いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
「おお、魔王様ッ! よくぞ……よくぞ魔王軍の手下を倒してくださった!!」
ハウザーが感激の言葉を漏らしながら早足で駆け出す。娘の命を救うのみならず、呪いを掛けた張本人であるアーリマンを倒した魔王の偉業を
「ムッ……待て! 喜ぶのはまだ早い! 館の外に敵が一体待ち伏せている!!」
何らかの異変を察知したらしきザガートが、手のひらを向けて領主の言葉を
魔王の忠告に、領主が急ブレーキを踏んだように慌てて立ち止まる。祝福ムードは一瞬にして吹き飛び、部屋の中がシーーンと静まり返る。誰も一言も喋る事なく、魔王の次の行動を待つようにゴクリと
当のザガートは何かを見るように天井を眺めたまま言葉を発しない。敵の気配を探っているようにも、考え事をしているようにも見える。
しばらく
「……見つけたぞッ!!」
そう口にするや
他の者は一瞬
◇ ◇ ◇
ザガートが屋敷の正面にある
広場にいた兵士や街の住人達は何が起こったのかと
ザガートは空のある一点を敵視するような目で見ていた。
その直後……。
「魔王軍に逆らいし愚か者どもよ、ゲヘナの火に焼かれて消し
呪文の詠唱が、その場にいる全員に聞こえるように大きな声で響き渡る。
次の瞬間、魔王が見ていた方角の空から、
「フンッ!」
ザガートは腹立たしげに鼻息を吹かせながら、右手のひらを空へと向ける。火球が手のひらに衝突すると激しい爆発音が鳴り、周囲に火の粉を飛び散らせた。
火球の威力は相当のものであったようだが、魔王の手は
「フハハハハハハッ! 私の
火球が放たれた方角の空から甲高い声が響き渡る。直後そこから黒い影のような物体が猛スピードで飛んできた。鳥の翼がある『それ』は一瞬カラスのように見えたが、よく見ると人の形をしている。
背中に翼を生やした人物は広場の真上まで来ると、ゆっくり降下していって、一行の前にある地面へと降り立つ。着地と同時に背中の翼が折り
彼らの前に現れた者、それは頭部に悪魔の
(この男、発せられる魔力の気配が、魔族のそれとは異なる……それどころか、俺と同じ……!?)
魔王のような姿をした男を一目見て、ザガートが
あれこれ推測が浮かび上がったものの、今はそれを考える場合ではないと頭を切り替えた。
「お前がアーリマンの言っていたアスタロトか?」
敵意に満ちた瞳で相手を見ながら素性を問う。少女に呪いを掛けた
「
魔王の問いに男がニヤリと口元を
容姿はどう見ても魔王なのだが、魔王を名乗っていないのは、魔王軍において『魔王』の肩書きが許されるのは大魔王アザトホースだけなので、『魔界大公爵』を名乗ったのだろう……ザガートはそのように考えた。
「この野郎、よくものこのこと俺達の前に姿を現したなッ!」
「
「やっつけてやる!!」
二人のやりとりを見ていた街の兵士がいきり立つ。ザガートの後ろで待機していた彼らだったが、槍を手にして前に出ようとする。一人で乗り込んできた敵を数に頼って蹴散らそうとした。
「待て、
血気に
魔王がそう言うなら、と兵士達は大人しく引き下がる。これまでの功績から、救世主の言葉を疑ったりしない。
「それでアスタロトとやら、一体俺に何の用だ?」
兵士達を下がらせると、ザガート自ら用件を問い
並みの人間にはアスタロトと戦わせるべきでないと考えたが、それと自分自身が相手をするのとは別の話だ。いざとなったらこの場で一戦
「んっふっふっふっふーーーーんっ、ザガート君……僕はキミに会いたかったんだよ」
アスタロトが急にねっとりした口調で喋りだす。一人称が『私』から『僕』に変化し、相手を『
「僕に与えられた使命は、キミを抹殺する事……だが僕が今日ここに来たのは、キミと戦うためじゃない」
アザトホースから魔王抹殺の指令を受けた事、それを実行する
「ザガート君、単刀直入に言おう……僕の仲間にならないか?」
握手を求めるように右手を差し出して、誘いの言葉を口にする。
「魔王が……魔界大公爵の仲間に!?」
アスタロトの発言に、場が騒然となる。誘いを掛けられたザガート自身よりも、彼の周囲にいる者が驚きの言葉を発して、広場がざわざわと騒がしくなる。
ルシル、レジーナ、なずみ、グスタフ、ハウザー、ノーラ、ルカ、そして広場にいた兵士や街の住人達……その場にいた全ての者の表情が恐怖に染まり、体の震えが止まらなくなる。
もし魔王が敵側に寝返ったら
決してあってはならない最悪の可能性を想像しただけで戦慄し、恐怖し、絶望せずにいられなかった。
「
周囲の驚きに比べると、ザガートの反応は
仲間にする
「気を悪くしたなら謝ろう……誠意に欠けた行動だった事は十分に理解している。キミの力がどれほどのものか試したかった。もしあの程度の攻撃を
アスタロトが頭を下げて非礼を
「だが、キミの力は予想を
