いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
ルシルとザガートが
「ああっ! そんな……」
ルシルが突然悲鳴を上げて顔面
彼女の視線の先に村があったが、あちこちから火の手が上がっていて、住民の泣き叫ぶ声がこだまする。何らかの危機に見舞われている事を察するには、それだけで十分だった。
二人が慌てて村の入口まで駆け付けると、武装したモンスターの集団が村を襲っている。
その者たち、人間の大人より高い背丈をして、力士のように肥え太った体格をしており、露出度の高い軽装の鎧を身に
オークは視界に入っただけでざっと十匹以上いたが、村の大きさと、村全体に彼らが
「男ハ殺セッ! 女ハ犯セッ! 金目ノ物ハ全テ奪エッ! ヤツラニ何一ツトシテ残シテヤル事ハ無イッ! 金モ女モ、全テ俺達ノ物ッ! グッヒッヒッヒッヒッ!!」
彼らのリーダーと思しき一匹が、下品な言葉を口走る。
オークの群れは特に目標を狙うでもなく、無差別に村を
村の男性数人が武器を手に取り
「ああっ……」
惨劇を目の当たりにして、ルシルが絶望に激しく打ちのめされた。生まれ育った故郷が焼かれて村人が殺されていく光景に、深い悲しみに染まる。
完全に心が折れたように内股になってへたり込む。目にうっすらと涙が浮かんで、今にも泣きそうになる。
「お願いします、ザガート様っ! どうか……どうか村を救って下さい!!」
やがて
虫のいい話だという事は、彼女自身にも分かっていた。今まで散々警戒する態度を見せたのに、自身の村が危機に
でも今はこうするより他に手が無い。何の助けも得られなければ、村人が皆殺しにされるのは確実なのだ。もはやなりふり構ってなどいられない。
「村を救ってくれたら、なっ……何でもしますっ!」
……思わずそんな言葉が口を
何の報酬も提示せずにお願いだけするのは虫が良すぎると感じたが、かといって彼女が与えられるものなど何も無い。せめて自分を報酬として差し出すくらいしか思い付かなかった。それで村が救えるなら、いっそ自分はどうなってもいいとさえ思えた。
「何でもする……か。フンッ、悪くはない」
少女の言葉を聞いて魔王が不敵に笑う。
「小娘……いやルシルッ! お前の願い、しかと聞き届けた! 村まで案内してもらった恩もある。受けた恩は必ず返さなければならない……この村は必ず救うと約束しよう!!」
二人がそうしたやり取りをしていると、群れの先頭にいた一匹のオークが彼らの方へと近付いてくる。
「オイ、ソコノ
ザガートを同族とみなして、破壊活動に加わるよう誘いを掛けた。フゴフゴと興奮するように鼻息を荒くして、口からはダラダラと
ゴブリンと比べて友好的ではあったが、やはり品性下劣な化け物だという印象に変わりはない。
「……仲間ではない」
ザガートがボソッと小声で
「
正面に右手をかざすと、自分が異界の魔王である事を高らかに宣言してみせた。
「ハァ? 異世界カラ来タ魔王? チョットオ前、ナニ言ッテ……」
オークは男の言っている意味が全く理解できず、チンプンカンプンになりながら首を
「地より生まれし者腐れ落ち、大地に
困惑する豚頭を無視してザガートが攻撃魔法を唱える。
魔法名を口にした途端、男の手から黒い霧のような
「ウッ……ウギャァァァァアアアアアアーーーーーーッッ!!」
豚頭の口から、この世の終わりと思えるほどの絶叫が放たれた。
黒い霧に触れた途端、オークの体が強酸に触れたようにドロドロに溶かされていき、みるみるうちに皮膚も内蔵も溶け落ちて骨だけになる。肉が溶けた液体は瞬時に蒸発して、後には肉片も残らない。
黒い霧は次々に他のオークへと襲いかかって、村中に魔物の悲鳴が響き渡る。
