いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第26話 デス・スライム死すべし

 謎の声に導かれるまま南の森へとやって来た少年ジャン……亡き父と再会する。

 感激のあまり抱き着こうとしたジャンだったが、相手が父の姿に化けたスライムだったと知らされて深く絶望する。悲嘆に()れたジャンを、スライムが飲み込もうとした。

 

 その時、何処からか飛んできた火球がスライムに深手を負わせる。スライムは敵の襲撃を恐れて後退する。

 呆気(あっけ)に取られた少年の前に、一人の男が姿を表す。

 

「キッ、貴様……ザガートッ!!」

 

 男の姿を目にして、スライムが名を叫ぶ。

 その男こそ、ジャンを救出するために森の中へと入った魔王に他ならない。探知魔法を使って少年の居場所を把握し、ここまで追って来たのだ。

 

「ザガート様ッ!」

 

 ルシル達三人が魔王の名を呼びながら、遅れて駆け付ける。彼女達も男の後を追ってこの場に来ていた。

 

「お姉ちゃん……ううっ……うっ……うわああああああんっ!」

 

 ジャンがたまらずに大声で泣き叫びながら、ルシルの胸に抱き着く。命が助かった安心感と、魔物が父に化けていたショックがグチャグチャに混ざり合い、声に出して泣きじゃくる。母親に甘える子供のように泣く。

 

「父ちゃんの声に呼ばれて、森の中に……そしたらスライムが父ちゃんに化けてて……ウッウッ」

 

 ヒクッヒクッと泣きながら、途切れ途切れに言葉を発して、何が起こったかを簡潔に説明する。

 

「………」

 

 深い悲しみに()まれた少年を、ザガートが物()げな表情で見る。何か思う所があったのか、暗い顔をしたまま黙り込んだが、やがて敵の方へと向き直る。

 

「デス・スライム……貴様の使命はリザードマンを降伏させる事。彼らを精神的に追い詰めて殺す事では無いはずだ。にも関わらず、何故こんな真似をする? こんなセコい悪事を働けば、彼らが服従すると本気で考えたのか?」

 

 少年を騙した真意を問い(ただ)す。魔王からすれば、敵のやっている事は非効率的だ。明らかに当初の目的から逸脱した悪趣味な行いは、到底納得の行くものではない。

 

「フンッ……ヤツラヲ服従サセル事ナド、トウニ(アキラ)メタワ」

 

 魔王の問いに、スライムが腹立たしげに鼻息を吹かせながら答える。

 

「ソンナ事ヨリ、ヤツラヲ ジワジワト苦シメテ、絶望ヲ味アワセテ殺ス方ガ、何倍モ楽シイッ! ドレダケ苦シンデ、ドレダケ絶望シテ死ンデイッタカ、ソレヲ食ッテ確カメルノガ、最高ノ()(エツ)ナノダッ!!」

 

 ニタァッと口元を(ゆが)ませると、リザードマンに精神的苦痛を与える快楽に目覚めたと明かす。散々苦しませた末に捕食するのがどれだけ楽しいかを雄弁に語ってみせた。

 

「ジャン……貴様ノ父ハ最高ノ味ダッタゾ。自身ノ無力サ、家族ニ会エナイ無念、ソレラヲ抱イテ、最後マデ息子ニ謝リナガラ死ンデイッタノダカラナ……ギッショッショッショッショ! ギーーロギロギロッ!!」

 

 ジャンの心を奈落に突き落とそうとするように、彼の父が最後に抱いた苦しみを生々しく伝えた。

 

「父ちゃん……ウッウッ……うあああああっ……」

 

 父の無念を知らされて、ジャンが深い悲しみに呑まれる。最後は大きな声でわんわん泣く。目から大粒の涙が(あふ)れ出し、涙と鼻水で顔中グシャグシャに濡れる。

 鋭い(ツメ)で心を深く(えぐ)られた気がして、胸の痛みが治まらない。この世全てが終わった心地がして、生きる希望を失いかけた。

 

 深く傷付いたジャンを、ルシルが優しく抱く。少年を心から()(びん)に思いながら、何度も頭を()でた。掛ける言葉が見つからず、今はそうするより他にしてやれる事が思い付かない。

 

「……不愉快だな」

 

 ザガートがボソッと小声で(つぶや)く。

 敵の()(ぶん)を黙って聞いていた彼だったが、明らかに機嫌を悪くしている。

 発した一言には怒気を含んでおり、表情がみるみるうちに怒りに染まっていく。

 

「……こっちの世界に来てから、ここまで不快な気分にさせられた事は無かった」

 

 そう言葉を続ける。スライムの態度に心象を悪くしたのが一目で分かる。

 

「……デス・スライムッ! 貴様のような下卑(げび)た悪党、一秒たりとも生かしておく価値は無いッ! 魔王の名に賭けて、貴様を(チリ)も残さずこの世から消し去ってくれる!!」

