いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
「師匠ッ! 何かヤツの事を知ってるんスか!?」
ザガートが黒いスライムの名を口にしたため、なずみが詳細を問う。
「ああ……スライムは捕食した相手の能力を取り込む。ある一つの個体が、成長限界に達するまで進化を遂げた姿……それがデス・スライムッ!!」
少女の問いに魔王が答える。敵が
相手の実力を脅威に感じたのか、男の
(俺が元いた世界の神話に語り
仲間に早口で説明しながら、魔物の知識の情報源について思いを
「ギショショショショ……俺ヲ知ッテイルトハ、光栄ダナ……異世界ノ魔王ッ!!」
突如黒い液体から不気味な声が発せられた。六十代から七十代の男性のような、しゃがれた老人の声をしており、
スライムの一部がグニョグニョと変形して人の姿へと変わり、上半身だけの、ハゲ頭のマッチョな裸の男性になる。黒一色に染まっていて眼球は存在しない。
「
男性の口の部分がパクパク動いて自己紹介する。ケセフと並ぶ魔王軍の上級幹部である事を教える。
高度な知能を
「リザードマン
スライムが挑発的な言葉を吐いて、邪悪に高笑いした。一気に彼らを絶滅させるのではなく、少しずつ遊ぶように殺していく事で、楽しみを長く持続させる狙いがあったと明かす。
性格の悪さが
「この野郎ッ! よくも……よくも俺達の同胞をッ! 許さねえッ!!」
彼らの誇りを
「俺達は貴様のオモチャじゃねえ!」
「ここで貴様を返り討ちにしてやるッ!」
「うぉぉぉぉおおおおおおーーーーーーーーっっ!!」
他の者達も後に続くように一斉に飛び出す。十人ほどの屈強な男が、槍を手にしながら仲間の
「待てッ! 不用意にヤツに近付くなッ!!」
ザガートが慌てて警告を発する。敵の策に気付いたのか、まんまと安い挑発に乗せられた彼らを止めようとした。だが時
「ギショショショショ……体ガ
技名らしき言葉を叫ぶと、スライムの人型部分の口が大きく開いて、そこから黒い霧状のガスが一気に吐き出される。
彼に襲いかかろうとした十人のリザードマンは、霧のブレスを避ける間もなく喰らってしまう。
「ギャァァァァアアアアアアーーーーーーッッ!!」
先頭にいた一人が、この世の終わりと思えるほどの絶叫を発した。霧のブレスをまともに受けた彼の体が、熱した
スライムの一部と思しき酸の威力は凄まじく、男は十秒と経たないうちに肉も内蔵も溶け出し、骨だけになる。
「ギャアアアアアアッ!」
「ウガアアアアッ!!」
「ボグワァァァアアアアアーーーーッッ!!」
他の男達も酸の霧から逃れられず、ドロドロに溶け出す。彼らの断末魔の悲鳴がこだまして、辺り一帯は阿鼻叫喚の地獄と化した。
……悲鳴が鳴り
「ギッショッショッショッショッ! 全身ガ酸ノ
リザードマンの死体を眺めながら、スライムが嬉しそうに大笑いした。よほど敵を殺せた事が快感だったのか、表情は
黒い裸のハゲのオッサンが、身体をくねらせて喜ぶ姿は、見る者に不快感を与える。
(……だから不用意に近付くなと言ったのだ)
リザードマンが殺された光景を目にして、ザガートが思わず頭を抱え込んだ。
仲間の忠告に従っていれば死なずに済んだかもしれない。にも関わらず頭に血が
それでも魔王は彼らを責めようとは考えない。家族を奪われた悲しみを思えば、敵の挑発に乗せられるのは仕方のない事だと自分に言い聞かせた。
「ギショショショショ……異世界ノ魔王ッ! 次ハ貴様ガ、アノ世ヘト行ク番ダッ! コノ俺自ラ貴様ヲ取リ込ンデ、我ガ体ノ一部トシテクレヨウ!!」
リザードマンの群れを仕留めると、スライムはザガートの方へと向き直る。魔王を体内に取り込み、自らの血肉に変える事を声高に宣言する。
「死ネェェェェエエエエエエーーーーーーッッ!!」
死を宣告する言葉を発すると、黒い津波のような形状へと姿を変えながら突進する。全身を上下に激しくうねらせながら、ザザーーッと波の音を立てて移動する。霧のブレスを吐くのではなく、
彼の動きは人間の走りよりも数段速かったが、それでも極小サイズの時と違って十分に目で追える速さだ。彼が鈍重な巨体で挑んでくれた事は魔王にとって
「フンッ!!」
