いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第30話 魔界大公爵アスタロト

「おお、魔王様ッ! よくぞ……よくぞ魔王軍の手下を倒してくださった!!」

 

 ハウザーが感激の言葉を漏らしながら早足で駆け出す。娘の命を救うのみならず、呪いを掛けた張本人であるアーリマンを倒した魔王の偉業を(ねぎら)おうとした。

 

「ムッ……待て! 喜ぶのはまだ早い! 館の外に敵が一体待ち伏せている!!」

 

 何らかの異変を察知したらしきザガートが、手のひらを向けて領主の言葉を(さえぎ)る。館を取り巻く危機が完全には去っていない事を教える。

 

 魔王の忠告に、領主が急ブレーキを踏んだように慌てて立ち止まる。祝福ムードは一瞬にして吹き飛び、部屋の中がシーーンと静まり返る。誰も一言も喋る事なく、魔王の次の行動を待つようにゴクリと(つば)を飲んだ。

 

 当のザガートは何かを見るように天井を眺めたまま言葉を発しない。敵の気配を探っているようにも、考え事をしているようにも見える。

 

 しばらく眉間(みけん)(しわ)を寄せて気難しい表情をしていたが……。

 

「……見つけたぞッ!!」

 

 そう口にするや(いな)や、突然ドアをバンッと開けて、部屋の外へ出ていく。そのまま屋敷の外へ向かって一気に駆け出す。

 他の者は一瞬呆気(あっけ)に取られたような棒立ちになったが、すぐに正気を取り戻して、急いで後を追う。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 ザガートが屋敷の正面にある(いし)(だたみ)の広場に出る。他の者が遅れてやって来る。

 広場にいた兵士や街の住人達は何が起こったのかと(にわ)かにざわつく。一行がまるで何かから逃げるように館から出てくる光景は明らかに普通じゃない。兵士の何人かは執事や領主から話を聞こうとした。

 

 ザガートは空のある一点を敵視するような目で見ていた。

 その直後……。

 

「魔王軍に逆らいし愚か者どもよ、ゲヘナの火に焼かれて消し(ずみ)となるがいい……火炎光弾(ファイヤー・ボルト)ッ!!」

 

 呪文の詠唱が、その場にいる全員に聞こえるように大きな声で響き渡る。

 次の瞬間、魔王が見ていた方角の空から、煌々(こうこう)と燃えさかる(なし)くらいの大きさの火球が放たれた。それは地上の魔王めがけて一直線に飛んできている。

 

「フンッ!」

 

 ザガートは腹立たしげに鼻息を吹かせながら、右手のひらを空へと向ける。火球が手のひらに衝突すると激しい爆発音が鳴り、周囲に火の粉を飛び散らせた。

 火球の威力は相当のものであったようだが、魔王の手は(かす)かに焦げ跡が付いただけで、深手を負った様子は無い。

 

「フハハハハハハッ! 私の火炎光弾(ファイヤー・ボルト)を素手で受け切るとは、なかなかやるじゃないかッ!!」

 

 火球が放たれた方角の空から甲高い声が響き渡る。直後そこから黒い影のような物体が猛スピードで飛んできた。鳥の翼がある『それ』は一瞬カラスのように見えたが、よく見ると人の形をしている。

 

 背中に翼を生やした人物は広場の真上まで来ると、ゆっくり降下していって、一行の前にある地面へと降り立つ。着地と同時に背中の翼が折り(たた)まれてマントの形状に変化する。

 彼らの前に現れた者、それは頭部に悪魔の(ツノ)を生やし、黒い(ころも)を身に(まと)った成人男性……ザガートと同じ上級悪魔(アーク・デーモン)だった。

 

(この男、発せられる魔力の気配が、魔族のそれとは異なる……それどころか、俺と同じ……!?)