やがて数分と
黒い霧の正体は、有機物を高速で分解する空気感染型バクテリアの集合体であり、一度触れたら逃れる
効果は村全体に及ぶが、術者が明確に敵と認識した者のみを襲い、村人には一切被害を及ぼさない。
「………」
オークが惨殺されていく
ゴブリンの時は恐怖で足がすくんだものの、二度目だけあってさほど大きな驚きは無い。体が溶かされる苦痛でもがいて死んだ彼らを
ザガートが敵でなくて良かった……心底そう思わずにいられない。
「おおルシル、無事だったか!」
ルシルが物思いに
「あの方が、私の命を助けてくれて……」
少女がそう言いながら魔王を指差した時、突然ドスンドスンッと大きな音が鳴る。
村の奥の方から、大きな人影がザガート達に向かって歩いてくる。よほど重量があるのか、歩くたびに村全体が揺れんばかりの地響きが鳴る。
その人型の怪物は背丈四メートルほどあり、引き締まった屈強な体付きをしている。上半身は裸だが下半身は毛で覆われており、皮膚は赤茶色に染まる。手には両手で振り回すタイプの大斧が握られていて、首から上には牛の頭が付いていた。
黒い霧が牛頭の男にまとわり付いたが、何度触れても男の体を分解できない。
「フンッ!」
逆に男が鼻息を吹かせながら斧をぶん回すと、それにより巻き起こった突風が霧を吹き飛ばしてしまう。
(ほう……
黒い霧に打ち勝てた相手の強さにザガートが深く感心する。これまで殺してきたザコとの格の違いを見せ付けられて、思わず声に出して
「そこの頭に
「いかにも……貴様こそ、さぞかし名のある魔物とお見受けした。名を聞こうか」
ザガートは全く恐れる事なく、冷静な口調で相手の名を問う。
「俺の名はミノタウロス……魔王軍の幹部よッ!」
魔王の問いに牛頭の男が誇らしげに名乗りを上げる。
「そうか……ならばお返しに、こちらも名乗らせて頂こう。ミノタウロスよ、とくとその胸に刻むが良い……俺の名はザガートッ! 異世界から来た魔王なり!!」
律儀に名乗った相手への礼として、ザガートもまた自らの素性を明かす。
「異世界から来た魔王……だと!?」
男の名乗りを聞いて、ミノタウロスの表情が一変する。顔には焦りの色が浮かび、
男の言葉を虚言だと一笑に
だが今は違う。自身に効かなかったとはいえ、牛頭はオークが一瞬にして全滅させられたのをこの目で見たのだ。それは男の言葉に十分な説得力を持たせるものだった。
「グヌヌゥ……けしからんッ! この世界において魔王を名乗って良いのは、我らが魔族の
牛頭が大魔王の名を口にしながら、深く
主君に強い忠誠を誓ったが
「そんな事よりミノタウロス、貴様に一つ聞きたい。貴様ら魔族の目的は何だ? 一体何の狙いがあって、人間の村を襲おうとする?」
牛頭の態度など気にも止めず、ザガートが率直な疑問をぶつける。
ゼウスが言っていた人間を襲う魔物というのが彼ら魔族である事は間違いない。彼らが対話や交渉によって歩み寄れる存在なのか、
「我らの目的だと? フフッ、知れた事よ! 我ら魔族、
ミノタウロスが何を
「そうか……」
牛頭の言葉を聞いて、ザガートが残念そうにため息を漏らす。目を閉じて下を向いたまま、やれやれと言いたげに首を左右に振る。
化け物はしょせん化け物か……そんな考えが頭をよぎる。
「貴様ら魔族の狙いが、人類を根絶やしにする事なら……俺はそれを阻止する
顔を上げて目を開くと、人類を守る事を高らかに宣言する。
「聞くが良い、ミノタウロスよ……俺の目的は世界の救済者となる事。英雄の名声を足掛かりとして、この世界に俺が支配する新たな王国を築く。その
胸の内に秘めたる野望を明かす。世界を救った後に自分の王国を作る事、それを成し遂げるには人類の存在が必要不可欠である事を
