いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
町の中央にそびえ立つ、三階建ての大きな洋館……ホラー映画に出てきたら確実に舞台になってそうな建築物は、一目で領主が住む屋敷だと分かった。
正門の前には初代領主と思しき銅像が建てられており、足元に文字の書かれた石碑が置かれている。
屋敷の正面に
一行は広場に到着すると、馬から下りて屋敷へと歩き出す。馬は
大扉を開けて屋敷の中へ入ると、一人の男が早足で階段を下りてくる。
その者は四十代から五十代に見える男性だが、老いを感じさせない
王侯貴族の服を着ていたが、引き締まった体格は日々の鍛錬を感じさせるものがあり、年中椅子に座っていた訳では無さそうだ。魔物が襲撃すれば、剣を手に取り鎧を着て、自ら戦場に
「おお、レジーナ王女殿下……それに異世界の魔王様ッ! よくぞ……よくぞ参られた! 貴方がたの到着を心よりお待ちしておりました!!」
ハウザー卿であろうと思われる男は歓迎の
「お久しぶりです、ハウザー卿!
レジーナが再会の感動を言葉にしながら、ガッチリ握手を交わす。しばらく会っていない旧友が無事だった事を心から喜ぶ。
「ハウザー様、ご命令通り、異世界の魔王様
グスタフが使命の遂行を報告して頭を下げる。
「ウム……ご苦労であった」
領主も
「積もる話もあるだろうが、急を
ザガートが
「分かりました。娘の部屋に案内しましょう」
ハウザーは
階段を進んで二階へと上がり、廊下の突き当たりにあるドアをノックしてから開けて中へ入る。
娘の部屋と思しき一室は床にワインレッドの
中央のベッドに一人の少女が寝かされている。年は十二歳くらいで、長めの髪は金色に染まり、顔立ちは整っている。庶民離れした、フランス人形のような美貌がある。
だが目を閉じて眠ったままウンウンと声に出してうなされており、目覚める気配が無い。熱を出しており、顔が赤く、呼吸は荒い。
娘の
彼女は娘を心配そうな表情で見守り、額の汗をタオルで
「ノーラよ、異世界の魔王様をお連れしたぞ!」
部屋に入るや
彼の言葉を聞いて、ノーラという名で呼ばれた女性がベッドの
「ああ、貴方っ! これで……これでルカの病気が治るかもしれませんのねっ! この時をどれほど待ち
感激の言葉を漏らしながら夫婦で抱き合う。最後はウッウッと声に出してむせび泣く。愛する娘が助かる希望で胸がいっぱいになる。よほど心労が重なったのか、女性の顔は少しやつれていた。
「その娘が、俺をここに呼んだ理由……という訳か」
ザガートが一連のやりとりを見て状況を察する。
寝たきりの少女、夫婦の会話……それらを
「ええ……我々の身に何があったか、お話しましょう」
ハウザーが重苦しい表情で口を開く。
「一週間ほど前の事……魔王軍の手先を名乗る男が屋敷を訪れました。魔界大公爵アスタロトの部下だとか。彼は私にこう言いました。街の住人の命を
魔族の使者が屋敷を訪れた事、邪悪な取引を持ちかけられた事を教える。
「無論そんな事できるかっ! と即答で断りました。そしたら彼は腹いせとばかりに、私の娘に呪いを掛けていったのです。魔王軍に逆らう者はこうなるのだ、と捨て
相手の要求をはねのけた事、それによって娘が呪いを掛けられたと語る。
「それから娘はずっと眠ったままです。しかも日を追うごとに症状は重くなり、体は衰弱していく……古今東西の優れた医者、回復系の魔道士、有名な薬草を集めましたが、どれも効果がありません。
八方手を尽くしたものの、病気が治らない事、娘の命が長くない事を口にする。
話が後半に差し掛かるに連れて、領主の声のトーンがどんどん暗くなる。下を向いたまま、
「……お願いですッ! どうか……どうかルカの命を助けて下さいッ! 無礼は重々承知しておりますッ! けれど、もう貴方様に頼る以外、他に方法が無いのですッ! ルカに先立たれてしまったら、私は……私はッ!!」
突如顔を上げて物凄い勢いで駆け寄っていくと、魔王の両肩を
大の大人が悲嘆に
「………」