 

 敵の方へと向き直ると、マントを右手でバサっと開いて風にたなびかせながら、死を宣告する言葉を発した。

 

 魔王は内心本気で怒っていた。感情を大きく表に出す事はしなかったが、それでも胸の内には熱いマグマのようなものが煮え(たぎ)る。感情的にならず、あくまで冷静に、論理的に怒っていた。

 

 相手を一分一秒たりとも許しておけない気持ちになる。たとえどんな手を使ってでも、この世から消し去らねばなるまいと決意を抱く。

 いたいけな少年の心を(もてあそ)んだ敵に対する怒りで爆発寸前になる。

 

「ギショショショッ! 貴様(ゴト)キガ、ドウヤッテ俺ヲ殺ソウト言ウノダ? 出来(デキ)モシナイ事ヲ、軽々シク(クチ)ニスルナッ!!」

 

 スライムが()えて挑発的な態度を取る。相手を煽る台詞(セリフ)を吐いて、火に油を注ごうとする。前回の戦いの記憶から、魔王には自分を殺せないだろうとタカを(くく)る。

 

「貴様コソ、(ハラワタ)ヲブチ()ケテ、ブザマニオッ()ネ! ()ラウガイイ! 速射水砲(ウォーター・ガン)ッ!!」

 

 そう叫ぶや(いな)や、人型部分の口が大きく開いて、彼の体液と思しき酸が一筋のレーザーのように発射された。

 リザードマンの肉を容易に溶かす酸が眼前まで迫っていても、魔王は避けようともしない。ただ何もせず棒立ちになる。

 

 敵が回避を諦めたと感じて、ニヤリとほくそ笑んだスライムだったが……。

 

「……何ィィ!?」

 

 数秒後に起こった出来事に、目の色を変えた。

 

 黒い体液がザガートに触れようとした瞬間、目に見えない壁に激突したようにビシャアッ! と弾かれたのだ。酸はボタボタと地面に落下して白煙を立ち(のぼ)らせたが、魔王には一滴たりとも触れていない。

 

 直後彼を覆うように、半透明に青く()けたガラス板のようなものが浮かび上がる。

 

「以前下級スライムと戦った(おり)、体液を飛ばす技を使ってきたのでな……似たような技を持っているだろうと踏んで、事前にバリアを張っておいた」

 

 下位のスライムとの戦闘経験から、敵が切り札を隠し持っていた事、それに備えて防御の結界を張っていた事を明かす。

 

「スライムよ……恐らく速射水砲(ウォーター・ガン)とやらが、(もっと)も貫通力に優れた奥の手だったのだろう。という事は、だ。今の一撃で破れなければ、この先ブレスを吐こうが体当たりしようが、バリアを破れはしない。貴様に俺を殺す方法は一つとして残されていないという事になる」

 

 先ほど防いだものが最大威力の一撃だったと見抜いて、自分を殺す手段が無くなったと伝える。

 

「ヌッ……グヌゥゥゥゥウウウウウウッ!!」

 

 勝利宣言を突き付けられて、スライムが思わず声に出して(うな)る。相手の言葉に反論できない悔しさのあまり、割れんばかりの勢いで歯(ぎし)りする。激しい勢いで頭部を()(むし)る。

 言い返したいのは山々だが、魔王の指摘は的を()ており、ぐうの()も出ない。

 ただ黙って相手の()(ぶん)を聞き入れるしか無い。

 

「ダ……ダガ魔王ヨッ! 俺ガ貴様ヲ殺セナイヨウニ、貴様モ俺ヲ殺セナイデハナイカッ!!」

 

 スライムが苦し(まぎ)れに負け惜しみを吐く。魔王を殺す手札を全て失った彼だったが、それでも自分が殺されなければ立場は同じだと主張する。自分を殺す手段が無いとタカを(くく)り、精一杯プライドを保とうとした。

 

「俺がお前を殺せないかどうか……試してみるか?」

 

 魔王がそう口にして意味深にニヤリと笑う。明らかに何かしらの勝算を抱いている事が(うかが)える。

 直後(ふところ)から数珠(じゅず)を取り出すと、スライムの頭上めがけて放り投げた。

 

「……絶対幽閉監獄(アブソリュート・プリズン)ッ!!」

 

 両手で(いん)を結ぶと魔法の言葉を唱える。すると数珠の(ひも)がパァーーーンッ! と破裂音を立てて消し飛び、三十個ほどの黒い玉が宙に浮いたまま、スライムの頭上に円を描くように広がる。

 次の瞬間、半透明に()けた水色のバリアが、スライムを(かこ)むように円錐(えんすい)状に張り巡らされた。その結界は空に浮かぶ数珠が描いた円と同じ大きさに広がる。

 

「グッ……ナンダコレハッ! ナンダコレハァァァァアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」

 

