いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第35話 盗賊ガンビーノ一味

 ……それはアスタロトが倒された日の夜の出来事。

 

 時計の針が十二時を指した真夜中、グラナダの町から遠く離れた山中にて、黒い大きな物体が不気味に(うごめ)く。

 その謎の物体は、ガツガツと音を立てて地面にある肉のようなものを鋭い牙で噛み千切(ちぎ)り、最後にゴクンと飲み込む。どうやら『食事』をしているようだ。

 

 地面には『かつて人であったもの』が散乱する。それも一人や二人ではなく、十人くらいになる。衣服はボロボロに破れ、鎧は砕けて、剣は折れている。身なりから察するに、謎の物体に敗れた冒険者パーティであろうと思われた。

 

 雲で隠れていた月が顔を出して、月明かりが大地に差し込む。それまで暗闇に覆われていた物体の姿があらわになる。

 

 それは大人のライオンより(ふた)(まわ)りほど大きな、ドーベルマンのような黒い犬の魔獣だった。体の大きさもさる事ながら、何より特徴的なのは、一つの胴体に首を三つ生やしていた事だ。それはケルベロスという名で知られた神話の怪物だった。

 

 ケルベロスが食事を終えた時、空から一羽のカラスが飛んでくる。

 彼の前にある冒険者の頭蓋骨を足場にして()まる。

 

「カーーカーー、カァーーッ」

 

 犬の魔獣に向かってカラスが叫ぶ。人間には意味を理解できない言葉だが、何かを訴えかけているようだ。犬が魔王軍の手先であるならば、カラスもまた彼の仲間であり、上からの命令を伝えに来たのだろう。

 

 しばらくカラスの言葉を黙って聞いていたケルベロスだが……。

 

「ウォォォオオオオオーーーーーーーーンッ」

 

 空に向かって遠()えすると、何処かに向かって一目散に駆け出す。まるで獲物のいる場所を目指して移動を始めたかのように……。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 グラナダの町を()ったザガート達は新たな目的地を目指して歩く。地図に(しる)された四つめの宝玉がある場所へと向かう。

 ガルアードの塔から西に十キロほど離れた山中に×(バツ)印が付けてあり、そこに次なる魔王軍の幹部がいるのだろうと推測する。

 

 山は傾斜こそ厳しくないものの、かなりの大きさがあり、徒歩で越えるには数日掛かりそうだ。馬車が通れる山道が中腹まで続いており、そこから道が二つに分かれている。一つは山の(ふもと)へと(くだ)る道で、もう一つは山頂へと続いている。×印は山頂に付けられていた。

 

 ザガート達が山頂を目指して歩いていると……。

 

「た、助けてくれぇぇぇえええええーーーーーーっ!」

 

 何処からか助けを呼ぶ声が聞こえた。それと同時に山道の彼方から、一人の男が全力で走ってくる。年齢は四十代くらいに見える、アラブの商人風の身なりをした小太りの男性だ。

 

「ああ、アンタひょっとして、異世界から来た魔王サマかい!?」

 

 商人の男はザガートの前まで来て立ち止まると、開口一番に問う。ゼェハァと息を切らせて顔中汗まみれになりながら、頭に(ツノ)が生えた相手の素性を確かめようとする。

 

如何(いか)にも、俺が異世界から来た魔王ザガートだが……アンタは?」

 

 ザガートは男の質問に答えながら、素性を問い返す。

 

「俺……いえ(わたくし)は旅の商人をしております、ラシードと言います! 以前貴方様が取引なさったという運び屋のハッサンは、私の古い友人です! 彼から貴方様の(ウワサ)(うかが)っておりました!」

 

 商人の男が早口で自己紹介する。ハッサンと顔なじみの友人だった事、彼から魔王の話を聞いていた事などを伝える。

 

「そそそ、そんな事よりお助け下さいっ! 山を歩いていたら、いきなり盗賊の一団に襲われたのです! このままではヤツらに殺されてしまう! どうか、どうかお助けをっ!!」

