いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第22話 処女好きの魔物……その名はユニコーンっ!

 魔族を撃退してムーア村を救ったザガート……村長からリザードマンが住む村の存在を教えられる。村人に別れを告げると、新たな目的地を目指して旅立つのだった。

 

 森を抜けて西に十キロほど歩くと、一行は見晴らしの良い湿地帯に辿(たど)り着く。

 辺り一面に雑草が生えていたが、草の間から見える土はびっしりと(こけ)まみれになっていて、雨が降った後のように泥が柔らかい。歩くたびにグチョッと不快な音が鳴り、(くつ)が泥だらけになる。

 地面に足跡が付いて、微妙に足が沈むので歩き辛い。

 

 湿度が高いせいか空気がジメッとしていて、数分いるだけでカビが生えそうな気になる。

 

「おい……本当にここを通る必要があったのか?」

 

 レジーナが歩きながら文句を()れる。グチョッグチョッと音が鳴る泥土と、ジメジメした湿気に、かなりストレスが()まっているようだ。ルシルとなずみも声には出さないものの、かなり嫌そうな顔をする。

 ()が飛んでいるらしく、プゥーーンと虫が鳴く声がする。レジーナとなずみは露出した肌を数箇所刺されており、(かゆ)そうに手でボリボリ()く。

 近くの川に()んでいるのか、カエルがゲコゲコと鳴く。

 

「お前達はムーア村で待っていても良かったんだぞ。リザードマンに会うのは俺一人で十分だ。用事を済ませた後で迎えに来れば、こんな湿地帯に足を踏み入れる必要など無かった。そう提案したら、付いてくると言ったのはお前達だ」

 

 王女の問いにザガートが答える。三人を村に残そうと提案した事、それを却下されたため、やむなく連れていく事にしたと口にする。

 こうなる事が分かっていたため、湿地帯に三人を連れて歩くのに前向きでは無かった様子が(うかが)える。

 

「嫌ですっ! どんな場所に向かおうと、私は絶対ザガート様に付いていきますっ! 私がちょっとでも目を離すと、また別の女に手を出すんですからっ!!」

 

 ルシルが声を荒らげて反論する。魔王の提案を断固として拒否する。

 かなり不機嫌そうにプリプリしながら、泥土をものともせずにガニ(また)でズカズカと歩く。普段のおしとやかさは()(じん)も感じられない。よほど魔王がなずみとエッチした事に腹を立てたようだ。

 

(やれやれ……今度行くのはリザードマンの集落だぞ? トカゲに欲情する趣味は無いのだが……)

 

 ザガートが面倒臭そうにため息をつきながら、頭を手でボリボリ()く。仲間の嫉妬(しっと)に心底(あき)れる。

 

「オイラも、何処までも師匠に付いていくって決めたッス!」

 

 なずみも、ルシルの後に続くように答える。どんな危険な場所だろうと魔王から片時(かたとき)も離れないと鼻息を荒くする。魔王の心情を知ったからこそ、自分達はいつでも彼の(そば)にいなければならないと決意を胸に抱く。

 

 一行が言葉を()わしながら歩いていた時……。

 

「ムッ!? 三人とも、そこから一歩も動くなッ! 息をじっと(ひそ)めて、静かにしているんだッ!!」

 

 ザガートが右腕をサッと横に振って、警告の言葉を発する。彼が何らかの異変を察知したのだろうと考えて、少女達は大人しく指示に従う。

 

 周囲に敵の姿は見えない。だが魔王は明らかにある一点を凝視し、警戒の表情を表に出す。

 ルシル達も、魔王が見ている方角をじっと見る。その状態のまま静止する。

 四人ともマネキンのように固まったまま、一言も発しない。敵が現れるのを気長に待つ。

 

 

 

 (セミ)がミンミン鳴く音と、カエルがゲコゲコ鳴く声だけが、音楽の演奏のように響き渡る。時間にしておよそ一分ほど経過した時……。

 

「……来たぞッ!!」

 

 魔王が突如そう言葉を発した。それと同時に彼が見ていた方角から、一匹の動物らしき何かが四人のいる場所を目指して歩いてくる。

 驚くべき事に、『それ』は湿地帯をものともしない。グチョグチョする(はず)の泥土に全く足を取られず、パカランパカランと馬のような足音を立てて歩く。それがどういう原理かルシル達には分からないが、相手がただ者でない事だけは分かる。

 

 一行の前に現れたのは、一頭の白い雄馬だった。毛並みは美しく、()んだ瞳をしていて、体格も引き締まっている。立ち姿は悠然としていて、王者の風格すら漂わせる。およそ湿地帯という風景には似つかわしくない。