 一瞬何が起こったか全く理解できず、スライムが大きな声で叫ぶ。結界をブチ破ろうと体当たりしたものの、バリアはダイヤモンドの壁のように分厚く、何度体をぶつけてもガンガンッと音が鳴って弾かれるだけだ。(おり)の中に入れられたライオンのように暴れても、ビクともしない。

 ならばと今度は地中に潜ってみたが、バリアは地下にも逆円錐状に張り巡らされており、スライムの行く手を(はば)む。完全に逃げ道を(ふさ)がれた状態になる。

 

「これが貴様を幽閉するために用意した檻……絶対幽閉監獄(アブソリュート・プリズン)ッ! 数珠を作る手間を()かなければ発動できない(ゆえ)に、即興で使える技ではないが……一旦発動すれば、如何(いか)なる物理法則を(もち)いようと決して破れはしないッ!!」

 

 ザガートが敵を閉じ込めたバリアについて得意げに語る。彼が小屋の中で細かい作業をしていたのは内職していた訳ではなく、このための準備であった。

 

「この俺が滅多に使わない奥の手……それを使わせたのだッ! スライムよッ! その事を誇りに思いながら死んでゆくがいいッ!!」

 

 敵に逃れられない死を突き付けると、またも両手で(いん)を結んで呪文の詠唱を始める。

 

「開け地獄の門ッ! 断罪の炎を解き放ち、全てを灰塵(かいじん)に帰せッ! 爆炎焦熱地獄(ヴォルカニックインフェルノ)ッ!!」

 

 極大魔法を唱えると、結界の中心でバチバチッと電気がスパークする。

 次の瞬間それによって発火したようにドォォーーーンッ! と大きな爆発音が鳴り、結界内部の空気が一瞬にして灼熱の業火で満たされた。

 

「ギャァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」

 

 スライムが天にも届かんばかりの悲鳴を発する。太陽の中心温度に匹敵する炎に全身を焼かれる痛みに(あや)うく気を失いかけた。

 炎はいつまで()っても鎮火する事なく轟々(ごうごう)と燃え盛る。対象者が死ぬまで消えないぞと言わんばかりに燃え続ける。

 

(アヅ)イッ! 熱イッ! (イダ)イッ! 苦シイ! 嫌ダッ! 死ニタクナイ! 死ニタクナイ! ザガート……イヤ魔王サマッ! ドウカ……ドウカ命ダケハ、オ助ケヲヲヲヲヲヲヲッ!!」

 

 化け物が声に出して(もだ)え苦しみながら激しく暴れる。バリアに閉じ込められたまま死を待つだけとなった事実になりふり構っていられず、たまらずに命乞いする。もはや魔族のプライドなど、どうでも良くなった。

 

「フンッ……散々人を見下した態度を取っておきながら、今更(いまさら)命乞いとはな」

 

 ザガートが腕組みしてふんぞり返りながら鼻で笑う。この()に及んで手のひらを返した敵を心底見下す。

 

「……だが貴様を助けてやる気は無いッ! 今まで貴様がリザードマン達に与えたのと同じ苦しみを味わいながら、あの世へと行けッ! これまで苦しめてきた連中に、せいぜい()びるがいいッ!!」

 

 相手の要求を一蹴して、死後の反省を(うな)させた。

 たとえスライムが心から服従の意を示したとしても、魔王に許す気は皆無だった。敵は相応の(むく)いを受けなければならないだけの事をしたのだから。

 

「ギャアアアアアアアアッ! 嫌ダ……死ニタクナイ……死ニタ……クナ……」

 

 スライムはひとしきり大きな声で叫ぶと、最後は力を振り絞ったように小声で(ささや)く。それすらも途絶えると、完全に沈黙する。

 

 結界内の黒い液体が一滴も無くなっても、炎は念入りに(とど)めを刺すように数分ほど燃えたが、やがて急速に鎮火する。それと同時にスライムを閉じ込めたバリアも消滅し、数珠は地面に落下してただの泥土になる。

 

 直後、空中のある一点に青い光が集まっていき、一つの宝玉を形作る。

 それはゆっくりと落下していき、ザガートの手元に収まる。

 (まばゆ)い光を放つガラスのような半透明の球体に、()(うし)座の紋章が刻まれていた。

 

 それが大魔王の城に行くために必要な十二の宝玉の一つだと見抜いて、ザガートがサッと(ふところ)にしまう。宝玉が現れた事によって、スライムが死んだであろう事実も理解した。

 

(本来、森全体を焼き払う規模の炎……それを結界内部に凝縮させたのだ。さぞかし熱かっただろう。だが貴様がこれまで他人に与えたのと同じ苦しみを味あわせるには、これでもまだ足りない……)

 

 最後はスライムが死んだ地点を眺めながら物思いに(ふけ)る。

 発動させた術の威力、それによって、一度は取り逃がした相手を完全に殺せた達成感に(ひた)るのだった。

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