いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
ケルベロスが死ぬと、三人の少女が魔王に向かって駆け出す。
「ザガート様、やりましたねっ!」
「さすがだな、ザガート!!」
「師匠、
ルシル、レジーナ、なずみが思い思いの言葉を吐く。敵を仕留めた男の活躍を心から喜ぶ。作戦勝ちした思慮深さに尊敬の念を抱く。
ザガートも少女達に
戦いの緊張が解けて、和気
「……ムッ!?」
異変を感じた魔王が、慌てて後ろを振り返る。ケルベロスが死んだ場所に目をやると、空に散ったはずの粒子が自ら意思を持ったように動き回り、大地に降り
毒々しい紫に光る炎は激しく燃え上がった後、何かの形を取っていく。
「……ケルベロス!!」
炎の姿を目にして、ザガートが思わずそう口にした。
ケルベロスがさっきいた場所、そこに彼の形をした紫の炎が立っていたのだ。
かつて肉で構成された体はメラメラと燃えさかる暗黒の炎へと変わっており、より神話の『地獄の番犬』らしさを強調させるものとなっている。瞳は邪悪に赤い光を放ち、少女達を見つめたままいやらしそうにニタァッと笑う。
一連の事象は、死んだはずのケルベロスが新たな姿となって
「我ハ、
復活を遂げたケルベロスが自ら名乗る。名前に『
これまで獣のような
当初彼が魔王軍の幹部かどうかは、ザガートが「そうかもしれない」と思っただけで、明確な判断材料が無かった。もしかしたら、ただ地図で
だが彼自身がそう名乗った事で、彼を倒せば四つ目の宝玉が手に入る事が確定的となった。
「蒼天ハ暗黒ニ
名乗りを終えるとケルベロスが呪文らしき言葉を唱える。すると天がゴロゴロと
腐った大地の
よく見ると火の玉の中心に人間の顔が浮き出ており、恨めしそうな表情をしている。「オロローーンッ」と声に出して悲しげに泣く。ブツブツと聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で、
一目で悪霊だと分かるその物体は、ザガート達を見ると生者に
「精霊の力よ、我を守りたまえ……
ルシルが
「みんな、早くっ! この中に入って!!」
バリアの中に退避するよう仲間に
悪霊の群れは障壁を破ろうと
彼らの力ではバリアを破れそうにない。その事にルシルがホッと一安心する。
「これは……ッ!!」
一連の光景を目にして、レジーナが驚きの言葉を口にする。
明らかにケルベロスが唱えた魔法について知っている者の取る態度だ。
「
王女の反応が気になり、なずみが術について聞いてみた。
「ああ、城の本棚にある書物に書かれていた。魔力により特殊な
仲間の問いに王女が答える。古代の書物で得た知識から、ケルベロスが唱えた魔法の詳細な説明を行う。
「地獄の大地からは悪霊スペクターが無限に湧き出るッ! スペクターに触れられた者は即座に命を落とし、ゾンビとなって
魔法の恐ろしさを早口で語りだす。術の危険性を伝えようと必死になったあまり、口から大量の
「だが何よりも恐るべきは、並みの即死魔法に耐性を持つミノタウロスですら、スペクターに触れられれば命を落とす事だ!!」
最後に術の威力の高さについて、説明を付け加えた。
ミノタウロスは
「……ソノ通リダ。ヨクゾ俺ノ
王女の説明が終わると、ケルベロスが嬉しそうにニタァッと笑う。自分に代わって術の特性を話してくれた彼女に「手間が省けた」と敵ながら感謝し、
「俺ガ
ルシルの張ったバリアが永久に効果を持続するものではないと指摘し、彼女達が死の運命から逃れられないと自信満々に叫ぶ。最後は自分の勝利が確定的となった歓喜のあまり、山中に響かんばかりの大声で高笑いした。
