いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第37話 ケルベロスとの戦い(前編)

 盗賊の一味を蹴散らしたザガート達一行は山歩きを再開する。旅の商人ラシードに別れを告げると、山道の分かれ道まで来て、山頂へと向かう方を進んでいく。

 (ふもと)へと下りるもう一方の道である事件が起きていた事を、彼らは知る(よし)もない。

 

 目的地を目指して一時間ほど歩いた時……。

 

「……ムッ!?」

 

 ザガートが異変を察知して、慌てて後ろを振り返る。その直後ドガドガドガッと巨大な何かが走る音が鳴り響いて、山全体が激しく揺れた。大地の振動に驚いた鳥達が慌てて空へと逃げて、野山を駆けていた野生動物達がすぐさま何処かに隠れる。

 魔族ではない自然の動物が一瞬にして姿を消し、山中には魔王一行しか()ない状態になる。彼らが野生の(カン)によって危険を感じて避難した事は明白だ。

 

 むろん野生の勘など無くとも、危険が近付いている事は少女達でも分かる。何しろ巨大な足音は彼女達の方へと向かっていたのだから。

 

 一行が来た道を振り返ると、黒い大きな物体が、猛ダッシュで山道を駆け上がってくる。足音の主である『それ』は少女達から数メートル離れた場所まで来て一旦立ち止まる。

 

「グルルルル……」

 

 ライオンより(ふた)(まわ)りほど大きな、ドーベルマンのような黒い犬の魔獣が、相手を()(かく)するように(うな)り声を発する。ケルベロスという名で知られた神話の怪物は、三つの頭で少女達を眺めながら、ダラダラと(よだれ)()らす。おいしそうな獲物を見つけたと言わんばかりにペロリと舌なめずりした。

 

(なんて事だ……俺達は、敵は山頂にいると思い込んで、そこを目指していた。だがヤツは(すで)に別の場所に移動していて、ヤツを追っていたつもりが、逆に俺達がヤツに追われる(がわ)になっていたというのかッ!!)

 

 新たな敵を前にしてザガートが歯(ぎし)りする。地図を頼りにし過ぎて、敵の動向に気を配れなかった自身の判断の甘さを嘆く。背後に回り込まれる事態を招いた事に責任を感じる。

 直接名乗りがあった訳ではないが、この神話級の怪物こそが、魔王軍第四の幹部であろうとみなす。これほどの大物が一介の雑魚で済むはずが無いという考えが頭の中にあった。

 反省するのは後回しにして、今は目の前にいる敵を倒す事に集中しようと気持ちを切り替える。

 

「ゲヘナの火に焼かれて、消し(ずみ)となれ……火炎光弾(ファイヤー・ボルト)ッ!!」

 

 敵に手のひらを向けて攻撃魔法を唱える。魔王の手のひらから煌々(こうこう)と燃えさかる(なし)くらいの大きさの火球が放たれて、魔獣めがけて飛んでいく。

 巨大な塔を木っ端微塵に吹き飛ばす威力の火球が、魔獣を(とら)えようとした瞬間……。

 

「何ッ!?」

 

 視界に映り込んだ光景に魔王が目の色を変えた。

 火球が触れようとした瞬間、ケルベロスが三匹の魔物に分裂して、魔王の攻撃を回避したのだ。敵に当たり(そこ)ねた火球はそのまま背後にある空へと飛んでいき、ボンッと破裂して消える。

 三匹に分かれた魔物はそれぞれ別の方角へと走り出す。わざと四方に散らばって、相手を攪乱(かくらん)させる狙いがあった。

 

 その魔物達は動物のチーターより(ひと)(まわ)り大きな、黒い犬の魔獣だった。三匹に分かれただけあって、頭は一つずつしか無い。

 

(この世界のケルベロスは、三匹のヘルハウンドが合体して一匹の魔獣になった姿だったというのか……)

 

 犬の魔獣が分裂した姿を見て、ザガートが思わず感心する。

 自分が元いた世界で聞いた伝承とは異なる魔獣の特性に、驚きを通り越して「そういうのもアリか」という気持ちにすらなる。心の中で敵ながら天晴(あっぱれ)と称賛する。

 

「師匠、どうするッスか!?」

 

 魔王が呑気(のんき)に感心していると、なずみが今後の作戦を問う。三体に分かれた魔獣に対し、どう戦うべきか意思確認を行う。

 