「人類を守る、だと? ブワハハハッ! 貴様、気でも狂ったか!? ニンゲンを守るために戦う魔王など、そんな話聞いた事も無いわッ!!」
ミノタウロスが腹を抱えて大笑いする。完全に男の言葉を信じるに
「ザガート、やはり貴様は魔王と呼べる
改めて男を魔王と認めない考えに
「我が斧の
近接戦の間合いに入ると、天に向かって高々と振り上げた斧を全力で振り下ろそうとした。
ブウンッと風を切る音を鳴らしながら迫る巨大な刃を、ザガートは避けようともしない。
「ッ!!」
ルシルが恐怖のあまり
だが目を閉じた少女の耳に飛び込んだのは、男の悲鳴でもなければ、肉が叩き割られた音でもない。辺りがシーーンと静まり返り、物音一つしない。時折
ルシルが恐る恐る
「なん……だと!?」
ミノタウロスが驚きの言葉を発する。表情は一瞬にして青ざめて、体中に冷や汗をかいて、手足の震えが止まらなくなる。あまりの恐怖に鳥肌が立つ。
少女の目に映った景色……それは牛頭が振り下ろした斧の刃を、男が素手で止めていたものだった。自分の倍以上ある背丈の大男が振った鉄の
ミノタウロスは斧を力ずくで前に押し込もうとしたが、いくら腕に力を込めてもビクともしない。まるで山をも超える巨人に
「俺を魔法しか能の無い男だと思っていたなら、考え違いも
ザガートが斧を手で掴んだままニヤリと笑う。表情に余裕の色が浮かび、完全に相手を見下した強者の態度を取る。
「フンッ!」
「ぬおおおおおおっ!!」
宙に投げ出された牛頭が大きな声で叫ぶ。
「グヌゥゥ……」
ミノタウロスが悔しげに
「貴様ぁ……よくも……よくもこの俺様に、土を付けてくれたなぁ……この魔王気取りの、ニセモノめがぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーッッ!!」
地面に投げられた事に牛頭が声に出して激高する。体に受けた痛みよりも、砂を付けられた事に深く
目は真っ赤に血走り、興奮した猛牛のように鼻息を荒くさせて、
「殺すッ! 絶対に殺すッ! 貴様をバラバラに引き裂いて、見せしめに
死を宣告する言葉を口にすると、斧を地面にぶん投げて素手で突進する。腕を左右に大きく広げて両手をグワッと開いたポーズのまま、相手に掴みかかろうとした。首を絞めようとしたか、力任せに握り
「ゲヘナの火に焼かれて、消し
ザガートが敵に右手の人差し指を向けながら魔法を唱える。
すると男の指先から
ミノタウロスに触れた瞬間火球がダイナマイトのように爆発して、彼の全身が一瞬にして炎に包まれる。
「ズギャァァァァァァアアアアアアアアッッ!!」
超高熱の炎に体を焼かれた痛みでミノタウロスが絶叫する。死のダンスでも踊るようにジタバタともがき苦しんで暴れたが、やがて力尽きたようにガクッと
「ダッ……大魔王……ザ……マ……」
無念そうに主君の名を口にすると、地に膝をついたまま息絶えた。
彼を焼いた炎が鎮火すると、黒焦げの死体だけが残る。その死体も完全に炭化したらしく、一陣の突風が吹き抜けると灰となってボロボロと崩れていく。そのまま風に流されるように跡形もなく散っていった。
「フハハハハッ! 俺の
ザガートが腰に手を当てて嬉しそうに高笑いしながら、魔法の威力を得意げに語る。自身の力を見せ付けられた事に心の底から満足した笑みを浮かべて、気分が高揚したあまり鼻歌まで
「……」
勝利の余韻に
それでも少女は心の何処かで、圧倒的すぎる暴力に
ルシルは自分の中にそんな感情があった事に
彼女だけではない。一連のやり取りを彼女と一緒に見ていた村の男性達も恐怖と
「……
村人の一人が、ふいにそう口にした。