 

 話を途中で打ち切ると、魔王にすがり付いて助けを求める。盗賊の襲撃を受けた事、命からがら逃げてきた事を口にする。

 

「ヒャッホーーーーイ!!」

 

 商人の話が終わった直後、彼が走ってきた方角から盗賊のものと思しき奇声が発せられた。直後ドドドッと足音を鳴らしながら十人の屈強な男がやってくる。馬に乗っておらず、徒歩で移動する。

 男達はザガートから数メートル離れた場所まで来て一旦止まる。

 

 彼らは砂(ぼこり)にまみれたボロボロの布切れをマントのように羽織った荒くれの集団だ。体は筋骨隆々としており、顔には虎のような(ひげ)を生やして、見るからにむさ苦しい。頭には一味である事を示すらしき白いバンダナを巻く。

 手に持つ武器はサーベルと呼ばれる西洋風の刀、金属製の棍棒(メイス)、弓とバラバラで統一性が無い。

 年齢はいずれも三十代から四十代に見える。

 

「やいテメエら、ここいらじゃ見ねえ(つら)だな!? 俺たちゃガンビーノ一家ッ! この辺一帯を荒らし回る、泣く子も黙る大盗賊よッ!!」

 

 先頭にいるリーダー格と思しき男が自己紹介する。自ら大盗賊であるとアピールして、誇らしげなドヤ顔になる。相手が魔王である事に全く気が付いていない。

 

「死にたくなかったら、金目のモン置いてきなッ! 大人しく言う事聞けば、命だけは助けてやる! もし俺たちに逆らえば男は皆殺し、女はレイプだッ!!」

 

 リーダーの(となり)にいる男が金品を要求する。命令に従えば手出しはしないとの事だが、粗暴な彼らが約束を守るかどうかは(はなは)だ怪しい所だ。

 

「ラシードと言ったな……俺の後ろに下がっていろ」

 

 ザガートが商人に小声で(ささや)く。商人は指示に従い、ササッと魔王の背後に隠れる。感謝するように何度も頭を下げる。

 

「ガンビーノだか何だか知らんが、貴様(ごと)きが大盗賊とは笑わせる……俺が誰かも知らんらしい。貴様らこそ死にたくなければとっとと()せろ。さもないと、痛い目を見る程度では済まされんぞ」

 

 魔王が腕組みしながら小馬鹿にするように鼻で笑う。相手をわざと怒らせようとしているのか、挑発的な言葉を吐く。

 

「なんだと、この野郎ッ! ふざけやがって! このスカしたイケメン野郎ッ! 俺を怒らせたらどうなるか、思い知らせてやる! テメエら、こいつをやっちまえ!!」

「うおおおおおおおおっ!」

 

 安い挑発に乗せられたガンビーノが顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。子供のケンカのような悪口を(わめ)いた挙句、魔王を殺すよう命じる。

 彼の命を受けた部下達が(とき)の声を発しながら一斉に駆け出す。ガンビーノ自身も後に続く。十人の屈強な男が武器を手にしながら魔王へと向かっていく。

 

「……(ひざまず)け」

 

 ザガートがそう口にした途端、ドォォーーーンッ! と巨大な岩が落下したような音が鳴り、盗賊達が強い勢いで地べたに叩き付けられた。

 

 少女達には一瞬何が起こったか分からない。屈強な男達が、まるで磁力に引き寄せられたようにうつ()せに倒れたのだ。目に見えない巨人に押し(つぶ)されたように地面がミシミシと鳴る。凄まじい力が彼らにのしかかっているのが伝わる。

 

「ぐああああああああっ!」

「なっ、何だこりゃ……体が動かねえ!」

 

 全身に湧き上がる痛みに盗賊達が悲鳴を上げる。謎の力に踏まれて身動きが取れない。手足を動かして暴れようとしたものの、指先の一本すら動かせない。

 

