いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
魔族を撃退してムーア村を救ったザガート……村長からリザードマンが住む村の存在を教えられる。村人に別れを告げると、新たな目的地を目指して旅立つのだった。
森を抜けて西に十キロほど歩くと、一行は見晴らしの良い湿地帯に
辺り一面に雑草が生えていたが、草の間から見える土はびっしりと
地面に足跡が付いて、微妙に足が沈むので歩き辛い。
湿度が高いせいか空気がジメッとしていて、数分いるだけでカビが生えそうな気になる。
「おい……本当にここを通る必要があったのか?」
レジーナが歩きながら文句を
近くの川に
「お前達はムーア村で待っていても良かったんだぞ。リザードマンに会うのは俺一人で十分だ。用事を済ませた後で迎えに来れば、こんな湿地帯に足を踏み入れる必要など無かった。そう提案したら、付いてくると言ったのはお前達だ」
王女の問いにザガートが答える。三人を村に残そうと提案した事、それを却下されたため、やむなく連れていく事にしたと口にする。
こうなる事が分かっていたため、湿地帯に三人を連れて歩くのに前向きでは無かった様子が
「嫌ですっ! どんな場所に向かおうと、私は絶対ザガート様に付いていきますっ! 私がちょっとでも目を離すと、また別の女に手を出すんですからっ!!」
ルシルが声を荒らげて反論する。魔王の提案を断固として拒否する。
かなり不機嫌そうにプリプリしながら、泥土をものともせずにガニ
(やれやれ……今度行くのはリザードマンの集落だぞ? トカゲに欲情する趣味は無いのだが……)
ザガートが面倒臭そうにため息をつきながら、頭を手でボリボリ
「オイラも、何処までも師匠に付いていくって決めたッス!」
なずみも、ルシルの後に続くように答える。どんな危険な場所だろうと魔王から
一行が言葉を
「ムッ!? 三人とも、そこから一歩も動くなッ! 息をじっと
ザガートが右腕をサッと横に振って、警告の言葉を発する。彼が何らかの異変を察知したのだろうと考えて、少女達は大人しく指示に従う。
周囲に敵の姿は見えない。だが魔王は明らかにある一点を凝視し、警戒の表情を表に出す。
ルシル達も、魔王が見ている方角をじっと見る。その状態のまま静止する。
四人ともマネキンのように固まったまま、一言も発しない。敵が現れるのを気長に待つ。
「……来たぞッ!!」
魔王が突如そう言葉を発した。それと同時に彼が見ていた方角から、一匹の動物らしき何かが四人のいる場所を目指して歩いてくる。
驚くべき事に、『それ』は湿地帯をものともしない。グチョグチョする
一行の前に現れたのは、一頭の白い雄馬だった。毛並みは美しく、
他の馬と異なるのは、
「ユニコーン……伝承に語り
ザガートが馬の魔物について詳細に語る。
ユニコーンは十メートルほど離れた場所に立ち止まると、一行をじーっと眺めたり、風に乗って流れてくる少女達のニオイを確かめるように、クンクンと鼻を動かしていたが……。
「グッ……グォォォォォォオオオオオオオオーーーーーーーーッッ!!」
突然ギリギリと音を立てて歯
澄んだ瞳をしていたはずの目は、殺意に満ちたように鋭い眼光で敵を
それまで漂わせていた聖獣のイメージは一瞬にして吹き飛び、目の前の敵を殺そうとする恐ろしい怪物へと変貌する。
明らかに『何か』に対して怒っているのが分かる。もはや戦いは避けられそうもない。
「フム……やはりこの場に処女は一人も
ザガートが納得したように
「当たり前だッ! お前が全部奪っておいて、
魔王のあからさまなボケに、レジーナが思わず突っ込みを入れる。
二人のそんなやりとりなど意にも
「ウオオオオオオオオッ!!」
ユニコーンがけたたましい雄叫びを発しながら、一行めがけて駆け出す。恐ろしい目付きで敵を
「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」
レジーナも負けじと勇ましく
「うあっ!」
