いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第33話 アスタロト vs ザガート

 魔族の拠点であるガルアードの塔を火炎光弾(ファイヤー・ボルト)の一撃で倒壊させたザガート……全ての魔物が死に絶えたと思ったのも(つか)の間、瓦礫(がれき)の中から三体の巨人が姿を現す。『猛毒巨人族(ポイズン・ジャイアント)三兄弟』と名乗る彼らこそアスタロトの忠実な部下にして、塔の魔物唯一の生き残りだという。

 

 様々な技を駆使してザガートを追い詰めようとする彼らだったが、魔王には一切通用しない。逆に魔王に致死風(デッドリー・エア)を唱えられて、体をドロドロに溶かし尽くされてしまう。

 

(まさかこれで終わりという訳ではあるまいな……アスタロトよ)

 

 巨人の白骨化した死体を眺めながら、魔王が物思いに(ふけ)た時……。

 

「……ムッ!?」

 

 突如敵の気配を感じて、慌てて後ろを振り返る。誰もいない方角に向かって、左腕の(こう)をガードするように向けると、左腕にドガァッと強い衝撃が加えられて、ビリビリと振動する。

 直後魔王に向かってハイキックを()り出したポーズのアスタロトが、透明化を解除したようにスゥーーッと姿を表す。彼は姿を消したまま不意打ちを狙い、魔王が咄嗟(とっさ)にそれを防御したのだ。

 

「俺に気配を悟られずここまで近付くとは、大したヤツだ」

 

 ザガートが相手の攻撃を受けたままニヤリと笑う。突然の奇襲に驚いたり、卑怯だと(ののし)ったりせず、自分に(かん)()かれずに距離を詰められた敵の実力を称賛する。

 並みの相手なら視線だけで魔王は気付く。彼に気付かれずに近付く事など到底不可能だ。それをガードされたとはいえ、攻撃が届く真後ろまで接近できただけでも、彼が相当の実力者である事が(うかが)える。

 

 アスタロトはジリジリと片足に力を入れて相手を押し切ろうとしたが、ザガートはビクともしない。男の蹴りを左腕で止めたまま平然としている。まだ余力を残しているのか、表情に笑みが浮かぶ。

 

「……フンッ!」

 

 魔界大公爵は腹立たしげに鼻息を吹かすと、蹴りをやめて一旦後ろに大きく下がる。このままでは(らち)が明かないと感じたのか、仕切り直すように距離を開く。

 そのまま両者は互いに相手を牽制(けんせい)するように、間合いを一定に保ったまま(にら)み合っていたが……。

 

 

 

 少女達が(まばた)きした一瞬の間に、二人がほぼ同じタイミングで前方に飛び出していた。

 

「うおおおおおおっ!!」

「キェェェエエエエエーーーーーーッ!!」

 

 ザガートとアスタロトが、全力を振り絞るように大きな声で叫ぶ。両者は近接戦の間合いに入ると、両拳を駆使したパンチのラッシュを繰り出す。渾身の力を込めた重い一撃ではなく、一撃の威力を軽くした代わりに数に任せたガトリングの弾のような連撃を放つ。

 

 秒間数十発を()える速さで放たれた互いのパンチがドガガガガッと音を立てて衝突し、激しい砂(ぼこり)が巻き上がる。空気がビリビリと振動して、離れた場所にいても衝撃波が伝わる。二人のスピードはほぼ互角であり、一撃の相殺(そうさい)漏らしも無い。

 時間にしておよそ一分半ほど殴り合ったが……。

 

「なにッ!?」

 

 ザガートの拳が触れかけた瞬間、アスタロトがワープしたようにフッと消える。

 慌てて後ろを振り返ると、男から数メートル離れた背後に魔界大公爵が立つ。

 

「このまま殴り合っていても(らち)が明かん……勝負を決めさせてもらう!」

 

 膠着(こうちゃく)状態に(しび)れを切らしたらしく、一方的に殴り合いの打ち切りを宣言する。何らかの手札を残してあったのか、戦いを終わらせようと思い立つ。

 

暗黒幻影秘術(ダークネス・イリュージョン)ッ!!」

 

 技名らしき言葉を叫びながら指をパチンッと鳴らすと、アスタロトの姿が一人、また一人と増えていく。最終的にその数は二十人となり、円を描くようにザガートをぐるりと(かこ)む。