「敵は一箇所に固まらず、バラバラに襲ってくる! こっちも戦力を三手に分ける必要がある! 三匹の相手はお前達に任せる! 一人一体ずつ相手をして、敵に手傷を負わせろ! 俺は強化魔法でお前達をサポートする!!」

 

 ザガートがテキパキと指示を出す。()えて自分一人で戦うのではなく、仲間の力を借りるべきだと考えて、その(ため)の役割分担を行う。

 

「分かった、任せてくれっ!」

「私達の力を見せ付けてやります!」

 

 レジーナが頼もしげな台詞(セリフ)を吐く。仕事を任された以上、仲間の期待に応えねばなるまいと気を張る。戦いに備えるべく、(さや)から剣を抜いて構える。

 ルシルも負けじとガッツポーズを取る。二人に遅れを取る訳には行かないと鼻息を荒くする。

 

 ザガートは二人の言葉を聞いて安心したようにフッと笑う。彼女達に戦いの機会を与えられた事、彼女達自身がそれに乗り気である事を心から喜ぶ。

 少女達に戦わせた判断が間違いだったと後悔しないために、全力で彼女達を支えねばなるまいと思いを強くする。

 

「大地と大気の精霊よ、(いにしえ)の盟約に(もと)づき、我に力を与え(たま)え……全能強化(マイティ・ブースト)ッ!!」

 

 両手で(いん)を結んで魔法の言葉を唱える。すると少女達の体が(まばゆ)いオーラに包まれる。オーラは黄金のようにキラキラと輝いていて、見るからに美しい。何らかの強化をされたであろう事は一目瞭然だ。

 

「うおおおおっ! 光ってる! オイラ、光ってるッスよおおおおおおっ!!」

 

 自分の体が突然光りだした事になずみが困惑する。初めての経験に戸惑いながらも興奮気味に胸をワクワクさせた。

 

「何だこれはッ! 力が……体の奥底から力が湧いてくるッ!!」

「まるで自分がいきなり強くなったみたいです!!」

 

 レジーナとルシルも急激に力が湧き上がってくる感覚にテンションが高まる。体が(しん)から熱くなり、全身の細胞が活力に(みなぎ)ったような気がして、今すぐ戦いたい衝動に駆られた。

 

全能強化(マイティ・ブースト)……五分の間だけ、全ての能力を十倍に底上げする魔法ッ! パワー、スピード、打たれ強さ、魔力……全てだ! あまりに強力すぎる(ため)、一日に一度きりしか効果を発揮しないシロモノだが……ここで使うべきだと判断した!!」

 

 少女達に掛けた強化魔法についてザガートが解説する。効果が絶大であるが(ゆえ)に制約があり、何度も使える手段ではない事を教える。(まさ)に使うべき場面を選ぶ切り札と呼べるものだ。

 

「今のお前達の力なら、ヘルハウンドと十分に渡り合える! 決して負ける事など無い! 自分を信じて戦え!!」

 

 十倍に強化された少女達の強さが魔獣に劣らない事を伝えて、彼女達が安心して戦えるよう背中を強く押すのだった。

 

「グルルルルゥ……」

 

 ヘルハウンド達が憎々しげに(うな)り声を発する。よほど腹に()えかねたのか、憎悪に満ちた瞳で相手を(にら)む。今すぐにも少女の肉を喰らわんと歯を()き出しにする。

 

 自ら言葉を発しはしないが、魔王の言動に腹を立てたようだ。能力が十倍に底上げされた少女達なら自分を倒せると言われて、イラッとしたのだろう。

 十倍強くなろうが、そんな小娘共に我々が倒せるものかっ! ……そんな心情が読み取れた。

 

「ウオオオオオオオオーーーーーッッ!!」

 

 三頭が山中に響き渡るほどの咆哮(ほうこう)を発しながら、一斉に駆け出す。魔王に狙い撃ちされるのを避けるためバラバラに行動し、それぞれ異なる少女めがけて突き進んでいく。

 

 まず最初の一体がルシルに狙いを付けて走り出す。相手の攻撃を攪乱(かくらん)するためか、反復横跳びするようにジャンプしながら前進する。

 

「業火よ放て……火炎光矢(ファイヤー・アロー)ッ!!」

 

