いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
周囲を暗雲に覆われて、太陽の光が一切届かない空間……そこに魔王城はあった。外壁は血のような赤色に染まり、有刺鉄線のような
骨にへばり付いた肉を食べようと、数羽のカラスが群がっている。ゴキブリやムカデがカササッと床を
城の最新部にある玉座の間……大魔王アザトホースが眠るように目を閉じたまま宙に浮かんでいると、何者かが駆け込んできて大扉を開ける。
「陛下、瞑想中の所失礼を
そう言って入ってきたのは一人のオークだった。フルプレートの鎧に身を固めて槍で武装しており、他の個体よりも体が大きい。背丈は三メートルほどある。
鎧の左胸には階級を表すらしき星の紋章が刻まれており、城の警備隊長であろうと思われた。
「ご報告申し上げますッ! デス・スライム様が異世界の魔王にお敗れになられましたッ!!」
大魔王の前まで来て
「ンンンンッ……」
アザトホースが突如
「ヌゥゥゥウウウウウ……ヨクモ……ヨクモ
それまで閉じていた何十個とある目が全て開かれると、大地が割れんばかりの怒号を発する。大魔王の怒りの叫びは城全体に響き渡るほど大きく、床が激しく揺れて、空気がビリビリと振動する。それだけで並みの攻撃魔法に匹敵する破壊力だった。
「ひぃぃぃぃいいいいいいっ!!」
オークが情けない悲鳴を発する。主君が激怒した姿を目の当たりにして、オシッコを漏らしかねないほど驚く。恐怖のあまり腰を抜かしてしまい、地べたに
「ハァ……ハァ……ハァ……」
大きな声を出し過ぎて疲れたのか、大魔王の息が上がる。体を上下に揺らしながら、何処にあるか分からない口で激しく息をする。疲れた事を表すように触手がグッタリする。
「オークロードヨ……ヤツヲ……魔界大公爵アスタロトヲ、ココニ呼ベッ!」
やがて呼吸を落ち着けると、部下らしき者の名を口にして、謁見の間に連れてくるよう命じる。
「はっ!」
オークロードはすぐに正気を取り戻して立ち上がると、謁見の間から早足で出ていく。
◇ ◇ ◇
豚頭が出ていって数分が経過した頃……一人の男が部屋へと入ってくる。
その者はザガートと同様に、人の姿をした悪魔……
彼と大きく異なるのは西洋人のような白い肌をしていた事、ウェーブが掛かった紫色の髪をしていた事だ。衣服に宝石を散りばめた豪華な装飾をしており、より貴族らしさを強調した見た目になっている。背中のマントは一見ボロボロだったが、よく見てみるとカラスのような黒い羽になっている。
ワイルドな男らしさを感じさせるザガートとは対照的に、中性的で
アスタロトであろうと思われる人物は、大魔王の前まで来て
「魔界大公爵アスタロト、陛下の命により参上つかまつりました。それでご用件とは、何でございましょう」
丁重に頭を下げて
声はねっとりしていて、ダンディで色気がある。色男を感じさせる喋り方は、女性を口説くのが得意そうだ。
「異界ノ魔王ザガート……ヤツノ始末ヲ、貴様ニ
アザトホースが
「はて……彼が向かった場所にはデス・スライム殿がいたはずでは?」
主君の言葉を聞いて、アスタロトが首を
「デス・スライムハ……ヤツニ
大魔王は口惜しそうに顔を
「ほう……」
主君とは対照的に、アスタロトが不敵な笑みを浮かべる。仲間の死を知らされても悲しむ素振りは
しばらく
「……分かりました。このアスタロト、必ずや陛下のご期待にそえるよう尽力しましょう」
すぐさま立ち上がると、頼もしげな言葉を吐いて了解する。
「アスタロト……クレグレモ油断スルナ。ヤツハ強イ。ソノ
去りゆく部下の背中に大魔王が
「……油断などしませんとも」
上司の忠告に、アスタロトがニヤリと口元を
◇ ◇ ◇
