いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
魔王の一撃によって倒壊した塔は
「コラーーーーーッ!!」
瓦礫の一角から突如何者かの叫び声が放たれた。ザガートは一瞬アスタロトの声かと思ったが、そうではない。それは明らかに魔界大公爵とは異なる、野太いオッサンの声だ。
次の瞬間声が聞こえた場所の瓦礫が物凄い力で吹き飛ばされて、そこから三つの人影が出てくる。人影はザガート達のいる方角を向くと、彼らの方へとまっすぐ走ってくる。かなり体重が重いのか、ドドドッと大きな足音が鳴り、大地が激しく揺れた。
「やいテメエ、この野郎ッ! よくもやってくれたなッ! 許さん! 絶対に許さんぞ、べらんめえ! コンチクショウ!!」
「殺すッ! 百万回殺すッ! 二度とふざけた気を起こさせぬようじわじわと痛め付けて、なぶり殺しにして、はらわたを食い尽くしてくれるわぁっ!!」
「お前の母ちゃん、でーーべーーそっ!!」
三人は走りながら、聞くに
その者達は六メートルほどの背丈をした、全裸の男性だった。筋骨隆々とした全身は毒々しい紫色に染まっており、人間でないと一目で分かる。服装は茶色いボロボロの布切れを腰に巻いて股間を隠しているだけだ。頭髪は
紫のマッチョな全裸のハゲのオッサン……それが三人いる異様な光景だ。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
彼らはザガート達の前まで来ると、一旦立ち止まる。全速力で走って体力を消耗したのか、ひとまず呼吸をして落ち着こうとする。
「念の
まず間違いなく魔王軍の手先であろうと思われる三人に、ザガートが問いかけた。
「おうよッ! たぶんアスタロト様は生きておられるだろうが、他のヤツらは塔の瓦礫に押し
先頭にいたリーダー格と思しき一人が威勢良く答える。声の大きさや口調から察するに、かなりノリの良い性格のようだ。
「我らはアスタロト様の忠実な
「ドム!」
「ゴム!」
「ボム!」
「人呼んでポイズン・ジャイアント三兄弟とは、俺達の事よッ!!」
三人は誇らしげに名乗りを上げると、それぞれ異なるマッチョポーズをドヤ顔で決める。今にも「デデーーンッ」と効果音が鳴り、マンガ的な集中線が寄りそうな迫力を漂わせた。あまりの暑苦しさに頭上を飛んでいたカラスが慌てて逃げ出す。
「異世界の魔王ザガート、テメエよくもやってくれたなッ! 俺達は貴様が憎くてしょうがねえ! 何しろ塔をブッ壊すなんてふざけたマネしてくれたんだからなッ! 仲間も大勢死んだッ! ぜってえ許さねえ!!」
「アスタロト様は貴様との勝負を楽しみにしていたようだが、あのお方が出るまでもねえ! 俺達の手で、貴様を血祭りに上げてやる!!」
名乗りが終わると、次男と三男と思しき二人が立て続けに
「ほーーっ。それで毒巨人の三兄弟サマが、どうやって俺の命を奪うつもりだ?」
ザガートが腕組みしてふんぞり返りながら、相手を見下すような視線を向ける。フフンッと小馬鹿にするように鼻で笑う。
敵の怒りを全く意に
「どうやって殺すかだと? それは……こうするのよォッ!!」
そう叫ぶや
……それはエ○○イルという、ザガートが元いた世界のミュージシャンがやっている踊りによく似ていた。
「……何をしている?」
唐突に奇妙な踊りを始めた敵を前にして、魔王が棒立ちになる。とても攻撃手段とは思えない謎の行動に困惑したあまり、声に出して問わずにいられない。
「フッフッフッ……知らんのか?」
魔王の問いに、先頭の長男がニヤリとほくそ笑む。相手にとって未知の技を出せた事で、勝利の可能性が高まったと考えて、胸を