ザガートは余裕ありげに鼻息を吹かすと、正面に高くジャンプする。スライムの頭上を飛び越えて背後に着地すると、間髪入れず呪文の詠唱に入る。
「ゲヘナの火に焼かれて、消し
魔法の言葉を唱えると、魔王の指先から
「ギャアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」
巨大な炎に包まれたスライムが、天にも届かんばかりの悲鳴を上げる。爆発の威力は凄まじく、スライムは身体が左半分、丸々吹き飛んだ状態になる。
炎はすぐに鎮火したものの、体が吹き飛んだ断面から白煙を立ち
敵に深手を負わせられたと、確信を抱く魔王であったが……。
「……ナァンテナ」
スライムがそう口にしてニヤリと笑う。爆発によって周囲に飛び散った彼の体が、黒い霧となって空に舞い上がり、傷口へと集まってみるみる体を修復していく。彼の体が
「ギショショショショッ! 残念ダッタナァ、異世界ノ魔王ッ! ソノ程度ノ攻撃デハ、俺ハ殺セン!
傷を完治させたスライムが大きな声で笑う。自らの勝利を確信した嬉しさのあまり
「ならば……試してみるか?」
ザガートが意味深に言葉を返す。一撃で仕留められなかった事に焦りを抱く様子は無い。それどころか何か考えがあるように口元を
「
今度は敵に両手のひらを向けながら魔法の言葉を唱えると、魔王の手のひらに青白い光が集まっていく。光は次第に大きくなっていき、ダチョウの卵くらいの大きさになる。
「……
大きな声で呪文名を叫ぶと、手のひらにあった光弾が敵に向けて放たれた。
魔王の攻撃魔法と思しき『それ』が触れた途端、スライムの体が内部から赤く光り出す。ドクンドクンと心臓の鼓動のような音が鳴る。
沸騰したマグマのようにバケモノの体がボコボコと泡立ち、急激に熱が上昇したのか、全身が水蒸気となって蒸発しだす。
「ナッ!? ソンナ馬鹿……ナ……グワァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」
必死に抵抗しようともがいた瞬間、スライムの体が、針を刺した風船のようにバァンッ! と音を立てて破裂した。周囲に飛び散ったスライムの破片も、粒子状に分解されて大気へと散っていき、
熱で焼かれた前回と異なり、原子レベルの崩壊を引き起こしたのか、再生する気配も無い。
以前バハムートを仕留めたのと同じ、最大火力の一撃……それによってスライムを殺したと確信を抱くザガートであったが……。
「……ムッ!?」
次の瞬間、ある異変に気付く。
視界の
「逃がさんッ!」
魔王は
まるでメタルスライムと呼ばれた怪物のように……。
(クソッ……逃げられたッ! 最小サイズになると、あそこまで速く動けるとはッ! 最強呪文を使っても仕留め切れなかった……まんまとしてやられたッ! 完全に戦略ミスだ! 俺の失態だッ!!)
敵を取り逃がしたと知って、魔王が
「やったぁっ!
「ヒャッホーーーーーーイ!!」
「俺たちの勝利だッ!!」
生き残ったリザードマン達が歓声を上げた。村が救われた嬉しさのあまり、ピョンピョン飛び跳ねたり、ワイワイ声に出してはしゃぐ。ルシル達はそんな彼らを見てニッコリ笑う。
誰もが完全にスライムは倒されたと思い込む。極小スライムと魔王の一瞬の攻防に、全く気が付いていない。
「おいザガート、何をそんな辛気臭い顔してるんだ? せっかく敵を倒したんだから、もっと喜べ」
一人浮かない顔をする魔王の背中を、レジーナがバンバンッと手で叩く。
「……倒してなどいない」
ザガートがボソッと小声で
「ヤツは体が爆発する直前、本体であるコアを分離させた。俺はそれに気付いてヤツを仕留めようとしたが、まんまと逃げられた……ヤツは死んでなどいない。体の大半を失いこそしたが、
スライムを仕留め
「そんなぁーーー」
リザードマン達が間の抜けた返事をする。口々に「ああ……」と残念そうにため息を漏らす。村が救われた喜びは一瞬にして冷めて、深い失望感に
残酷な事実を突き付けられて、それを信じたくない気持ち、だが受け入れざるを得ない現状に、頭を抱え込んだ。
「……せめて敵を倒せなかった
ザガートはそう言いながら、スライムの
「我、魔王の名において命じるッ!
