いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
「グヌヌ……」
アスタロトがギリギリと音を立てて歯
彼からすれば魔王の言葉は侮辱でしかない。殺すつもりで渾身の技を放ったのに、殺すどころか感謝された。それは魔界大公爵のプライドを傷付けるに十分だった。
「……おのれザガートッ!
胸の内に湧き上がる憤激を声に出してぶちまけた。感情的になって我を忘れたあまり、完全に冷静さを失う。いつもの紳士然とした態度をあさっての方向にぶん投げて、チンピラのようにいきり立つ。
もはや少女達を手ごめにする事などどうでも良くなり、相手のはらわたを引きずり出さねば怒りが収まらない気持ちにすらなる。
「ザガート、ゲヘナの火に焼かれて消し
すぐさま相手に手のひらを向けて攻撃魔法を唱える。男の手のひらから
「ゲヘナの火に焼かれて消し炭となれ……
ザガートも数秒遅れて攻撃魔法を唱える。同じように手のひらから火球が放たれる。
二つの火球は空中で衝突して大きな爆発を起こす。天まで届かんばかりの巨大な炎が吹き上がり、周囲に火の粉を
また相討ちか……アスタロトも、三人の少女達も、誰もがそう感じた。
だが……。
モクモクと立ち込める黒煙の中から、一つの火球が姿を現す。それはアスタロトめがけてまっすぐ飛んでいく。ザガートの唱えた魔法である事は明らかだ。
二つの火球がぶつかり合った時、消えたのはアスタロトのものだけだ。ザガートが放った魔法は消える事なく飛び続けた。それは勝負に一方的に打ち勝った事を意味する。
「ばっ、馬鹿な……ぐぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーっっ!!」
驚くあまり
「ウウッ……ウッ……」
やがて男が暴れるのをやめたと同時に炎が鎮火する。服はボロボロになっており、全身の皮膚は黒く焼け焦げていて、ブスブスと肉が焼けるニオイを立ち
男は大の字に寝転がったままピクリとも動かない。指の一本動かす力さえ残っていないのか、ただ
「お前の
ザガートが腕組みして勝ち誇ったドヤ顔になりながら言う。一度目と二度目で異なる結果になった理由を、さも当然と言いたげに説明する。
少女達は、ザガートとアスタロトの魔力量はほぼ同じだと見ていた。最初の火球の衝突が彼女達にそう思わせた。
それはアスタロトにとっても同様だ。両者の実力は拮抗しており、勝機は十分にあると判断した。
だが真実は違った。
ザガートは最初から本気など出しておらず、相手の実力を
アスタロトは魔王の手のひらで踊らされていたに過ぎない。
「………」
男の死にゆく姿を無言で眺めていたザガートだが、やがて思い立ったようにズカズカと歩く。男の
「最後に一つだけ聞かせろ……お前をこの世界に呼んだ神とは、一体何者だ?」
彼を異世界転生させた人物の名を問う。
「ヤハ……ヴェ」
アスタロトはたった一言そう口にすると、ガクッと力尽きて息絶えた。
彼をこの世界に呼んだのが、ザガートが元いた世界の神ゼウスではなく、この世界の神ヤハヴェである事が明白となった。
(ヤハヴェが転生させた男……その男が、魔王軍の手先に成り下がっていた。ただの偶然か? それとも……)
男の言葉を聞いて、ザガートがしばし物思いに
あれこれ推論が浮かび上がったものの、どれも確証を得るには至っておらず、旅を続けるしか真実を確かめる方法は無いという結論に至る。
魔王がふと目をやると、男の体が何度か発光した後、手足の指先からキラキラした光の粒子となって分解されていく。全身くまなく光の
直後、空中のある一点に魔力と思しき青い光が集まっていく。やがて光が凝縮されて一つの宝玉が生まれると、ゆっくりと落下していってザガートの手元に収まる。
それは大魔王の城に行くために必要な十二の宝玉のうちの一つだ。今回三つめを入手した事になる。
(アスタロト……憎むべき敵ではあったが、思えば哀れな男だ。神に大きな力を与えられず、捨て
宝玉を手にしながら、ザガートが物
もし彼が自分と同等の力を与えられたら、無惨な死に方はしなかっただろう……そう思いを抱く。
彼を最初から
◇ ◇ ◇
アスタロトを倒した日の翌朝……太陽が昇って周囲が明るくなり始めた頃。
グラナダの町を
敵であったはずの毒巨人は終始ニコニコしており、満面の笑みを浮かべている。かつて戦った時の邪気はすっかり消え失せており、表情はとても穏やかだ。
「毒巨人達は置いていく……この先どんな敵が攻めて来ようと、彼らが町を守ってゆくだろう」
ザガートが巨人を町の守りに
「ザガートの兄貴、任せて下せえ! 俺ら
魔王の言葉を聞いて、三兄弟の長男が頼もしい
「……俺の前で許可なく踊るのを禁止する」
ザガートが少し不快そうな顔をしながら命じる。
「そ、そんなぁーーーっ」
三人がとても悲しそうな表情をして、情けない声を漏らしながらズッコケた。体の大きな巨人が豪快に
「何から何まで町のために良くして頂いて、感謝の念に
ハウザー
「ああ……そうさせてもらう」
ザガートも彼の申し出を
「魔王様、町を救ってくれてありがとう! 私、大きくなったら魔王様と結婚するっ!」
ハウザーの娘ルカが唐突にそんな事を言い出す。彼女の発言に街の住人達が
十二歳の少女の発言を冗談と受け取るのは簡単だが、彼女は至って真剣だ。よほど命を救ってくれた魔王に感激したのか、本気で彼と結婚するつもりでいる。
「……その思いが十年
ザガートが本気とも冗談とも付かない言葉を口にして、少女の頭を優しく
「うん、約束だよ! 私、絶対忘れないからっ!」
少女が魔王の言葉に満足してニッコリ笑う。十年後の再会を約束して、元気に手を振る。
一行は少女達に笑顔で見送られながら、町の外へ出るのだった。
◇ ◇ ◇
「全く……今回ばかりはヒヤヒヤしたぞ。お前があの親子のどっちかに手を出すんじゃないかと、ずっと不安だった。何しろお前はいいオンナを見たら犯さずにはいられない、
城壁が見えなくなるほど遠く離れた頃、レジーナが唐突に口を開く。領主の妻と子がジャンボフランクの
「オイラてっきり、師匠があの子とヤるんじゃないかと思ったッス」
なずみが王女の後に続くように言う。自分が魔王と体を重ねたからこそ、自分と同じ十二歳であるルカもまた、同じ目に
「……お前らは一体俺を何だと思っている」
二人の発言に魔王が心底
ルシルは三人のやりとりを聞いてクスクスと笑う。王女達のように心配する発言はしない。魔王なら親子に手を出さないと最初から分かっていたか、もしくは手を出したとしてもしょうがないと受け入れる覚悟をしたかのどちらかだろう。
一行はそうして微笑ましく言葉を