いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
湿地帯に足を踏み入れた一行は処女好きの魔物ユニコーンと遭遇する。
パーティ内に処女がいなかったため、戦いは避けられない状況となる。
見事ユニコーンを返り討ちにしたザガートであったが、一人でも処女がいれば殺さずに済んだ命に、
(許せ、ユニコーン……今はこうするより他に手が無かったのだ)
哀れな死肉となった雄馬に心の中で
せめて
「……ムッ!?」
何かに気付いて突然立ち止まる。敵の襲来を警戒するように周囲を見回した後、じっと息を潜めて状況を観察する。その場から一歩も動かない。
次の瞬間、黒い影のような物体が男の視界に現れる。それは小さい犬のようにも、スライムのようにも見えたが、正確な姿は分からない。ザガートの目を
黒い奇妙な物体は、馬の死肉が散乱した場所へと向かうと、辺りを掃除するようにサササッと動き回る。彼が通り抜けた地面にあった肉は
馬の死体を回収すると、謎の物体は目にも止まらぬ速さで森の中へと去っていき、そのまま行方をくらます。
(一体何だったんだ、今のは……?)
突然現れた謎の物体に、魔王が
まず間違いなく魔族であろうと思われる『それ』は、黒いスライムのように見えた。だが音速を超える速さの物体を認識できるザガートが、姿を正確に
周囲から規格外として扱われる男の力を
「ザガート様っ!」
魔王がボーッと突っ立っていると、ルシル達三人の少女がやってくる。ユニコーンを排除したため、戦いが終わったと判断する。
レジーナとなずみがコケた時に付いた泥は、ルシルが持ち歩いていたタオルで
「ザガート、どうかしたのか? 浮かない顔して……敵を倒したというのに、あまり嬉しそうじゃないな」
思い詰めた表情の魔王を見て、レジーナが首を
「……トンビに油揚げをさらわれたようだ」
ザガートが元いた世界で聞いた
三人とも男の言っている意味がよく分からず、チンプンカンプンになる。
「分からないなら別に良い……先を急ぐぞ」
男は少し不機嫌な顔になりながら一方的に話を打ち切ると、村のある方向へとズカズカ歩き出す。彼が何かに対して怒っている事は
魔王はユニコーンの血肉を得体の知れない存在に横取りされた事に内心腹を立てていた。いつかこの借りを返さねばなるまい……そう思いを抱く。
三人は何故魔王が
◇ ◇ ◇
あれから
ユニコーンと遭遇する前は愚痴を
当のザガート本人も、少女達に気を遣わせた事を心の中で申し訳なく感じる。けれども掛ける言葉が見つからない。今はただ現状を打破するために、一刻も早く村に着くよう祈るしかない。
四人が無言のまま歩き続けた時……。
「……ムッ!? 三人とも、そこで止まれッ!」
魔王が突如足を止めて指示を出す。これ以上仲間を先に進ませないよう、右腕をサッと横に振る。
少女達は彼の言葉に従ってその場に立ち止まる。
「また敵が現れたのか?」
レジーナがそう問いかけた。
「……敵ではない」
王女の疑問にザガートが言葉を返す。
その直後、ザガート達から百メートルほど離れた地点。白い
軍隊の行進のように聞こえる足音は、何かが向かって来ている事を直感的に悟らせた。
十秒ほど経過した後、霧の中から謎の一団が姿を現す。総数にして四十人ほど、一瞬人間に見えたそれは、よく目を
そこに現れたのは、大人の男性より一回り大きな、二足歩行するトカゲの亜人だった。鍛え上げられた屈強な筋肉をしており、全身の
彼らがリザードマンと呼ばれる魔物種族であろう事は想像に
先頭に立つ十人は軽装の鎧を身に
「お前達、こんな辺境の地に何をしに来た……魔族の手先か?」
先頭に立つ一人が
(おい、彼らはヒト族を敵視しないんじゃなかったのか!? これでは話が違うッ!!)