 

 魔王のような姿をした男を一目見て、ザガートが(かす)かな違和感を覚える。魔力の質の違いによって、彼が大魔王の生み出した魔法生物ではなく、自分に近しい存在ではないかと疑念を抱く。

 あれこれ推測が浮かび上がったものの、今はそれを考える場合ではないと頭を切り替えた。

 

「お前がアーリマンの言っていたアスタロトか?」

 

 敵意に満ちた瞳で相手を見ながら素性を問う。少女に呪いを掛けた(じい)の上司であろうと思われる人物を前にして警戒心を隠さない。

 

如何(いか)にも……改めて名乗らせて頂こう。私は魔王軍十二将の一人、魔界大公爵アスタロト!!」

 

 魔王の問いに男がニヤリと口元を(ゆが)ませた。魔王軍の上位幹部である事を誇らしげに明かす。

 

 容姿はどう見ても魔王なのだが、魔王を名乗っていないのは、魔王軍において『魔王』の肩書きが許されるのは大魔王アザトホースだけなので、『魔界大公爵』を名乗ったのだろう……ザガートはそのように考えた。

 

「この野郎、よくものこのこと俺達の前に姿を現したなッ!」

()めやがって!」

「やっつけてやる!!」

 

 二人のやりとりを見ていた街の兵士がいきり立つ。ザガートの後ろで待機していた彼らだったが、槍を手にして前に出ようとする。一人で乗り込んできた敵を数に頼って蹴散らそうとした。

 

「待て、()(かつ)に手を出すなッ! そいつがその気になれば、この場にいる者は俺以外一瞬で皆殺しにされる!!」

 

 血気に(はや)ろうとした兵士達をザガートが押し(とど)める。敵の恐ろしさを客観的に伝えて、彼らを無駄死にさせまいとした。

 魔王がそう言うなら、と兵士達は大人しく引き下がる。これまでの功績から、救世主の言葉を疑ったりしない。

 

「それでアスタロトとやら、一体俺に何の用だ?」

 

 兵士達を下がらせると、ザガート自ら用件を問い(ただ)す。

 並みの人間にはアスタロトと戦わせるべきでないと考えたが、それと自分自身が相手をするのとは別の話だ。いざとなったらこの場で一戦(まじ)える事も覚悟しなければならないと身構える。

 

「んっふっふっふっふーーーーんっ、ザガート君……僕はキミに会いたかったんだよ」

 

 アスタロトが急にねっとりした口調で喋りだす。一人称が『私』から『僕』に変化し、相手を『(くん)』付けで呼ぶ。彼自身はフレンドリーなつもりかもしれないが、相手を小馬鹿にしているようにも聞こえて、魔王は内心「気持ち悪い男だ」と嫌悪感すら抱く。

 

「僕に与えられた使命は、キミを抹殺する事……だが僕が今日ここに来たのは、キミと戦うためじゃない」

 

 アザトホースから魔王抹殺の指令を受けた事、それを実行する(ため)に現れた訳ではない事を伝える。

 

「ザガート君、単刀直入に言おう……僕の仲間にならないか?」

 

 握手を求めるように右手を差し出して、誘いの言葉を口にする。

 

「魔王が……魔界大公爵の仲間に!?」

 

 アスタロトの発言に、場が騒然となる。誘いを掛けられたザガート自身よりも、彼の周囲にいる者が驚きの言葉を発して、広場がざわざわと騒がしくなる。

 ルシル、レジーナ、なずみ、グスタフ、ハウザー、ノーラ、ルカ、そして広場にいた兵士や街の住人達……その場にいた全ての者の表情が恐怖に染まり、体の震えが止まらなくなる。

 

 もし魔王が敵側に寝返ったら大事(おおごと)だ。大魔王に匹敵する力を持つ彼が魔族に(くみ)したら、大魔王が二人に増えたも同然になる。そのような事になれば、人類は間違いなく滅亡する。

 決してあってはならない最悪の可能性を想像しただけで戦慄し、恐怖し、絶望せずにいられなかった。

 

火炎光弾(ファイヤー・ボルト)を不意打ちで仕掛けておきながら仲間に誘おうなどとは、一体何の冗談だ?」

 

 周囲の驚きに比べると、ザガートの反応は(えら)くそっけない。仲間に誘われた事に動揺する様子は()(じん)もなく、冷静に言葉を返す。

 仲間にする(ため)に来たと言いながら、先に攻撃を仕掛けてきた行動の矛盾を指摘する。

 

「気を悪くしたなら謝ろう……誠意に欠けた行動だった事は十分に理解している。キミの力がどれほどのものか試したかった。もしあの程度の攻撃を(さば)けないようなら、仲間にしようなどとは考えなかった」

 

 アスタロトが頭を下げて非礼を()びる。魔王の力を計る為に取った行いだったと釈明する。

 

