいぜい店に売り払って金に替える程度の使い道しか無さそうだ)

 

 旅の役に立ちそうな宝が無いと知って、残念そうにため息をつく。

 

「洞窟の中にあったのは、これで全部か?」

 

 念を押すようにオーク達に問いかけた。

 

「何かの役に立つかは分かりませんが……こんなものを見つけました」

 

 ゴブリンの一人がそう言いながら前に進み出て、手にした紙切れを渡す。相当の年代物だったのか、文字が色あせていて紙質も古い。

 ザガートは受け取った紙切れをバサッと地面に広げて、まじまじと眺める。

 

「これは……ッ! お前達、これを何処で見つけた!?」

 

 突如顔を上げて興奮気味に問い(ただ)す。よほど素晴らしい発見があったのか、見るからにテンションが上がりだす。

 

 紙切れに書かれたのは世界地図だった。だが(ただ)の地図ではない。十二箇所に赤い×(バツ)印が付けてあり、(はし)っこに、すぐには読めない古代文字が書かれている。

 

「迷宮の一番奥にあるケセフの部屋と思しき書斎(しょさい)の、(さら)に隠し扉の向こう側に厳重に保管されていました。それがどうかなされましたか?」

 

 地図を持ってきたゴブリンが答える。古ぼけた紙切れにどのような価値があるか分からない(ため)、主君の予想外の反応に首を(かし)げた。

 

「これは、大魔王の居城に行くために必要な十二の宝玉……それを持っている幹部の配置場所が書かれたものだッ! この場にいる者では俺にしか読めないであろう古代文字で、幹部間の連絡網が(しる)されているッ!!」

 

 ザガートはその場にいる全員に見せ付けるように地図を高々と掲げると、それがどれほど重要な書類かを早口で伝える。

 

「これがあれば、旅の目的を明確に定められる……当てもなくブラブラする必要が無くなる! でかしたぞ、お前達ッ! これこそ今回の探索で見つけた、(もっと)も価値のある宝だッ!!」

 

 地図を手に入れた事に大喜びするあまり、ゴブリンやオークの背中を手でバンバン叩いたり、(ねぎら)いの言葉を掛けたりする。部下が予想外の働きを示した事に心底嬉しそうにはしゃぐ。後で彼らに褒美(ほうび)を与えねばなるまい……そう胸に抱く。

 

「おお、我らにはもったいなきお言葉……ぜひこれからも主君のご期待にそえるよう、尽力する所存にございますッ!!」

 

 魔物の一団が労いの言葉に深く感激する。オークもゴブリンも、(みな)ウッウッと声に出してむせび泣く。彼らにとって、生みの親たる魔王に働きぶりを認められる以上の喜びは存在しない。ますます敬愛する主人に尽くしたい思いを強くする。

 

 一連のやりとりをじっと眺めていたルシルであったが、オークの一人が腕に軽い傷を負っているのに気付く。よく見てみると、他のオーク達も大なり小なり怪我をしている。ゴブリンは体が小さいためか、あるいは罠を見抜く能力によってか、負傷している者はいない。

 

「みんな傷だらけで、とっても痛そう……迷宮の探索で怪我をしたの?」

 

 何もせずただ見ているのが辛くなり、心配そうに言葉を掛ける。彼らの近くに寄ると、回復の呪文を唱えて一人ずつ順番に傷を(いや)し始める。

 

「おお、ありがたい……そうです。これは迷宮の探索中に付けられた傷です」

 

 傷を癒されたオークが感謝しながら質問に答える。

 (となり)にいたもう一人が補足するように語りだす。

 

「我らが入った洞窟は恐ろしい大迷宮でした……魔物こそ一人もいなかったものの、落とし穴、回転床、テレポーター(など)さまざまな罠が仕掛けられていました。壁から槍が飛び出してくる罠もあり、我々の何人かはそれを喰らってしまったのです」

 

 迷宮が侵入者を待ち構える罠の巣窟だったと告げる。仕掛けられた罠に掛かった事が負傷の原因であった事実を明かす。

 魔物がいなかったのは、ムーア村とヒルデブルク城を襲撃するのに全兵力を使い切ったからだと推測できた。

 