 ルシルが両手のひらを相手に向けて火球を放つ。

 魔獣はサッと横に動いて火球をかわし、(なお)も少女へと向かっていく。距離を詰めると、今度は一直線に走り出す。

 攻撃魔法を外した事により少女に(すき)が生まれたとみなし、この機を逃すまいとする。

 

「ウオオオオーーーーッ!」

 

 相手の喉笛(のどぶえ)を噛み千切(ちぎ)らんと、大きく口を開けて飛びかかった瞬間……。

 

「……火炎光矢(ファイヤー・アロー)

 

 ルシルがニヤリと笑いながら攻撃魔法を唱える。

 放たれた火球は少女に襲いかかろうとした魔獣の顔面を直撃し、首から上が炎に包まれた。

 

「ギャワワワンッ!」

 

 顔が焼ける痛みに魔獣が悲鳴を上げて(もだ)える。魔法を喰らった衝撃で後ろに吹っ飛んで地面に倒れると、全身をジタバタ動かしてのたうち回る。大地に(こす)り付けた事により火は消えたものの、それでも顔面の皮膚は焼け焦げており、かなりの苦痛を受けたようだ。

 

 ルシルにとって最初の一発を外す事は想定内だった。俊敏に動き回る敵は自分に襲いかかろうとした瞬間こそ攻撃を当てるチャンスだとみなし、誘いを掛けたのだ。敵はまんまとそれに乗せられた形となる。

 

 ルシルに一体目が襲いかかった直後、少し遅れて二体目がレジーナへと突進する。左右に動いて相手の攻撃をかわそうとした一体目と異なり、体当たりしようとするように凄まじい勢いでダッシュする。肉弾戦特化の戦士相手に奇策を(ろう)する必要は無いと判断したらしく、野生のイノシシのように(ちょ)(とつ)猛進する。

 

「グルルァァァァアアアアアアーーーーーーッ!」

 

 けたたましい雄叫びを発しながら大きく口を開けてジャンプする。相手の頭上から落下して、首か肩に噛み付こうともくろむ。

 だがレジーナは素早く飛び退()いて、魔獣の一撃を難なくかわす。常人では追い付けないヘルハウンドの動きも、十倍速くなった王女なら十分(じゅうぶん)目で追える速さだ。

 

 渾身の一撃を外した魔獣は着地の衝撃で一瞬動けなくなる。

 王女はその一瞬の(すき)を見逃さない。

 

「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」

 

 勇ましく()えると、両手で握った一振りの剣を横()ぎに振って敵に斬りかかる。王女の全力が込められた刃が魔獣の右前足に食い込み、肉が切り裂かれる鈍い音が鳴る。

 

「グギャアアアアアアアアッ!!」

 

 前足を斬られた痛みに魔獣が悲鳴を上げる。咄嗟(とっさ)に数メートル後ろに下がると、王女を恨めしそうな目で見る。

 王女の剣による一撃は凄まじく、魔獣の右前足は一刀両断されていた。傷口からは真っ赤な血が(あふ)れ出し、切り落とされた前足は地面に転がったまま沈黙する。毒素が含まれていたのか、血が()れた大地の草がシュウシュウと白煙を立ち(のぼ)らせて急激に()れる。

 

 他の二体が戦っていた頃、残る一体はなずみと激しく(にら)み合っていた。先の連中のように積極的に襲いかかろうとせず、一定の間合いを保ったまま相手の出方を(うかが)う。少女が前に進めばジリジリと後退し、歩くのをやめればピタッと止まる。鋭い眼光で少女を見つめたまま、「ウゥーーッ」と低い声で(うな)る。

 

 いきなり襲いかかったりしないのは、魔獣がなずみを他の少女と比べて『油断のならない相手』とみなしたからだ。それは野生の(カン)によるものか、はたまた長年の経験に裏打ちされたものか。明らかに非力に見える幼い少女が戦場にいる事に、何か隠し玉を持っているのではないかと警戒したとしても無理はない。

 

 このまま睨み合っていても(らち)が明かないと感じて、なずみが先に行動を起こす。

 

「これでも喰らうッスよ!」

 

 そう叫ぶや否や、(ふところ)から黒い玉のようなものを取り出して、魔獣が立っている地面に向かって投げ付けた。黒い玉は地面に激突するとボンッと音を立てて爆発し、大量の粉を()き散らす。空気で拡散された粉は霧のようになって、魔獣の周囲を覆い隠す。

 