だが数歩前に進んだ所でヌルヌルした地面に足を取られてしまい、前のめりにコケる。
ユニコーンは転んだ王女には目もくれず、ザガートに向かって走っている。若い女を三人も連れておきながら、全て手を付けてしまったイケメンを目の
何故俺のために一人くらい残しておかなかった! ……そんな馬の嘆きが伝わってくる。
「業火よ放て……
ルシルが正面に両手のひらをかざしながら魔法の言葉を唱える。
だがユニコーンは警戒するように一旦足を止めると、サッと横に動いて火球をかわす。少女は立て続けに二、三発の火球を連続発射したが、それら全てを反復横跳びするような動きで回避する。
なずみも腰にぶら下げていたクナイを複数回投げたが、一発も命中しない。タイミングを見切られぬよう、あえて不規則なリズムで投げたが、完全に動きを読まれている。
「おりゃぁぁぁぁああああああっ! ……ああっ!!」
それならばと近接戦を挑もうと思い立ったなずみであったが、数歩前に駆け出した所で、泥土に足を取られて前のめりにコケてしまう。ビチャーーンッと全身泥だらけになり、レジーナの二の舞になる。
「ヒヒッヒッヒッヒン……」
二人の少女が泥まみれになった姿を見て、ユニコーンが
まるで「非処女のお前達は泥で汚れるのがお似合いだ」と、そう言っているように思えた。
「私達は湿地帯の泥で思うように歩けないのに、ユニコーンだけは違うッ! 雨に濡れて柔らかいはずの土を、硬い大地を踏んでいるかのように歩く……どうしてッ!!」
ルシルが胸の内に湧き上がった疑問を口にする。明らかに地形の影響を受けていない敵に違和感を抱く。
そもそも最初に姿を現した時からおかしかった。歩けばグチョグチョ音が鳴るはずの湿地帯を、馬はパカランパカランと進んでいた。泥土の上にいるのに、泥土を歩いていない……そんな挙動だった。
「三人とも、敵の足元をよく見てみろッ! ヤツは直接地面を踏んでいないッ!!」
ザガートが大声で叫びながら、馬の足元を指差す。
少女達が彼が指差した方角を見てみると、馬の足が大地から数ミリほど浮いている。
「ヤツは自らの魔力によって空中に足場を形成し、その足場を歩いているッ! だから湿地帯の影響を受けず、自在に動き回れるのだッ!!」
馬が泥土に足を取られない原理を魔王が解説する。
普通の冒険者では足が沈んで動けないような悪路でも、ユニコーンならば平地と同じように走れる。それは彼が地形において圧倒的に
この湿地帯という場所は、彼にとって絶好の狩場と呼べるものだった。
ユニコーンは言葉こそ発しないものの、ザガートの解説を聞いて「その通りだ」と言いたげにニヤリと笑う。自分の能力を誇らしげに自慢するようにフフンッと鼻息を吹かす。
「ウォォォォオオオオオオーーーーーーッッ!!」
改めて男の方へと向き直ると、宣戦布告するように大きな声で
「……ユニコーンっ! 貴様に恨みは無いが、こちらとて、ただ女とセックスしたというだけの理由で殺される訳には行かんッ! 降りかかる火の粉は全力で振り払わねばならんッ! 貴様にはここで死んでもらうッ!!」
ザガートが
ただリア充に
「……
正面に右手をかざしながら魔法の言葉を唱えると、馬の体が一瞬ビクンッと震えて硬直したように止まる。意識を失ったのか、宙に浮いたまま手足をだらんとさせる。そのままピクリとも動かない。
ザガートが右手の五本指を
「風の精霊よ、
両手で
無数に現れた『それ』は、宙に浮いたまま身動きが取れない馬を四方八方からズタズタに切り裂く。
「……ッ!!」
ユニコーンは悲鳴を発する間もなく、
馬の死に様を見届けて、ザガートは何とも言えない表情になる。
(許せ、ユニコーン……今はこうするより他に手が無かったのだ)
哀れな死肉と化した馬に、心の中で深く
パーティ内に処女が一人でもいれば、避けられたかもしれない戦いだった。争わずに済んだ可能性があった相手を殺さざるを得なくなった状況を内心残念がる。
魔王の中に彼を憎む気持ちは無い。ただ襲いかかってきたから殺すしかなかった、たったそれだけの事だ。