領主の話を聞かされて、ザガートはしばし黙り込む。これまで得た情報を頭の中で整理しながらあれこれ考える。
領主は他に手が無いと言ったが、魔王軍の要求を
にも関わらず、領主は
魔王は内心、彼の
今回の事件が宝玉集めに関わっているとは断定できない。だが愛する娘の病気に苦悩する夫婦を放っておけない義憤に駆られた。罪なき者が悪人に苦しめられる事があってはならないと考えた。
何より、困窮して自分を頼ってきた者を
「……出来るだけの事はしてみよう」
そう言うと、少女が寝かされたベッドの方へと歩いていく。
魔王が、高熱でうなされたまま眠る娘の顔を
「……ムッ!?」
突如異変を察知して、慌てて後ろへと下がる。
その直後、少女の頭上に半透明に
時計の針は『九』を指していたが、そこから一時間進んで『十』を指す。
すると少女の表情が一変して、「ウーッ、ウーッ」と声に出して苦しみ出す。
「娘が呪いを掛けられた時、頭上にこれが浮かび上がったのです! 時計は普段姿を隠していて、針が進む時だけ姿を表す! 針が進むたびに娘の病状は悪化する! ああ……もし時計の針が『十二』を指したら、その時ルカの命は尽きるでしょう!!」
ハウザーが時計を指差しながら早口で説明する。娘の命を奪わんとする呪いを憎々しげな表情で
(これは……死の宣告ッ! 時間差で発動する、高等の即死系魔法ッ!!)
時計の幻覚を目の当たりにして、ザガートが呪いの正体に気付く。
それは病気や毒などという生温いものではなく、確実に少女を死へと追いやる恐ろしい力だった。並の術者の仕業ではない……そんな言葉が頭をよぎる。
思った以上に厄介な敵のようだと男は考えた。
「フフフッ……」
魔王が考え事をしていた時、部屋の
「そこにいるのは誰だッ!」
ザガートは反射的にそう叫びながら、机の上にあった
部屋の隅へと飛んでいった鉛筆は何も無い空中でピタッと止まる。その直後、鉛筆を手で
ワープしてきた訳ではない。その者は最初から、そこに立っていたのだ。
「クククッ……俺の居場所に気付くたぁ、なかなかやるじゃねえか……異世界の魔王サマよぉ」
姿を現した男が不敵に笑う。透明化がバレた事に焦りを抱く様子は
その者は二メートルの長身だが、猫背で
高位の司祭のような法衣を
見た目だけなら老人の不審者に思えなくもなかったが、これまでの流れから魔族の手先である事は明白だ。
「……お前がルカに呪いを掛けた張本人か」
ザガートが相手を敵視する目で見ながら問い
魔王の問いに、老人がニヤリと口元を
「
自ら少女に呪いを掛けた張本人である事実を明かす。
「ああ、お前はッ! まさか……今までずっと、この部屋に潜んでいたというのか!?」
男の姿を見てハウザーが
無理もない。事もあろうに、呪いを掛けた張本人が娘の部屋にいたのだから。もし他に誰もいない二人きりの時があったのだとしたら、いつでも首を絞めて殺せたし、
「クククッ……安心しな。俺様だって、ずっと部屋にいるほど
ハウザーの疑問に男が笑いながら答える。慌てふためく領主の姿を見て、心の底から楽しそうにニヤつく。
「さて、ハウザーさんよ……改めて聞くぜ。魔族の要求に従う気になったか? もしこのまま従わねえってんなら、アンタの娘はオダブツだぜ。全身の穴という穴から血を吹いて、体が焼けるような激痛に
領主に改めて問いかける。要求を
「ああっ、ルカ……」
悲しみに打ちひしがれたノーラが、床に
ハウザーは悲しむ妻の肩に手を掛けたものの
ルシル達三人は何も出来ず、ただ状況を見守るしかない。レジーナはもどかしさのあまり、血が出るほど強く下唇を噛む。
少女の生存を絶望視する雰囲気が辺りに漂って、場の空気がどんよりと重くなる。部屋に吹き抜ける風が
誰もがルカは助からないのだと確信を抱く。
……一人の男を除いては。
「呪いが解けないかどうか……試してみるか?」
ザガートはそう口にすると、ベッドに向かってズカズカと歩く。今にも命が尽きようとする少女を眺めながら、何やら考え込んでいたが……。
「我、魔王の名において命じる……呪いよ消え去れッ!
