いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
魔族の拠点であるガルアードの塔を
様々な技を駆使してザガートを追い詰めようとする彼らだったが、魔王には一切通用しない。逆に魔王に
(まさかこれで終わりという訳ではあるまいな……アスタロトよ)
巨人の白骨化した死体を眺めながら、魔王が物思いに
「……ムッ!?」
突如敵の気配を感じて、慌てて後ろを振り返る。誰もいない方角に向かって、左腕の
直後魔王に向かってハイキックを
「俺に気配を悟られずここまで近付くとは、大したヤツだ」
ザガートが相手の攻撃を受けたままニヤリと笑う。突然の奇襲に驚いたり、卑怯だと
並みの相手なら視線だけで魔王は気付く。彼に気付かれずに近付く事など到底不可能だ。それをガードされたとはいえ、攻撃が届く真後ろまで接近できただけでも、彼が相当の実力者である事が
アスタロトはジリジリと片足に力を入れて相手を押し切ろうとしたが、ザガートはビクともしない。男の蹴りを左腕で止めたまま平然としている。まだ余力を残しているのか、表情に笑みが浮かぶ。
「……フンッ!」
魔界大公爵は腹立たしげに鼻息を吹かすと、蹴りをやめて一旦後ろに大きく下がる。このままでは
そのまま両者は互いに相手を
少女達が
「うおおおおおおっ!!」
「キェェェエエエエエーーーーーーッ!!」
ザガートとアスタロトが、全力を振り絞るように大きな声で叫ぶ。両者は近接戦の間合いに入ると、両拳を駆使したパンチのラッシュを繰り出す。渾身の力を込めた重い一撃ではなく、一撃の威力を軽くした代わりに数に任せたガトリングの弾のような連撃を放つ。
秒間数十発を
時間にしておよそ一分半ほど殴り合ったが……。
「なにッ!?」
ザガートの拳が触れかけた瞬間、アスタロトがワープしたようにフッと消える。
慌てて後ろを振り返ると、男から数メートル離れた背後に魔界大公爵が立つ。
「このまま殴り合っていても
「
技名らしき言葉を叫びながら指をパチンッと鳴らすと、アスタロトの姿が一人、また一人と増えていく。最終的にその数は二十人となり、円を描くようにザガートをぐるりと
むろん魔界大公爵が二十人に増えた
「フフフッ……貴様にこの技は見切れまい。これまで
アスタロトが不敵な笑みを浮かべる。技の性能に絶対的な自信を抱き、自らの
「死ね、ザガート! 私に殺された数々の冒険者同様、
死を宣告する言葉を発すると、二十人の魔界大公爵が、包囲の中心にいるザガートめがけて一斉に走り出す。本体と連動しているのか、全員が同じ速度、同じタイミングで動いている。近接戦の間合いまで迫ると、右手による貫手を放って相手の心臓を貫こうとした。
剣のように
それが本物だったらしく、アスタロトの
「バッ……ドブルゥゥゥゥアアアアアアアアアアッ!!」
魔界大公爵が
「こんな子供騙しが通用すると本気で思ったのか? だとしたら、随分と
ザガートが腕組みしながら相手を見下すような視線を向ける。表情に焦りの色は
彼は本物がどれか、最初から見抜いていた。アスタロトは相手を
「大人しく殴り合った方が、まだマシだったな……アスタロト!!」
相手を
「ヌッ……グヌゥゥゥウウウウ」
殴り飛ばされて地面に倒れていたアスタロトが、
衣服に付いた泥を手で叩いて払い、ポケットからハンカチを取り出して、顔の汚れを
ブチ切れてもおかしくない屈辱を味あわされた
しばらく何もせずただボーーッと突っ立っていたアスタロトだが……。
「フフフ……ハハハッ……ハァーーーッハッハッハァッ!!」
突如大きな声で笑い出す。最初は抑えるように小さな声で、徐々に
「何がおかしい? 気でも狂ったか?」
ザガートが
彼からすれば、魔界大公爵がここで笑うのは理解不能だ。余裕ぶって強がってみせたか、ヤケを起こして頭がおかしくなったようにしか見えなかった。
「フフフ……ザガート君ッ! 見事だよ……実に見事だッ! まさか
魔王の問いにアスタロトが笑いながら口を開く。自身の想定を
奥義を破られた事に焦る様子は無い。それどころか、目の前にいる相手が大魔王と同等の力を持つ存在だと確信して、その事に歓喜する。
「これが