 むろん魔界大公爵が二十人に増えた(はず)はなく、どれか一人だけが本物で、残りが残像である事は明らかだ。だが少女達にはどれが本物か見分けが付かない。

 

「フフフッ……貴様にこの技は見切れまい。これまで(あま)()の冒険者を(ほうむ)ってきた取っておきだ」

 

 アスタロトが不敵な笑みを浮かべる。技の性能に絶対的な自信を抱き、自らの()るがぬ勝利に胸を(おど)らせた。

 

「死ね、ザガート! 私に殺された数々の冒険者同様、()(ざま)()ち果てるがいい!!」

 

 死を宣告する言葉を発すると、二十人の魔界大公爵が、包囲の中心にいるザガートめがけて一斉に走り出す。本体と連動しているのか、全員が同じ速度、同じタイミングで動いている。近接戦の間合いまで迫ると、右手による貫手を放って相手の心臓を貫こうとした。

 

 剣のように()()まされた指先が届きかけた(せつ)()、魔王が全てを見透(みす)かしたようにニヤリと笑う。次の瞬間、背後から襲ってきた一体めがけて全力の裏拳を繰り出す。

 それが本物だったらしく、アスタロトの(ほほ)に拳が命中して、ボグシャアッと鈍い音が鳴りながら顔面が大きく(ゆが)む。

 

「バッ……ドブルゥゥゥゥアアアアアアアアアアッ!!」

 

 魔界大公爵が滑稽(こっけい)な奇声を発しながら豪快に吹き飛ぶ。強い衝撃で地面に叩き付けられて何度も派手にバウンドした挙句、大の字に寝転がったまま手足をピクピクさせた。目の覚めるような色男が台無しだ。

 

「こんな子供騙しが通用すると本気で思ったのか? だとしたら、随分と()められたものだな」

 

 ザガートが腕組みしながら相手を見下すような視線を向ける。表情に焦りの色は()(じん)もなく、想定通りに事が運んだ余裕が浮かぶ。

 彼は本物がどれか、最初から見抜いていた。アスタロトは相手を攪乱(かくらん)したつもりでも、魔王にとっては一人の男が(すき)だらけのままドヤ顔で突っ込んできたも同然だった。

 

「大人しく殴り合った方が、まだマシだったな……アスタロト!!」

 

 相手を(あお)るように挑発的な言葉を浴びせる。

 

「ヌッ……グヌゥゥゥウウウウ」

 

 殴り飛ばされて地面に倒れていたアスタロトが、(うめ)き声を漏らしながら体を動かす。両腕を支えにして上半身を起こすと、ゆっくりと二本の足で立ち上がる。まだダメージが残っているのか、(わず)かに足をよろめかせたが、気力によって踏み(とど)まる。

 

 衣服に付いた泥を手で叩いて払い、ポケットからハンカチを取り出して、顔の汚れを()(れい)()き取る。異空間から取り出した手鏡で自分の顔を見て、髪の乱れを手直しする。身だしなみを整えると、目を閉じたまま「スゥーーッ」と深呼吸する。

 ブチ切れてもおかしくない屈辱を味あわされた(はず)だが、ここで取り乱しても仕方がないと自分に言い聞かせて、気持ちを落ち着かせようとした。

 

 しばらく何もせずただボーーッと突っ立っていたアスタロトだが……。

 

「フフフ……ハハハッ……ハァーーーッハッハッハァッ!!」

 

 突如大きな声で笑い出す。最初は抑えるように小さな声で、徐々に(こら)え切れなくなり、(せき)を切ったように高笑いする。

 

「何がおかしい? 気でも狂ったか?」

 

 ザガートが(いぶか)しげな表情になる。相手の真意が全く(つか)めず、声に出して問わずにいられない。

 彼からすれば、魔界大公爵がここで笑うのは理解不能だ。余裕ぶって強がってみせたか、ヤケを起こして頭がおかしくなったようにしか見えなかった。

 

「フフフ……ザガート君ッ! 見事だよ……実に見事だッ! まさか暗黒幻影秘術(ダークネス・イリュージョン)を初見で見破るとはね……どうやらキミの実力を見誤っていたようだ。キミをそこいらの冒険者と同列に扱っては、失礼に(あたい)するというもの……まさしくキミはアザトホースに匹敵する力を持った、異世界最強の魔王ッ!!」

