いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
盗賊の一味を蹴散らしたザガート達一行は山歩きを再開する。旅の商人ラシードに別れを告げると、山道の分かれ道まで来て、山頂へと向かう方を進んでいく。
目的地を目指して一時間ほど歩いた時……。
「……ムッ!?」
ザガートが異変を察知して、慌てて後ろを振り返る。その直後ドガドガドガッと巨大な何かが走る音が鳴り響いて、山全体が激しく揺れた。大地の振動に驚いた鳥達が慌てて空へと逃げて、野山を駆けていた野生動物達がすぐさま何処かに隠れる。
魔族ではない自然の動物が一瞬にして姿を消し、山中には魔王一行しか
むろん野生の勘など無くとも、危険が近付いている事は少女達でも分かる。何しろ巨大な足音は彼女達の方へと向かっていたのだから。
一行が来た道を振り返ると、黒い大きな物体が、猛ダッシュで山道を駆け上がってくる。足音の主である『それ』は少女達から数メートル離れた場所まで来て一旦立ち止まる。
「グルルルル……」
ライオンより
(なんて事だ……俺達は、敵は山頂にいると思い込んで、そこを目指していた。だがヤツは
新たな敵を前にしてザガートが歯
直接名乗りがあった訳ではないが、この神話級の怪物こそが、魔王軍第四の幹部であろうとみなす。これほどの大物が一介の雑魚で済むはずが無いという考えが頭の中にあった。
反省するのは後回しにして、今は目の前にいる敵を倒す事に集中しようと気持ちを切り替える。
「ゲヘナの火に焼かれて、消し
敵に手のひらを向けて攻撃魔法を唱える。魔王の手のひらから
巨大な塔を木っ端微塵に吹き飛ばす威力の火球が、魔獣を
「何ッ!?」
視界に映り込んだ光景に魔王が目の色を変えた。
火球が触れようとした瞬間、ケルベロスが三匹の魔物に分裂して、魔王の攻撃を回避したのだ。敵に当たり
三匹に分かれた魔物はそれぞれ別の方角へと走り出す。わざと四方に散らばって、相手を
その魔物達は動物のチーターより
(この世界のケルベロスは、三匹のヘルハウンドが合体して一匹の魔獣になった姿だったというのか……)
犬の魔獣が分裂した姿を見て、ザガートが思わず感心する。
自分が元いた世界で聞いた伝承とは異なる魔獣の特性に、驚きを通り越して「そういうのもアリか」という気持ちにすらなる。心の中で敵ながら
「師匠、どうするッスか!?」
魔王が
「敵は一箇所に固まらず、バラバラに襲ってくる! こっちも戦力を三手に分ける必要がある! 三匹の相手はお前達に任せる! 一人一体ずつ相手をして、敵に手傷を負わせろ! 俺は強化魔法でお前達をサポートする!!」
ザガートがテキパキと指示を出す。
「分かった、任せてくれっ!」
「私達の力を見せ付けてやります!」
レジーナが頼もしげな
ルシルも負けじとガッツポーズを取る。二人に遅れを取る訳には行かないと鼻息を荒くする。
ザガートは二人の言葉を聞いて安心したようにフッと笑う。彼女達に戦いの機会を与えられた事、彼女達自身がそれに乗り気である事を心から喜ぶ。
少女達に戦わせた判断が間違いだったと後悔しないために、全力で彼女達を支えねばなるまいと思いを強くする。
「大地と大気の精霊よ、
両手で
「うおおおおっ! 光ってる! オイラ、光ってるッスよおおおおおおっ!!」
自分の体が突然光りだした事になずみが困惑する。初めての経験に戸惑いながらも興奮気味に胸をワクワクさせた。
「何だこれはッ! 力が……体の奥底から力が湧いてくるッ!!」
「まるで自分がいきなり強くなったみたいです!!」
レジーナとルシルも急激に力が湧き上がってくる感覚にテンションが高まる。体が
「
少女達に掛けた強化魔法についてザガートが解説する。効果が絶大であるが
「今のお前達の力なら、ヘルハウンドと十分に渡り合える! 決して負ける事など無い! 自分を信じて戦え!!」
十倍に強化された少女達の強さが魔獣に劣らない事を伝えて、彼女達が安心して戦えるよう背中を強く押すのだった。
「グルルルルゥ……」
ヘルハウンド達が憎々しげに
自ら言葉を発しはしないが、魔王の言動に腹を立てたようだ。能力が十倍に底上げされた少女達なら自分を倒せると言われて、イラッとしたのだろう。