魔王との戦いに勝てば、この先自分に対抗できる者は一人もいなくなる事実を興奮気味に熱く語る。早口でまくし立てたあまり口から大量の
危険な薬を打ってラリったような恐ろしい形相になり、手足をガクガク震わせた。世界征覇の野望に打ち震えたあまり正気を失ったかのようだ。
「さぁて、第二ラウンドと行こうじゃないか……ここからが本番だ!!」
マントをバサッと開いて風にたなびかせると、次なる戦いの始まりを告げる。
「ゲヘナの火に焼かれて消し
「ゲヘナの火に焼かれて、消し炭となれ……」
まず先にアスタロトが、それから一瞬遅れてザガートが呪文の詠唱を行う。
「「
二人の声が重なるように同時に魔法名を叫ぶ。次の瞬間、それぞれの手のひらから激しく燃えさかる火球が放たれて、相手めがけて飛んでいく。
火球は空中で衝突すると、火が
火球はぶつかり合った衝撃で双方共に消滅する。どちらか一方が打ち勝つ事なく、
「フフフッ……
アスタロトが余裕ありげに笑う。攻撃魔法が相討ちだった事に焦る様子は無く、奥の手を残してある事を口にして勝利の確信を胸に抱く。
「ザ・ウーラザザ・ヘーゲルゲー・デューカイム・ゲッヘル……」
突如両手を組んで人差し指を垂直に立てると、怪しげな呪文を唱え出す。
「永久に溶けぬ氷の
長い詠唱を終えると、両手のひらを相手に向けて魔法の言葉を叫ぶ。すると急激に気温が下がったように周囲を吹き抜ける風が冷たくなり、大気中の水分が凍ったのか、ザガートの周りの空気が結晶化してキラキラ輝く。
「……ッ!!」
魔王が何かに気付いたように驚いた表情になる。足元の地面が
避けられなかったのか、わざと避けなかったのかは分からないが、魔王は凍ったまま微動だにしない。生きているかどうかも分からない。
氷はいつまで
「これぞ我が奥義、
魔王を凍らせた術についてアスタロトが誇らしげに解説する。敵を無力化した事を強く確信して、胸の内に湧き上がる嬉しさのあまり、天を仰ぐようなポーズで高笑いした。
「……さて、と」
ひとしきり笑って満足すると、思い直したように少女達の方を向く。何も言わず彼女達に向かってズカズカと歩き出す。やがてルシルの前に来て立ち止まる。
「お嬢さん方、私の愛人にならないかい? なに、悪いようにはしない。何一つ不自由する事の無い、怠惰と快楽にまみれた日々が待っている……」
口説き文句を口にして片
「やめてっ!」
ルシルが慌てて男の口付けを振り払う。キスされた右手を服の
「そうだっ! ザガートはお前とは違う! お前のようなねっとりスケベ色男と一緒にするな!」
レジーナがドサクサに
魔界大公爵は目の覚めるような色男だが、その事に心を動かされたりはしない。
王女が指摘した通り、ザガートとアスタロトは全くの正反対だ。三人の少女は魔王のワイルドで野性的なたくましさに心
ザガートなら一夫多妻であっても一人一人を家族のように愛するが、アスタロトは単に肉欲のまま女を取っかえ引っかえするだけだろうというイメージも、嫌悪感に拍車を掛けた。
「師匠はこの程度の事でやられたりしないッス」
なずみが勝ち誇ったようにニヤリと笑う。魔王が死んだなどとは
「フフッ……何を馬鹿な事を」
アスタロトが少女の言葉を一笑に
突如男の背後からビシビシッと異音が発せられた。魔界大公爵が慌てて後ろを振り返ると、四角い氷がゴゴゴッと音を鳴らしながら揺れており、魔王がいた地点を中心として亀裂が入りだす。亀裂は
「ば……馬鹿な!?」
アスタロトが
白い湯気の中に人影が立つ。それはアスタロトの方へとゆっくり歩く。
「なかなか面白いものを見せてもらったぞ……アスタロトよ」
湯気の中から出てきた男が不敵な言葉を吐く。その者は言わずもがな、氷に閉じ込められたはずのザガートその人だった。特に深手を負った様子は無く、何事も無かったかのようにピンピンしている。
「俺の得意魔法は火属性と闇属性ばかりに
アスタロトから受けた技が未習得だった事を口にして、新しい術を教えてくれた事に深く感謝する。決して皮肉で言った訳ではなく魔王は本当に感謝したのだろうが、敵からすれば屈辱でしかない。
「まぁ、それはそれとして……俺の女に手を出そうとした事は許さんッ!」
愛する女にちょっかい出された事に強く