レジーナがリザードマンに聞こえないよう、魔王にひそひそと小声で
(彼らは何かに
ザガートが王女にそっと耳打ちする。即座に一戦
湿地帯にユニコーンが現れた事、あるいは謎の黒いスライムの存在……そのどちらかが関係していると考えた。
(とは言ったものの、どう説明すれば納得してもらえるか……)
魔王が気難しい表情になりながら、あれこれ考えた時……。
「
リザードマン達の後方から、そう言葉が発せられた。
声の聞こえた方角に
杖を突いてゆっくりと歩く、子供くらいの背丈をした人物……魔道士のようなローブを羽織って、白い
「……ジアラ長老ッ!!」
老人の姿を目にして、リザードマンの若者が名を叫ぶ。
その者こそ、彼らの中で一番の実力者に他ならない。
「彼らが敵でない……とは?」
突如現れたリザードマンの長老が発した一言に、若者達が疑問を
彼らからすれば、村に近付いて来るのは得体の知れない連中だ。しかも先頭に立つ人物は頭に
だが彼らの中でただ一人長老だけが、ザガートが敵でないと判断する。若者達には長老の意図が読めず、真意を問わずにいられない。
「その者……いやこのお方こそ、我らをお救いになる人物……異世界から来た魔王様じゃ」
長老がザガートの素性を他の者に教える。事前に外見的特徴を伝え聞いたのか、あるいは魔族とは異なる気配を察知したのか、目の前にいる人物が魔族と戦う救世主である事を見抜く。
「な、なんとっ!! それではこのお方が
男が
「そ、そうとは知らず無礼な真似をしてしまいましたッ! どうかお許しをッ!!」
先頭にいた一人が慌てて土下座して謝り、他の者が後に続くように
「謝る必要など無い……頭を上げよ」
ザガートは男達に土下座をやめるよう言う。何か事情があるのだろうと察して、広い心で彼らを許す。
「おお……」
「異世界の魔王……何と心優しきお方ッ!!」
魔王の寛大さにリザードマン達が感激の言葉を漏らす。世界を滅ぼしかねない力を持ちながら、節度ある対応で
「それより一つ気になる事がある……最初に魔族の手先かと、そう聞いてきたな? 何があったか教えてくれないか」
ザガートが詳しい状況の説明を求める。彼らの警戒心の高まりをただ事ではないと考えて、そこに至った経緯を問う。
「分かりました。こんな所で立ち話も何ですから、村に案内します。そこでお話しましょう」
リザードマンの一人がそう言って立ち上がると、村のある方角に向かって歩き出す。他の者達も一斉に彼の後に続く。ザガート達は兵団の最後尾に付いていく。
数十人の大所帯となった一団が湿地帯をぞろぞろ歩く。魔王はここに来るまでにユニコーンとスライムに遭遇したが、今は何かが襲ってくる気配も無く、平和そのものだ。カエルがゲコゲコ歌い、
一行はそのまま何事もなく順調に村へと進む。
◇ ◇ ◇
しばらく歩くと、リザードマンのものと思しき集落が見えてくる。
周囲を森に
兵団に案内されて村を歩きながら、ザガートは
(村にいるのは若い女性と子供、それに年老いた老人ばかり……男性はここにいる兵団で全部か? 村の大きさを考えれば、もっと人が
村の規模に総人口が
一行が村の中を歩いていると、魔王が村を訪れたと聞いたらしき住人達が、ザガートの姿を見て平伏する。両手を組んで必死に祈ったり、
どうか我らをお救い下さい……口々にそう叫ぶ。他に
ザガートはそんな彼らを内心
ひとまず愛想笑いを浮かべながら元気に手を振る。魔王が好印象な反応を示した事に、村人達が嬉しそうにニッコリ笑う。これで村が救われると、そう確信したように……。
◇ ◇ ◇
一行は村の中央にある集会所と思しき建物へと案内される。中へ入ると地面に布製のシートが
「我らには椅子に座る習慣が
長老ジアラはそう言って頭を下げると、座布団の一つにゆっくり腰掛ける。ザガート達は
「さて……ではこれまでの経緯をお話しましょう」
全員が座ったのを確認すると、長老が口を開く。
「貴方がたも知っておられるでしょうが、我らは魔物ではあっても『魔族』ではない……魔王軍に属しておらず、ヒト族を襲ったりしない。これまでヒト族と魔族の争いに巻き込まれぬよう、人里を離れたこの地でひっそりと暮らしていました。それでも迷い込む旅人がいれば手助けし、世界が滅亡の危機に
自分達がヒト族を敵視しない種族である事を教える。
魔族は大魔王の力で生み出された魔法生物だが、魔物は天然で生まれた存在だ。人間が動物と魔物を分けて呼んだだけで、境界や定義すら
魔族は邪悪な心をインプットされた存在だが、魔物はそうではない。魔物が人を襲うとしても、それはスズメバチや