 

 魔王の問いにアスタロトが笑いながら口を開く。自身の想定を(はる)かに上回る実力だった事を素直に認めて称賛する。

 奥義を破られた事に焦る様子は無い。それどころか、目の前にいる相手が大魔王と同等の力を持つ存在だと確信して、その事に歓喜する。

 

「これが(たか)ぶらずにいられるかい!? 僕は今、体の震えが止まらない! 何しろキミに勝てれば、それはアザトホースに勝ったも同義! 僕が世界を支配する王に相応しい事の証明になるんだからね!!」

 

 魔王との戦いに勝てば、この先自分に対抗できる者は一人もいなくなる事実を興奮気味に熱く語る。早口でまくし立てたあまり口から大量の(つば)が飛び、大地が汚れる。

 危険な薬を打ってラリったような恐ろしい形相になり、手足をガクガク震わせた。世界征覇の野望に打ち震えたあまり正気を失ったかのようだ。

 

「さぁて、第二ラウンドと行こうじゃないか……ここからが本番だ!!」

 

 マントをバサッと開いて風にたなびかせると、次なる戦いの始まりを告げる。

 

「ゲヘナの火に焼かれて消し(ずみ)となるがいい……」

「ゲヘナの火に焼かれて、消し炭となれ……」

 

 まず先にアスタロトが、それから一瞬遅れてザガートが呪文の詠唱を行う。(わず)かに内容が異なるものの、同一の魔法を唱えようとしている事は明らかだ。

 

「「火炎光弾(ファイヤー・ボルト)ッ!!」」

 

 二人の声が重なるように同時に魔法名を叫ぶ。次の瞬間、それぞれの手のひらから激しく燃えさかる火球が放たれて、相手めがけて飛んでいく。

 火球は空中で衝突すると、火が()いたダイナマイトのように爆発して、大地が割れんばかりの轟音と共に火の粉を飛び散らせた。

 

 火球はぶつかり合った衝撃で双方共に消滅する。どちらか一方が打ち勝つ事なく、相殺(そうさい)された形となる。それは互いの魔法力が拮抗している事を少女達に悟らせた。

 

「フフフッ……火炎光弾(ファイヤー・ボルト)の威力はほぼ互角という訳か。だがまだ終わりではないぞ、ザガートッ! 我が力、とくと目に焼き付けて死ぬがいい!!」

 

 アスタロトが余裕ありげに笑う。攻撃魔法が相討ちだった事に焦る様子は無く、奥の手を残してある事を口にして勝利の確信を胸に抱く。

 

「ザ・ウーラザザ・ヘーゲルゲー・デューカイム・ゲッヘル……」

 

 突如両手を組んで人差し指を垂直に立てると、怪しげな呪文を唱え出す。

 

「永久に溶けぬ氷の(おり)に幽閉されよ……氷結監獄葬(フリージング・コフィン)ッ!!」

 

 長い詠唱を終えると、両手のひらを相手に向けて魔法の言葉を叫ぶ。すると急激に気温が下がったように周囲を吹き抜ける風が冷たくなり、大気中の水分が凍ったのか、ザガートの周りの空気が結晶化してキラキラ輝く。

 

「……ッ!!」

 

 魔王が何かに気付いたように驚いた表情になる。足元の地面が(まばゆ)く光るや(いな)や、ザガートが立っていた空間にまるでテレポートしてきたように巨大な氷が出現して、彼を一瞬にして四角い氷の中に閉じ込める。

 避けられなかったのか、わざと避けなかったのかは分からないが、魔王は凍ったまま微動だにしない。生きているかどうかも分からない。

 

 氷はいつまで()っても溶ける気配が無く、冷たい空気を発したままデンッと立っている。まるで氷というよりもダイヤモンドの置き物のようだ。

 

「これぞ我が奥義、氷結監獄葬(フリージング・コフィン)! 最上位階の氷属性魔法ッ! 五十度の炎天下に(さら)されようと、ドラゴンの炎で(あぶ)られようと、絶対に溶けぬ永久凍結の氷に閉じ込める術ッ! もはやザガートが氷の外に出る事は決して無い! ヤツはこのまま未来永劫、展示物として置かれるハメになるのだ! フフフ……ハハハッ……ハァーーーッハッハッハァッ!!」