「くっ……」
ケルベロスの言葉に、ルシルが苦虫を噛み
レジーナもなずみも顔をうつむかせたまま悔しげに下唇を噛む。ルシルが言い返せない以上、自分達に反論の余地など無いという思いに駆られた。
一瞬、バリアの外に出て敵を攻撃する考えが頭をよぎったが、スペクターの集中砲火を避けられるとは思えない。霊体となった魔獣に攻撃が通用する保証も無い。とても現実的な打開案とは呼べず、脳内で却下される。
ルシルも、レジーナも、なずみも、ケルベロスも、その場にいた誰もが勝敗は決したと思い込む。ただ一人の男を除いては……。
「フンッ……俺を生ける
ザガートが
「おいザガート、何をする気だッ! おかしなマネをするのはやめろ! いくらお前でも、結界の外に出たら死ぬぞ!!」
正気とは思えない魔王の行動に王女が血相を変える。大声で叫びながら慌てて止めようとしたが、魔王は仲間の忠告を無視して結界の外に出る。
男が攻撃可能範囲に姿を現すと、全てのスペクターが一斉に彼の方へと集まっていく。
数え切れないほどの悪霊に
「……!?」
だが次の瞬間目にした光景に、魔獣は心臓が飛び出んばかりの勢いで驚く。
犬の視界に映り込んだもの……それはスペクターに触れられたまま平然と立つ男の姿だった。
悪霊は男の命を奪おうと
最上位階の即死魔法であるはずの『
「ふんっ!」
ザガートは
拳が叩き付けられると、地を裂くような轟音と共に山全体が激しく揺れた。すると天を覆っていた暗雲が急速に晴れていき、美しい青空が
腐った大地は治癒魔法でも掛けられたように元に戻っていき、枯れた草花が瞬時に生き返る。周囲に漂っていた腐敗臭は消えて無くなり、
「オオッ……」
太陽の光が
一連の光景は魔獣が張り
「バッ……馬鹿ナ!?」
術の効果が消された事にケルベロスが
即死魔法が効かないだけでも驚きなのに、男は事も無げに地獄結界を破ったのだ。とても信じられるものでは無かった。
魔獣が動揺していると、ザガートが腕組みしながら彼の方へと歩いていく。完全に勝ち誇ったドヤ顔になっており、
「スペクターに触れられた程度で俺が死ぬと、本気で思ったのか? だとしたら
勝者の余裕に満ちた言葉を吐く。最初からこうなる事が分かっていたと言わんばかりの態度を取る。ルシル達からすれば脅威に感じる呪文も、魔王にとっては子供の
「ケルベロス……俺の本当の強さを思い知るがいい!!」
自らの強さを見せ付ける事を強い口調で宣言する。
「ゲヘナの火に焼かれて、消し
敵に手のひらを向けて攻撃魔法を唱えると、魔王の手のひらから
火球は上級の悪魔が一撃死するほどの威力だ。魔王はこれで勝敗が決したと思った。
だが男の予想に反し、火球は魔獣の体に触れると、そのままスゥッと通り抜けてしまう。犬の背後にある虚空へと飛んでいき、ボンッと音を立てて消失する。
「何ッ!?」
ザガートが一瞬驚いた顔をする。
想定と異なる結末になった事に困惑したあまり、
魔王が
「フハハハハハハハハァッ! 霊体トナッタ俺ニハ、アラユル攻撃ガ通ジナイ! 物理攻撃モ、属性魔法モ、
敵を
「唯一ノ例外ハ、悪霊ヲ浄化スル
光魔法だけが唯一自分に通用する手段だと教える。相手を
「フフフッ……そうか。光魔法なら通用するのか」
だが魔獣の思惑に反し、ザガートがニタァッと笑う。表情は悪魔のように邪悪な笑みに染まり、不気味に口元を
敵を倒せないもどかしさを抱く素振りは
「悪しき魂よ……聖なる光に焼かれて浄化せよッ!