「だが、キミの力は予想を(はる)かに超えるものだった……並みの戦士なら肉片も残らず消し飛ぶ威力の一撃を、防御結界すら張らず、素手で受け止めたのだから。それを見て僕は確信したッ! やはりこの男は仲間にすべき逸材だと!!」

 

 魔王の力が期待を遥かに上回った事、それが仲間に誘う判断に踏み切らせた事を興奮気味に語る。

 

「ザガート君……もう気付いているのだろう? 僕は大魔王が生み出した魔法生物じゃない。キミと同じ、(そと)なる世界から呼ばれて、神に力を与えられた異世界転生者さ」

 

 自らが異世界転生者だった事実を明かしながらも、相手もそれに気付いていたと指摘する。魔王が感じた魔力の気配、それにより頭の中に湧き上がりながらも、確証が得られなかった推測が裏付けられる形となった。

 神に力を与えられたと彼は言ったが、それがゼウスかヤハヴェなのかは分からない。

 

「僕とキミが組めば、大魔王を倒し、魔族を掌握する事だって夢じゃない……共に世界の支配者になろうじゃないか」

 

 アスタロトは魔族の支配者になる野心を(のぞ)かせて、計画に加わるよう取引を持ち掛けた。

 

「……」

 

 男の話が終わると、ザガートはしばり黙り込む。これまで得た情報を頭の中で整理する。男の仲間になる考えなど一ミリたりとも持ち合わせていないが、それでもどうしても気になる事が一つあった。

 眉間(みけん)(しわ)を寄せて気難しい表情になりながら、あれこれ考えたが……。

 

「……異世界転生者だと言うなら、尚更(なおさら)聞いておかねばならん」

 

 やがて思い立ったように口を開く。

 

「アスタロト……お前の目的は何だ? 神に与えられた力で、この世界で何を()そうとする?」

 

 同じ転生者だという男の目的を問い(ただ)す。彼が弱者を(しいた)げようとする卑劣な野心家なのか、それとも他人の苦しみを理解し、(いたわ)ろうとする善人なのか、本人に聞いて確かめておきたかった。

 

「目的? フフッ……そんなの決まってるじゃないか」

 

 魔王の問いにアスタロトが口元を(ゆが)ませた。何を今更(いまさら)と言いたげに鼻で笑う。

 

「世界の王になってやる事と言えば一つ……圧倒的暴力で民衆を支配するッ! 彼らに恐怖を植え付けて、逆らえないようにして、絶対服従させる! 逆らえば皆殺しにして、欲しい物は酒も女も、力ずくで奪い取るッ! 考えただけでゾクゾクするだろう? 金も女も名誉も、欲しい物は全て手に入るんだからねッ! 全ての望みが(かな)う、理想の王国の完成だッ!!」

 

 天を仰ぐように両腕を左右に広げると、絶対的支配者として君臨する事を高らかに宣言する。力に任せて欲しい物を手に入れる快楽を(じょう)(ぜつ)に語り、悪魔のように邪悪な笑みを浮かべてみせた。その姿は(まさ)に世界を恐怖の奈落に突き落とす魔王と呼ぶ他ない。

 

「……貴様ぁっ!!」

 

 話を聞いて、レジーナが怒りをあらわにする。今すぐ男に斬りかかりたい衝動に駆られて、それを抑えるのに必死だった。

 他の者も憤激のあまりブチ切れそうになる。ザガートに戦いを挑む事を止められた(ため)行動には移さないものの、はらわたがグツグツと煮え(たぎ)り、爆発寸前になる。

 

 アザトホースの人類殲滅(せんめつ)思想よりマシかもしれないが、彼のやろうとする事は邪悪そのものだ。もし実現すれば、人々がもがき苦しむ暗黒の世になる事は想像に(かた)くない。

 むしろ彼の考えこそ、本来魔王らしいと分かっていても……。

 

「……強大な力を手にしてやる事がそれとは、しょせんお前もその程度の(うつわ)か」

 

 ザガートが(あき)れたようにフゥーーッとため息をつく。目を閉じて下を向いたまま残念そうな顔しながら、「やれやれ」と言いたげに首を左右に振る。見るからに相手の言葉に失望したのが分かる。

 

「欲しい物は全て手に入る……か。なるほど、確かに魅力的ではある」

 

 気持ちを切り替えたように顔を上げて口を開く。思いのままに望みが叶う事を理想的だと考える男の言葉に一定の理解を示す。

 