天を
天から光が差し込んで白骨死体を
スライムに殺された十人は全員生き返り、一人の犠牲者も出ない状態となる。
「ああ……生きてるッ! 俺、生き返ったぞぉぉぉぉおおおおおおーーーーーーっっ!!」
最初に生き返った一人が大きな歓声を上げた。完全に死んだものとばかり思っていた自分が現世に
「やったぁぁぁぁああああああーーーーーーっ!」
「生き返ったああああああっ!!」
他のリザードマンも次々に歓喜の言葉を漏らす。村人同士が互いに抱き合って、同胞が生き返った喜びを分かち合う。最後は感激のあまりウッウッと泣く。
最初こそスライムを倒せなかった事実に落胆したものの、それでも仲間が生き返った事は、彼らにとって何物にも代え難い喜びがあった。
「で……ではザガート様ッ! ひょっとして、今まで殺された仲間も全員生き返らせられるのでは!?」
一人のリザードマンがそんな言葉を吐く。死者を
他の村人も彼の言葉を聞いて「オオッ」と叫ぶ。父親を殺された少年ジャンも、父が戻ってくるのではないかと期待に目を輝かせた。
「残念ながら……それは無理だ」
ザガートが重苦しい表情になりながら答える。村人の期待に応えられない無力感に打ちのめされて、ガックリと肩を落とす。
「
過去に殺された死者まで
「……すまない」
最後は申し訳なさそうに頭を下げて謝る。表情には苦悩の色が浮かび、声は今にも消え入りそうにか細い。世界を滅ぼす力を持った魔王が、見るからにしょぼくれた顔をしている姿は何とも哀れだ。
「……」
魔王の話を聞かされて村人達は何とも言えない表情になる。
彼らの中に魔王を責める気持ちなどありはしない。むしろこれまでの事を思えば、魔王に感謝したい思いすらあった。逆に自分達が過度な期待を寄せてしまい、英雄に辛い思いをさせたのではないかと後悔の念すら抱く。
誰もが掛ける言葉が見つからず、無言のまま黙り込む。
村が
「貴方様がお謝りになる事など、何も
村を代表する立場として、魔王を責める意思が無い事を伝える。
「そうだそうだ」
「魔王様はよくやってくれた」
「アンタが謝らなきゃいけない事なんて、何もねえ」
他の村人達が、彼の言葉に賛同する。村のために尽力した英雄に
彼らの言葉を聞いて、ザガートの表情に笑顔が戻る。他者に過度な期待を背負わせまいとする村人の健気な態度に、心を救われた気がした。そんな彼らだからこそ助けねばなるまいと、より一層思いを強くする。
「……」
ただジャン少年だけは言葉を発しない。重苦しい表情を浮かべて下を向いたまま黙り込む。他の村人に笑顔が戻る中、彼だけが暗い顔でいる。
ザガートは一瞬どうすべきか悩んだ後、ゆっくりと歩き出す。少年の前に立つと、その場にしゃがんで顔を
「約束を果たせず、すまない」
父の
「……お兄ちゃんは悪くないよ」
ジャンは今にも消え入りそうにか細い声で
少年は責めの言葉を発しなかった。だが胸の内では精一杯我慢したであろう態度が、ザガートには
◇ ◇ ◇
戦いから数時間が経過……外の景色がすっかり暗くなった真夜中。
村から数キロほど離れた湿地帯では
月明かりに照らされて、川
「ゲッ……!!」
歌が始まろうとした瞬間、黒い影のような物体がカエルに飛びかかる。その奇妙な『何か』は最初に一匹を飲み込んだ後、次々と他のカエルに襲いかかる。数十匹いたはずのカエルは十秒と
数十匹のカエルを飲み込んだ黒い物体が、モゾモゾと体を動かした後少しだけ大きくなる。
「ギショショショショ……コレデ勝ッタト思ウナヨ、異世界ノ魔王……次コソハ必ズ、貴様ヲ食ッテヤル……」
スライムはそう口にすると、いなくなったカエルの代わりでも