魔王の力が期待を遥かに上回った事、それが仲間に誘う判断に踏み切らせた事を興奮気味に語る。
「ザガート君……もう気付いているのだろう? 僕は大魔王が生み出した魔法生物じゃない。キミと同じ、
自らが異世界転生者だった事実を明かしながらも、相手もそれに気付いていたと指摘する。魔王が感じた魔力の気配、それにより頭の中に湧き上がりながらも、確証が得られなかった推測が裏付けられる形となった。
神に力を与えられたと彼は言ったが、それがゼウスかヤハヴェなのかは分からない。
「僕とキミが組めば、大魔王を倒し、魔族を掌握する事だって夢じゃない……共に世界の支配者になろうじゃないか」
アスタロトは魔族の支配者になる野心を
「……」
男の話が終わると、ザガートはしばり黙り込む。これまで得た情報を頭の中で整理する。男の仲間になる考えなど一ミリたりとも持ち合わせていないが、それでもどうしても気になる事が一つあった。
「……異世界転生者だと言うなら、
やがて思い立ったように口を開く。
「アスタロト……お前の目的は何だ? 神に与えられた力で、この世界で何を
同じ転生者だという男の目的を問い
「目的? フフッ……そんなの決まってるじゃないか」
魔王の問いにアスタロトが口元を
「世界の王になってやる事と言えば一つ……圧倒的暴力で民衆を支配するッ! 彼らに恐怖を植え付けて、逆らえないようにして、絶対服従させる! 逆らえば皆殺しにして、欲しい物は酒も女も、力ずくで奪い取るッ! 考えただけでゾクゾクするだろう? 金も女も名誉も、欲しい物は全て手に入るんだからねッ! 全ての望みが
天を仰ぐように両腕を左右に広げると、絶対的支配者として君臨する事を高らかに宣言する。力に任せて欲しい物を手に入れる快楽を
「……貴様ぁっ!!」
話を聞いて、レジーナが怒りをあらわにする。今すぐ男に斬りかかりたい衝動に駆られて、それを抑えるのに必死だった。
他の者も憤激のあまりブチ切れそうになる。ザガートに戦いを挑む事を止められた
アザトホースの人類
むしろ彼の考えこそ、本来魔王らしいと分かっていても……。
「……強大な力を手にしてやる事がそれとは、しょせんお前もその程度の
ザガートが
「欲しい物は全て手に入る……か。なるほど、確かに魅力的ではある」
気持ちを切り替えたように顔を上げて口を開く。思いのままに望みが叶う事を理想的だと考える男の言葉に一定の理解を示す。
「だが聞くがいい、アスタロトよ……恐怖で民を
手のひらを相手に向けると、男の考える支配体制の
「俺が目指すのは、圧政で民衆を苦しめる独裁者ではない。誰もが俺を救世主と
腕組みしながら仁王立ちすると、自らが理想とする政治体制を雄弁に語ってみせた。民を恐怖で縛り付けて力ずくで奪うのではなく、民に
言葉だけ切り取れば、聞こえの良い
だが今、それを言ったのは世界を滅ぼす力を持った魔王だ。死者を
彼ならそれが出来るかもしれない……そう思わせるだけの迫力が確かにあった。
「うっ……うおおおおおおおおっ!!」
感極まった街の住人達が大きな声で叫ぶ。救世主の言葉に胸を強く打たれたあまり興奮を抑えきれなくなり、場の空気が魔王を称賛する声一色に染まる。ザガートの名を呼ぶコールが一向に鳴り
二人の魔王が会話していたものの、シーーンと静まり返っていた広場が、一気に騒がしくなる。いつの間にか広場は人で埋め尽くされており、歓声は街全体に響き渡る。
「……どうやら僕とキミは一生分かり合えないタイプのようだ。実に残念だよ……いい友達になれると期待したんだがね。だがまぁ仕方ない……ここは
アスタロトは残念そうにため息を漏らすと、背を向けてその場から立ち去ろうとする。完全なる見解の相違から仲間に引き入れるのを無駄だと悟ったようにも、住人の声に圧倒されて気持ちが
「ここで今すぐ戦わないのか?」
ザガートが不思議そうな顔で問う。誘いを断れば即座に戦闘になると身構えただけに、大人しく引き下がろうとする男の反応はあまりに予想外であり、内心
「今この場で戦えば、街の人間が大勢死ぬ……これはキミ自身が望まない事だろう?」
アスタロトがチラッと後ろを振り返りながら言葉を返す。
ザガートは「確かに」と言いたげにコクンと
「ここから西に数キロ離れた場所に、ガルアードの塔と呼ばれる塔が建っている! 僕と勝負したければ、そこに来るがいいッ! 最上階で待っている! そこでなら誰に気兼ねする事なく、全力の戦いが出来るだろうッ! 楽しみにしているよ、ザガート君! フハハハハハハハハッ!!」
男は背中のマントを黒い羽へと姿を変えさせると、カラスのように翼を羽ばたかせて上昇し、大きな声で高笑いしながら空の彼方へと飛び去った。彼の飛ぶスピードは音速よりも速く、ビュウッと音が鳴って一陣の突風が街に吹き抜けたほどだ。
(アスタロト……もう一人の、異世界から来た魔王……か)
男の去りゆく姿を眺めながら、ザガートは初めて出会う自分以外の転生者に思いを