暗黒重力(ダーク・グラビティ)……この星の百倍の重力をお前達に掛けた。もしこのまま何も出来なければ、五分と()たないうちに貴様らは潰れたトマトになる。格上の相手にケンカを売った愚かさをあの世で悔いるといい」

 

 ザガートが盗賊達を地面に寝かせた技について口を開く。

 彼らに凄まじい重力を掛けた事を教えて、何の手も打てなければすぐに死ぬ事を明かす。最後に相手を魔王だと見抜けなかった彼らの浅はかさを侮辱する。

 

(まっ、まさかこの男……異世界の魔王ッ!!)

 

 ガンビーノはここに至ってようやく、相手が(ウワサ)の魔王だと気付く。

 それはあまりに遅すぎる判断だった。

 

(いて)ぇ……痛ぇよ、お(かしら)ぁ……」

「死にたくねえ……」

 

 盗賊の子分達が口々に弱音を吐く。自身に迫り来る死という恐怖に()まれて、心をへし折られた。これまでの威勢の良さは完全に吹き飛び、格上の相手にケンカを吹っかけた事を深く後悔する。

 

「や、やめろザガート……やめてくれッ! このままじゃ俺達、本当に死んじまう! お、俺達は魔族でも何でもない、ただの人間だぞッ! お前は救世主の(くせ)に、俺達人間を殺そうというのか!?」

 

 ガンビーノが重力に押し(つぶ)されたまま命()いする。魔王が善良な人物と(ウワサ)されたのを頼りに、人間である自分達を殺すつもりかと問う。何としてもこの場を切り抜けようと、舌先三寸で相手を丸め込もうとした。

 

「フンッ……人間である事を盾にすれば、俺を()さぶれる気でいたとはな」

 

 ザガートが腕組みしながら鼻で笑う。相手の思惑を()()かしており、動揺する素振りは全くない。それどころか都合の良い時だけ人間だと主張する彼らを、ゴミを見るような目で見下す。

 

「言っておくが、俺は人間だから無条件で助けようとか、そんな考えは()(じん)も持っちゃいない。罪なき者なら種族の区別なく助けるが、私利私欲によって他者を害する悪党は、たとえ人間だろうと容赦はしない。貴様らのような平和を乱す害虫に情けを掛ける道理は無い」

 

 自らの考えを主張して、盗賊を許す意思が無い事を明確にした。

 

(なんてこった……こいつは(ちまた)で言われるような博愛主義者なんかじゃねえ! 確かに一般人には優しいかもしれねえが、俺達みてえな悪党は躊躇なく殺しやがる! 自らの価値観によって線引きを行い、無価値と判断した者を虫ケラのように殺す、生粋(きっすい)のエゴイストッ! 悪を殺す悪、(まさ)に最強の悪魔ッ!!)

 

 魔王の情け容赦の無さにガンビーノが心から戦慄する。彼の本質を知らされて、『悪』と見抜いた者を冷徹に処刑する迷いの無さに、背筋が凍る思いがした。

 

 男は人々の(ウワサ)を聞いて、魔王をお人好しな人物だと考えていた。教会のシスターか、はたまたボランティアの医師のような、友愛を唱えて回る善人のイメージを持っていた。世界を救う勇者とは、そういうものだと考えた。

 そのような人物なら、舌先三寸で丸め込むのは容易いという思惑があった。

 

 ……それが飛んだ思い違いに過ぎないのだと、深く思い知らされた。

 

「わ、わかった……俺が悪かった! もう二度と悪さはしねえから、どうか今回ばかりは見逃してくれっ! 頼むっ!!」

 

 ガンビーノがこれまでの悪事を謝罪する。何としてもこの場を切り抜けたい一心で、心にもない反省の言葉が口を()いて出た。

 深い考えがあった訳ではない。苦し(まぎ)れで取った咄嗟(とっさ)の行動だ。

 

