いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
「ハァ……ハァ……ハァ……」
魔王から命からがら逃げ延びたガンビーノが激しく息を切らす。一旦立ち止まって後ろを振り返ると、
走った疲れを
「待ってくだせえ、お
大声で叫びながら全力疾走して首領の元へと追い付く。
「ハァハァ……ようやく追い付きやしたぜ、お頭っ!」
「俺達を置き去りにしたまま逃げるなんて、
「今回ばかりは見損ないやしたぜっ!」
彼らは息を切らせながらガンビーノに激しく詰め寄る。仲間を見捨てて自分だけ助かろうとした事に猛抗議する。
「う、うるせえっ! こっちだって必死だったんだ! しょうがねえだろ!!」
ガンビーノが顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。逆ギレ気味に自分の判断を正当化する。
そこまで平然と開き直られては反論の余地も無く、部下達もやむなく首領を責めるのをやめる。
「俺達、もう
部下の一人がボソッと小声で
他の連中が彼に続くように「はぁーーっ」とため息を漏らす。
魔王に言われた
鳥が空を飛び、魚が水を泳ぐように、彼らにとって悪事を働くのは『当たり前の事』だった。他の手段で生きる考えなど
そんな彼らが悪事を禁止されるなど、鳥が翼をもがれたようなものだ。
「な、なんだテメエらっ! ヤツの言う事を
ガンビーノが
「そ……そうですよねっ! さすがお頭、そうでなくっちゃ!」
「俺達、何処までもアンタに付いていきやすぜっ!」
「
子分達が首領の言葉で元気を取り戻す。胸の内に抱えていた
……ガンビーノの態度は単なる現実逃避の強がりであったが、子分達はそれに気付きもしない。
「さて、これからどうしたものか」
連中が今後について考えながら、辺りを見回していると……。
「フッフフッフ、フーーーン」
山道から大きく外れた草むらで、一人の少女が
誰かが
十三歳くらいに見える少女は腰まで伸びた長めの金髪で、
首からは青い宝石のペンダントをぶら下げている。あまり値打ちがあるようには見えない。
「ローズマリーは病気に効くって、ばっちゃが言ってた……」
少女が薬草の名を口にしながら植物採集を行っていると……。
「ヒャッホーーーーイ!!」
盗賊達が奇声を発したまま、ズザザァーーッと山の斜面を
「へっへっへっ……」
彼らはいやらしい笑みを浮かべながら声に出して笑う。目はギラギラしており、蛇のようにペロリと舌なめずりする。口からはダラダラと
腹を
魔王に言われた事などすっかり忘れてしまったかのようだ。
「あああっ……あっ……」
屈強な男達に囲まれて、少女が顔を引きつらせた。表情はみるみるうちに青ざめて、手足の震えが止まらない。今すぐ逃げ出そうにも、足に力が入らない。蛇に
「お頭、この女どうしやす?」
恐怖で体が動かない少女を眺めながら、子分の一人が処遇を問う。いきなり襲いかかったりせず、首領の判断を仰ぐ。
「そうだな……奴隷商に売り飛ばしてもいいが、はした
ガンビーノが冗談とも本気とも付かない言葉を発して楽しそうに笑う。性欲を満たせる期待に胸を
少女を犯す方針が決まり、十人の男がジリジリと彼女に近寄る。一歩、また一歩と距離を詰める。少女と数メートルしか離れていない場所まで来る。
誰か一人が飛びかかれば、それをきっかけに他の九人が一斉に飛びかかる状態だ。そうなれば彼女は屈強な男達の
「いやぁ……」
少女の心が深い悲しみに染まる。目にうっすらと涙が浮かび、今にも泣きそうになる。
男達に服を脱がされて、エッチな事をされて、赤子を
もしこの場にナイフがあったら、いっそ死んだ方がマシだと叫んで自害しただろう。だが
「いっ……いやぁぁぁあああああっ! 誰か、誰か助けてぇぇぇぇええええええーーーーーーっっ!!」
絶望に打ちひしがれた少女が、
「ウッ……ウギャァァァアアアアアアッッ!!」
彼女に襲いかかろうとした盗賊の一人が、突如声に出して苦しみ出す。
地べたに転がってミミズのようにのたうち回りながら、両手の指で体中を激しく
少女も、他の盗賊連中も、状況を把握できない。
何が起こったのか全く分からないまま、男が苦しむ
(こっ……これはまさか!?)