敵に手のひらを向けて魔法の言葉を唱える。直後魔王の手のひらから
一直線に放たれた光線が命中すると、ケルベロスの体が巨大なオーラのような光に包まれる。すると彼の体を構成する炎が、消化器を噴射されたように鎮火していく。
「グッ……ウガァァァァアアアアアアーーーーーーッッ!!」
浄化の光で焼かれる苦しみに、ケルベロスが悲痛な声で叫ぶ。全身を引き裂かれるような激痛を味わったのか、体を何度も地面に打ち付けて激しくのたうち回る。目をグワッと見開いて、口からは
痛みから逃れようとするように、ミミズのように全身をくねらせて
「何故……何故魔王デアルオ前ガ、光属性ノ魔法……ヲ……」
口惜しそうに言葉を吐くと、最後に残った頭も分解されて
魔獣を浄化すると、彼を包んでいた光が役目を終えたように消えて無くなる。
ザガート達はまた敵が復活するかもしれないと思い、しばらく様子を見たが、今度ばかりは何も起こりそうに無い。魔獣が立っていた場所にただ草が生えた地面があるだけだ。風がヒューーッと通り抜けて草をカサカサと揺らす音は、戦いが終わった事を
それは大魔王の城に行くために必要な十二の宝玉のうちの一つだ。今回四つめを入手した事になる。
(たわけめ……そもそも
ザガートはケルベロスの判断の甘さを心の中で指摘すると、手のひらに収まった宝玉をサッと
宝玉を手にしたザガート達一行が、山の
「……ムッ!?」
異変を感じた魔王が慌てて足を止める。一行が後ろを振り返ると、ケルベロスが死んだ地点に、白い玉のような光がボワァッと浮き上がる。それは次第に大きくなっていって魔獣と同じ大きさまで
中心に人間の顔が浮き上がったその光は、霊体であろうと思われたがスペクターのような邪悪さは感じられない。しばらくフワフワと現世に
(そうか……ケルベロスに殺された者は、肉だけでなく魂までも捕食される。今までヤツの体の一部となり、現世に
ザガートは一連の光景を目にして、何が起こったかを即座に理解した。魔獣の
ザガートが満足感に
明らかに他とは違う動きをするその魂は、魔王の前まで来て止まると、ゆっくりと口を開く。
「ザガートォォ……俺はまだ半日
野太い男の声で情けない言葉を漏らす。魔王はその男の声に聞き覚えがあった。
光の中心に浮かび上がる男の顔……虎のような
最初は顔だけだったガンビーノの霊は、半透明に
(フーーム……)
ザガートは男の頼みを聞いてしばし思い悩む。もし彼が悪事を働こうとした
生き返らせてやってもいいか……一瞬そんな言葉が頭をよぎりかけた時。
「お
ガンビーノの後ろにいた九つの魂が、恨めしそうに名を呼びながら彼の方へとやってくる。一緒にケルベロスに食われた彼の子分であろうと思われた。
「お頭、ズルいですよ……いつもアンタばっか抜け駆けしようとして」
「俺達が死んだのはアンタのせいだ」
「アンタがあの女を犯そうなんて言い出すから、俺達は体が砕けたんだ」
「俺達はアンタを絶対に許さねえ……」
口々に不満の言葉を吐く。即死魔法が発動する引き金となった首領の無責任さに心底嫌気が刺し、この事態を招いた責任を取らせようとした。
部下達が首領を問い詰めた会話によって、彼らが悪事を働こうとした
「いや……あの……その……」
ガンビーノがみっともなく言い訳しながら後ろを振り返ると、魔王がゴミを見るような眼差しを向ける。約束を破った彼らに愛想を
「
ザガートは腹立たしげに吐き捨てると、ハエを追い払おうとするように手をシッシッと振る。男の頼みを聞き入れる気が無くなった事は火を見るより明らかだ。
「………」
ガンビーノは魔王の言葉に反論できず黙り込む。悪事がバレた以上、とても食い下がれそうにない。どうしても生き返る事を諦めきれず、しばらくその場に
ガックリ肩を落としてショボくれたまま天へと昇っていく男の後ろ姿は何とも哀れだ。これが散々悪事を働いた者の末路なのか……そう思わせるものがあった。
彼の子分達も後を追うように天へと昇っていき、その場にいた全ての魂が成仏する。後には太陽が
「いつまでもこんな所に
ザガートはそっけなく口にすると、スタスタと早足で歩き出す。見るからに不機嫌そうな顔をしており、一連の出来事に
一刻も早くこの場から立ち去りたい……そんな心情が読み取れた。
「あ……ああ」
レジーナ達はそんな魔王に掛ける言葉が見つからず、黙って彼の後についていく。それぞれ思う所はあったが、男の怒りを
四つめの宝玉を手に入れたにも関わらず、一行にとっては何ともスッキリしない一日となった。