「だが聞くがいい、アスタロトよ……恐怖で民を(しば)り付けて、(さく)(しゅ)するだけの支配は、理想的な政治体制とは到底呼べない。(しいた)げられた民衆は王を恨み、必ず反乱を起こす。武力で反乱を鎮圧しても王国は疲弊(ひへい)し、いずれ配下からクーデターを起こされる。百年と持たずに()(かい)する、(あや)うい体制だ」

 

 手のひらを相手に向けると、男の考える支配体制の(もろ)さを指摘する。民の反感を招く政治はいずれ崩壊する危険性があり、長く続くものではないと持論を述べる。

 

「俺が目指すのは、圧政で民衆を苦しめる独裁者ではない。誰もが俺を救世主と(あが)めて、宗教の信者が神を崇拝するような、無限の信仰を(ささ)げる……その世界において、全ての民の幸福を約束した善政による統治を()く。その上で強制などせずとも、民が喜んで差し出すものがあれば、辞退せず受け取る……それこそが俺が理想とする王のあり方だ」

 

 腕組みしながら仁王立ちすると、自らが理想とする政治体制を雄弁に語ってみせた。民を恐怖で縛り付けて力ずくで奪うのではなく、民に(した)われる王となって、彼らが喜んで(みつ)いだものを受け取る……それが正しいやり方だと()く。

 

 言葉だけ切り取れば、聞こえの良い台詞(セリフ)を並べ立てた理想論でしかない。普通の()(せい)(しゃ)には到底不可能な所業だと人々は考えただろう。

 

 だが今、それを言ったのは世界を滅ぼす力を持った魔王だ。死者を(よみがえ)らす奇跡を容易に可能とし、その気になれば天候すら操れるかもしれない男の言葉なのだ。

 彼ならそれが出来るかもしれない……そう思わせるだけの迫力が確かにあった。

 

「うっ……うおおおおおおおおっ!!」

 

 感極まった街の住人達が大きな声で叫ぶ。救世主の言葉に胸を強く打たれたあまり興奮を抑えきれなくなり、場の空気が魔王を称賛する声一色に染まる。ザガートの名を呼ぶコールが一向に鳴り()まない。

 二人の魔王が会話していたものの、シーーンと静まり返っていた広場が、一気に騒がしくなる。いつの間にか広場は人で埋め尽くされており、歓声は街全体に響き渡る。

 

「……どうやら僕とキミは一生分かり合えないタイプのようだ。実に残念だよ……いい友達になれると期待したんだがね。だがまぁ仕方ない……ここは(いさぎよ)く諦めるとしよう」

 

 アスタロトは残念そうにため息を漏らすと、背を向けてその場から立ち去ろうとする。完全なる見解の相違から仲間に引き入れるのを無駄だと悟ったようにも、住人の声に圧倒されて気持ちが()えたようにも見える。

 

「ここで今すぐ戦わないのか?」

 

 ザガートが不思議そうな顔で問う。誘いを断れば即座に戦闘になると身構えただけに、大人しく引き下がろうとする男の反応はあまりに予想外であり、内心拍子(ひょうし)抜けしたという思いがあった。

 

「今この場で戦えば、街の人間が大勢死ぬ……これはキミ自身が望まない事だろう?」

 

 アスタロトがチラッと後ろを振り返りながら言葉を返す。()えて相手の思い通りにする余裕を見せたようにニヤリと笑う。

 ザガートは「確かに」と言いたげにコクンと(うなず)く。これまで嫌な男だと認識していたが、紳士的な対応を見せた事に素直に感心する。

 

「ここから西に数キロ離れた場所に、ガルアードの塔と呼ばれる塔が建っている! 僕と勝負したければ、そこに来るがいいッ! 最上階で待っている! そこでなら誰に気兼ねする事なく、全力の戦いが出来るだろうッ! 楽しみにしているよ、ザガート君! フハハハハハハハハッ!!」

 

 男は背中のマントを黒い羽へと姿を変えさせると、カラスのように翼を羽ばたかせて上昇し、大きな声で高笑いしながら空の彼方へと飛び去った。彼の飛ぶスピードは音速よりも速く、ビュウッと音が鳴って一陣の突風が街に吹き抜けたほどだ。

 

(アスタロト……もう一人の、異世界から来た魔王……か)

 

 男の去りゆく姿を眺めながら、ザガートは初めて出会う自分以外の転生者に思いを()せた。

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