むろん人を襲わない魔物もたくさんいる。彼らもその中の一つという事になる。
「そんなある日……二週間ほど前の事です。村にケセフと名乗る道化師風の男がやってきて、魔王軍に加わるよう
魔王軍の幹部ケセフが、大魔王の使者として村を訪れた事を明かす。
「むろん我らは、そんな脅しには屈しないぞ! と声を荒らげて断りました。すると彼はそれなら仕方ないと意味深に笑い、大人しく引き上げたのです。その日はそれでカタが付きました。ですがその日を
ケセフの誘いを断った事、それによって魔族の脅威に
「ケセフはザガート様によって倒されたと、風の
今もなお魔族の攻撃を受けている事を口にする。
村の惨状を伝える長老の表情は暗い。一族の未来に悲嘆したようにガックリと肩を落とし、見るからにショボくれた顔になる。
「……お願いですッ! ザガート様ッ! どうか……どうかスライムを倒し、村を救って下さいッ! もはや我らの力ではどうにもならないのです! 貴方様にヤツを倒して頂くしか、我らが助かる道は無いのですッ!!」
突如目をグワッと見開いた鬼の形相になると、地に
「ザガート様ッ!」
「どうか我らをお救い下さいッ!!」
他のリザードマンも後に続くように
その姿から、彼らがどれだけ深く追い詰められたかが痛いほどよく伝わる。
「フーーム……」
長老の言葉を聞いてザガートはしばし思い悩む。
「リザードマンといえば、亜人の中では最強種族……スライム
やがて頭の中に湧き上がった疑問を口にする。
「おっしゃる通り、ただのスライムでしたら我らとて苦戦しません」
一人のリザードマンが、魔王の疑問に答える。
「ですが……村を襲っているのは、ただのスライムなどではありませんッ! 触れたものを一瞬で溶かす強酸の体を持ち、大人のゾウを丸呑みにし、受けた傷は瞬時に再生する……高い知能を持った、恐ろしく残虐なスライムなのですッ!!」
突如目をグワッと見開いて、化け物の恐ろしさを早口で並べ立てた。よほど必死に敵の脅威を伝えようとしたのか、口から大量の
「かつてこの近辺には、イリエワニ、大ナメクジ、キングコブラなど野生動物が生息していました。ですが彼らは皆スライムの
別のもう一人が、湿地帯の原生動物が食べられた事を伝える。
(やはりあのスライムか……)
ザガートはトカゲの話を聞きながら、馬の亡骸を回収した黒いスライムを思い出す。
明らかにただのスライムとは格が違った。高い知能と戦闘能力を
今、村人から聞いた情報と照らし合わせた事によって、浮かび上がった仮説が正しかったと確信を抱く。
最初にスライムと聞いた時点で黒いスライムの事だと気付けたものの、村人にイジワルな質問をぶつけたのは、確信を得るために情報を引き出したかったからだ。魔王は内心彼らに悪い事をしたなと思った。
ふと小屋の入口にザガートが目をやると、いつからそこに
少年は魔王の顔をじっと見つめたまま黙り込む。何か言いたそうに口をモゴモゴさせた。
「この子供は?」
ルシルが少年の素性を問う。
「その子はジャンと言います。その子の父ゾルガは村一番の英雄でした。ですが彼もまた他の戦士達と一緒に戦い、スライムの
一人のリザードマンが、ルシルの疑問に答える。少年の置かれた境遇に深く同情して、悲しそうな顔をする。他の連中も同胞を殺された事に
「………」
男の話を聞いて、ザガートが思い詰めた表情になる。彼なりに少年を
座布団から立ち上がると、少年に向かって歩き出す。目の前に立つと、姿勢を低くして相手の顔をじっと見る。
「少年よ……ジャンと言ったな。安心しろ、お前の親父のカタキは俺が取ってやる」
穏やかな眼差しを向けながら、少年の頭を優しく
ジャンもまた、魔王の言葉に安心したようにコクンと
二人のやりとりを、周囲の者が笑顔で見守っていた時……。
「た、大変だーーーーーーっ! ヤツが現れたぞぉぉぉぉおおおおおおーーーーーーっっ!!」
小屋の外にいた見張りが、大声で叫びながら慌てて駆け込む。
彼の
一行の前に現れたのは、大人のゾウより一回り大きな、黒いネバネバした液体……非常に粘性があり、糸を引いたそれは『生きた
最初に湿地帯で見た時とは異なり、巨体であったためか動きは鈍い。ウネウネと不気味に全身をうねらせながら、ズルズルと地を
スライムと呼びはしたが、体は半透明に
死肉を分解した
何処からか飛んできた一匹のハエが、スライムに
「……デス・スライムッ!!」
目の前に現れた『それ』を見て、ザガートが名を叫んだ。