「ならば教えてやろう……これは『不思議な踊り』と言って、相手の魔力を奪い去る闇の秘術ッ! 間近でこの踊りを見せられた者は魔力を吸い尽くされて、一切魔法が使えなくなる悪魔の技ッ! これで貴様の魔力を吸い尽くすって寸法よッ!!」
自分達がやっている踊りの正体を包み隠さず教える。
彼らは別に頭がおかしくなったり、相手をからかおうとした訳ではない。一見何の効果も無いように見えるこの奇妙な踊りこそ、敵の魔力を
「我らの
次男が自らの勝利を確信して
(本当にこのおかしな踊りが、ザガートを仕留める手段になるのか!? 私にはただ遊んでいるだけにしか見えないが……)
レジーナは思わず声に出して言いかけた疑問を慌ててグッと飲み込む。何となく彼らにツッコミを入れてはいけない空気があり、胸の内にしまっておく。
王女の疑問をよそに、ハゲのマッチョ達は勢いに任せるように回り続けるのだった。
◇ ◇ ◇
――――ポイズン・ジャイアントが踊り始めて二時間が経過。
時計の針は
三人の少女は地べたに寝そべってうたた寝したり、雑談して遊ぶ。完全に緊張感が消し飛んで、戦いに飽きたムードが漂っていた時……。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
毒巨人達が激しく息を切らす。全身びっしょり汗まみれになり、表情に疲労の色が浮かんで、下を向いたままグッタリとうなだれる。完全にスタミナが底を尽きたらしく、二時間続けていた踊りが止まる。
彼らの技を受けたはずの当のザガートは特に変わった様子が無い。男達の方をやる気無さげな表情でボーーッと見ながら、耳の穴を指でほじくったり、退屈そうにあくびをしたりする。魔力を吸い取られたようにはとても見えない。
「ハァ……ハァ……フッ……フハハハハッ! ど、どうだザガートおおおっ! 俺達の踊りで、魔力が
先頭にいた毒巨人の長男が顔を上げて大きな声で笑う。すっかり体力を使い果たしたはずだが、表情は
とても嬉しそうにニッコリ笑ういかついおっさんの笑顔が、
「そうだザガートッ! もうこれで貴様は魔法を使えなくなった! オシマイだッ! 観念しろ、クソ野郎!!」
「
次男と三男が後に続くように
「………」
ザガートは彼らの罵詈雑言に一切口を挟まない。
しばらく連中の言いたい放題に言わせていたが……。
「風の精霊よ、盟約に
やがて悪口を聞き飽きたのか、正面に手のひらをかざして魔法の言葉を唱える。魔王の手のひらから、空気を圧縮した
それらは側面から回り込むように
魔法が尻に激突すると、バァンッ! と空気が破裂した音が鳴り、軽い爆発のような衝撃が巻き起こる。
「ギャアッ!」
「グワーーッ!」
「いてえっ!」
空気の弾丸を尻にぶつけられて、巨人達が三人仲良く吹っ飛ぶ。前のめりに地面に倒れて派手にゴロゴロ転がった挙句、真っ赤に
巨人達が打たれ強かった訳ではない。魔王が相手をからかうためにわざと手加減した事は誰の目にも明らかだ。
「ちっ……チクショウ!! 何でだッ! 何故なんだッ! 俺達の踊りによって魔力が底を尽きたはず! それなのに、何故魔法が使える!? 何でだッ!!」
兄弟の長男が慌てて起き上がりながら、胸の内に湧き上がった疑問を口にする。男が魔法を使えた事にどうしても納得が行かず、声に出して問わずにいられない。
「そうだそうだ! 何でだ!!」
「インチキしやがって、この野郎!!」
次男と三男が一斉に
「フゥーーッ……」
ザガートが心底
「……俺の魔力がどれだけあると思っている? そこいらの冒険者をコップの水に例えるなら、俺の魔力量は海に匹敵するほどだ。仮に貴様らがその珍妙な踊りを一ヶ月休まずに続けたとしても、十分の一たりとも