ガンビーノの脳裏を恐ろしい想像がよぎった、その時。
男の体がボンッ! と音を立てて破裂する。肉も内蔵も一瞬で吹き飛び、真っ赤な血に染まった大地にバラバラの骨だけが残る。
「ギャアアアアアッ!」
「ウギャアアアアアアアッ!」
「ボグアアアアアアアアッ!!」
他の盗賊達が後に続くように苦しみ出す。悲鳴を上げてのたうち回った後、叫んだ順番にボンッボンッと音を立てて爆発する。まるで彼らの体内に小型爆弾が仕掛けられており、それを一斉に起爆させたかのようだ。
「お頭……助け……て……」
最後に残った二人のうち一人が、苦悶に満ちた言葉を吐きながら弾け飛ぶ。死の間際に見せた表情は、無責任な言動で部下を死に追いやった首領を恨んでいるように見えた。
「あああっ……」
ガンビーノの表情が一瞬にして青ざめた。部下が全員死んで自分だけが残った状況に、何が起こったかを即座に理解する。
むろん部下が死んだとなれば、次は彼の番だ。逃れられる道理は無い。
「い、いやだ……俺は死にたくねえ! 死にたくねえよぉぉぉぉおおおおおおーーーーーーーっっ!!」
何かから逃げるように大声で叫びながら何処かに向かって走り出したものの、それで助かる
かくして盗賊達は最初の一人が襲いかかろうとした瞬間から一分と
「………」
少女は
男達が死んだのは魔王の術の効果が発動したからだが、それを知らない彼女からすれば、全く
神の奇跡か、はたまた悪魔の仕業か……ただいずれにせよ、少女が助かった事実に変わりは無い。その事にまずはホッと一安心する。
たとえ悪魔の仕業だったとしても、屈強な男達の
「……!?」
少女が助かった事に安堵したのも
このままではいけないと思い、周囲を見回すと、少し離れた場所に人
それから数秒が経過した後、足音の主である巨大な何かが山を駆け上がってくる。それは平地に
少女が岩陰から顔を出して
彼は上司から命を受けて、ザガートを追ってここまでやって来ていた。その途中で血の臭いに引かれて寄り道したという訳だ。
ケルベロスは
(魂を……食らってる!!)
一連の光景を目にして、少女が深く戦慄した。断定できる根拠は無いが、彼女にはそう思えて仕方がない。
生者の肉を食らうだけでは飽き足らず、死者の魂までも食らう魔獣の貪欲さに、背筋が凍る思いがした。魔獣の
魔獣は男達の魂を食い終えると、岩のある方角に向かって歩き出す。聞き耳を立てたり、クンクンと鼻を動かして風の
(おじいちゃん、助けて……ッ!!)
少女は再び岩陰に隠れると、ペンダントを強く握り締めながら、祖父に言われた言葉を思い出す。
ナージャや……そのペンダントはワシが行き倒れたエルフを助けた時、お礼として
それを身に付けていれば、魔族に気配を悟られず安全に旅が出来るという。
それをお前にやる。その身に危険が迫った時、ペンダントがお前を守るじゃろう。
祖父の言葉……それは少女の身に付けたペンダントが、魔獣の襲撃から身を守るというものだった。
祖父の言葉を信じて、少女がペンダントを強く握る。目を
ケルベロスは
明らかに視界に入った角度だというのに、人の存在に気付いた様子が無い。
少女の姿も、少女を包み込んだ光も、全く見えてないようだ。それどころか彼女から届くはずの
少女の存在に気付くために必要な情報、その全てがペンダントの力によって遮断されていた。魔獣にとってそこには『誰もいない』のだ。
しばらくその場に
「ウォォォオオオオオーーーーーーーーンッ」
天に向かって
魔獣が向かった方角、それは魔王がいた場所だ。彼は風に乗って流れてきた
「助か……った」
魔獣が去った後、少女がガクッと地べたにへたり込む。緊張感が解けて脱力しきってしまい、しばらく立ち上がれそうにない。それでも今はようやく訪れた安心感に
ふと空を見上げると、数羽の小鳥が飛んでいる。そのうち一羽が少女の肩に
かくしてナージャという少女は、この惨劇におけるただ一人の生存者となった。