リザードマンの村を救ったザガート達は、地図に書かれた三つめの宝玉がある地を目指して歩く。湿地帯を抜けて山を越えて、森を抜けて開けた平原を突き進む。
夜が来れば結界で覆ったテントに寝泊まりし、朝が来れば再び歩き出す。旅の道程で何度か魔物に襲われたが、魔王が返り討ちにする。
平原には馬車が通る
三つめの宝玉がある場所まで、およそ数キロの地点に来た時……。
「この道をまっすぐ進むと、城塞都市グラナダがある。そこそこ大きくて、栄えた町だぞ」
レジーナが平原の彼方を指差しながら口を開く。
「
なずみが王女に問いかける。
「ああ……そこの領主と私は顔見知りなんだ。何しろ私は一国の王女だからな」
仲間の疑問に王女が答える。都市を治める人物と自分が旧知の間柄である事を伝えて、腰に手を当てながら得意げなドヤ顔になる。
「ん? おお……そうか。そう言えばお前が王女だという事を、すっかり忘れてた。何しろちっとも王女様らしくない脳筋ゴリラ女だったのでな」
ザガートがすっとぼけた口調で言う。冗談とも本気とも付かない言葉を真顔で発して王女をからかう。
「きっ……貴様ッ! 人が心の中で
レジーナが顔を真っ赤にして怒り出す。頭に血が
「王女様、落ち着いて下さいっ!」
「姐さん、いちいち師匠の言葉に乗せられたら身が持たないッスよ!!」
ルシルとなずみが慌てて王女を止めようとする。なだめる言葉を掛けながら後ろから捕まえて、力ずくで引き
当のザガートは彼女の力程度では死なないので、気の済むようにさせる。首を絞められても痛がる素振りを全く見せず、空をボーッと眺めて、蝶々を目で追いかける。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
やがて王女の息が上がる。魔王の首を絞めるのをやめて、
「……本気で気分を害したなら謝る」
疲れた王女に魔王が
「別に……本気で怒っちゃいない。いつもの悪ふざけだという事は分かっていた」
レジーナが額に噴き出た汗を腕で
魔王も安心したように微笑み返し、止めていた足を動かす。レジーナとなずみは彼の後に続いて歩き出し、一行はグラナダの町を目指して進む。
「……」
ルシルは三人に遅れて歩きながら、思い詰めた表情をする。心にモヤモヤを抱えながら、口には出せない。
彼女は内心、ザガートと王女の関係をうらやましいと思った。
魔王は明らかに王女にちょっかいを出したがっている。わざとからかうような言動をして、反応を楽しんでいる。ムキになる姿に、イタズラ心を刺激されるのだろうか。
王女も本気で怒ってはいない。表面上怒った素振りは見せるが、心の中では悪意が無い事を見抜いている。ボケとツッコミの関係が成り立っている。
漫才の相方のような信頼関係にある二人をうらやましいと感じながら、自分にはそれが出来ない事をルシルは分かっていた。魔王の三人への接し方はそれぞれ異なる
◇ ◇ ◇
数分ほど歩くと、町を取り
兵士の片割れが、町を目指してやってくる魔王の姿を目にした途端……。
「うっ……うわあああああっ! あっ……
大きな声で叫んで慌てふためく。表情は一瞬にして青ざめて、手足の震えが止まらなくなる。恐怖のあまり蛇に
「落ち着け、バカっ! ヒルデブルク国王から、一行の特徴と人相書きが出回っただろう! 彼は異世界から来た魔王だっ!!」
もう一人の男が、早口で
「へ!? ととと、という事は、貴方様が
兵士は一瞬ポカーンと口を開けた後、すぐ正気に戻って頭を下げる。素性を見抜けなかった非礼を
「あ、ああ……そうさせてもらう」
ザガートは二人のやりとりを
◇ ◇ ◇
城門を通り抜けると、目の前に大きな町が広がる。石造りの丈夫そうな建物が見渡す限りズラッと立ち並ぶ風景は見る者を圧倒する。総人口は一万人を超えそうだ。