 他の馬と異なるのは、(ひたい)に細長いドリルのような一本の(ツノ)を生やしていた事だ。

 

「ユニコーン……伝承に語り()がれし馬の怪物だ。普段は見境なく人間に襲いかかる凶暴な魔物だが、遭遇したパーティ内に処女がいる時だけ、戦意を喪失して大人しくなるという」

 

 ザガートが馬の魔物について詳細に語る。

 

 ユニコーンは十メートルほど離れた場所に立ち止まると、一行をじーっと眺めたり、風に乗って流れてくる少女達のニオイを確かめるように、クンクンと鼻を動かしていたが……。

 

「グッ……グォォォォォォオオオオオオオオーーーーーーーーッッ!!」

 

 突然ギリギリと音を立てて歯(ぎし)りするや(いな)や、大きく口を開けて狂ったような咆哮(ほうこう)を発する。その怒声は湿地帯全土に響かんばかりに大きく、川にいたカエルが慌てて水中に避難する。

 澄んだ瞳をしていたはずの目は、殺意に満ちたように鋭い眼光で敵を(にら)み付けて、表情は悪鬼のような形相へと変わる。口からは「ウウウッ……」と()(かく)するように(うな)り声を発する。

 

 それまで漂わせていた聖獣のイメージは一瞬にして吹き飛び、目の前の敵を殺そうとする恐ろしい怪物へと変貌する。

 明らかに『何か』に対して怒っているのが分かる。もはや戦いは避けられそうもない。

 

「フム……やはりこの場に処女は一人も()なかったようだ」

 

 ザガートが納得したように(うなず)きながら言う。敵が激怒した理由を知っていながら、わざと冗談()じりにすっとぼけてみせた。

 

「当たり前だッ! お前が全部奪っておいて、今更(いまさら)何を言うかッ!!」

 

 魔王のあからさまなボケに、レジーナが思わず突っ込みを入れる。

 二人のそんなやりとりなど意にも(かい)さず、ユニコーンが襲いかかるのだった。

 

「ウオオオオオオオオッ!!」

 

 ユニコーンがけたたましい雄叫びを発しながら、一行めがけて駆け出す。恐ろしい目付きで敵を(にら)み、鬼のような形相を浮かべて、揺るぎない殺意を剥き出しにする。柔らかい湿地帯をものともせず、硬い大地を踏んだように軽快に走る。

 

「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」

 

 レジーナも負けじと勇ましく()えながら走り出す。(さや)から抜いた一振りの剣を両手に握り、敵に斬りかかろうとした。

 

「うあっ!」

 

 だが数歩前に進んだ所でヌルヌルした地面に足を取られてしまい、前のめりにコケる。(こけ)だらけの汚い土に正面からビチャーーンッと転んでしまい、体中泥まみれになる。口の中に入った泥をペッペッと吐き出す。

 

 ユニコーンは転んだ王女には目もくれず、ザガートに向かって走っている。若い女を三人も連れておきながら、全て手を付けてしまったイケメンを目の(かたき)にしたようだ。

 何故俺のために一人くらい残しておかなかった! ……そんな馬の嘆きが伝わってくる。

 

「業火よ放て……火炎光矢(ファイヤー・アロー)ッ!!」

 

 ルシルが正面に両手のひらをかざしながら魔法の言葉を唱える。(なし)と同じくらいの大きさの、煌々(こうこう)と燃えさかる火球がユニコーンに向けて放たれた。

 

 だがユニコーンは警戒するように一旦足を止めると、サッと横に動いて火球をかわす。少女は立て続けに二、三発の火球を連続発射したが、それら全てを反復横跳びするような動きで回避する。

 なずみも腰にぶら下げていたクナイを複数回投げたが、一発も命中しない。タイミングを見切られぬよう、あえて不規則なリズムで投げたが、完全に動きを読まれている。

 

「おりゃぁぁぁぁああああああっ! ……ああっ!!」

 

 それならばと近接戦を挑もうと思い立ったなずみであったが、数歩前に駆け出した所で、泥土に足を取られて前のめりにコケてしまう。ビチャーーンッと全身泥だらけになり、レジーナの二の舞になる。

 

「ヒヒッヒッヒッヒン……」

 

 二人の少女が泥まみれになった姿を見て、ユニコーンが滑稽(こっけい)そうに笑う。口元を大きく(ゆが)ませて、目を細めて相手を小馬鹿にした笑顔になる。

 まるで「非処女のお前達は泥で汚れるのがお似合いだ」と、そう言っているように思えた。

 