顔を上げて目を大きく開けると、自分の魔力量が底無しである事を、分かりやすい
踊りそのものが効かなかった訳じゃない。魔力は確かに減ったかもしれない。
だがそれは山よりも大きな竜に一匹の
「う……海だと!? そそそ、そんな馬鹿な!!」
毒巨人の長男がパニックに
「ドムの兄貴ィ!! どどど、どうするよ!?」
「このままじゃ俺達殺されちまうッ! もうオシマイだぁっ!!」
次男と三男が、この世の終わりが訪れたかのように絶望する。自分達が殺されるしかない未来を想像して、天を仰いで絶叫したり、頭を抱え込んでうずくまったりする。
「ばばば、馬鹿野郎ッ! 諦めんじゃねえ! 俺達にはまだ奥の手が残っている! それを使ってヤツを殺すッ! 俺達は生き残るッ! 絶望する必要なんて、何処にもありゃしねえ!!」
長男が声を上擦らせながらも、希望を失わないよう
兄の言葉で弟二人が「ハッ」と我に返る。そう言えばあれがあったんだ、と冷静に思い直して、取り乱すのをやめる。
「ザガート、我ら毒巨人族の最終奥義を見せてやるッ! とくと目に焼き付けて死ぬがいい!!」
長男が死を宣告する
「
技名を叫ぶや
避ける
「ざっ……ザガートォォォォオオオオオオーーーーーーッッ!!」
レジーナが悲痛な叫び声を上げる。魔王が毒ガスをまともに受けたのを見て、いくら彼が無敵だとしても、心配せずにいられない。
もしや魔王は深手を負ったのではないか……そんな考えが頭をよぎり、胸が激しくざわついた。
「大丈夫ッスよ、
なずみが優しく言葉を掛けながら、仲間の背中をトンッと叩く。魔王が健在だと伝えて、王女を安心させようとした。
師匠がやられたかもしれないなどとは少しも考えない。彼ならこのくらいは平気だろう、と打たれ強さに確信を抱く。
当の魔王はガスに呑まれたままだ。毒の煙は男を包み込んだまま滞留しており、いつまで
その状態のまま二十秒が経過し、一向に状況が変化しない。普通の生き物ならとっくに
やったか? ……その言葉が毒巨人の頭をよぎった時。
突如男が立っていた場所を中心として、ブワァッと強風が吹き荒れる。それによって魔王を包んでいたガスが一気に吹き飛ばされて、視界が晴れやかになる。
魔王はガスに呑まれる前と変わらぬ状態のまま、そこに立っていた。顔色一つ変えておらず、何事も無かったかのようにピンピンしている。ふぁーーっと退屈そうにあくびをしたり、耳の穴を指でほじったりする余裕すら見せている。
常人ならば十秒足らずで死に至る猛毒を全身に浴びたにも関わらず……。
「なっ……何故だッ! 何故生きている!? 俺達の吐いた毒ガス、通称『臭い息』は、常人ならばニオイを
毒巨人達が驚くあまり騒然となる。自分達が吐いたガスの威力を
「何故だと? フンッ、笑わせる……俺は貴様らの
ザガートが腕組みして得意げなドヤ顔になりながら言う。相手を小馬鹿にするように鼻息を吹かせながら、自分が最強の魔王であると主張して、状態異常が効かない事を声高に説明してみせた。
「そろそろ貴様らの茶番に付き合うのも飽きた……これで終わりにさせてもらう!!」
戦いを終わらせる事を宣言し、毒巨人達に手のひらを向ける。
「地より生まれし者腐れ落ち、大地に
魔法の言葉を唱えると、男の指先から黒い霧のような
「ギャアアアアアアアアッ!!」
「ウギャァァァァアアアアアアーーーーーーッッ!!」
「アビャァァァアアアアアッ!!」
体を溶かされる激痛に
三人の体は強酸を浴びたようにドロドロに溶けていき、
(
巨人の死体を眺めながら、ザガートが敵の強さに思いを
「だがまぁ……今回ばかりは相手が悪かったな」
その実力を上回る最強の魔王にブチ当たってしまった彼らの不幸を、ドヤ顔で