「先に入った冒険者のものでしょう……白骨死体も転がっていました。並みの人間が足を踏み入れたら、死んでいたかもしれません」

 

 先人の犠牲者がいた事を口にして、洞窟が如何(いか)に危険な場所かを分かりやすく伝えた。

 

「そうか……」

 

 オークの話を聞いて、ザガートが(もの)()げな表情になる。しばらく思い詰めたように下を向いた後、少女達の方へと振り返る。

 

「やはりお前達を洞窟に向かわせなくて正解だった……いくら強くても、俺一人だけで何処までお前達を守り切れるか分からん。ましてや洞窟の(あるじ)(すで)に死んでいる。ただ宝を回収するだけの事に、大事な家族を危険な目に遭わせたくなかった」

 

 三人を見回すと、彼女達を迷宮へと行かせなかった理由を教える。魔王にとって少女達はかけがえの無い大切な仲間であり、傷付いて欲しくないが(ゆえ)に、オーク達に代わりに探索させたのだと……。

 

 理由を話す魔王の眼差しは、愛する娘を見る父親のように優しく、口調は穏やかだ。彼が仲間の身をどれほど案じているか、痛いほどよく伝わる。

 

「そ、そうか……それなら仕方ないなッ! 今回はお前の言う事に従ってやる! お前の判断はいつでも正しいと信じているからなッ!!」

 

 レジーナが気恥ずかしそうに顔を赤くしながら言う。家族呼ばわりされた事に照れがあったものの、それを隠そうと必死に強がってみせた。

 

「ザガート様……」

 

 ルシルがとても嬉しそうに笑う。愛する男が自分達を気遣ってくれた事に、感激のあまり胸の内が熱くなる。

 

「……」

 

 なずみだけが浮かない顔をする。下を向いたまま落ち込んだように黙り込む。何を考えたのか、表情からは読み取れない。

 

「それにしても、あれだけ醜悪だったオークが、こんなに真面目になるとは……肉体が同じなだけで、本当に中身は入れ替わってしまったんだなぁ」

 

 レジーナが興味深そうに言いながら、オークの体を手でベタベタ触る。低俗な魔物の代表格だった豚頭の獣人が、紳士的な性格へと生まれ変わった事が不思議に思えてならない。驚いた顔をしながら彼らをまじまじと眺める。

 

「ええ……以前の我々は、大魔王に邪悪な魂を吹き込まれました。人間を家畜のような存在だと思い込ませて、女性をレイプし、村を蹂躙(じゅうりん)し、人間を虐殺する……それに生きる喜びを感じるよう仕向けられたのです。それが我々を悪事へと走らせました」

 

 ベタベタ触られたオークが、王女の問いに答える。かつて魔王軍の手先であった頃の心境を素直に打ち明ける。これまで自分が犯してきた罪の重さと向き合い、少し暗い表情になる。

 

「ですが、我々は変わりました……ザガート様が変わらせてくれたのです。もはや我々の中に悪事を働こうと思う気持ちなど一ミリも無い。これからは女性をレイプするのをやめて、畑を(たがや)し、村の仕事を手伝う善良なオークとして生きていく所存です」

 

 すぐに顔を上げて青空を眺めると、自分達が()(れい)な存在に生まれ変わったと告げる。邪悪な魔物である事をやめて、真っ当な生き方をするのだと誓いを立てた。

 空に昇る太陽の日差しが、罪の告白をしたオークを(まぶ)しく照らす。日光に照らし出された晴れやかな獣人の表情は、彼が改心した事を印象付けるに十分だった。

 

「ハハハッ……それじゃまるで、オークはレイプするのが当たり前みたいな口ぶりじゃないか」

 

 レジーナが冗談を口にしながら大きな声で笑う。完全に獣人と打ち解けたようにほっこり笑顔になる。王女の中に彼らを警戒する気持ちなど無い。

 

 彼女に釣られて他の者も笑い出す。オークもゴブリンも、ザガートもルシルも、(みな)が満面の笑みになる。「ハハハッ」と笑う声が辺り一帯に響いて、場が(なご)やかな空気に包まれる。

 

「……」

 

 その場にいた中でただ一人、なずみだけが笑っていない。彼女だけがうつむいて思い詰めた表情をする。ザガート以外、彼女の異変に気付けた者はいない。

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