「私達は湿地帯の泥で思うように歩けないのに、ユニコーンだけは違うッ! 雨に濡れて柔らかいはずの土を、硬い大地を踏んでいるかのように歩く……どうしてッ!!」

 

 ルシルが胸の内に湧き上がった疑問を口にする。明らかに地形の影響を受けていない敵に違和感を抱く。

 そもそも最初に姿を現した時からおかしかった。歩けばグチョグチョ音が鳴るはずの湿地帯を、馬はパカランパカランと進んでいた。泥土の上にいるのに、泥土を歩いていない……そんな挙動だった。

 

「三人とも、敵の足元をよく見てみろッ! ヤツは直接地面を踏んでいないッ!!」

 

 ザガートが大声で叫びながら、馬の足元を指差す。

 少女達が彼が指差した方角を見てみると、馬の足が大地から数ミリほど浮いている。(さら)に足裏が付いた空間は半透明に青く光っており、薄いガラス板を踏んでいるかのようだ。

 

「ヤツは自らの魔力によって空中に足場を形成し、その足場を歩いているッ! だから湿地帯の影響を受けず、自在に動き回れるのだッ!!」

 

 馬が泥土に足を取られない原理を魔王が解説する。

 普通の冒険者では足が沈んで動けないような悪路でも、ユニコーンならば平地と同じように走れる。それは彼が地形において圧倒的に優位性(アドバンテージ)を得られた事を意味する。

 この湿地帯という場所は、彼にとって絶好の狩場と呼べるものだった。

 

 ユニコーンは言葉こそ発しないものの、ザガートの解説を聞いて「その通りだ」と言いたげにニヤリと笑う。自分の能力を誇らしげに自慢するようにフフンッと鼻息を吹かす。

 

「ウォォォォオオオオオオーーーーーーッッ!!」

 

 改めて男の方へと向き直ると、宣戦布告するように大きな声で(とお)()えを発する。今度こそ魔王の命を奪わんと息巻いて、相手めがけて突進する。(ひたい)(ツノ)を正面につき出して、男の心臓を貫こうと(こころ)みた。

 

「……ユニコーンっ! 貴様に恨みは無いが、こちらとて、ただ女とセックスしたというだけの理由で殺される訳には行かんッ! 降りかかる火の粉は全力で振り払わねばならんッ! 貴様にはここで死んでもらうッ!!」

 

 ザガートが恰好(かっこう)を付けるようにマントを右手でバサッと開いて、死を宣告する言葉を発する。少女達の手に負える相手ではないと判断して、自ら手を汚す決意を抱く。

 ただリア充に嫉妬(しっと)しただけの非モテ馬かもしれない敵を殺す事に(かす)かな罪悪感があったが、それを仕方のない事だと自分に言い聞かせる。

 

「……浮遊拘束(レビテート・フリーズ)ッ!!」

 

 正面に右手をかざしながら魔法の言葉を唱えると、馬の体が一瞬ビクンッと震えて硬直したように止まる。意識を失ったのか、宙に浮いたまま手足をだらんとさせる。そのままピクリとも動かない。

 ザガートが右手の五本指を(そろ)えて、クルンッと手のひらを返すと、馬の体が垂直に空へと浮いていき、地面から十メートルほど離れた頭上で止まる。

 

「風の精霊よ、(いにしえ)の盟約に(もと)づき、千の刃となりて敵を切り裂け……真空切断(ウインド・スラッシュ)ッ!!」

 

 両手で(いん)を結んで魔法を唱えると、かまいたちのような真空の刃が、ヒュンヒュンッと風を切る音を鳴らしながら()を描くように飛んでくる。

 無数に現れた『それ』は、宙に浮いたまま身動きが取れない馬を四方八方からズタズタに切り裂く。

 

「……ッ!!」

 

 ユニコーンは悲鳴を発する間もなく、(こま)()れの肉片となって息絶えた。彼のものであった血肉がボトボトと音を立てて地面に落下し、湿地帯が赤い血に染まる。

 馬の死に様を見届けて、ザガートは何とも言えない表情になる。

 

(許せ、ユニコーン……今はこうするより他に手が無かったのだ)

 

 哀れな死肉と化した馬に、心の中で深く()びる。

 パーティ内に処女が一人でもいれば、避けられたかもしれない戦いだった。争わずに済んだ可能性があった相手を殺さざるを得なくなった状況を内心残念がる。

 

 魔王の中に彼を憎む気持ちは無い。ただ襲いかかってきたから殺すしかなかった、たったそれだけの事だ。

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