 ザガートは男の言葉を聞いてしばし考え込む。目を閉じて腕組みしたまま、盗賊達をどう扱うべきか思案する。取った選択と、それによって訪れる結果を頭の中で何度もシミュレートする。

 しばらく考え事に没頭したように黙り込んでいたが……。

 

「……良かろう」

 

 そう口にしながら指をパチンッと鳴らすと、男達に掛かっていた重力魔法が解除された。

 彼らが命拾いした事に喜んだのも(つか)()……。

 

(なんじ)の魂に永遠の束縛を与えん……死刑の猶予(エクステンション・ダイ)ッ!!」

 

 ザガートが間髪入れずに魔法の言葉を唱える。魔王の指先から黒い霧のような(もや)が放たれて、盗賊達の口や鼻、体中の穴という穴から入り込んでいく。

 

「おっ、お前……俺達に一体何しやがった!?」

 

 ガンビーノが慌てて起き上がると、自分達の身に起こった出来事を問う。

 黒い霧状の物体を吸い込まされた事に危険を感じたものの、今すぐに何かが起こる気配は無い。体中を手でまさぐったり、叩いてみたり、ゲホゲホッと()き込んだりしたものの、黒い何かは体の外に出ない。

 

「お前達の体内に致死風(デッドリー・エア)の猛毒カビを寄生させた……もし俺と()わした約束を(たが)えれば、その瞬間お前達の体は分解されて(チリ)になる」

 

 魔王が盗賊達に吸わせた黒い霧の正体を明かす。それは一定の条件を満たした時のみ発動する即死魔法というものだった。

 

「何も恐れる事は無い……お前達がちゃんと約束を守って、悪事を働かず真面目に生きてさえいれば、術の効果は永久に発動しないのだからな。ハハハハハッ……」

 

 心を入れ()えて善人として働けば、天寿を(まっと)う出来るのだと教える。最後は男達を侮辱するように高笑いした。まるで彼らにそんな事出来る訳が無いと最初から分かった上で、わざとそうしたかのようだ。

 

「はははっ……はっ」

 

 ガンビーノが釣られて乾いた笑いをする。声は笑っていたが、目は笑っておらず、顔面麻痺(まひ)したように口元を引きつらせた。顔は血の気が引いて真っ青になる。

 魔王に告げられた言葉が(にわ)かに受け入れられず、現実逃避したように思考が真っ白になる。自分が死んだ姿を想像して、心臓がバクバクと鼓動する。

 

 しばらく顔を引きつらせて不気味に笑っていたが……。

 

「ひっ……ひぃぃぃぃいいいいいいーーーーーーっっ!!」

 

 やがて思い出したように恐怖が胸の内に湧き上がり、山中に響かんばかりの絶叫を発しながら、慌てて逃げ出す。魔王達がいたのとは逆方向に全力でダッシュし、途中で二つに分かれた山道を、(ふもと)に下りる方角に向かって走っていった。

 

「ま、待ってくれ! お(かしら)ぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」

 

 ポカンと口を開けて突っ立っていた九人の部下が、急いでガンビーノの後を追う。自分達が置き去りにされた事に気付いて、何としても首領に追い付こうとした。

 よほど焦っていたのか、手に持っていた武器と、それまで集めたと思しき金銀財宝を地面に放り出す。逃げるのに夢中で、荷物を持ち歩く余裕も無かったようだ。

 

「本当に良いのか? あんな連中、野放しにしておいて。いっそ見せしめに(さら)し首にでもしておくべきだったんじゃないか」

 

 レジーナが盗賊への対応に不満を漏らす。彼らが再犯するのではないかと懸念を抱くあまり、王族らしからぬ物騒な台詞(セリフ)を吐く。

 

「まあ……大丈夫だろう」

 

 ザガートはそう言って、意味ありげにククッと笑う。

 まるでこの先何が起こるかを予見したかのように……。

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