表通りは商店街になっており、昼間から多数の人で
人々の活気は魔族に平和を
裏通りは住宅街が立ち並ぶ。日の光が届かない場所を兵士達がこまめに巡回しており、治安は良さげだ。ゴミも捨てられておらず、清潔な印象を持たせる。
レジーナが言っていた通り、かなり規模の大きな町だ。大都市と呼んでも差し支えない。
ザガートが仲間を引き連れて表通りを歩くと、観衆の目が向けられる。
「あれが異世界から来た魔王……」
「なんて恐ろしい悪魔のような姿だ」
「見た目に反して、性格は優しいらしいぞ」
「よく見るとイケメンだわ」
人々が口々に魔王の
町の住人の反応は様々だ。ただならぬ気配に
反応は異なるものの、皆の視線が魔王へと向けられる。けれども、誰も声を掛けたり近寄ろうとしない。やはり心の中では、
大人の間に魔王に近寄れない空気が漂った時、それを無視するように一人の子供が駆け出す。七歳くらいに見える少年は場の空気を読まずタタタッと走っていき、魔王の前に立つと顔を上げる。
「まおう様ーーっ、あくしゅしてーー」
そう言って両手を差し出す。少年は無邪気な笑顔を浮かべて、目はキラキラ輝く。魔王に恐れを抱く様子は
「ああ……構わない」
ザガートは穏やかな笑みを浮かべて承諾すると、その場にしゃがんで少年の手をガッチリ握る。最後は優しく頭を
「おっ……うぉぉぉぉおおおおおおーーーーーーーーっっ!!」
男の少年への対応に、感極まった町の住人が思わず歓声を上げた。恐ろしい姿をした悪魔が、父親のような態度を見せた事に、感激せずにいられない。
これまで抱えた不安は一瞬にして吹き飛び、町の声が魔王への称賛一色に染まる。誰もが彼を英雄と認め、心から
少年の母親と思われる人物は最初こそ恐れを
(やれやれ……だが悪くはない)
ザガートは街中の注目を集めた事に困った顔しながら、内心
表通りが騒がしくなった時、騒ぎを聞き付けたように一頭の馬がやってくる。馬の上に一人の男性が乗っている。その男性は長身の
男性は一行の前まで来て止まると、すぐに馬から下りてその場に平伏する。
「王女殿下、こちらにおられましたかッ! 貴方様が町を訪れたと門番の者から聞き、探しておりましたぞッ!!」
そう言ってレジーナに頭を下げる。かしこまった態度から察するに、領主の使いのようだ。
「グスタフ、グスタフじゃないかっ! 相変わらず元気そうで何よりだ! ハウザー
レジーナが開口一番に駆け寄る。男性の前にしゃがんで目線を合わせると、親しげに言葉を掛けた。
「
なずみが、王女の顔なじみであろうと思われる男性の素性を問う。
「ああ……彼はグスタフと言って、グラナダ領主ハウザー卿に長年仕える執事だ。私が幼い頃から何度も顔を合わせていて、信頼できる人物だ」
仲間の疑問に王女が答える。領主の忠実な臣下であった事、長年の付き合いがあり、互いによく知った間柄である事を教える。
「それでグスタフ、ずいぶん慌てていたようだが、私に何か急用か?」
王女は執事の男に自分を探していた理由を問う。
「はっ! 王女殿下並びに異世界の魔王様、そのお仲間の方々! ハウザー様が、至急貴方がたを屋敷にお連れするようにとの事です!
グスタフが早口で用件を述べる。領主から一行を連れてくるよう命じられた事、その
「分かった。事情は館に着いてから改めて聞く事にする。今は先を急ごう」
ザガートが男の頼みを二つ返事で了解する。一刻の
執事が感謝するように深く頭を下げると、一連のやりとりを見ていた町の兵士が人数分の馬を用意する。全員が馬の背に乗り、
屋敷に向かう準備が整うと、グスタフが「ハイヤーー!」と叫んで馬を走らす。一行は彼の後ろに付いていく。五頭の馬が砂
表通りから去ってゆく彼らを、街の住人は手を振って見送った。