十倍強くなろうが、そんな小娘共に我々が倒せるものかっ! ……そんな心情が読み取れた。
「ウオオオオオオオオーーーーーッッ!!」
三頭が山中に響き渡るほどの
まず最初の一体がルシルに狙いを付けて走り出す。相手の攻撃を
「業火よ放て……
ルシルが両手のひらを相手に向けて火球を放つ。
魔獣はサッと横に動いて火球をかわし、
攻撃魔法を外した事により少女に
「ウオオオオーーーーッ!」
相手の
「……
ルシルがニヤリと笑いながら攻撃魔法を唱える。
放たれた火球は少女に襲いかかろうとした魔獣の顔面を直撃し、首から上が炎に包まれた。
「ギャワワワンッ!」
顔が焼ける痛みに魔獣が悲鳴を上げて
ルシルにとって最初の一発を外す事は想定内だった。俊敏に動き回る敵は自分に襲いかかろうとした瞬間こそ攻撃を当てるチャンスだとみなし、誘いを掛けたのだ。敵はまんまとそれに乗せられた形となる。
ルシルに一体目が襲いかかった直後、少し遅れて二体目がレジーナへと突進する。左右に動いて相手の攻撃をかわそうとした一体目と異なり、体当たりしようとするように凄まじい勢いでダッシュする。肉弾戦特化の戦士相手に奇策を
「グルルァァァァアアアアアアーーーーーーッ!」
けたたましい雄叫びを発しながら大きく口を開けてジャンプする。相手の頭上から落下して、首か肩に噛み付こうともくろむ。
だがレジーナは素早く飛び
渾身の一撃を外した魔獣は着地の衝撃で一瞬動けなくなる。
王女はその一瞬の
「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」
勇ましく
「グギャアアアアアアアアッ!!」
前足を斬られた痛みに魔獣が悲鳴を上げる。
王女の剣による一撃は凄まじく、魔獣の右前足は一刀両断されていた。傷口からは真っ赤な血が
他の二体が戦っていた頃、残る一体はなずみと激しく
いきなり襲いかかったりしないのは、魔獣がなずみを他の少女と比べて『油断のならない相手』とみなしたからだ。それは野生の
このまま睨み合っていても
「これでも喰らうッスよ!」
そう叫ぶや否や、
「ウウッ!?」
視界を
魔獣がキョロキョロ周囲を見回すと、黒い影のようなものが視界に立つ。他に人の気配は無い。
「ウオオオオオオオオーーーーーーッッ!!」
ヘルハウンドが大声で叫びながら黒い影めがけて飛びかかる。右前足を高々と振り上げて、鋭い
だが爪が触れた途端、黒い影のようなものがフッと消える。肉を切り裂いた感触が全く無い。魔獣がなずみだと思い込んで攻撃した『それ』は、彼女が術で生み出したまやかしだった。
攻撃をスカらせた瞬間、魔獣の左側面から本物のなずみが姿を表す。それと同時に周囲を覆っていた霧が晴れる。
少女は自身の想定通りに事が運んだ喜びに口元を
「てやぁぁぁぁああああああーーーーーーっ!」
気迫の
魔獣は慌てて少女が向かってきた方角に振り返り、右手を振り上げて反撃しようとしたが、魔獣の手が上がるよりも少女の攻撃が届くタイミングの方が速かった。
少女が横
「グアアアアアアッ!!」
右目を斬られた痛みにヘルハウンドが悲痛な声で叫ぶ。傷口から大量の血を噴き上げながらドォッと地面に倒れ込んで、激痛から逃れようとするように全身を何度も激しく
「ウォォォオオオオオーーーーーーーーンッ」
目を負傷したヘルハウンドが
だがこの
「
両手のひらを敵に向けて呪文の詠唱を行う。直後彼の手のひらに光が集まっていき、魔力を圧縮した光弾になる。それは次第に
「……
魔法名を叫ぶや否や、手のひらにあった光弾が敵めがけて放たれた。
音速を超える速さで飛んでいった光弾を、魔獣は避ける
光球が触れると、魔獣の体が内部からドクンドクンッと脈打って、皮膚が沸騰したようにボコボコと泡立つ。
「グッ……ガギャァァァァアアアアアアーーーーーーッッ!!」
断末魔の悲鳴を発した瞬間、ケルベロスの体が針を刺した風船のように割れて、粉々に弾け飛ぶ。大地に散らばった肉片は粒子状に分解されて空へと散っていき、死体すら残らない。魔獣が死んだ事を悟らせるには十分すぎる光景だ。
「不利な状況に追い込まれれば、必ず合体すると踏んでいた。どんな生物であろうと、合体した直後は必ず
ザガートが敵を仕留めた作戦について語る。
「俺の作戦勝ちだったようだな……ケルベロス!!」