右手を少女の頭上にかざして魔法の言葉を唱える。するとルカの体が金色の
時計の幻覚が少女の頭上に浮かび上がった後、
熱が急激に下がったのか肌の
やがて全身を覆っていた光が消えた時……。
「ん……パパ、ママ……?」
ルカがゆっくりと目を開ける。上半身を起こして眠たそうに
少女は単に意識が目覚めただけでなく、消耗したはずの体力も全快していた。魔王が掛けた術は呪いを解くのみならず、スタミナまでも回復させたようだ。
「ああ……ルカ……ルカぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」
「おお我が娘よッ! よくぞ……よくぞ元気になってくれた!!」
ノーラとハウザーが感激の言葉を漏らす。娘の呪いが解けた喜びのあまり胸がはち切れそうになり、思わず大声で叫びながらベッドへ駆け出す。もう絶対に離さんとする勢いで二人してルカを強く抱き締めた。
「むぐぐ……パパ、ママ……苦しい」
両親にぎゅうっと抱き締められて、ルカがジタバタと暴れる。だが最後は抵抗をやめて二人の
夫婦がウッウッと嬉し涙を流し、娘は二人を優しく抱き返す。
親子三人が抱き合う姿を、他の者は安心したように見つめていたが……。
「なななっ……何故だぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーっっ!!」
アーリマンが突如大きな声で叫ぶ。少女の呪いが解けた事がよほどショックだったのか、この世の終わりが訪れたように顔面
「何故だッ! 何故だッ! 何故なんだッ! どうしてだ! こんなのありえない! 絶対ありえない! これは何かの間違いだッ! こんな事、絶対に起こる
発狂したように
完全に想定外の事態が起こったあまり、正気を失いかけた。
それは彼にとって、決してあってはならない事だった。たとえ天地がひっくり返ろうとも破られる事など無いと確信したはずの術が、いともたやすく破られたのだ。しかも伝説の薬草を
「ハァハァ……この魔術は
叫び疲れて気持ちが落ち着いたのか、アーリマンが冷静さを取り戻す。激しく息を切らせながら、頭の中に湧き上がった疑問を口にする。渾身の術を破られた事にどうしても納得が行かず、声に出して問わずにいられない。
「俺をそこいらの冒険者と同列に扱われては困る……」
ザガートが
「アーリマンよッ! 俺の持つ力は、貴様らが仕える主君である大魔王アザトホースと同等であると、肝に
正面に右手をかざすと、自らが大魔王に匹敵する存在である事を高らかに宣言して疑問への答えとした。
「ぬっ……抜かせぇぇぇぇええええええーーーーーーーーっっ!!」
アーリマンが大声で叫んで激高する。目をグワッと見開いた阿修羅のような顔になり、
「そこまで大口を叩くなら、証明してみせるがいいッ! ブブドラ、ボボドラ、ゼハムーチョカイネ……」
そう叫ぶや
「目覚めぬ眠りに落ちて、死へと
最後は両手の人差し指を相手に向けて、技名らしき言葉を叫ぶ。すると指先から紫に輝く光線が放たれた。
「
ザガートが相手の行動に即座に反応する。両手で
紫の光線は結界に触れると、飛んできた方角へと跳ね返されて、唱えた本人であるアーリマンに命中する。直後男の頭上に巨大な時計が浮かび上がる。
「何ィィ!? しまったぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」
術の効果を跳ね返された事に
そうこうしてる間に時計の針が進んで、『一』の時刻を指す。
「
ザガートが間髪入れずに魔法を唱える。魔王の指先から放たれた赤色の光線がアーリマンに命中すると、時計の針が物凄い速さで進んでいき、あっという間に一周して『十二』を指す。それと同時にゴーン、ゴーンと大きな音が鳴る。
「ウッ……ウギャアアアアアアアアアアアアッッ!!」
針が一周した途端、アーリマンが天にも届かんばかりの悲鳴を発する。グルンと白目を
「ソンナ……馬鹿……ナ……」
無念そうに言葉を吐くと、ガクッと力尽きて息絶えた。その直後、全身からシュウウッと白い蒸気のようなものが立ち
それは『死の宣告』の効果によるものと思われた。
(ルカをこんな姿にするつもりでいたとは……つくづくふざけた悪党だ)
白骨化した死体を、ザガートが侮蔑するような目で見る。いたいけな少女を
「これが俺の下した罰だ……
腹立たしげに吐き捨てると、骸骨の頭を力任せに足で踏み