「ウウッ!?」

 

 視界を(ふさ)がれたヘルハウンドが(にわ)かに慌てふためく。右を見ても左を見ても霧しか見えず、数メートル先すらも見渡せない。完全に少女の術中に(はま)った形となる。

 魔獣がキョロキョロ周囲を見回すと、黒い影のようなものが視界に立つ。他に人の気配は無い。

 

「ウオオオオオオオオーーーーーーッッ!!」

 

 ヘルハウンドが大声で叫びながら黒い影めがけて飛びかかる。右前足を高々と振り上げて、鋭い(ツメ)で引き裂こうとした。

 だが爪が触れた途端、黒い影のようなものがフッと消える。肉を切り裂いた感触が全く無い。魔獣がなずみだと思い込んで攻撃した『それ』は、彼女が術で生み出したまやかしだった。

 

 攻撃をスカらせた瞬間、魔獣の左側面から本物のなずみが姿を表す。それと同時に周囲を覆っていた霧が晴れる。

 少女は自身の想定通りに事が運んだ喜びに口元を(ゆが)ませた。

 

「てやぁぁぁぁああああああーーーーーーっ!」

 

 気迫の(こも)った雄叫びを発すると、敵に向かって一気に駆け出す。背中の帯に()してあった(さや)から短刀を引き抜いて逆手に持ち替えると、魔獣の顔面に斬りかかろうとした。

 

 魔獣は慌てて少女が向かってきた方角に振り返り、右手を振り上げて反撃しようとしたが、魔獣の手が上がるよりも少女の攻撃が届くタイミングの方が速かった。

 少女が横()ぎに振った刀が魔獣の右(まぶた)に命中し、ズバァッと音を立てて肉が切り裂かれる。少女はそのまま一気に駆け抜けて、敵の背後に回り込む。

 

「グアアアアアアッ!!」

 

 右目を斬られた痛みにヘルハウンドが悲痛な声で叫ぶ。傷口から大量の血を噴き上げながらドォッと地面に倒れ込んで、激痛から逃れようとするように全身を何度も激しく(こす)らせた。すぐに正気を取り戻して立ち上がると、誰もいない平地へと逃げるように移動する。

 

「ウォォォオオオオオーーーーーーーーンッ」

 

 目を負傷したヘルハウンドが(とお)()えを発すると、他の二体が彼の方へと走っていく。三体の魔獣は一箇所に集まると互いに体をくっつけ合い、合体して元のケルベロスへと戻る。遠吠えは合体を(うなが)す合図だったようだ。

 

 だがこの瞬間(とき)を待っていたとばかりにザガートがニヤリと笑う。

 

()ぜよッ! (なんじ)の身に宿りし力、外へ向かう風とならん!」

 

 両手のひらを敵に向けて呪文の詠唱を行う。直後彼の手のひらに光が集まっていき、魔力を圧縮した光弾になる。それは次第に(ふく)れ上がっていき、やがてダチョウの卵くらいの大きさになる。

 

「……絶対圧縮爆裂(アブソリュート・ディスラプト)ッ!!」

 

 魔法名を叫ぶや否や、手のひらにあった光弾が敵めがけて放たれた。

 音速を超える速さで飛んでいった光弾を、魔獣は避ける(ひま)もなく喰らう。

 光球が触れると、魔獣の体が内部からドクンドクンッと脈打って、皮膚が沸騰したようにボコボコと泡立つ。

 

「グッ……ガギャァァァァアアアアアアーーーーーーッッ!!」

 

 断末魔の悲鳴を発した瞬間、ケルベロスの体が針を刺した風船のように割れて、粉々に弾け飛ぶ。大地に散らばった肉片は粒子状に分解されて空へと散っていき、死体すら残らない。魔獣が死んだ事を悟らせるには十分すぎる光景だ。

 

「不利な状況に追い込まれれば、必ず合体すると踏んでいた。どんな生物であろうと、合体した直後は必ず(すき)が生まれる。そこを突けば、再分離される事なく倒せる……俺の目に狂いは無かった」

 

 ザガートが敵を仕留めた作戦について語る。()えて少女達に戦わせた事、バラバラの状態でピンチになれば敵が再合体を(こころ)みる事、そこを狙えば、まず攻撃を外さない事……全て計算通りだったと明かす。

 

「俺の作戦勝ちだったようだな……ケルベロス!!」

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