 

 魔王を凍らせた術についてアスタロトが誇らしげに解説する。敵を無力化した事を強く確信して、胸の内に湧き上がる嬉しさのあまり、天を仰ぐようなポーズで高笑いした。

 

「……さて、と」

 

 ひとしきり笑って満足すると、思い直したように少女達の方を向く。何も言わず彼女達に向かってズカズカと歩き出す。やがてルシルの前に来て立ち止まる。

 

「お嬢さん方、私の愛人にならないかい? なに、悪いようにはしない。何一つ不自由する事の無い、怠惰と快楽にまみれた日々が待っている……」

 

 口説き文句を口にして片(ひざ)をつくと、少女の右手の(こう)にキスをした。三人をハーレムに加えて、(みだ)らな行為をしようと企んだようだ。真っ先にルシルに声を掛けたのは、彼女の三つ編み眼鏡巨乳属性が性癖に刺さったのだろう。

 

「やめてっ!」

 

 ルシルが慌てて男の口付けを振り払う。キスされた右手を服の(すそ)でゴシゴシ(ぬぐ)うと、(けが)らわしいものを見るような目で男を見る。胸の内に湧き上がった不快感を隠そうともしない。

 

「そうだっ! ザガートはお前とは違う! お前のようなねっとりスケベ色男と一緒にするな!」

 

 レジーナがドサクサに(まぎ)れて男の悪口を言う。魔王を引き合いに出して、アスタロトを好みのタイプではないと断言する。

 

 魔界大公爵は目の覚めるような色男だが、その事に心を動かされたりはしない。

 王女が指摘した通り、ザガートとアスタロトは全くの正反対だ。三人の少女は魔王のワイルドで野性的なたくましさに心()かれたのであり、ナヨナヨしい軟派な男に()れたりなどしない。

 ザガートなら一夫多妻であっても一人一人を家族のように愛するが、アスタロトは単に肉欲のまま女を取っかえ引っかえするだけだろうというイメージも、嫌悪感に拍車を掛けた。

 

「師匠はこの程度の事でやられたりしないッス」

 

 なずみが勝ち誇ったようにニヤリと笑う。魔王が死んだなどとは()(じん)も思っておらず、彼が氷の中から出てくる事に確信を抱く。

 

「フフッ……何を馬鹿な事を」

 

 アスタロトが少女の言葉を一笑に()した時……。

 

 

 

 突如男の背後からビシビシッと異音が発せられた。魔界大公爵が慌てて後ろを振り返ると、四角い氷がゴゴゴッと音を鳴らしながら揺れており、魔王がいた地点を中心として亀裂が入りだす。亀裂は(またた)く間に氷全体へと広がる。

 

「ば……馬鹿な!?」

 

 アスタロトが呆気(あっけ)に取られた瞬間、氷がゴシャァァーーーンッと音を立てて砕ける。氷の破片がバラバラと地面に散乱し、白い湯気を立ち(のぼ)らせた。男の「溶けない」という言葉を無視するように融解しており、水になって蒸発する。

 白い湯気の中に人影が立つ。それはアスタロトの方へとゆっくり歩く。

 

「なかなか面白いものを見せてもらったぞ……アスタロトよ」

 

 湯気の中から出てきた男が不敵な言葉を吐く。その者は言わずもがな、氷に閉じ込められたはずのザガートその人だった。特に深手を負った様子は無く、何事も無かったかのようにピンピンしている。

 

「俺の得意魔法は火属性と闇属性ばかりに(かたよ)っていて、氷属性にはとんと(うと)いのでな……今の魔法は始めて見た。もし今後デス・スライムと再戦する事があれば、お前の魔法を使わせてもらう。その事に礼を言わねばなるまい」

 

 アスタロトから受けた技が未習得だった事を口にして、新しい術を教えてくれた事に深く感謝する。決して皮肉で言った訳ではなく魔王は本当に感謝したのだろうが、敵からすれば屈辱でしかない。

 

「まぁ、それはそれとして……俺の女に手を出そうとした事は許さんッ!」

 

 愛する女にちょっかい出された事に強く(いきどお)るのだった。

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